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第4章 恩赦

2 力を持たせて!!

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大広間の準備をしに、フォルトとエマが出て行った書斎…。
私は改めて、ギリアムと対峙する。

「ギリアム…大広間の準備が整うまで、罰の与え方について、話をさせてください。
アナタと私の意見が食い違うと、皆が動揺します」

「とてもいい意見ですね。
で、どうやって罰しますか?」

ギリアム…ご機嫌だなぁ…。
私が一度、彼らを逃がしているから…心配してたんだなぁ…。

「まず…一般的には4人とも断頭台でしょうね」

「その通りです」

ギリアム…ご機嫌の所悪いんだが…、

「ですが私は…別の罰を与えたいと思っています」

私は彼らを…断頭台に送るつもりはないよ。

「別の罰とは?」

やっぱり少し…眉をひそめたね…。

「…彼ら4人の罪は、王家も関わっている以上、全てを白日の下にさらすことは出来ません」

「ええ…」

ああ、苦虫を嚙み潰したようになった。
ギリアムとしても、そこは口惜しいよね。

「ですが…それを隠したうえで、私は彼らの罪を、出来るだけ正確に、公表するつもりです」

「私もそれがいいと思います」

「そして公表したうえで…」

ここからが…ギリアムを説得せにゃいかんところ。

「彼らに恩赦を出し…この私…オルフィリア・ファルメニウスの私兵にしたく存じます!!」

するとギリアムの空気が…ぶわっと一気に変わる。
その代わり方はすさまじく…まさに空気が煮沸して…嵐のように逆巻く感じだろうか…。

「アナタは…なにを言っているのか、わかっているのか?」

私の知っているギリアムじゃない…。

……怖い…でも…。

「トカゲのしっぽを切らないのが!!あなたのやり方でしょう!!」

私は負けない!!

「彼らは…末端です!!一番潰さなければいけないのは!!
王家とジョノァド…そしてその配下です!!
わかっているでしょう?」

するとギリアムの雰囲気が、少し変わる。

「確かにそうです…しかし…彼らはアナタを…傷付けた!!」

「ジェードだって、あなたの命を、何度も狙ったのでしょう?
攻撃を受けて、怪我をしたと聞いています!!」

逆にギリアムに、怪我させられるジェード凄し!!

「私とアナタは違う!!」

「違いません!!私はもう…ステンロイドじゃない、ファルメニウスなんです!!
アナタの妻で…アナタの家族で…アナタの分身…切れない者なんです!!
それとも私を切るおつもりですか!!」

そう言ったら…やっぱ少し悲しそうになった。

「申し訳ありません…でも…わかってください…。
私が…アナタの妻で居続けるためには…力が必要なんです!!」

「だったら、アナタにふさわしい護衛騎士など、私がいくらでも探して…」

「それはアナタの専売特許であって、私の専売特許じゃない!!」

「何を言って…」

「ギリアム…私は…夫婦であるからには、お互い…助け合いたいのです…」

「それは…もちろん私も…」

「だから…アナタに出来る事…得意なことを、あえて私はやるつもりはありません…。
逆に…アナタの苦手な事で、私の得意なことに、集中しようと思っています」

「私に苦手など、ありません!!」

言うか、それ!!

「いいえ、あります!!」

「何ですか…克服して…」

「生まれ持った身分が、高すぎる!!そのために見えないところがあるんです!!」

「だったら、見えるように…」

「時間がかかるんです!!それは!!自分をそんなに完璧だと思わないでください!!
そもそも完全無欠なら…私などいらないでしょう!!」

ギリアムは…初めて言葉に詰まった。
ごめん…ギリアム…でも…少しだけ、耐えて…。
私が…アナタの弱点になることを…補充したいんだ!!
アナタと…いつまでも幸せに暮らすために!!

「どうか…わかってください、ギリアム…」

私はギリアムの頭を抱き…暫くぎゅっと力を込める。

「……どうして…彼らでなければ、ダメなのですか…?」

「私の雇用条件に…ぴったりと一致するからです」

「雇用条件とは…」

「まず…彼らの性根は腐ってない。
彼らはジョノァドから逃げている時…、泣き出した子供を見捨てなかった…」

これ…本当にそうなんだ。
その場に置いていくか…黙らせるために殺してしまう者だっているだろうに…。
彼らはそのどちらもしなかった。

「そして…彼らは私が、オルフィリア・ステンロイド男爵令嬢から、オルフィリア・ファルメニウス
公爵夫人になっても…逃げることなく挑んできた…」

「彼らは…戸籍が無いし、どこに行ってもそれなりにやっていく力がある…。
逃げようと思えば、逃げられたはずです…。
けどしなかった…。
大変気骨がある…このまま殺すには惜しい…私が彼らを一度逃がしたのは…トカゲのしっぽを切る気が
無かったのと…もう一つそれもあるのです」

私が彼らをなんとなく憎めなかったのは…そんな彼らの本質を、感じ取っていたからだろうなぁ。

「ジェードしかり…闇の人間…裏社会の人間で、私達ファルメニウスと相性がいい人間は…本当に
一握りしかいない…。
それとこうして出会えただけでも…奇跡と言っていいんです!!」

「だったら、ジェードだけでも…」

「それはいずれ、限界が来ます!!
今回のトランペストの件で、私は痛いほどそれがわかりました!!
軍事に何より詳しいあなたなら、もうわかっているでしょう!!」

ギリアム…再度黙り込む…。
わかってるんだね。
うん。

今回…トランペストは複数だった…。
それも、それぞれがジェードに勝るとも劣らない手練れ。
ゆえに、一人がジェードを止め、他の人間達が、私を襲った。

ジェードは確かに強い。
でも…人間が一人でやれることなんて、所詮限界があるんだよ。
今回、ケイルクスのバカのフィリアム商会支部襲撃事件だって…、ギリアムがあのまま来なかったら…、
ティタノ陛下が居なかったら…、近衛騎士団の本隊が来なかったら…そのどれか一つがかけても、円満解決は
無理だった。

私だってそう。
やれることには限りがある。
人間って、自分の事、過信した時が堕ちる時…そう言うものなのさ。

「…どうしても…彼らでなければダメなのですか?」

「逆に彼らほどの者たちに…また出会える保証がありません。
そして…それが味方になってくれるかもわかりません」

人なんて…思い通りにならないと思ったほうがいいからね。

「彼らが…アナタに危害を加えないという、確証は?」

「…完全に示せと言われれば無理です。
しかし…元来金で雇われた者たちは、金の切れ目が縁の切れ目…ジェードだってそうでしょう?」

「ジェードは…信頼関係を築けているから、アナタ…ひいては私の役に、凄く立ってくれているじゃない
ですか。
でも…そこまで行くのには、それなりに危険を承知で触れ合う必要があります」

「なら、私が!!」

「いいえ…これは私の役目です。
なぜなら…私の私兵にしたいからです」

私とギリアムの間には…この後少しの沈黙が流れ…。

「なぜあなたは…そうなんですか…。
私の腕の中に…いてくださいよ…。
私が…私のすべてをかけて、アナタを守りますから…」

「アナタがそう思うように…私も私の持てる力で、アナタのために戦いたいし、守りたいのです。
そして何より…どうしてもあなたがいない時…自衛する力が欲しい」

「それは…護衛騎士の役目です…」

「護衛騎士より、彼らの方が、実力は上です…。
そして…あなたのために、私がやりたいことの為には…護衛騎士ではなく、彼らが適任です!!」

黙るギリアムを、私は再度抱きしめる。

「お願いします…私は…なによりあなたと生きたい…末永く…アナタと…。
そのための力を…私に下さい!!」

「……ただの恩赦では、無理です」

いよっしゃー、折れかけてる!!一気に行くぞ!!

「わかっています…ずっと保留にしておいた…私がファルメニウス公爵夫人となった、アナタからの祝いを
使わせてください!!」

これ…ギリアムに早く早くってせっつかれていたんよ。
これを送ることも、交流会と同じように、私の地位をより確かなものにするために、必要な事だったから。
でも…私はその時欲しいものが無かったことと、ある一つの懸念事項から、ずっと保留にしてもらっていた。

「そのためには王家の承認も必要ですが…今ならそれが取れます」

「…例の1億ゴールドの件ですか…」

「ええ…それをこちらが負担する密約をかわせば…、承認が出るはずです!!」

だって今の王家に、ニッフェルト鉱山を差し出す余裕なんて無いから。

「しかし…ティタノ陛下は納得されるか…」

「確約は取り付けました!!」

私はただ黙って、あのめんどくさい事極まりない王様の相手を、していたわけじゃない。
絵に描いた餅を現実化するために…最大限動いていたんだ。
場合によっては、砂レンガの作り方、公開するつもりだったんだけど…以外にもあっさり、
私の提案を受けてくれた。

私の欲しい物のために…こちらが王家に代わり1億ゴールド負担することを、何も言わないと。
もちろん直筆の書面をいただいた。

「相変わらず…アナタはすごい」

「そりゃーアナタの選んだ、妻ですから」

すっごい満面の笑顔を向ける。

「ただ一つ…私は彼らに私の元に入るか、死ぬかは選ばせるつもりです。
飼い犬になるくらいなら死ぬ…は、その人の自由です」

「わかりました…もしフィリーの軍門に下るという選択をしたならば…、1億ゴールドの件と
承認印は、私が国王陛下の元に行き、もらってきます」

「ありがとうございます!!
本当に…ありがとうございます!!」

この恩は…忘れないよ…絶対ギリアムを…幸せにするからね!!
このヘドネの…すべてにかけて!!
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