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第十章 冒険編 魔王と勇者

決断の時

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 魔王城特別会議室。円形型の机に均等に置かれた六つの椅子にサタニア、クロウト、そして四天王全員が座っていた。



 「…………エジタス、その話は本当なのか?」



 いつも以上に険しい表情を浮かべる中、シーラがエジタスに問い掛ける。



 「えぇ、間違いありません」



 「そんな話、信じると思っているのかよ!!」



 「シーラちゃん、落ち着きなさい」



 エジタスの言葉に声を荒げるシーラ。そんなシーラをアルシアが宥める。



 「だけど、アルシアさん!!私は信じられないですよ!!二千年前の初代勇者の仲間であるアーメイデが今も生きているだなんて……!!」



 「確かにね……長命な種族なら納得するんだけど……エジタスちゃん、アーメイデは人間なのよね?」



 「えぇ、正真正銘の人間でしたよ~。それと亡くなっていないのは、“停止魔法”という魔法で自身の時の流れを止めているらしいですよ~」



 エジタスは、サタニア達にアーメイデの情報を流した。



 「まさか魔法そのものを作り上げてしまうとは……さすがは初代勇者の仲間だけはありますね……」



 「そうならそうと最初から言え!!」



 「言おうとしましたよ~。ですけどその前にシーラさんが、勝手に喋り始めたんじゃないですか~?」



 「な、何だと……!!」



 「はいはい、喧嘩しないの」



 煽りを入れるエジタスに、腹を立てるシーラ。そんなシーラを再びアルシアが宥める中、ずっと沈黙していたサタニアが口を開いた。



 「……今回僕達を集めたのは、その事を伝える為なの?」



 「……いえ、違います。本題はここからです」



 サタニアの言葉で、エジタスは一気に落ち着いた口調へと切り替わった。



 「アーメイデさんは、マオさん達に魔王討伐の依頼を申し込みました……」



 「「「「「!!!」」」」」



 全員の表情が強張る。張り詰めた空気が場を支配する。



 「それで……マオ達は、その依頼を受けたの?」



 「…………はい、受けました」



 「そっか……エジタスと一緒に旅している人達だから、仲良くなれるかなって思ったんだけどな……」



 「(すみませんね~、サタニアさん。嘘も方便という事です)」



 サタニアは、エジタスの嘘をまともに受け取ってしまい、悲しそうに俯いてしまった。



 「魔王ちゃん…………何とかその子達を説得する事は出来ないのかしら?」



 「難しいでしょうね~。そんな事をすれば、私が魔王軍から派遣されたスパイだとバレてしまい、ますます魔王討伐に拍車が掛かると思いますよ~」



 「そう……説得は難しいのね……皆はどうするべきだと思う?」



 「そんなの殺られる前に、こっちが殺るべきだろ!?」



 シーラは勢い良く席を立ち上がり、部屋から出て行こうとする。



 「何処へ行くつもりですか~?」



 「決まってんだろ?そいつらの所へ直接行ってぶっ殺すんだよ!!」



 「穏やかじゃありませんね~。シーラさんが行っても面倒事が増えるだけですよ?」



 「シーラ様、お忘れですか?現在私達はカルド王と停戦協定を結んでおります。下手に殺してしまっては、サタニア様の今までの努力が全て水の泡となってしまいます」



 サタニア達は知らない。もう既にカルド王は殺され、停戦協定は無くなってしまったのだ。



 「じゃあ、どうすればいいんだよ!!?このまま黙って勇者達が攻め込んで来るのを待ってろと言うのかよ!!?」



 「そんな事は言っていませんよ~。取り敢えず一旦落ち着いて、席に戻って来て下さい。そしたら私の考えをお話しします」



 「シーラ……お願い……」



 「魔王様…………っ!!」



 魔王にお願いされたシーラは、渋々席へと戻るのであった。



 「クロウトさんが言った様に、下手にマオさん達を殺してしまっては、後々の停戦活動に影響が出てしまいます。しかし、逆に言えば上手に殺せば何の問題も発生しないという事です」



 「どういう事だよ?」



 「簡単に言うと、マオさん達をわざと魔王城に入れてしまうのです」



 「「「「「!!!」」」」」



 マオ達を魔王城に入れる。それはつまり最大の敵を自分の懐に招き入れると等しい行為だった。



 「しょ、正気なの!?」



 「ナントダイタンナ…………」



 「そんな事して、何になるって言うんだ!!?」



 他の四天王達も、さすがにエジタスの発言を見逃す訳には行かなかった。三人はエジタスを問い詰める。



 「ですから、下手に今殺すんじゃ無くて、一回魔王城の城内に入れてから殺せば、外に情報が漏れる事はなくなりますよ…………」



 「だ、だからって……そんな危険な事……」



 「私は賛成です」



 「クロウトちゃん…………」



 エジタスの作戦に賛成したのは、以外にもクロウトだった。



 「確かにそれなら、停戦協定に影響はそれほど出る事は無いでしょう」



 「まさか、あなたが賛成してくれるとは驚きましたよ~」



 「別に……あなたの為ではありません。サタニア様の努力を無駄にしたくなかっただけです」



 あくまでサタニアの為だと言って、クロウトは何の迷いも無く、エジタスの考えに賛成した。



 「あぁ、でも何もせず中に入れるのも不自然なので、道中は大量の魔王軍兵士を配置しましょう」



 「しかしそれで、その子達が道中で死んでしまった場合、どうするつもりなのですか?」



 「その点はご安心を、今のマオさん達なら魔王軍兵士にも危なげ無く、勝てる筈です」



 「成る程……そこまで強くなっているという訳ですか……」



 マオ達の戦闘能力に、警戒度を上げるクロウト。



 「あぁ、それともう一つ。先程アルシアさんが仰っていた様に、もしかしたらマオさん達を説得出来る余地があるかもしれません。魔王城の城内に入れた際は、私が説得させて頂いても宜しいですか?」



 「先程から色々と要求していますが……最終的に決断を下すのはサタニア様です」



 その瞬間、全員の目線がサタニアに注がれる。



 「サタニア様……ご決断を……」



 「………………」



 沈黙が流れる。サタニアは、ゆっくりと目を瞑って考え込む。そして静かに目を開いた。



 「正直……今までエジタスから聞いた限り、マオ達は凄く良い子達みたいだから戦いたくは無い……だけど、こっちはこっちでマオ達を騙している訳で……」



 エジタスをスパイとして送り込んでいるという罪悪感から、サタニアは悩んでいた。仲良くなれるかもしれないが、一歩間違えれば血を血で洗う戦いが始まってしまう。



 「だけど……だからこそ、マオ達とは真剣に向き合わないといけない……よし、決めたよ……エジタスの案で行く事にしよう」



 「よろしいのですね?」



 「うん……今すぐに魔王城の警戒レベルを最高まで引き上げて、あとそれから結界の方も解いておこう。マオ達が自然に入れる様に……」



 「かしこまりました。それでは失礼します」



 そう言うとクロウトは準備に取り掛かる為、部屋を後にした。



 「エジタスは今日の所は取り敢えず、マオ達の側に戻ってあげて」



 「分かりました~!」



 エジタスは指をパチンと鳴らして、その場から一瞬で姿を消した。



 「他の皆も今日の会議は一先ず終了という事で、各々で準備を整えておいてね」



 「「「はっ!!」」」



 他の三人も、サタニアの指示を受けて次々と部屋を後にした。



 「…………はぁー」



 会議室で一人になったサタニアは、小さく溜め息を吐いた。



 「これでいいんだよね?」



 サタニアは自身の選択が間違っていない事を願って、真緒達が来るのを待つのであった。







***







 何処にあるか分からない部屋。そこでは丸いテーブルを中心に、それぞれが向かい合う形でラクウンとローブを着た男女が座っていた。



 「我が神は?」



 「今日はお越しにはなられません」



 「じゃあ解散!!あのお方がいらっしゃらないんだったら、いても意味なんか無いわ!」



 「私も、我が神が降臨なされないというのであれば、帰らせて頂きます」



 リーダーが出席してないと分かると、ローブを着た男女は席を立ち上がって、その場を去ろうとする。



 「待ちなさい。我が王は来られませんが、伝言は預かっております」



 「「!!」」



 ラクウンの言葉を聞いて、二人は歩みを止めた。



 「それならそうと早く言いなさいよ!それで!?あのお方は何と仰っていたの!?」



 「我が神のお言葉……しっかりと耳にしなくては……」



 百八十度態度を変えた二人は、席に座ってラクウンの話を真剣に聞き始める。



 「それでは…………『近い内に勇者と魔王が接触する。準備を整えておけ』……との事です」



 「はぁー……遂にこの時が来たのね……」



 「私達の……もとい、我が神の願いがやっと成就されるのですね……」



 ローブを着た男女は、リーダーの言葉に喜びを感じていた。



 「それでは我が王の為にも、準備を整えるとしましょう……」



 ラクウンの言葉に、ローブを着た男女は静かに頷く。



 「世界の平和の為に!!」



 「「世界の平和の為に!!」」



 こうしてラクウンとローブを着た男女は、密かに準備を整えるのだった。







































 「ところで……お二人はまだそのローブを着けているのですね?」



 「「気に入っちゃって……」」



 「そう……ですか…………」
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