上 下
131 / 300
第八章 冒険編 狂乱の王子ヴァルベルト

そして少女は目覚めた

しおりを挟む
 深紅の鎧。ヴァルベルトの身を包むその鎧は、只血液が定着化した訳では無かった。本物の鎧の様に頭、胸、手、足とそれぞれ適した形に変形していた。そして何より、鎧には模様が刻み込まれていた。胸と手の甲の二ヶ所に、まるで蝙蝠が翼を広げているかの様な模様であった。



 「この姿こそが、我の真の力を引き出す為に最も適した姿だ」



 頭から足の爪先まで、余す所無く鎧に身を包んだその姿は、まさに完全武装と他なら無かった。



 「さぁ、始めるとしよう……結末が分かりきった戦いを!」



 「!!!」



 そう言うとヴァルベルトは、大きく翼を羽ばたかせ負傷している真緒目掛けて、勢いよく滑空した。



 「くそっ!そうはさせるか!!スキル“ロックオン”」



 ヴァルベルトの体に、ターゲットマーカーが表示される。フォルスは真緒を守ろうと素早く弓矢を構えて放つが、放たれた矢は深紅の鎧に弾かれてしまった。



 「何!?」



 「愚かだな!!この深紅の鎧は、鋼より固く、鉄よりも壊れにくいのだ!その様な矢ごときで傷つけられると思ったか!?」



 「そんな!マオ!!避けるんだー!!」



 「うっ……!!」



 フォルスに言われた通り、避けようとする真緒だったが一度に高いダメージを負ってしまった為、思う様に体が動かずまた痛みで膝をついてしまった。



 「ふははは!痛みで動く事すら出来まい!!これで終わりにしてくれる!!」



 「マオーー!!」



 ヴァルベルトは、飛びながら持っていた剣を振り上げ、真緒に向かって振り下ろした。



 「いけませんね~、こんな危ない刃物を無防備な人に向けるだなんて……」



 「し、師匠!!?」



 「エジタスさん!!」



 「き、貴様!いつの間に!?」



 振り下ろした剣は真緒に当たる直前、転移して来たエジタスによって受け止められていた。



 「う、動かない……!!いったい何処にそんな力が!!?」



 ヴァルベルトは振りほどこうと剣に力を込めるが、剣はエジタスに掴まれたままビクともしなかった。



 「ご退場願いま~す」



 「ぐはぁ!!」



 すると今度はエジタスが、ヴァルベルトを剣から振りほどこうと腹を蹴り飛ばした。突然の蹴りに反応出来なかったヴァルベルトは、思わず剣から手を離してしまいそのまま後方へと吹っ飛ばされてしまった。



 「全く……こんな所で殺られてはいけませんよ~マオさん」



 「師匠……ありがとうございます」



 「ここでしばらく休んでいて下さい。私はフォルスさんと一緒にあそこにいる“彼”と少し遊んで来るので……行きますよ!!フォルスさん!!」



 「ああ!!」



 フォルスとエジタスは、真緒とリーマを背にしてヴァルベルトの所まで歩き出した。



 「…………先程は油断してしまった。だが、次はそうは行かん……ここで貴様らを倒「はいはい、大口は程々にして下さいね」」



  こちらに向かって歩いていた筈のエジタスが、突如ヴァルベルトの背後に現れ、持っていたナイフで刺そうとして来た。



 「!!!」



 しかしその不意打ちを、腕の傷口から流れ出る血液で作り出した深紅の槍で、咄嗟に防いだ。



 「ほぉ~、反射神経は良い様ですね……しかし、危機管理能力はそこまで高くはありませんね。ちゃんと前を見ないと危ないですよ?」



 「何!?」



 エジタスの言葉に、思わず前に顔を向けると目線の先には、フォルスが弓矢を構えて立っていた。



 「さっきは弾かれてしまったが、今度は貫いて見せる!“ウインド”」



 フォルスの矢に風がまとわりつく……。強い力に、カタカタと震える弓矢をしっかりと指で押さえる。



 「食らえ!!“ブースト”」



 弓から放たれた矢は、途中風魔法の力を受けて一気に加速する。



 「完全に捉えた!!行けー!!」



 フォルスが放った矢が、ヴァルベルトに当たると思われたその瞬間、高音が響き渡り風魔法が付与された矢は弾かれてしまった。



 「な、何だと!?」



 「…………凄まじい連携だった。しかし、我の魔法の方が一枚上手だ」



 ヴァルベルトの左手には、円形型の盾が装備されていた。真っ赤に光輝くその盾こそが、フォルスの矢が弾かれてしまった原因である。



 「“深紅の盾”血の濃度を凝縮させて作る事で、通常よりも遥かに防御力の高い盾だ。そして、この盾の最も優れた点は……」



 そう言うとヴァルベルトは、後ろにいたエジタスに盾を薙ぎ払った。



 「へっ?」



 薙ぎ払われた盾は、エジタスの腹部を切り裂き吹き飛ばした。



 「こうして鋭利な武器としても、扱う事が出来る所だ」



 「エジタスさん!!」



 「師匠!!」



 「もぉ~、そんなに心配しなくても大丈夫ですよ~単なるかすり傷です」



 そう言うエジタスの腹部は、小さく斬られており少し血が流れ出ていた。



 「ほほお……貴様も中々の反射神経を持っている様だな」



 「(…………久々ですね傷を負うのは…………少し安心しましたよ。私にもちゃんと、赤い血が流れている……)」



 エジタスは斬られた腹部を押さえ、手に付着した血を見ながらそう思った。



 「いや~しかし、こうなると二人係でも厳しいですね~」



 「私も一緒に……うっ!!」



 「無理するな!!お前は痛みが和らぐのを待つんだ!!」



 危機的状況。真緒も一緒に戦う為立ち上がろうとするが、痛みが治まっておらず膝をついてしまう。



 「とは言ったものの……これは長くは持ちそうに無いな……」



 「さて……先に鳥人から片付けるとするか!」



 するとヴァルベルトは、翼を広げ空中に飛びながらフォルスへと襲い掛かる。



 「くそっ!!せめて……せめて翼の怪我が治っていれば……!!」



 フォルスの翼は、ヴァルベルトとの戦闘の際に突然伸びた深紅の槍に貫かれ、負傷していた。



 「諦めてたまるか!!“三連弓”“三連弓”“三連弓”“三連弓”!!!」



 フォルスは何度も、何度も、何度も、迫り来るヴァルベルト目掛けて矢を放った。しかし、それも全て深紅の盾で弾かれてしまった。



 「…………っ!!」



 「諦めろ!!もう貴様らを助ける存在はいない!!」



 「ここまでか…………」



 「フォルスさん!!」



 死を覚悟したフォルス。ヴァルベルトの槍がフォルス目掛けて貫こうとしたその瞬間!!



 「ぐはぁ!?」



 「「!!?」」



 突如として、何者かの攻撃によりヴァルベルトは横へと吹き飛ばされた。



 「ぐっ…………次から次へと我の邪魔をしよって……今度はいったい誰だ!?」



 「そ、そんな……どうして……?」



 「こ、こんな事が本当にあるのか……?」



 そこに立っていた人物は、真緒達にとって予期せぬ人物であった。この戦いにおいて、決して参加する事の出来ない人物であった。



 「グルルルル…………」



 その者は、低いうなり声をあげ口からは涎と泡が流れ出ていた。柱を彷彿とさせる巨大な手足。三メートルを越えるその体格はかつての面影を全く感じさせない。しかし、その食欲だけは変わらない人物であった。



 「「ハナコ!!?」」



 「グォオオオオオオオオオオオ!!!!!」



 真緒達の危機を救ったのは“ブラッドグリズリー”事、熊人のハナコであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し

gari
ファンタジー
 突然、異世界の村に転移したカズキは、村長父娘に保護された。  知らない間に脳内に寄生していた自称大魔法使いから、自分が召喚勇者であることを知るが、庶民の彼は勇者として生きるつもりはない。  正体がバレないようギルドには登録せず一般人としてひっそり生活を始めたら、固有スキル『蚊奪取』で得た規格外の能力と(この世界の)常識に疎い行動で逆に目立ったり、村長の娘と徐々に親しくなったり。  過疎化に悩む村の窮状を知り、恩返しのために温泉を開発すると見事大当たり! でも、その弊害で恩人父娘が窮地に陥ってしまう。  一方、とある国では、召喚した勇者(カズキ)の捜索が密かに行われていた。  父娘と村を守るため、武闘大会に出場しよう!  地域限定土産の開発や冒険者ギルドの誘致等々、召喚勇者の村おこしは、従魔や息子(?)や役人や騎士や冒険者も加わり順調に進んでいたが……  ついに、居場所が特定されて大ピンチ!!  どうする? どうなる? 召喚勇者。  ※ 基本は主人公視点。時折、第三者視点が入ります。  

家族全員異世界へ転移したが、その世界で父(魔王)母(勇者)だった…らしい~妹は聖女クラスの魔力持ち!?俺はどうなんですかね?遠い目~

厘/りん
ファンタジー
ある休日、家族でお昼ご飯を食べていたらいきなり異世界へ転移した。俺(長男)カケルは日本と全く違う異世界に動揺していたが、父と母の様子がおかしかった。なぜか、やけに落ち着いている。問い詰めると、もともと父は異世界人だった(らしい)。信じられない! ☆第4回次世代ファンタジーカップ  142位でした。ありがとう御座いました。 ★Nolaノベルさん•なろうさんに編集して掲載中。

ねえ、テレジア。君も愛人を囲って構わない。

夏目
恋愛
愛している王子が愛人を連れてきた。私も愛人をつくっていいと言われた。私は、あなたが好きなのに。 (小説家になろう様にも投稿しています)

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

【完結】では、なぜ貴方も生きているのですか?

月白ヤトヒコ
恋愛
父から呼び出された。 ああ、いや。父、と呼ぶと憎しみの籠る眼差しで、「彼女の命を奪ったお前に父などと呼ばれる謂われは無い。穢らわしい」と言われるので、わたしは彼のことを『侯爵様』と呼ぶべき相手か。 「……貴様の婚約が決まった。彼女の命を奪ったお前が幸せになることなど絶対に赦されることではないが、家の為だ。憎いお前が幸せになることは赦せんが、結婚して後継ぎを作れ」 単刀直入な言葉と共に、釣り書きが放り投げられた。 「婚約はお断り致します。というか、婚約はできません。わたしは、母の命を奪って生を受けた罪深い存在ですので。教会へ入り、祈りを捧げようと思います。わたしはこの家を継ぐつもりはありませんので、養子を迎え、その子へこの家を継がせてください」 「貴様、自分がなにを言っているのか判っているのかっ!? このわたしが、罪深い貴様にこの家を継がせてやると言っているんだぞっ!? 有難く思えっ!!」 「いえ、わたしは自分の罪深さを自覚しておりますので。このようなわたしが、家を継ぐなど赦されないことです。常々侯爵様が仰っているではありませんか。『生かしておいているだけで有難いと思え。この罪人め』と。なので、罪人であるわたしは自分の罪を償い、母の冥福を祈る為、教会に参ります」 という感じの重めでダークな話。 設定はふわっと。 人によっては胸くそ。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

処理中です...