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第十章 冒険編 魔王と勇者

リーマ VS ゴルガ(前編)

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 「“ウインドカッター”!!」



 リーマの魔導書から、目に見えない無数の風の刃が生み出され、ゴルガ目掛けて飛んで行った。



 「…………」



 しかし、無数の風の刃はゴルガの体に当たるもかすり傷一つ付かなかった。



 「硬いですね……さすがはゴーレムと言った所でしょうか?」



 「ソノテイドノマホウ、イタクモカユクモナイ」



 「それなら……“スネークフレイム”!!」



 リーマはゴルガの後ろへと回り込むと、魔導書から炎で形成された蛇を生み出して、ゴルガに放った。



 「…………」



 しかし、その炎でさえもゴルガに明確な傷を負わせる事は出来なかった。



 「この魔法でも駄目ですか……」



 「キサマノマホウデハ、オレヲタオスコトハデキナイ」



 するとゴルガが、リーマ目掛けてその巨大な拳を振り下ろした。



 「!!!」



 それに対して、リーマは危なげ無くゴルガの拳を回避した。



 「あなたこそ、そんな遅い拳では私を倒す事は出来ませんよ」



 「ニンゲンガ…………」



 ゴルガは、続け様に巨大な拳をリーマに振り下ろして行く。そしてその度に、リーマがゴルガの拳を避けて行く。



 「チョコマカト……コザカシイ……」



 「すみませんが、私は先を急いでいるのでこれで終わりにさせて頂きます!“ウォーターウェーブ”!!」





 開いていた魔導書から、大量の水が波の様に溢れだしゴルガに目掛けて押し寄せる。



 「コ、コレハ!?」



 突然の大量の水に、身動きを奪われたゴルガ。



 「さらに!“風の足”!!」



 その瞬間、リーマの両足に蠢く風の塊が形成された。



 「さぁ、行きますよ!!」



 “風の足”を唱えたリーマは、大量の水に身動きを奪われる事無く、水面を走ってゴルガの所まで駆け寄る。



 「ミ、ミズノウエヲ、ハシッテイル!?」



 「“風の足”には移動速度を上げるだけで無く、こうして水面を自由に走る事が出来るんです!!」



 リーマは、身動きの取れないゴルガの背後に回り込んだ。



 「これで終わりです!ゴーレム最大の弱点である“emeth”を一文字削れば私の勝ちです!!」



 かつてヘルマウンテンの道中、地中に眠っていたゴーレムを倒した経験のあったリーマ。その経験から、ゴーレム相手なら確実に倒せると知らず知らず自信がついていた。



 「ソウダナ……オレガフツウノゴーレムダッタラ、マケテイタナ……」



 「!?」



 しかしそれは、自信では無く慢心であった。ゴルガの首の後ろ辺りを調べるも、“emeth”という文字は何処にも刻まれていなかった。



 「そ、そんな!?ど、どうして!!?」



 「オレハ、フツウノゴーレムデハナイ…………」



 人はその絶対的自信を失うと、とても脆く弱々しくなる。リーマもまた、絶対的な自信を失って戸惑いの表情を見せて、大きな隙を作ってしまった。



 「スキアリ!!」



 「し、しまった!!」



 その隙をゴルガは見逃さず、背後に回り込んでいたリーマに目掛けて、振り返った勢いのまま巨大な拳を叩き込んだ。



 「がぁあああ…………!!!」



 巨大な拳に殴られたリーマは、勢い良く壁にぶつかりめり込んだ。



 「あ……ああ……」



 体中が痛い。あばら骨が何本か折れている。空気を取り込もうと咳をすると、吐血してしまった。



 「ショウブハツイタ。メイドノミヤゲニ、オシエテヤロウ。オレハ、ジンコウテキニツクラレタゴーレムデハナイ……シゼンテキニハッセイシタゴーレムダ」



 「!!?」



 リーマは、ゴルガの告げた事実に開いた口が塞がらなかった。



 「……自然的に発生した?そんな事例、どの文献にも載っていません!!」



 「ソウダナ……オレガ、ハジメテノジレイカモシレナイナ……」



 そう言うゴルガの表情は、何処か懐かしそうな雰囲気を醸し出していた。



 「ムカシ、ソウメイナマホウツカイガ、タイリョウノゴーレムヲウミダシ、マオウジョウニセメコンダ。シカシケッカハザンパイ。アトニノコッタノハ、ヤマヅミニナッタゴーレムノシタイ。ソンナヤマヅミノシタイカラ、オレハウマレタンダ」



 「!!!」



 ゴルガ本人から語られる誕生の秘話。魔法使いであるリーマにとって、ゴルガの話は目と耳が外せなかった。



 「アルジガイナイ。ソンナジョウタイデウマレタオレハ、コレカラドウイキテイケバヨイノカ、トホウニクレテイルト、マオウサマガコエヲカケテクレタノダ」



 “君にその気があるのなら、僕の元で働いて見ない?”



 「メイレイダケサレル。ソンナソンザイダッタオレニ、センタクノヨチヲアタエテクレタ。オレノイシヲ、ソンチョウシテクレタ。ソノヒカラオレハ、マオウサマニチュウセイヲ、チカッタノダ。ダカラ……マオウサマノジャマスルヤツハ、オレガタタキツブス!!」



 「!!!」



 話が終わった途端、ゴルガはリーマ目掛けて巨大な拳を叩き付けた。



 「“水の盾”!!」



 リーマの左手に潤いを持った青く丸い盾が形成され、ゴルガの拳を受け止めた。



 「コシャクナ!!」



 ゴルガは、リーマ目掛けて何度も巨大な拳を叩き付けた。



 「(こ、このままじゃ……何とか……ここを脱出しないと!!)」



 水の盾にも限界がある。ダメージこそ無いが、叩きつけられる度に凄まじい衝撃がリーマの全身を駆け巡る。



 「(魔法の無限の可能性……今はそれに賭けるしかない!!イメージ……イメージするんだ……この危機的状況を打開するイメージを!!)」



 すると、リーマの水の盾が棒の様に突き出して、何度も拳を叩き付けてくるゴルガを吹き飛ばした。



 「グゴァアアア!!?」



 突然の出来事に、ゴルガは大きな地響きを立てながら、仰向けになって倒れた。



 「はぁ……はぁ……」



 その間にリーマは、急いで壁から抜け出しゴルガと距離を取る。



 「グググ…………ナカナカヤルナ…………」



 「はぁ……はぁ……魔法使いの名は、伊達ではありませんよ…………さすがに自分の体の重さには耐えられないみたいですね……」



 ゆっくりと起き上がるゴルガ、自身の体重と衝撃で少し傷ついていた。



 「…………オレニ、キズヲツケルトハ……イイダロウ……トクベツニミセテヤル。イゼンノオレニハナカッタ、アタラシイワザヲ!!」



 そう言うとゴルガは、突然壁を殴り付けて壁を崩した。



 「な、何を!?」



 「ゴォオオオオ!!」



 するとゴルガは、崩れた瓦礫をその驚異の力で押し固めた。結果、太く長い棒と巨大な玉が出来上がった。



 「あれは…………?」



 「…………フン!!」



 ゴルガは太く長い棒を、巨大な玉に勢い良く突き刺した。そして出来上がった完成品を振り回し、そこら中の壁に叩き付けた。壁は脆く崩れ落ち、叩き付けた完成品は傷一つ付いていなかった。



 「ま、まさかそんな……」



 リーマは心底驚いていた。ゴルガが作った完成品と、良く似た物を見た事があったのだ。



 「“メイス”…………」



 メイス。それは殴打用の武器で、打撃部分の頭部と柄を組み合わせた合成棍棒の一種である。そんな武器に良く似た物を、ゴルガは作り出したのだった。だが、リーマが驚いたのはそんな所では無かった。



 「ゴーレムが武器を使うだなんて…………」



 本来、ゴーレムはその驚異の力から拳で戦うのが当たり前だった。いや、そもそも人に操られるゴーレムが武器など作れる筈が無いのだ。しかしゴルガはその常識を打ち破り、リーマの何十倍はありそうな巨大なメイスを作り出した。



 「サァ、ハジメヨウカ…………」



 「…………」



 ゴルガ専用の巨大な武器。リーマに、かつてない危機が迫っていた。
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