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第九章 冒険編 雲の木の待ち人

修行~ハナコの場合~

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 「さて、次の修行の相手はハナコだね」



 「よろじぐお願いじまずだぁ」



 リーマ、フォルスと続き三人目の修行の相手はハナコだった。



 「あんたの職業は確か……武闘家だったね」



 「ぞうでず。オラもっどもっど強ぐなりだいので、ご指導の程よろじぐお願いじまずだぁ!」



 ハナコは、気持ちを引き締める様に脇を閉じて握り拳を作った。



 「そうねぇ……取り敢えず、あなたの実力がどれ程のものか一通り見せて貰いましょうか」



 「分がりまじだぁ!!」



 そう言うとハナコは、アーメイデに背を向けて自分が持てる全ての力を出した。



 「スキル“熊の一撃”!」



 前方に出した手を後方に引き、後方に引いていた手を前方に勢いよく突き出した。すると強い衝撃波で側にあった池の水面が大きく揺れた。



 「ふーん……他には?」



 「スキル“インパクト・ベア”!」



 今度は両腕を引き、少し溜めると勢い良く前へと突き出した。すると先程よりも強い衝撃波で側にあった池だけでは無く、少し離れた木々が大きく揺れた。



 「へぇー……他には?」



 「スキル“鋼鉄化”!」



 するとハナコの皮膚が、銀色へと変色した。



 「ほぉー、防御系のスキルまで持っているのかい……他には?」



 「えっど……ごれで全部でず……」



 ハナコは頭を掻きながら、気まずそうにアーメイデに告げた。



 「そうかい…………成る程ね……何となく分かった気がするよ……」



 「な、何がでずがぁ?」



 アーメイデは静かに目を閉じると、一呼吸置いた。そしてゆっくりと目を開き、口にした。



 「あんたは、バリエーションが少な過ぎる」



 「バリエーション…………?」



 「簡単に説明すると、あんたは技の種類が少ないんだよ」



 「ぞ、ぞんな…………」



 ハナコの欠点。それは技の種類が根本的に少な過ぎる事だった。“熊の一撃”、“インパクト・ベア”、“鋼鉄化”の三つしか持っていない。



 「あんたのスキルは一つ一つが強力。だけど、戦いって言うのは要は駆け引きなんだ。ワンパターンな技を多用すれば、対策を取るのは容易い事だろう……」



 「で、でもオラ……ごの三つ以外覚えでいないだぁ……」



 先程まで気合い十分のハナコだったが、今や見る影も無い。



 「技の種類が少ないと言っても、それをどう扱うかは使用者の自由だ。あんたに今必要なのは、その三つだけのスキルをどう扱って行くか……それが私からの修行だよ」



 「ぞんな事言われでも……難じいだよぉ……」



 今まで何も考えずに只スキルを使っていたハナコにとって、どう扱うかなどの複雑な事は出来ない。



 「難しく考えなくていいんだ。一言で表すなら“イメージ”が大事なんだ」



 「イメージだがぁ?」



 「そうだ。魔法だってイメージ次第で何だって出来るんだ……例えばあんたの仲間のリーマは、水属性魔法を只唱えるんじゃ無く大きな波をイメージして、相手を押し流したりした事があるんだろ?」



 「確がに……あっだだぁ……」



 ハナコはかつて氷像達との戦いで、リーマが大きな水の波を唱えていた事を思い出した。



 「つまり、常識に囚われず別の視点から物事を判断すれば良いのさ」



 「うーん…………ぞう言われでも……」



 魔法とスキルは大きく違う。魔法は不特定な決まった動きに囚われないが、スキルは始めからどの様な効果で、どんな感じで発動するか決まっている。



 「まぁ……今ここでとは言わないけど、なるべく早く編み出さないと他の仲間達に置いてかれるよ?」



 「!!ぞ、ぞれだげは絶対に嫌だぁ!!」



 ハナコは、ヴァルベルトの時の事を思い出していた。自分だけが成長出来ない不安と焦り、皆から見放されてしまうのではないかという恐怖が甦った。



 「それなら頑張って頭を捻るんだね。今日の修行はここまでにしておくけど、明日までに新しい技を一個でも編み出しておきな。出来なければ修行はつけないからそのつもりで…………」



 「ぞ、ぞんな…………」



 そう言うとアーメイデは、小屋へと戻って行った。



 「新しい技……新しい技……」



 ぶつぶつと独り言を呟きながら、その場に立ち尽くすのだった。







***







 「新しい技……新しい技……」



 その夜。夕食の時間になってもハナコはぶつぶつと独り言を呟いていた。



 「ハナちゃんどうしたの?」



 「新しい技……新しい……な、何がだぁ?」



 突然横から真緒に声を掛けられたハナコは、思わず聞き返してしまった。



 「だって、さっきから全然料理に手をつけていないからさ……」



 「あっ……ごめんごめん……」



 皆で食事をしている中で、唯一ハナコだけが料理を口にしていなかったのだ。



 「今日はエジタスさんとエピロさんの二人が作った、スペシャルシチューですよ」



 「何か苦手な物でも入っていたのか?」



 「ハナコさ~ん、いったいどうしたのですか~?」



 真緒だけで無く、他の三人にも心配を掛けてしまったハナコは申し訳無さそうに言った。



 「ず、ずまないだぁ……なんだが……食欲が無ぐで……」



 「「「「!!!?」」」」



 その瞬間、仲間達全員が驚きの表情を浮かべながら勢い良く席を立ち上がり、一歩ハナコから離れた。



 「そ、そんな……ハナちゃんが食欲が無いだなんて……」



 「まさか敵からの攻撃を受けましたか!!?」



 「いや、もしかしたら偽物の可能性があるかもしれない!!?」



 「これは一大事ですよ~…………」



 「ぢょっど!どうじで皆、オラに食欲が無いだけでぞんなに驚ぐだぁ!?」



 仲間達のふざけていない真剣な表情に、ハナコは席から立ち上がりツッコミを入れる。



 「だって……ねぇ……?」



 「ハナコさんが食欲が無いだなんて…………」



 「今まで考えられなかったからな……」



 「いや~、思わず驚いてしまいました」



 仲間達は、目配せしながら苦笑いを浮かべる。



 「もういいだぁ!先に部屋で寝る!!」



 そう言うとハナコはそのまま部屋へと向かってしまった。



 「「「「…………」」」」



 仲間達は呆然とその光景を見続けるのだった。因みにアーメイデとエピロは、その間黙々と食事をしていた。







***





 ハナコの寝室。ハナコが布団にくるまって寝ていると、扉の方からノックの音が聞こえて来た。



 「…………ハナちゃん、起きてる?」



 扉を開き、顔を覗かせたのは真緒だった。



 「…………何の用だぁ……」



 ハナコは、真緒の方には顔を向けず横になった状態で聞き返した



 「これ……シチュー……ハナちゃんの分を持って来たんだけど……」



 真緒の手には、シチューの入った皿とスプーンがあった。



 「食欲が無いっで言っだ筈だよぉ……」



 「…………さっきはごめんね……ハナちゃんだって、食欲が無くなる事位あるよね……」



 真緒はそのまま部屋の中へと入り、ハナコの隣に座った。



 「何かあったの?」



 「…………実は……」



 ハナコは真緒に、今日の出来事を話始めた。技の種類が少ないと言われた事や、明日までに新しい技を一個でも編み出さなければならない事。



 「そっか……そんな事が……そりゃあ食欲も無くなっちゃうね」



 「オラ……どうじだらいいんだろう…………」



 分かりやすく落ち込むハナコに、真緒は頭を撫でて話し掛ける。



 「そんな深く考えなくてもいいんじゃないかな?」



 「えっ?」



 真緒の言葉に、ハナコは真緒の方に顔を向けた。



 「だって……ハナちゃんの良い所は考えるよりも先に体が動く事だと思うんだ。だから、そうやって深く考え込むのはなんだかハナちゃんらしく無いよ」



 「オラらじぐ……無い……」



 「ハナちゃんはいつも形振り構わず突っ込んでくれる。そんなハナちゃんに、私はいつも勇気付けられているんだよ」



 「マオぢゃん…………」



 ハナコは真緒の言葉を聞いて、今の今まで突き刺さっていた不安と焦りが消えて無くなった。ハナコは心の何処かで真緒達に見捨てられてしまうんじゃないかと、不安になっていた。しかしそれは取り越し苦労、真緒達が技の種類が少ないだけで見捨てる様な存在じゃ無いと改めて実感した。



 「ありがどうマオぢゃん!オラ頑張るだよぉ!明日のテスト、全身全霊でぶづがっでぐるだぁ!」



 「その意気だよハナちゃん!」



 「あー、ホッどじだら何だがお腹が空いで来だだぁ……」



 「はい、シチューをどうぞ」



 真緒は元気を取り戻したハナコに、持って来たシチューを手渡した。



 「マオぢゃんありがどうだぁ!頂ぎまず!」



 そう言いながらハナコは、手渡されたシチューを無我夢中で食べるのであった。







***







 「……さぁ、今日が約束のテストだけど……準備はいいかい?」



 「勿論、準備万端だぁ!」



 翌日のテスト当日。準備は出来ているかとアーメイデが問い掛け、ハナコは準備万端と答えた。



 「それじゃあ見せて貰おうか……あんたがたった一日でどんな技を編み出したのか……」



 「…………スキル“鋼鉄化”!!」



 ハナコの皮膚が、銀色へと変色した。



 「どういうつもりだい?それじゃあ昨日と同じじゃないか……何処も新しく…………!?」



 「うぉおおおおお!!!」



 アーメイデは目を疑った。鋼鉄化で鋼鉄へと変化したハナコが、こちらに向かって突っ込んで来たのだ。



 「全身全霊でぶづがるだぁ!!」



 「な、何をやっているんだい!?“ファイアランス”!!」



 思わずアーメイデは、突っ込んで来るハナコに目掛けて炎の槍を投げ込んだ。



           ガキィン!!



 「えぇ!!?」



 しかし、鋼鉄となったハナコによって炎の槍は弾かれてしまった。



 「うぉおおおおお!!!」



 「ま、不味い!!」



 アーメイデは突っ込んで来るハナコを、直前の所で回避した。



 「突っ込むだぁ!!」



 そしてそのまま、小屋の壁を突き破って中へと突撃した。



 「えっ!?な、何事!!?」



 「敵襲か!?」



 「何ですか今の大きな音は!?」



 丁度中では真緒達が談笑しており、突然壁を突き破って中へと突撃したハナコに、驚きの声をあげた。



 「は、ハナちゃん!?」



 「マオぢゃん!オラ、言っだ通りに全身全霊でぶづがっで来だだよぉ!」



 マオがハナコの背後を覗くと、小屋の壁は見事にハナコの体の形で突き破られていた。



 「そ、そう言う意味じゃ無いよ…………」



 有言実行。まさか言葉のままに、ぶつかるとは思っていなかった。



 「あはははは!!まさか、防御系のスキルをこんな形で攻撃に展開するだなんて…………あはははは!!」



 突き破った壁の向こうでは、アーメイデがお腹を抱えながら笑っていた。



 「合格だよ!あんたは、防御という言葉の概念を打ち崩したんだ!約束通り、修行をつけてやるよ!それにしても……まさか突っ込んで来るとは……あははははは!!」



 アーメイデは再び、お腹を抱えて笑い出した。



 「やっだだぁ!!ごれもマオぢゃんのお陰だよぉ!!ありがどうだぁ!!」



 「う、うん……ど、どういたしまして…………」



 ハナコは、合格出来たあまりの嬉しさに真緒に抱き付くが、当の本人は苦笑いを浮かべるのであった。
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