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第3章 賭博

3 近衛騎士団の正体

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「ローエン閣下…お仕事ご苦労様です…このような姿で不躾ですが、お耳に入れたきことが…」

「何ですかな?」

私がティタノ陛下に抱えられていることは、全く気にしていない様子。
丹力あるなぁ。

「実は…周りにいます近衛騎士団とその予備兵が…なんだか色々不可解なことをしておりまして…」

そう言われたローエンじい様は、改めて周りを見渡し…こめかみがピキリ。
私はこの時点で、耳を塞ぐ。

「ローカァァス!!!ベーンズッ!!!」

相変わらず凄い声量…。
シレっとしてる、ティタノ陛下すげぇ…。
まあ、この人が本気の声を出したら、こんなもんじゃないんだろうなぁ…。

ローカス卿とベンズ卿はすぐさま前へ。

「わしは貴様たちに、この前予備兵すべてを紹介しろと言ったハズじゃ!!
なのになぜ…」

やっぱり、私の予想通りか…。

「ここにいる予備兵たち…半分近く顔を知らんのがいるんじゃ!!」

それに対するローカス卿とベンズ卿の答えは…

「申し訳ありません…団長…しかし」

2人ともぎろりと睨みをきかせ、

「オレも半分、顔を見たことがありません」

「私もです…」

あーあ。
あ、なんか後ろの方が、逃げ出した…。
でも…、そりゃ悪手だぜ。

ここにいる…正真正銘の近衛騎士団は…国王陛下と国賓の護衛に駆り出されていたんだ。
このじい様のしごきに耐え抜いた…選りすぐりの連中だ。
そんな連中が、フル装備でいるんだぞ。

逃げ出した奴の足は…見事に全員弓で射られた。

「逃亡するなら、容赦なく殺―――――――――――――すっ!!」

じい様のその声で…まあ見事に偽物は何もする力が無くなって…おそらく正規の連中だろう
奴らは、ただただ震えている。

さてと…ケイルクス達は…あ~あ、見事に真っ青…通り越して死人だな、ありゃ。
だって…流石にこんな事態は想定してないだろうよぉ…。

「ローエン卿…私もよろしいでしょうか?」

「何じゃ?ギリアム公爵閣下」

敬語…うん、ギリ敬語だな。
ギリアムは私が言った、タレコミ元確認と、予備兵を集める時間の矛盾を話し、

「近衛騎士団では…予備兵を集めている間に、タレコミ元を確認しない方針でも出来たのですか?
時間的にかなり無駄だと思うのですが?」

デスヨネー。
するとローエンじい様の顔に、青筋が瞬く間に張り巡らされ、

「あり得ん!!予備兵をかき集める時間があれば、まずはいの一番にそこを確認する!!」

かなり強い口調で言った。

するとギリアムは満足げに、

「そのことを、散々フィリーが話しましてね…説明を求めたのですが、一切答えは無かったそうです。
挙句の果てに…自分の命令だから従え、従わないなら、王家に対する侮辱罪だと言ったそうですが…、
これについてどう思われますか?国王陛下…」

あ~あ、国王も真っ青。
ここ最近…息子の失態は見るに堪えないからなぁ…胃が痛いだろうに。

「…その件については…、帰ってからケイルクスと話して…釈明する…」

まあ、そう言う答えになるだろうなぁ…。

「この周りにいる連中は…残らず捕えますが、よろしいですな?」

ローエン卿の顔は、憤怒に満ちていた。

「もちろんだ…」

国王陛下は何も知らないようだな…。

それにしても…流石じい様が鍛えた精鋭部隊…。
まがい者達、瞬く間にお縄になった。

ひとまず…これで収束かな…。
トランペストが、ジョノァドとケイルクスに捕らえられなかったんだから、私としては目的達成~。

「ラルト…彼らを保護して、ファルメニウス公爵家へ…。
ジェード…私のして欲しい事、わかる?」

「もちろんです、奥様…」

これでひとまず、こっちは大丈夫だな…。
あとは…。
私をひっつかんで離さない、このお方をどうにかせねば…。

そんな思案に、私が暮れていると、

「ケルカロス国王…わしも一つ聞きたいことがある」

んあ?ティタノ陛下…。

「何でしょうか…」

緊張しまくってるなぁ…ウチの国王陛下…。

「まずはこれを見ろ」

ティタノ陛下が出したのは…先ほどの競りのルールを書いた紙…。
何考えてんだろ…ヤな予感が…。

「なかなか…面白い事を、やろうとしてたなぁと思っての」

ニコニコしてるが、私にはわかる…。
全身から、怒気がにじみ出ているのが。

「は…はあ…」

国王陛下は…事態をあまりよく呑み込めていない。
まあねぇ…近衛騎士団の偽物と、自分の息子が一緒だったって事だけでも、驚きを
隠せないだろうから…頭が混乱しまくってるだろうなぁ…今。

「息子に命じて、ここですぐにやらせろ!!」

はいぃぃ~。
ちょっと、ちょっとぉぉ。
ケイルクスのバカ、もうとっくに精神死亡中だけど。

ああ…国王陛下がケイルクス引きずってきた…。

と、とにかく!!
頭!!フル回転開始!!自転車こぎまくるように、回転させる!!
自分自身に言い聞かせ、とにかく…やる。

ティタノ陛下…一体全体、何考えてるんだぁ~。
そこ間違うと…最悪以上の事態になるぅぅ~。
ギリアム、どこぉぉ~。
あ、戻ってきた。
良かったぁ…精神安定剤にはなるからね…。

そしてケイルクスのバカが来て、ひとまず…なにすりゃいいんだ?
私としては…トランペストが保護できたから、もういいんだけどなぁ…。

そんな私の考えをよそに、

「さて…ギリアム・アウススト・ファルメニウスよ。
ひとまずわかっていない連中に、事の経緯を伝えてやったらどうだ?」

ティタノ陛下がのたまったら、ギリアムは少し唇の端を持ち上げ、

「そうですね…、事情の分かっていらっしゃらない方も、いますからね」

やっぱり静かにのたまう…。
超の付く天才二人の悪だくみ…コエ――――――――――っ!!

ギリアムは私たちを囲っている皆様に、今までのいきさつを、隠さなきゃいけない所は
うまーく隠してお話した。
…こういうことやらせると、上手いのよね…。

何だか…色々ざわざわしだしたね…。
周りにいるのって、近衛騎士団の精鋭と外交官の皆さまだけど…。
ちょっと頭良くて、ウチの王家の経済事情知っていれば、出来レースしようとしてたって、
完全にわかるよね。
しかもファルメニウス公爵家から、不当にお金ふんだくろうとしてたってことも。

国王陛下は…可哀想なぐらい小さくなってら…。
国の中だけなら何とかなるけど…他国の外交官たちや…なによりティタノ陛下までいるからなぁ…。

「まあ、だからの…わしとしては…だ。
このルールを少し直してだな…その上でしっかりと白黒はっきりさせた方が、お互いのために良い
と思う」

「私もそう思います、ティタノ陛下…」

ギリアム…間髪入れない…。

「他の皆にも聞きたい!!どう思う!!」

外交官たちに言ってるんだろうなぁ…。
もちろん反論は出ない。
ティタノ陛下の言っていることが、全く的外れだったり、横暴だった場合は、言う人もいるだろうが…
もちろんじい様もローカス卿、ベンズ卿も全く動かずだ。

当の私は…目的が果たせたから、もうどうでもいいのレベルになっているんだが…。
さりとてここで、そんなこと言うわけにもなぁ…。

「具体的に、どこを直したらよろしいでしょうか?ティタノ陛下…」

ギリアムは…やる気になると、駒の使い方がうまいのよね…。

「そうじゃな…まずは…胴元はこのティタノ・ウラフィス・バクシバルドとするか…」

「!!!!」

わああ、マジかぁぁ――――――――っ!!

「えっと…それは…お金の取り立ては、ティタノ陛下がすると?」

私の問いに、

「そうじゃ」

あっさりと答える。
いや…ここにいる皆さま(ギリアム以外)絶句しとる…。

「えっと…競りの対象は、ティタノ陛下の物では…」

ないよ、もちろん。

「ん?おお、それなら…ケルカロス国王!!
さっきの会合ですると言っていた贈り物として、この競りの対象物をわしによこせ!!
良いな!!」

「は…はい…」

うっわ、有無を言わせねぇ…。
何かしらの密談があったんだろうけど…双方合意なら黙っとこ。

「それ以外のルールは、そのままでいいじゃろ」

これもかなりあっさりと、言った…。

「おおお、お待ちください!!ティタノ陛下…。
競りとは通常、一番高く落とした者が、代金を払って終わりで…」

おいおーい。
ケイルクスのバカ、あんた、ギリアムの話聞いてたか?
その流れでこの人にそんなこと言ったら、

「……そもそもこの、一番高く落とした人間と同額を払う…というのは…、お前さんサイドから
言い出したことだと聞いたが?」

目が笑っていない笑顔で、返された…。
あ~あ、もう何も言えないねぇ…。

「では…開始価格はどうするかの…?」

「それについては、私から一つ提案が」

ギリアムが出る。

「そもそもこの競りの発端は…、フィリーが手に入れたものを、ケイルクス王太子殿下が欲しいと
言ったことが始まりです。
ですので…手に入れた価格からで、よろしいのではないでしょうか?」

「ふむ…確かにそれが妥当じゃな。
いくらだ?
オルフィリア公爵夫人」

「……10万ゴールド」

ああ…皆さま驚愕されましたね…。
でも取り立てて…、ケイルクスのバカサイドが、特にビックリしとる。
…やっぱ、トランペストを二束三文で雇ったんだなぁ…。

「オルフィリア公爵夫人!!騙されておりますぞ!!」

…だから、てめぇはケイルクスのバカ以上に喋んな、ジョノァド!!
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