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第五章 冒険編 海の男

水の都

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 窓から朝日が差し込む。真緒達女性人は船長専用の寝室、三人が一緒に寝ても余るほどの大きさを誇るベッドで寝ていた。



 「うーん、もう朝か……」



 「あ、マオぢゃん。起ぎだみだいだなぁ、おはよう」



 「!!?」



 目を疑う光景がそこにはあった。いつも寝坊の常習犯であるハナコが、真緒やリーマよりも早くに目覚め、身なりを整えていた。



 「リーマ、リーマ起きて!」



 「……うーん、どうしたんですかマオさん……こんな朝早くに……」



 「ハナちゃんがもう起きているんだよ!」



 「何寝ぼけているんですか……そんな事がある訳が無いじゃないですか……」



 「リーマぢゃんもおはよう!今日もいい天気だよぉ」



 「!!?」



 耳を疑った。聞こえる筈の無い声が聞こえてきて、リーマの意識は完全に目覚めた。



 「は、ハナコさん?」



 「ん、どうじだんだリーマぢゃん?」



 「マオさん……私は夢でも見ているんでしょうか?」



 「大丈夫、私も同じ光景を見ているから……」



 二人は信じられなかった。いつも起こそうとしても頑として目を覚まさなかったハナコが、こんなにもあっさりと起きている事に疑いすら持ち始めていた。



 「本当に、ハナちゃんだよね?」



 「マオぢゃん、何言っでるんだぁ。オラは、オラに決まってるだよ、他の何者でもねぇ」



 「そ、そうだよね……」



 偽物なのではないかと思った真緒とリーマが、ベッドの側にある剣と魔導書を手にしようとしたその時、美味しそうな匂いが漂ってきた。



 「皆さ~ん、朝御飯の準備が整いましたよ。食堂まで早く来てくださ~い」



 ドア越しにエジタスの声が聞こえてきた。



 「ご飯だ、ご飯だぁ!マオぢゃん、リーマぢゃん、オラ先に行っでるだよ!」



 そう言うとハナコは目にも止まらぬ速さで部屋を出ていった。そんな光景を見ていた真緒とリーマは放心状態になっていた。



 「……もしかして、朝御飯の匂いがしたから起きていた……?」



 「そのようですね……」



 「……私達も身支度が出来たら行こうか……」



 「分かりました……」



 こうしてハナコ早起き事件は、ハナコの食い意地が原因として幕を閉じた。







***







 「ぷはぁー、食っだ食っだ!」



 真緒達は食事を済ませた後、食後の運動と称して甲板へと出ていく。



 「もぉー、ハナちゃんたら食べ過ぎだよ」



 「まさか、船の半分以上の食料を食べ尽くすとは、思いもしませんでしたよ」



 今現在、フォルスとエジタスは、ハナコが食べ尽くした料理の食器の後片付けに追われていた。



 「本当に凄かったね「何やってるんだ!!」」



 真緒達が楽しく会話していると、怒鳴り声が響く。声のする方に顔を向けると、船員の一人が若い船員を叱っていた。



 「お前は何度言えば分かるんだ!それだと、汚れが落ちないだろ!もっと強く擦れ!!」



 「す、すみません!!」



 若い船員が頭を下げて必死に謝っている。



 「いったいどうしたんですか?」



 「あ、船長……すみません、煩かったですか?」



 「いえ別に大丈夫ですけど……何かあったんですか?」



 真緒達は気になって様子を見に来た。



 「こいつ、最近入った新人なんですけど、言われた事もまともに出来なくて困っているんです」



 「す、すみません」



 若い船員は、他の船員と比べてとても痩せており、海の男としては程遠い。



 「……確かに、言われた事をするのは大切ですけど、そんな頭ごなしに叱らないでやってください。優しく教えれば彼も出来ると思いますよ」



 「船長がそう仰るのなら……おい!船長のお心遣いに感謝しろよ!」



 「は、はい!!」



 そう言うと船員は自分の持ち場へと戻って行った。



 「はぁー……あ……助けてくださり、ありがとうございました」



 「いいよ、そんな大した事してないし」



 「いえ、本当に助かりました。僕、ルーって言います」



 「佐藤 真緒です」



 「ハナコだよ」



 「リーマと申します」



 ルー、と名乗った若い船員は、真緒達と軽い自己紹介を済ませた後、雑用の仕事へと戻った。



 「あんな若い人も海賊をやっているんだね」



 「あいつは俺と同じ、親を“孤独船”に奪われた奴なのさ」



 「あ、ジェドさん!」



 真緒の独り言を、側でたまたま聞いていたジェドが話し掛けてきた。



 「あいつは、海賊のセンスはあるんだが……どうも臆病な性格でな……いまいち海の男になりきれてねぇんだ」



 「そうなんですか……それはやっぱり、親を失った影響で?」



 「それもある。だけど、一番の原因はあの心の弱さだ……世の中の全てに怯えてる……そんな目をしているんだ」



 精神的な物が原因では、仕方ないと真緒は思った。それは、自分自身を重ねていたのである。



 「それはそうと、どうだ……この船には慣れたか?」



 「はい、皆さんとても優しいので楽しいです」



 「船で食べる料理は最高だっだぁ」



 「私の思っていた海賊とは、だいぶ違っていました」



 少しずれた答えの者がいたが、三人供好感の言葉を述べた。



 「そうか、なら良かった」



 真緒達がこの船に慣れてくれた事にジェドが喜んでいると、船員から声が掛かった。



 「ジェドさん!もうすぐ“水の都”に到着します!!」



 「そうかー!分かった!良かったな、もうすぐ目的地に到着するぞ」



 「本当ですか!?」



 「楽じみだなぁ」



 「“水の都”どんな所何でしょうか……」



 三人が到着を心待ちにしていると、食器の後片付けを終えたフォルスとエジタスが、甲板にやって来た



 「あ、フォルスさん!師匠!」



 「マオ、こんなとこにいたのか」



 「お待たせしました~」



 「もうすぐ“水の都”に到着するらしいです」



 「何!?そうなのか……意外に早かったな」



 「船での生活も楽しかったのですがね~」



 そんな会話をしていると、船が止まった。



 「よーし、目的地に着いたぞ!」



 「えっ、あ、あの何処にも見当たらないんですが……」



 船の周りには、建造物らしき物は無く、見渡す限りの青い海が広がっていた。



 「ああ、嵐の日だけは海中から一筋の光が突き出るんだが、普段は肉眼では確認する事が出来ない。だが……」



 そう言うと、ジェドは船員に合図を送る。すると、船員の一人が両手にある物を抱えてやって来た。それは……。



 「ホラ貝?」



 「そうだ、初めて“水の都”を訪れた時に貰ったんだ。これを吹けば、嵐の日じゃなくても行く事が出来るんだ」



 ホラ貝を持った船員は、大きく息を吸って吹き鳴らした。その音は超低音で響き渡る。



 「…………あれ、揺れてる?」



 真緒の一言で、他の仲間達も揺れている感覚に襲われる。



 「いっだい、何が起ごっでいるんだぁ!?」



 船底の海が何重にもなった筒の様になり、まるでトランポリンに乗った如く、真ん中の円から徐々に船が沈んで行く。



 「し、沈んでいるんですか!?」



 やがて船は海の中へと姿を消した。残ったのは、いつもと何も変わらない青い海であった。船ごと海中に入った真緒達は今も尚、沈んでいる。



 「海の中なのに呼吸が出来る……」



 不可思議な現象が一度に起きてしまい、いろんな事に疑問を持つ。



 「おや~、もしかしてあれが……?」



 「ああ、あれこそが“水の都”だ!!」



 沈んでいく最中、目線の先に巨大な町が姿を現した。建物の窓は水圧でも一切割れておらず、全体が白く彩られていて、端から見ても美しいと感じる。この町こそが真緒達が目指していた“水の都”である。
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