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第二章 勇者

過去への償い

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 「この世界には多種多様の武器が存在します。今日は中でもよく使用される物を、三種類紹介しましょう」



 エジタスが指を鳴らすと空中に一本の剣が出現した。それを真緒が両手で受け止める。



 「それは鉄の剣という最も使われている武器です。剣は対象を斬りつける効果と刺すための機能を持っています。」



 「あ、凄い扱いやすいです」



 柄の部分を両手で握り、何度か振り下ろしている真緒。



 「はい、誰にでも扱える分、これといった長所も短所もないのが特徴です。さて、次はこちらです」



 再び指を鳴らすと空中に一本の槍が出現した。真緒は剣を手放し、両手で受け止める。



 「それは鉄の槍です。槍は剣とは違い、刺すことのみに特化した武器です。リーチが長く、相手と距離を取りながら戦えますが一度近寄られると対処するのは難しいでしょう」



 「これもいいですね」



 何度か槍で突く練習をした。



 「最後はこれです」



 三度目の指を鳴らすと空中に一本の斧が出現した。真緒はそれを両手で受け止める。



 「け、結構重いんですね」



 「当然です。斧は先程の二つとは異なり、打撃を主な攻撃とする武器なのです。もちろん、剣のように斬りつけることも出来ますよ」



 「これは…………ちょっと無理ですね」



 必至に持ち上げようとしたが重すぎて真緒には持つことは出来なかった。



 「さぁ、マオさんならこの三つの中からどれを選びますか?」



 綺麗に並べられた剣、槍、斧をしばらくの間見つめる。



 「私、これにします」



 手に取ったのは剣だった。



 「一番使いやすかったです」



 「そうですか~。それではこれから武器屋に行きましょう、好きな剣を一本買ってあげますよ」



 「ええ!?そ、そんな悪いです!」



 「いいんですよ~。弟子になったお祝いをさせてくださ~い」



 お祝いと言われてしまうと受け取らなければ失礼にあたってしまう。そう思った真緒は素直にもらうことにした。







***







 「ここがこの国一番の武器屋です」



 「ここがですか…………?」



 ボロい。それが最初に見た時の感想だ。ここまで来る途中にいくつか武器屋らしき店があったがどれも丁寧に掃除されて綺麗だった。しかし、剣を買ってもらう手前文句など言える立場ではなかった。



 「それじゃあ、入りますよ」



 「は、はい!」



 店の中に入ると意外と整えられていた。いかにも高そうな武器は壁などに掛けられていた。奥の方に目をやるとそこには、カウンター越しに人相が悪く左目に傷がついている。店主がいた。



 「…………いらっしゃい」



 野太い声。声だけでどれだけの修羅場を潜り抜けてきたのか、素人の真緒でも分かった。



 「すみません、剣ってどこにありますか?」



 「…………そこの右端のところ。それで全部だ」



 「ありがとうございま~す。さぁ、マオさん、好きなやつを選んでください」



 「そんな……急に言われても」



 「心のままに選べばいいのですよ」



 「心のままに…………」



 じっくりと剣を眺める真緒。数はそれほど多くないがいくつか壁に掛けてあったり、立て掛けてある物もあった。



 「あ…………」



 一つの剣に目が止まった。いや、正確には目が奪われた。全身が白……純白で形成されており他の飾りなど一切付けられていないシンプルな剣があった。



 「綺麗…………」



 その剣に触れようとすると…………。



 「その剣に触れんじゃねぇ!!」



 「えっ!?あれ……私……」



 店主が怒鳴り付けると真緒は我へと帰る。



 「悪いな、急に怒鳴っちまって……。その剣には触れない方が身のためだ」



 「…………いったいこれは何なんですか?」



 「それはな、かつて異世界から来た勇者が使っていたとされる剣だ」



 「!」



 「だが、勇者は亡くなる直前。何を思ったか自分の剣に呪いを掛けちまった」



 「呪い?」



 呪いという単語に反応する真緒。



 「ああ、その剣に触れた者は自身の心の闇が溢れ出すらしい。その闇に打ち勝つことが出来れば初めて使うことが許される。しかし、打ち勝つことが出来なければ…………自身の闇に呑まれ廃人になっちまうのさ」



 その口ぶりから既に何人もの人が廃人になったのを見たことがあると取れる。



 「…………何故、そんな危ない代物が立て掛けてあるんですか?」



 「実はな、俺のじい様のそのまたじい様のそのまたじい様の、そのまたじい様が勇者と知り合いだったらしくてな。亡くなった後の遺言状に、この剣をずっと店頭に並べておいてほしいと書かれてたんだ。その言葉に従い、代々その剣を並べているって訳さ…………まぁ、そのせいで呪われた剣を扱う店と認識されて商売上がったりだけどな」



 「そうだったんですか…………」



 「おう、だから悪いな嬢ちゃん。その剣には触らないようにしてくれ」



 「………………」



 しかし、しばらく見つめた後再び手を伸ばす真緒。



 「お、おい!聞いてなかったのか!?その剣に触れると…………」



 その先は言うことが出来なかった。何故なら、エジタスが割り込んで会話を途切れさせたからだ。



 「駄目ですよ。これから歴史的瞬間が訪れるかもしれないのですから邪魔をしては……」



 いつもの楽観的な口調とは違い、深みのある声で喋った。



 「…………」



 真緒はゆっくりと恐る恐る剣に触れた。







***







 「あれ?ここは…………」



 次の瞬間、辺りは真っ黒になり何も見えなくなってしまった。



 「し、師匠、どこですか?」



 呼べど返事はない。手当たり次第に動き回るが今自分が何処にいるのかさえ分からない。すると……。



 「あんたのせいだ」



 声が聞こえた。女の子の声だ。真緒はホッと一安心して声のした方を向く。そしてそこにいたのは…………。



 「…………私?」



 そう、真緒だった。正確には中学に上がる前の小学生の頃の真緒。



 「あんたのせいだ」



 「え?」



 「あんたのせいでママは死んじゃったんだ」



 「!!」



 強い衝撃が頭に響く。何かを思い出そうとしている。思い出してはいけない何かを…………。



 「あんたが我が儘言ったからママは死んじゃったんだ!」



 「!!!」



 記憶が甦る。



 クリスマスの前日、小学生の真緒は紙に何かを書いていた。



 「あら、何を書いているの真緒?」



 母が優しい声で聞いてくる。



 「サンタさんに欲しいプレゼントをお願いする手紙を書いてるの」



 「もうそんな時期か……。今年は何をお願いするの?」



 「えっとね……。今人気の携帯用ゲーム機!」



 「そんなのが欲しいの?」



 「すっごい人気でクラスの皆持ってるんだけど、あたしだけ持ってないからサンタさんにお願いしようと思って……」



 「そっか……。貰えるといいね」



 「うん!」



 幸せな光景、誰もが羨むそんな中、玄関でドアを叩く音がする。



 「おい開けろ!居るのは分かってるんだぞ!」



 「……っ、また来た」



 「ママ?」



 「大丈夫よ真緒。大丈夫だからちょっと待っててね」



 そう言うと母は玄関のドアを開ける。もちろんチェーンを付けて。



 「なんですか!お金ならもう払いましたよ!」



 「佐藤さん、あなたの前のご主人が作った借金はね、まだ元金の方が残っているんですよ。あなたが払ったのは利息の方だけなんですよ」



 父は女だけでは飽きたらず、借金まで作っていた。その時の保証人をあろうことか、母の印鑑を勝手に持ち出し記入したのだ。そのあと女と供に姿を眩ました。



 「…………いくらですか?」



 「五百万」



 「!」



 「別に払わなくてもいいんですよ。その時はあなたの娘さんを頂きますけどね」



 「娘に手を出さないで!!」



 「じゃあ払うもん払ってくださいよ」



 「…………」



 母は黙り混んだかと思うと懐から封筒を取り出した。



 「何だあるんじゃないですか」



 封筒を奪い取り中身を確認する。



 「二..四..六……十万ぽっちですか……まぁ今日はこれくらいで許してあげましょう。次来るときはキチンとお金を用意してくださいね」



 「…………はい」



 ドアが締まり、俯いたままの母を見かねて近寄る真緒。



 「ママ、大丈夫?」



 「…………ええ、大丈夫よ。それよりサンタさんからのプレゼント楽しみね」



 「うん!」



 その次の日、クリスマス。一日働きづめで寝る暇も無かった母は死んだ。私に寄り添うように倒れた母の手には人気の携帯用ゲーム機が入った箱が握られていた。この日から私はサンタを信じなくなった。







***







 「はぁ、はぁ、はぁ…………」



 苦しい。胸が張り裂けそうになり、その場で膝をついた。



 「あんたのせいだ。あんたがママに我が儘言わなければ、ママは死なずに済んだ」



 「私の……私のせいで……」



 「あんたってほんと、最低だね」



 聞き覚えのある声。顔を見上げると愛子と舞子が立っていた。



 「あんた泥棒だけじゃなくて殺人までしてたとはね。この人殺し!」



 「人殺し!」



 「「人殺し、人殺し、人殺し、人殺し、人殺し」」



 「私は……私は……」



 もうだめだ。罪悪感という重しに押し潰される。その時……。



 「マオさん」



 優しい声が聞こえる。先程の攻撃的な声とは違う、包み込むような声。



 「師匠…………」



 「マオさん、あなたはお母さんが死んだのは自分のせいだと思っているのですか?」



 「だって!実際そうなんです!私があのとき我が儘を言わなければきっと…………」



 「…………マオさん、人の生き死にで大事なのは幸せだったかどうかです。マオさんのお母さんはどうでしたか?」



 「そんなの幸せな訳が…………」



 ない。そう言おうとしたが最後の母の顔を思い出した。その顔はこれから起こるであろう娘の喜びを楽しみにして満面の笑みを浮かべていた。そんな母の人生を幸せな訳がないなどと言えなかった。いや、言いたくなかった。



 「真緒…………」



 懐かしい声。数年ぶりに聞く声は昔と何ら変わりなかった。そうそこにいたのは…………。



 「お母さん!!!」



 「真緒、元気にしてた?」



 「お母さん!私、私……」



 「真緒……あなたは何も悪くない」



 「でも私が我が儘言わなければ……」



 「何言ってるの、子供は我が儘を言うものよ。私はあなたが喜んでる姿が一番好きだった。親は子供の為なら何だって出来ちゃうんだから。」



 「お母さん…………」



 「私の人生は真緒、あなたが居てくれたおかげでとてもいい人生だったありがとう。…………でも、これからはあなた自身の人生を歩んで欲しいの。過去には囚われず我が儘に生きて欲しい。それがお母さんとの最後の約束、どう守れそう?」



 「……うん……私頑張るよ……お母さんに負けないくらい幸せな人生を歩んで見せる……」



 「その意気よ!さっすが私の娘だわ!」



 次第にお母さんの姿は薄れ消え始める。



 「もうそろそろお別れみたいね。真緒!異世界でもしっかりやるのよ」



 「お母さん!最後に聞きたいんだけど…………」



 「?」



 「お母さんは本物?それとも私が生み出した妄想?」



 「…………それを決めるのはあなた自身よ」



 「お母さん…………ありがとう」







***







 「……お……おい……おい!嬢ちゃん大丈夫か!?」



 気がつくとそこは武器屋だった。あれからどのくらいの時間が経過したのか分からないが、今は考える余裕がない。



 「大丈夫です。ご心配をお掛けしてすみません」



 「あ、いや大丈夫ならいいんだ」



 「そうだ、エジタスさん」



 「はい?」



 「ナイフ……持っていましたよね?」



 「ええ、ここにありますが……」



 そう言うとエジタスはポケットからナイフを取り出す。



 「良ければ貸していただけませんか?」



 「いいですけど……」



 「ありがとうございます」



 ナイフを受け取ると、真緒はおさげだった髪をほどいて一つにまとめあげ、一気に切り落としてショートヘアにした。



 「マオさん!?」



 「嬢ちゃん何してるんだ!?」



 これはさすがにエジタスと店主に驚かれる。



 「エジタスさん。私決めました」



 そう言いながら真緒は黒縁の眼鏡を外す。



 「私もう悩みません。もっと自分に我が儘に生きていこうと思います」



 「…………どうやら私はとんでもない逸材を引き当ててしまったようです」



 エジタスは密かにスキル“鑑定”を発動させていた。







サトウ マオ Lv1

種族 人間

年齢 17

性別 女

職業 目覚めし勇者



HP 800/800

MP 600/600



STR 450

DEX 400

VIT 350

AGI 600

INT 550

MND 500

LUK 800



スキル

鑑定 ロストブレイク 過去への断罪



魔法

光魔法



称号

過去を克服せし者
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