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第七章 冒険編 極寒の楽園

真緒パーティー VS 氷像軍団

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 「スキル“ロックオン”」



 氷像の一体にターゲットマーカーが表示される。



 「そしてスキル“急所感知”」



 ターゲットマーカーは、氷像の左胸に移動した。



 「食らいやがれ!」



 フォルスの矢が放たれる。しかし、矢は当たりはしたが突き刺さらず、かすり傷すら与えられなかった。



 「くそっ、硬すぎる……」



 「オラに任ぜでぐれだぁ!」



 入れ替わる様にハナコが氷像の前に立ち、スキルを放った。



 「スキル“熊の一撃”」



 勢いよく放たれた一撃は、氷像に強い衝撃を与えたが、ひびすら入らなかった。



 「掌が痛いだよぉ……」



 「拳が駄目なら剣で!!」



 今度は真緒が入れ替わる様に氷像の前に立ち、スキルを放った。



 「スキル“ロストブレイク”!」



 真緒の剣が、氷像に目掛けて放たれるが剣先が少し刺さっただけで、ほぼ無傷に近い。



 「そんな…………“ロストブレイク”でも駄目だなんて……」



 「それなら、私の魔法で溶かしてやります!!」



 リーマは魔導書を開いた。



 「“スネークフレイム”!跡形も無く、溶けなさい!」



 リーマの魔導書から、炎で形成された蛇が生み出され、氷像に放たれる。しかし、あの時と同じ様に氷付けになってしまった。



 「そんな……また……」



 リーマが狼狽えていると、数体の氷像が襲い掛かって来た。



 「皆、避けて!!」



 真緒の叫びと共に、一斉に氷像の攻撃を回避した。



 「きゃあ!」



 「リーマ!!」



 「リーマぢゃん!」



 「リーマ!」



 だが、魔法が上手く決まらないショックに相当堪えていたのか、足下の氷と雪に足を滑らせ転んでしまった。



 「(殺られる!)」



 死を覚悟したリーマ。氷像の剣が振り下ろされるその瞬間、近くにいたエジタスがリーマの体を突き飛ばした。幸い、氷と雪のお陰で滑る様に、回避する事が出来た。



 「エ、エジタスさん……」



 「リーマさん、大丈夫ですか~?どんな時も油断しては行けませんよ~」



 そう言って、転んでいるリーマに手を差し伸べる。



 「助けて頂き、ありがとうございます!!」



 「いや~、大した事はしていませんよ」



 リーマに感謝されて、照れるエジタス。



 「リーマ、怪我は無い!?」



 「マオさん、私なら大丈夫です」



 「……しかし、厄介だな。一体だけでも歯が立たないのに、それが八体もいる…………戦況は最悪だな」



 真緒達は、再び背中を預け合う形で集合した。



 「唯一の救いは動きが遅いって事ですかね。油断さえしなければ、当たりません!」



 「だげど、ごっぢの攻撃が効がないんだっだら、いつかは殺られでじまうだよぉ!」



 自分達はダメージを受け、相手にはダメージを与えられない。突き付けられた現実が、真緒達の心をへし折ろうする。



 「氷がこんなにも硬いだなんてな…………」



 「……炎の魔法さえ使えれば…………」



 リーマは、悔しそうに歯を食い縛る。強く噛み過ぎて、口の中から血が流れ出た。



 「…………皆、少し話を聞いてくれないかな?」



 「マオさん?」



 「マオぢゃん、どうじだだぁ?」



 「マオ?」



 「どうかしたのですか~?」



 絶対絶命の状況で、静かに口を開いた真緒はある提案をした。



 「成る程な……それならこいつらを倒せるかもしれないな」



 「でも、凄く危険な賭けだと思う。下手したら死ぬかもしれない……だから、嫌なら断ってくれて「マオさん」」



 真緒が心苦しそうに喋っていると、リーマが優しく声を掛けて来た。



 「今さら言っているんですか?」



 「オラ達は今まで、どんなに高い壁も乗り越えで来だ」



 「お前に命を預ける位、どうって事無い」



 「マオさ~ん、もっと私達を頼って良いんですよ~」



 「皆…………そうだよね。ありがとう、そして私に力を貸して!!」



 「「「「了解!!!」」」」



 その瞬間、真緒達はエジタスだけを残して、氷像達の空いた隙間から抜け出した。



 「さぁ、氷像の皆さん、私に目線を下さ~い。スキル“滑稽な踊り”」



 するとエジタスは体を揺らして、踊り始めた。それに目線が外せなくなった氷像達は、標的をエジタスだけに絞り近づいて来た。



 「こっちへいらっしゃ~い」



 踊りながら手招きをするエジタスを、八体の氷像が完全に取り囲む。今度は隙間から逃げられない様に寄り添い合って攻撃を仕掛けようとする。



 「あら~、これでは逃げられません!どうしましょう~?」



 振り上げた八つの剣がエジタスに向かって振り下ろされる。



 「……なんちゃって!」



 そう言うとエジタスは、指をパチンと鳴らしてその場から姿を消した。



 「今です!リーマ!!」



 「弾の様に勢いよく発射するのでは無く、波の様に押し流すイメージで…………“ウォーターウェーブ”!!」



 開いていた魔導書から、大量の水が波の様に溢れだし氷像に目掛けて押し寄せる。



          ピキピキピキ……



 水を被ってしまった氷像達は、その水が凍って行く事でその動きを止め、やがて八体の氷像同士がくっつき合い固まってしまった。



 「やった!作戦成功です!!」



 真緒達は、固まりくっつき合った氷像へと近づく。



 「見事に固まってるな……」



 フォルスが固まった氷像を叩くが、ピクリとも動かなかった。



 「マオぢゃん凄いだぁ!!まざが、水で動ぎを封じ込めるだなんで、オラ考えもじながっだ」



 「……物理が効かない。魔法も謎の力で凍らされる。それだったら、望み通り水を凍らして固めちゃおうと思いついたんだ。目には目を、歯には歯を、氷には氷を……ってね!」



 真緒の思い付いた作戦は、まず誰かが囮となって八体の氷像を一ヶ所に集める。そして、その集まった場所にリーマが水属性魔法を叩き込む。勿論、凍らされるのは想定の範囲内、寧ろ素早く凍った事で氷像達は何も出来ずに固まってしまった。囮となる人物が非常に危険な思いをする作戦だったが、転移魔法が使えるエジタスのお陰で無傷で済んだ。



 「師匠、危険な役回りをありがとうございます」



 「気にしなくてもいいんですよ。私も久しぶりに踊れて楽しかったですよ~」



 「「「「あはははは」」」」



 エジタスが楽しそうに踊る姿に、思わず笑みがこぼれる真緒達であった。



 「それじゃあ、先に進みましょうか」



 氷像軍団との戦いに勝利を収めた真緒達は、洞窟を更に奥へと進んで行く。



 「…………」



 真緒達がいなくったその数十分後…………氷像達の目が赤く妖しく光った。







***







 「大分歩いた気がするが……いったい何処までこの洞窟は続いているんだ?」



 しばらくの間、歩き続けていた真緒達だったが行けども行けども、同じ景色が続いていた。



 「うーん、もう十分以上歩いた筈何ですけど…………うん?」



 その時、後ろの方から何かが近づいて来る音が聞こえてきた。



 「まさか、あの氷像か!?」



 「あり得ません!しっかりと固めたので、そう容易く抜け出せる訳がありません!」



 音はどんどん大きくなって来た。そして遂にその正体を、真緒達は目にした。



 「おいおい、嘘だろ!!?」



 それは巨大な丸い塊だった。形こそ歪だが、その塊は先程の八体の氷像が合体した姿であった。



 「皆、逃げてー!!」



 真緒達は死に物狂いで走り出した。物理が効かない、固めようにもあの早さでは魔法を唱える前に潰されてしまうのは、明白だ。



 「クソッ、凄いツルツルしやがる!!」



 今まで転ばない様、歩くのに徹底していたせいで、いざ走ろうとすると上手くスピードが出せない。逆に氷像が合体した塊は、丸い形と滑る氷同士が組合わさり、徐々にスピードが増して行く。



 「このままだと全滅だぞ!!」



 「…………あ、あんな所に扉がありますよ!!」



 真緒達の目線の先には、一つの木の扉があった。



 「よし、あの中に飛び込むぞ!!」



 そう言って、真緒達は急いで木の扉を開けて無我夢中で中へと飛び込んだ。ズズーン、という鈍く響いた音が鳴った後は辺りは静けさに包まれた。



 「…………皆、大丈夫?」



 「ああ、何とかな……」



 「オラもう、クタクタだぁ」



 「全員助かって良かったです」



 「もう少しで、押し潰されてしまう所でしたね~」



 全員が無傷である事を確かめた真緒は、ホッと胸を撫で下ろす。



 「ヘックチ!……それにしてもここ寒すぎじゃありませんか!?さっきの氷と雪の道の比ではありません!!」



 「確かに……いったいここは何処なんだろう…………ん?」



 辺りを見回すと、何かを発見した真緒。



 「氷…………?」



 薄暗く、よく見えなかった為少しずつ近づいて見ると、それは只の氷では無かった。



 「…………ひぃ!!」



 「どうじだんだマオぢゃん?……ご、ごれは……!」



 そこには人間が氷付けにされていたのだ。それも一人では無い、目が暗闇に慣れてくると何処もかしこも氷付けにされている人間ばかりだった。



 「ま、まさか死んでいるんですか!?」



 「分からない…………誰かいるぞ!!?」



 フォルスが氷に触ろうとしたその時、奥の方から何者かの気配を感じ取った。その者は、真緒達にゆっくりと近づいて来てその姿を見せた。



 「こ、こいつは…………」



 白い肌、白い髪の毛、そして純白の着物に身を包み、凍える様な冷めきった眼差しをする女がそこに立っていた。



 「…………雪女だ」
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