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第二章 勇者

光魔法

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 「マオさんの光魔法はどの属性魔法にも強いのが特徴ですが、その反面光と対をなす闇魔法には弱いです。しかしそれは向こうにも同じことが言えます。闇もまた光に弱いのです」



 「魔法に強い弱いがあるんですか?」



 「もちろんですとも、火属性魔法は土属性魔法に強く、土属性魔法は風属性魔法に強く、風属性魔法は水属性魔法に強く、そして水属性魔法は火属性魔法に強い。といった感じでそれぞれに相性が存在します」



 「光属性魔法と闇属性魔法が入っていませんけど…………」



 「光と闇は別で、先程の四属性のどれにでも強いですが、お互いの属性には強くもあり弱くもある関係なのです」



 「へぇーそうだったんですか」



 王女の説明にはなかった新たな知識を知ることが出来た。



 「それでは早速魔法を使ってみましょう。鑑定で光魔法の部分を調べれば、今現在何を覚えているか分かると思いますよ」



 「はい!スキル“鑑定”」







光魔法



ライト







 光魔法の欄にはライトしかなかった。



 「あの師匠、ライトという魔法しかないみたいなんですけど…………」



 「覚醒したとはいえマオさんはまだLv1、仕方がないですよ」



 「そんな~」



 魔法が使えると聞いて少し楽しみにしていた真緒だったが、期待を裏切られる結果となった。



 「まぁまぁ、Lvが上がれば自ずと使える魔法の数も増えていくので頑張っていきましょう」



 「……分かりました」



 「ではまず、ライトを発動させてみてください」



 「はい、…………“ライト”!」



 真緒が手を前に突き出して魔法を唱えると、手の平から小さく輝く光の玉が作り出された。



 「出てきました!出てきましたよ師匠!」



 「はいはい、分かっていますから落ち着いてくださいね」



 「あ、ごめんなさい。つい舞い上がっちゃって……」



 「いいんですよ~。初めて魔法を使ったんですから誰だって興奮しますよね~」



 魔法という存在が当たり前の世界で、こんなにもはしゃぐ女を受け入れてくれる。真緒はエジタスに出会えて本当によかったと心の底から思う。



 「さて次はさっきより弱い光を出してみましょう」



 「そんなことが出来るんですか?」



 「はい、光のイメージを薄~くしてみてください」



 「薄~く…………“ライト”」



 真緒の手から作り出された光の玉は、先程よりも弱々しくぼんやり光っていた。



 「凄い!こんなことも出来るんですね魔法って!!」



 「ええ、ライトと言ってもどのくらいの光なのか決めるのは使用者本人です。ではマオさん、ここから魔法の応用編です」



 「応用編?」



 「今からあそこにいるキラーフットをマオさんに倒してもらいます」



 エジタスが指を指した方向には、ボアフォースを一撃で葬ったあの兎がいた。



 「ええ!?そ、そんないきなり難しすぎますよ!」



 「これはもう決定事項なのです」



 エジタスは真緒の方に反対側の手で指を指す。



 「……師匠!?まさか!」



 「スキル“一触即発”」



 「があぁ!?」「クゥ!?」



 感情が頭の中に流れ込んでくる。まずい、兎から目が離せない、息が荒くなる。本能が訴えかけてくる、こいつを殺せと!!



 そして兎、キラーフットもまた同じことを思っていた。その証拠に警戒し始める。兎特有のタッピングと呼ばれる方法で後ろ足を地面に叩く行為である。一見可愛く思えるがそれは元の世界での話、異世界の兎キラーフットのタッピングは…………。



   ダン!!ダン!!ダン!!



 叩く度に地面が足形に削れていく。これを見てもまだ可愛いなどと言えるだろうか。否、言えるわけがない。



 「頑張って倒してくださいね~じゃないと…………殺されちゃいますよ」



 前言撤回。師匠は優しくない、鬼だ。



 「しまった!」



 時間を掛けすぎた。しびれを切らしたキラーフットが地面を蹴り、真緒に向かって飛んでくる。



 「(どうしよう、どうしよう、どうしよう。考えろ、考えろ、考えろ。生きたい、生きたい、生きたい。せっかく新しい人生の一歩を踏み出せたというのにこんなところで終わりたくない。まだ何もしていないじゃないか、師匠にも恩返しができてないし、この世界のことだってもっと知りたい。いろんなスキルや魔法を使ってみたい。……魔法?…………そうか!)」



 何かを思い付いたのか真緒は手を、飛んでくるキラーフットに向ける。迫り来るキラーフット、これから真緒がやろうとしている事は明白だ。だがそれでどうやって倒そうと言うのか。そしてついにキラーフットの強烈な足が当たるその時、真緒が魔法を発動する。……最大火力で。



 「“ライト”!!!」



 「クゥ!!?」



 目が開けられないほどの光の玉が、真緒の手から作り出された。いきなり目の前が真っ白になり、キラーフットは必死に目を擦り視界を元に戻そうとした。



 「クゥ~」



 視界が徐々に慣れ、見え始める。完全に見えたとき、目の前にはこちらに手を振る不気味な仮面をつけた男だけだった。



 「……チェストーー!!!」



 真緒は後ろにいた。“ライト”でキラーフットの視界を遮り、一瞬で背後をとったのだ。生き物を殺すのに少し抵抗していたが、殺らねば殺られると判断した。キラーフットがそれに気付き振り返るが、もう既に振り下ろした後だった。







***







 「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」



 初めて殺した。自らの手で一匹の生き物の人生を終わらせたのだ。気持ち悪い、吐き気がする。嫌悪感と共に罪悪感が込み上げてくる。



 「……これが“生きる”ということですよ」



 「!!」



 生きる。その言葉がとても重くのし掛かる。皆、誰かの屍の上に成り立っている。だから私は生きなければならない、それは私が奪ってきた命に出来る唯一の償いなのだから…………。そんなことを彷彿とさせた。



 「師匠…………」



 「はい?」



 「私、生きます!生きて、生きて、生き抜いて、誰にでも胸を張れる人生を歩んで見せます!」



 「その意気です!よし、これにて魔法の応用編及び生きるという意味の修業は終了です。これより卒業試験を行う!」



 「…………ふぇ?」







***







 「師匠……卒業試験っていったい何をさせるつもりですか?」



 「マオさん、あなたは元の世界に戻る気はない。そうですね」



 「はいそうですけど……それが何か?」



 「ではマオさん、あなたはこれから何がしたいのですか?」



 「え、急にそんなこと言われても……」



 真緒は必死に考える。自分がこれからこの世界で何がしたいのか。そしてある一つの答えに辿り着く。



 「私、もっとこの世界の事が知りたいです。いろんな場所を巡って、そこの文化に触れて体験したいです」



 「そう言うと思っていましたよ。この卒業試験にはその為に必要な事をしてもらいます」



 「分かりました。師匠の期待に答えられるよう頑張ります!」



 両手に拳を作りそれを胸にあて、気合いを入れるポーズを取る。



 「いい返事ですね。それでは、卒業試験の内容を発表します。………………仲間集めです」



 「仲間集めですか?」



 「そうです。この世界を巡るのに一人というのはとても危険です。仲間がいれば、精神的不安なども解消され、一人では出来ないことも出来るようになります。そこでマオさんには、マオさんがこの人なら信頼できるという仲間を三人集めてきてください」



 「三人も!?……師匠をその中に入れちゃ駄目でしょうか?」



 「嬉しい申し出ですが、私はあくまで師匠です。それに、そんなことをしてしまったら卒業試験が簡単になってしまいますよ」



 「そう……ですよね」



 「安心してください。期限などはないので何日でも、何十日でも、何ヵ月でも探して大丈夫ですよ」



 ホッと胸を撫で下ろす。こんな難しい内容に、更に期限までついていたらどうしようと思っていたが、これなら仲間集めに集中できる。



 「師匠、私やり遂げて見せます!師匠が驚くぐらいの素晴らしい仲間を集めて見せますね」



 「いいでしょう。その言葉、楽しみに待っていますよ。それでは卒業試験開始!!」



 そうエジタスが叫ぶと同時に、真緒は驚異の身体能力でカルド王国の方へと向かい、姿が小さくなった。



 「…………まぁ、仲間なんていても邪魔なだけですけどね」



 草原で一人、エジタスの呟きを聞いた者は誰もいない。
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