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第6章 会談

1 いざ、ケイシロン公爵家へ

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さて…私はもともとの収穫祭の準備に追われつつ、フィリー軍団のお披露目についても
色々やらねばならなくなった。

「……というワケで、考えているのはこういった事よ…。
こちらでできる限りやるけれど、みんなにも最終的に手伝ってもらいたいから…」

ちょっと控えめに言う。
収穫祭って、いわば商人が一番活気づくから、本当に一年で一番忙しい…と言っても、
過言じゃない。

「なんですか、水臭い…。オルフィリア公爵夫人は沢山のいいものを作り出して、この
フィリアム商会を更なる高みに導いてくださったんです!!
今回の収穫祭だって…、オルフィリア公爵夫人が考えて頂いたシステムと、商品が目玉に
なるんです!!
困ってらっしゃる時は、言ってください(エリオット)」

「そうですよ…ラルト卿から、ケイシロンとの一件をお聞きしました…。
色々なしがらみはあると思いますが…、それにしてもという部分ですから、お気になさらず
(トールレィ)」

「ありがとう…本当に…。ラルトもありがとうね」

「いえいえ…私も父に聞いて驚きました…。色々あるかと思いますが、それにしても…です。
やはり…」

ラルト…そう言いつつ、他の2人と違って、ちょっと顔が暗いな…。
やっぱり、ローエンじい様には、世話になったんだろう…。

収穫祭前に、一度話してみる必要があるな…やっぱり…。

そう決意した私は、ギリアムとフィリー軍団に話を通し、ケイシロンに予約を取ることにした。
近衛騎士団だって、人員が少なくなった状態で、収穫祭に望まねばならないからね。
とはいえ民間も絡むゆえ、この収穫祭に関しては、近衛騎士団と王立騎士団合同で警備に
あたる。
だから…人員不足は、王立騎士団にいる貴族たちで賄う旨、通達済みだ。

そして当日…私はギリアムと、フィリー軍団を連れて、ケイシロンへと行った。

ローエンじい様はもとより、ルリーラ夫人、ローカス卿、マギー…そしてエトルとキャサリンなど
ほぼ全員集合…って感じで、お出迎えしてくれた。
立派な応接間に通され、着席すると、

「この度は…話し合いに応じていただき、誠にありがとうございます」

代表でローエンじい様が述べた。

「先日は…こちらの不手際で、オルフィリア公爵夫人に大変ご不快な思いをさせてしまい、
その事を…切にお詫び申し上げます」

ルリーラ夫人とマギーは…かなり丁寧に謝罪してくれたのだが…、

「その件につきましては…、簡単に済ませてしまえる問題ではありません。
ただ…収穫祭が間近に迫っていますので、当日いきなり色々あっては良くない…。
そう思いましたので、その前に話し合いの席を設けさせて頂きました。
ローエン閣下とローカス卿は…お忙しいと思いますが、少々お付き合いください」

マギーがまた暴走すると厄介だからね。
ルリーラ夫人はそれを止めないって、この前わかったし。
収穫祭は…王家主催の舞踏会がある以上…ケイシロンの2人はよほどのことが無い限り、欠席でき
ない…。
それはファルメニウス公爵家とて同じだ。

「とんでもない!!忙しいのは、王立騎士団とて同じでしょう!!」

ローカス卿が慌てて言ってくれた。
王家主催の催しは、警備が近衛騎士団の管轄になるが、収穫祭は広く平民にまでいきわたるから、
王立騎士団も同等に忙しいのは確か。

「さて…と、それでは話をしましょうかね…。
まず…私は少し前に話した方針を、変えるつもりはありません…。
ですから、収穫祭については大人の付き合いの範囲で、接しようと思っています」

直訳すると、ベタベタせずに過ごしましょうってこと。

「ま、待って!!フィリー!!本当にごめんなさい!!アナタの気持ちも考えずに…」

マギーが声を上げるが、私は冷静に、

「私の気持ちを考える…というなら、暫く私の方針を尊重してください。
それに…マーガレット公爵夫人は、この収穫祭の舞踏会が…アナタにとって特別な場である事、
理解していますか?」

無表情で述べる。

「は、はい…。私にとって…ケイシロン小公爵夫人になってから、初めての公式な行事だから、
交流会の懇親会とは…ワケが違う…って…」

不安そうながらも、言ってのけた。
クァーリア夫人に、その辺はしっかりと仕込まれたようだから、ひとまず大丈夫か…。

「その通りです…。
そして、狩猟大会後の舞踏会が中止となってしまった以上…、私にとっても、2度目の公式舞台です。
非公式なものであれば、ある程度、仲たがいしている人間をはじくことが出来ますが…。
王家主催のものは、王家が避けない限り、原則参加します」

だから…バカ王女やレベッカ…それになにより、ゾフィーナくそばばぁも出て来る可能性がある。
ケイルクスは微妙だが…、次期国王である以上、欠席すればその座が危ぶまれるし、いらぬ噂を
立てられる。
それを考えれば…出て来るだろう。
トランペストの一件を考えると、何か仕掛けてくるかもしれないから、その対処も必要だ。

「だからお互いに…お互いの家を最優先した行動を取るのが良い…。
それが私の考えです」

直訳すれば、私を当てにするなよ…ってことさ。
社交界じゃ最低限度、自分の身は自分で守る…が、暗黙のルールだからな。

「お…お互いの家…」

「そうです。私は再三、言ってきましたよね。
私はファルメニウス公爵家の人間で、アナタはケイシロン公爵家の人間だと。
その上で、仲良くするならそれは好ましい事だ…と」

「も、もちろん覚えています!!だから…ローカス様と様々な事を…今決めています!」

「であるならば、今回は私の事はひとまず置いておいて、ケイシロン公爵家の人たちと一丸となって
収穫祭に望むべきかと…。
収穫祭は民間も絡むイベントゆえ、私もフィリアム商会とファルメニウス公爵家の事…両方やらねば
ならないから、正直時間が無いのです」

「この問題は…かなり複雑な状況がいくつも絡んでいます。
ですので…頭を…特に気持ちを整理し、結論を出す事を、急いではいけないと思ったのです。
だから…暫くは互いに不可侵という事に、しておきましょう…」

これが私の結論だ。
マギーをちらりと見れば…、ああ、全く納得できない顔してるね。
でも…言葉は発しない。
クァーリア夫人に言われているんだろうな…互いの家が決めたことを、どうこう口出しするのは、
心配だろうが何だろうが、越権行為だと。

「お待ちください…オルフィリア公爵夫人…」

代わりに口を開いたのは…、ルリーラ夫人だった。

「オルフィリア公爵夫人の私兵に対し、悪感情を持っているのは、私の個人的理由によります。
ですので…、マーガレットとの付き合いとは…切り離してお考えいただきたい」

……感情的に訴えないだけ、やっぱり老獪さはあるか。
でも…。

「ルリーラ夫人は何か…勘違いされているようですね」

「え…?」

ここで少し…無表情な顔に驚きの色が。

「私の私兵に対して悪感情を持っているのは…、ルリーラ夫人もそうかもしれませんが、マーガレット
小公爵夫人も同じですよ。
何せ…狩猟大会で私が襲われる場面を…間近で目撃していますから…。
彼らに対する、恐怖心と不信感…そして嫌悪感は、むしろ当事者でないアナタより強いと私は思って
います。
ですから…どちらにせよ不可侵とさせていただきたい…と、言ったのです」

私は…あくまで無表情なまま、のたまう。

マギーは…ずっと下を向いていたのだが、何かを決心したようで、

「ギリアム公爵閣下は…心配じゃないんですか…?」

「なに?」

ギリアムは…やっぱり私と同じ、無表情な顔で答える。

「あいつ等は!!フィリーを殺そうとしたんです!!それなのにそばに置くなんて…」

ギリアムは…答えない。すると…。

「ギリアム様はケイシロンで起こった、20数年前の事件を知らないのですか?
そんなわけありませんよね!!
フィリーが二の舞になると、考えないのですか?!!」

いつの間にやら…感情的になり、涙を流している…。
大丈夫かなぁ…、社交界じゃそういった事は、計算ずくでやらないと、マズいんだけど…。
私がそんなことを思っていたら、ギリアムは初めて、

「そりゃ、心配さ」

と、素っ気なく答え、

「そしてこれは…私だけじゃなく、ファルメニウス公爵家の使用人たち、全員がそうさ。
そもそもキミは…あの襲撃事件の時、傍にいたと思うが…、フォルトやエマだって、傍にいた
んだ…。キミと条件は一緒さ」

つらつらと述べた。
その表情は非常に落ち着いており…、感情を読み取ることは出来なかった。

「だったらっっ…!!」

マギーは、泣きながら必死の形相を向ける。

「然るべき対処を、なぜしないのですか!!私はフィリーが心配で心配で…」

それ以上言葉が出ないようで、泣き伏せてしまった…。
私はそれを…まるでTV画面のモニターを見るように…、だいぶん冷静に見ていたと思う…。

ここまで食い違っちまうと…。
覚悟を決めなきゃいけないかも…と。

「もう帰りましょう、ギリアム…。これ以上話をしても、無駄なような気がしてきました」

私の口から…自然と出た言葉だった。

「ま、待って、フィリー!!どうして…」

泣き伏せていたマギーが、驚いて顔を上げた。
私は…友達だった者の、最後の務めかな~と思い、口を開くことにした。

「私は…マーガレット夫人が私を心配だ、心配だと言うたびに、イライラするんですよ。
どうしてだかわかりますか?」

「え…?」

「わからないなら、特別に教えてあげましょう。
アナタがまるで…私を心配しているのが自分だけで、ギリアムも含め他の人間は…私を全く
心配していない…。
そう言っているように聞こえるからです」

「そ、そんな事は決して…」

私はため息つきながら、

「自覚がないなら、いよいよ質が悪すぎます…。正直関係を、清算したくなりますよ」

マギーの顔が…どんどん青くなっていく。

「私はね…」

ここで…ギリアムが出た。

「彼らを断頭台に送るつもりだった…4人ともね」

「え…?」

これには…ケイシロン公爵家サイドの全員が驚いた。
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