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第七章 冒険編 極寒の楽園

真緒パーティー VS 雪女(中編)

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 「はぁ、はぁ、はぁ……」



 リーマは現在、散り散りになってしまった仲間達を捜す為、町の中を駆け回っていた。



 「皆さーん!何処にいるんですか!?」



 リーマが声を荒らげ、呼び掛けるも声は返って来なかった。



 「早く合流しないと……」



 「見つけたわよー」



 「ひぃ!?」



 背筋が凍る様な冷たい声を掛けられ、思わず振り返るとそこには、全てを突き放す恐ろしく冷酷な目をしたスゥーがいた。



 「さぁ、大人しく氷付けになりなさい」



 「そ、それで、はいそうですか何て言える訳無いじゃないですか!!私は魔法使い、甘く見ては困りますよ!」



 そう言ってリーマは、持っていた魔導書を開き、魔法を唱える。



 「“スネークフレイム”!!」



 リーマの魔導書から、炎で形成された蛇が生み出され、スゥーに向かって放たれる。



 「あらあら、可愛い蛇さんだ事……ふぅー」



 スゥーが一息吐くと、放たれた炎の蛇は一瞬にして凍り付いてしまった。



 「っつ……!!やはり、炎属性の魔法は効果がありませんか……それだったら!!“ウォーターキャノン”」



 リーマの目の前に大きな水の塊が形成され、その塊はスゥー目掛けて飛んでいった。



 「何も分かっていないのね」



 するとスゥーは右手を前に突き出すと、地中から氷の壁が出現し水の塊を受け止めた。



 「そ、そんな……」



 「その程度の魔法じゃ、私には傷一つ付けられませんよ」



 「私の魔法が通じないだなんて……」



 目の前の現実に堪えきれず、リーマは膝を付いた。



 「……安心するといいわ。氷付けにされれば、痛みを感じる事は無いし永遠の若さも保たれる。あるとすれば、永遠の寒さと恐怖だけよ……ふふふ」



 「…………」



 スゥーが膝を付いているリーマに近づき、目と鼻の先で手を構えて氷付けにしようとする。そんな中、リーマは密かにほくそ笑んでいた。



 「(ここまでは何とか上手く事を運べました…………後は放つのみ!!)」



 リーマは始めから分かっていた、自身の魔法が殆ど通用しない事を……。しかし、リーマにはまだ希望が残されていた。今までの魔導書の力では無い、自分自身の力。



 「(さぁ、食らいなさい“音魔法”!)」



 鼻から大きく空気を吸い込み、一度溜めて一気に放出した。



 「きゃあああああ!!!」



 「!!?」



 突然リーマから発せられた町中に響き渡る程の大音量に、後方へと吹き飛ばされるスゥー。



 「“スノーボール”!!」



 吹き飛ばされながらもそう叫ぶと、一瞬にしてスゥーの周りに大量の雪が集まり、頑丈そうな球体に変化し衝撃を和らげた。



 「…………!!」



 言葉にならなかった。最後の切り札と言ってもいい、リーマの渾身の魔法を防がれてしまった。



 「驚いた……まさかそんな隠し玉を持っていたなんて、対応が数秒でも遅れていたら状況は大きく変わっていたでしょうね」



 球体だった雪は形を崩し、中からスゥーが姿を現した。



 「あ……あ……」



 打てる手は全て打ち尽くした。もう何も策が残っていないリーマは、少しずつ後退りし始める。



 「ふふふ、でもそれもここまで……見た所、もう策は尽きた様ね」



 「う……あ………」



 氷付けにされる恐怖から、助けすら呼べない。



 「それじゃあね」



 スゥーが止めを刺すべく、リーマに手をかざしたその時……!!



 「“三連弓”!」



 声が聞こえたかと思うと、スゥー目掛けて三本の矢が連続して飛んで来た。



 「!!」



 咄嗟に氷の壁を作り出し、飛んで来る矢を防いだ。



 「スキル“熊の一撃”!!」



 「しまっ……!ぎゃああ!!!」



 間髪入れずに巨大な影がスゥーに強烈な一撃を与え、自身の作った氷の壁に激突した。そして現れた二つの人影はリーマに駆け寄って来る。その二人は見覚えのある二人だった。



 「フォルスさん!!ハナコさん!!」



 「何とか間に合ったな」



 「リーマぢゃん、怪我どがじでいない?」



 合流を果たしたフォルスとハナコは、リーマの体を心配する。



 「うん、私なら大丈夫ですが……二人とも、どうしてここにいると分かったのですか?」



 「ああ、それなら簡単だ。皆の事を捜している中、近くで鼓膜が破れそうな叫び声が聞こえたから、もしやと思って声のした方向に向かうと案の定、リーマがいたって訳さ」



 「オラも、捜じでいると耳をづんざく様な悲鳴が聞ごえだがら、その方向に向がっだら予想通り、リーマぢゃんとフォルスざんがいだだよぉ。あんな耳障りな悲鳴を上げられるのは、リーマぢゃんだげだもんなぁ」



 町中に響き渡る大音量の叫び声は、敵だけで無く仲間にも伝わっていた。



 「皆……って、耳障りは余計だよ!!?」



 「「あはははは」」



 「よくもやってくれたわね……」



 「「「!!!」」」



 三人が再び出会えた事に喜び合っていると、よろよろと立ち上がるスゥー。



 「一難去ってまた一難か……」



 「マオさんとエジタスさんは?」



 「まだ来でないみだいだぁ……」



 辺りを見回すも、それらしい人影は見当たらなかった。



 「もう、手加減しないわよ!!」



 「くっ……マオ達が来るまで持ちこたえるぞ!!」



 「「はい!!」」



 リーマ達とスゥーの攻防が幕を上げた。







***







 時を遡る事一時間前、リーマがスゥーと遭遇したその直後、真緒は謎の声に導かれ町長の家へと足を踏み入れていた。



 「確か……この辺りから声が聞こえた様な……」



 真緒がいるその場所は、偶然かはたまた必然か、前町長が使っていた部屋だった。故人となった部屋の為か、あるのは埃を被った机とベッドだけが残されていた。







 “こっちだよ”







 「!!、さっきよりはっきり聞こえる…………この机の中かな?」



 真緒は、一番声が強く聞こえた机の引き出しを開けた。



 「これは…………手紙?」



 中には一通の手紙だけが入っていた。



 「いったい誰がこんな手紙を……」



 そう呟きながら封を開け、手紙の内容を読み始めた。







 『この手紙を読む人へ



  この手紙を読んでいるという事は、あの子の力が元に戻り、尚且つ力が暴走してしまっているんだね。そしてこの手紙を読んでいるのは、そんなあの子を助けたいと思っている人だね。実はこの手紙には魔法が施してあり、あの子を本当に助けたいと思う人だけにこの手紙の声が聞こえ、この手紙を見つける事が出来る様にしたんだ』







 「これって……前町長の手紙!?」



 真緒は、驚きつつも手紙の内容を読み続ける。







 『さて、無駄話はここまでにするとしよう。何故、私がこの手紙を書き残したのか、それはあの子の致命的な弱点を書き記す為だ』







 「弱点!?そんな物が本当にあるの!?」



 あまりに衝撃的な内容に、目が離せない真緒。







 『そして、この弱点はあの子自身も気が付いているが、だからと言って克服出来る様な物ではなかった。その為、あの子はなるべく相手に弱点を見抜かれない様に振る舞っている。しかし、私は偶然にもあの子の弱点に気が付いてしまった。なので、それをこの手紙に書き記す事にした。どうかあの子の暴走を静める為に役立てて欲しい。あの子の弱点、それは…………“同じ技を連続で出せない”事である』







 「!!!」



 遂に見つけた。無敵とも思えたスゥーの意外な弱点。







 『この弱点を駆使して、どうかあの子を助け出しておくれ…………そうそう忘れる所だった。さっきからあの子と書き記しているが、実はあの子には名前が存在しない。そこで私はあの子の名前を考える事にした。既に名前は考えたが、その名前を本人が気に入るか不安で堪らない。今夜、あの子に伝えるとしよう、“スゥー”この名前をあの子は気に入ってくれるだろうか……』







 「…………」



 ここで手紙は終わってしまった。真緒の中で複雑な感情が入り交じる。



 「とにかく、この事を皆に伝えないと…………ん?」



 真緒が手紙の内容を伝える為、その場を離れ様とすると引き出しの奥にもう一枚の手紙を発見した。



 「これって…………!!」



 その手紙を見るなり、真緒は急いで町長の家を飛び出した。



 「早く、早く伝えないと!!」



 「きゃあああ……!!」



 その時、遠くの方で耳を塞ぎたくなる様な悲鳴が聞こえて来た。



 「この悲鳴は……リーマ!!じゃあ、皆あっちの方にいる筈……」



 真緒は、リーマの悲鳴が聞こえた方に走り出した。



 「お願い間に合って……!!」



 「…………せいだ……」



 「!!?」



 真緒がリーマ達のいる場所へ走っていると、聞き覚えのある声が聞こえた。声のする方向に目線を向けると……。



 「ケイさん!!こんな所で何やっているんですか!?」



 そこにいたのは、未だにぶつぶつと自分を責め立てる言葉を呟いているケイだった。



 「俺のせいだ……俺のせいだ……全部俺のせいだ……」



 「どうしたんですかケイさん、しっかりして下さい!!」



 真緒が必死に体を揺らすも、相変わらず自分を責め立てるケイ。



 「俺のせいだ……俺のせいだ……」



 「…………いい加減にして下さい!」



 パァン、と乾いた音が鳴り響く。真緒がケイの頬をひっぱたいたのだ。



 「痛!?…………あれ俺はいったい……マオさん?」



 「やっと正気を取り戻しましたか、ケイさん……確かにこうなってしまったのはあなたが原因です」



 「!!」



 「本当に悪いと思っているのなら、やる事は一つ。罪を償う意味でも、スゥーさんを助け出しましょう!!」



 真緒の説得にしばらく俯いた。そして再び顔を上げた時、その目は普段よりも決意に満ち溢れていた。



 「そうだよな……こんな事じゃ、またイウに怒鳴られちゃうよな!!」



 「さぁ、行きましょうケイさん。心を閉ざしてしまった冷たい女の下へ!」



 「おう!!」



 こうして、真緒とケイの二人はスゥーを助ける為に走り出すのであった。
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