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第3章 事後

1 ホッランバック伯爵家でのその後…

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そこは…とても暗い場所だった。
光が一切さしていないからこそ、その空間が果たして人工物なのか、自然物なのかすら
わからないくらいに…。

その中に蠢くものがあっても…常人にはとても感知できないだろう。

闇の中に存在する者達も…それをよく理解し、闇に溶け込んでいた。
そんな中…かろうじて生き物であることがわかる声がする。

「ご苦労だった…守備は上々のようだな…」

その声の主の姿は…当然わからない。

「まあ…材料はたくさん与えてもらいましたから…」

「クライアント様は満足しているんでしょ?」

「ああ…とてもご満悦だ…。
全て思い通りには行かなかったにせよ、一番貶めたい者の材料は手に入ったからな。
それを基に、複数の新たな企みも考えているようだ。
少し経てばまた、我々も忙しくなりそうだ」

「あら、いい事じゃない」

「ああ、そう言えば…。
アイツの怪我は、大丈夫なの?
アイツに深手を与えるなんて…表の人間じゃないみたいね」

「そうだ…。
オレたちと同種の人間…闇に生き、闇に死ぬ定めの人間だよ…」

「へえ…引き込めないの?」

「ダメだ」

「随分キッパリと答えるのね…」

「怪我を負わされた時、聞いたそうだ。
自分たちの仲間にならないか?とな」

「そうしたら言ったそうだ。
‟オレがご当主様と奥様に仕えているのは…お二人が好きだからだ…”と」

「…バカじゃない?
私たちみたいなのが、人を好きになったところで、悲劇しかない。
相手が表の人間なら、なおの事…ね」

「まあ、ひとまずその問題は後だ。
今はとりあえず、任された仕事をするとしよう」

「そうね…」

「そうだな…」

その声を最後に、闇はまた闇へと帰り、静寂だけがその場に残った…。


------------------------------------------------------------------------------


王立騎士団での会話より数日後…ホッランバック伯爵家。
私はこの日、預かっているレイチェルの事で、許可をもらいたいことがあったため、
予約も入れずに来ていた。
あ、ギリアムも一緒にね。

そしてただ今、そのことを大変後悔しております。
やっぱり、予約って大事!!
なんでかって?

「デイビス!!どういうことなの!!」

凄い剣幕で、ディエリン夫人がデイビス卿の書斎へと入っていった場面に、まさに
遭遇したから。
いや…。
のぞき見したいワケじゃないのだが…。

そもそもついた時点でおかしかった。
使用人が全然出てこない。
しかしそこは、さすが?ギリアム。
デイビス卿のお家だからこそだろうが、ずかずかと入っていった。

さて…、ディエリン夫人の態度など、想定の範囲内と言わんばかりのデイビス卿は、
眼鏡を直しつつ、

「どういうことも何も…お伝えした通りです。
母上には、今日、ご実家にお帰り頂きます」

書斎の中には…使用人たちが、おそらく全員集められていた。

「何をバカなことを言っているの!!」

「バカなことではなく、真実を言っています。
そもそも、一年前に言いましたよね?」

デイビス卿はディエリン夫人に、これでもかというぐらい冷たい目を向け、

「次はない…と」

「なっ…なっ…」

まだ何か言いたそうなディエリン夫人を無視して、

「ケントス(執事)…お前は母上について、あちらの家で今後、ご厄介になるように」

今度は執事のケントスに、機械的に告げる。

「な、何をおっしゃっているのです!!
私はホッランバック家の執事です!!」

するとデイビス卿は、机の上の書類を見つつ、

「とぼけるなら、今からお前たちの罪状を述べる」

…私達、ここにいていいのかい?

「ちょ、ちょっと、まったぁ!!」

私は声を上げる。
デイビス卿はさすがに驚いて、

「団長、オルフィリア嬢…、なぜここに…?」

だよね、うん、いろいろごめん。

「えっと…レイチェルの事で、デイビス卿に話があって…予約取るべきだったんだろうけど、
ギリアム様に言ったら、王立騎士団の報告事項があるから、自分の今から行きましょう…って」

私はてっきり予約してたもんだと思っていたよ、ギリアムく~ん?

「わ…私たちは席を外しますね…」

「いえ…オルフィリア嬢と団長なら、いていただきたいです」

いいんかい?人様のお家事情なんて、あんまり関わりたくないなぁ…。
でも、そう言われた以上、出ていくのもなぁ…。

「じゃ、じゃあ、私たちは隅っこに…」

「わかった、ではここにいる」

と言うギリアムは、部屋の中心にあるソファーに、どかりと座る…。
ギリアムく~ん、せめて壁になろうやぁ。

「まずケントス…お前は私が団長とオルフィリア嬢が当家に来るとき、レイチェルにその旨
伝えるように言ったにもかかわらず、それを怠った」

「そ…それは…」

「そしてレイチェル宛てに来た、ジュリア侯爵夫人からの手紙だけを、レイチェルに無断で
破棄した」

うっわ、そんなことしてたんだ。

「も、申し訳ございません、デイビス様!!
全ては大奥様の指示で…」

ケントスは何とか慈悲を乞おうとしているようだが…。

「それは母の指示だろうが…これはお前の意志だろう?」

そう言ってデイビス卿は、ケントスの目前に一枚の紙を出す。

「こ…これは…」

ケントスの顔が、一気に青ざめる。

「お前が、ホッランバック家の資産を着服していた証拠だ」

うわ~お、犯罪じゃん。
しかも訴えられたら、かなり罪の重いやつ。

「母上と共に実家について行くか、それとも刑に服するか…どちらか選べ!!」

そう言われたケントスは、がっくりと膝をついた。
あ~あ。

「では母上、あちらの家でもごきげんよう。
この家には二度と足を踏み入れないでください」

「お待ちなさい!!私は行く気はありません!!
この家を仕切っているのは私です!!
使用人だって、すべて私が雇い入れた者です!!」

「わかっています…ですので…」

デイビス卿は集められた使用人たちを見て、

「今日付けで、全員解雇いたしました」

「は…はあ?」

ディエリン夫人はさすがにこれには、言葉を失う。

「全員から個別に話を聞きました。
母上から直接、レイチェルに従わないようにと言いつけられたと」

「な、何を…」

「そしてその中の数人は、レイチェルにだいぶ嫌がらせをしていた…とね」

ありゃりゃぁ。

「そ、それは私の指示ではありません!!」

オイオイ…じゃあ他は、アンタの指示かよ…。
墓穴ほったなぁ…。

「私は…ケントス以外の使用人全員に、条件を出したのですよ」

デイビス卿…冷静すぎてなんかこわい…。

「レイチェルにしたことを、素直に白状するなら、紹介状を書く。
嘘をついたら…書かずに追い出す…とね」

なるほどね。
あ、紹介状ってのは、貴族のお屋敷で働くなら、かなり必須と思ってくれい。
本人が、確かにそのお屋敷で働いていて、身元もしっかりしていると証明する
ものなのよ。
履歴書+戸籍謄本だと言えば、少しわかるかな…。

「私は仕事柄…嘘を見抜くのは得意だと、みんな知っていますからね…。
素直に白状してくれましたよ」

デイビス卿って、王立騎士団内では1,2を争うぐらい、尋問が得意だそうな…。

「レイチェルに嫌がらせをした使用人は…そうしてレイチェルを追い出せば、
大奥様が喜ぶからだとハッキリ言っていましたよ」

あ~あ。

「ですので、指示していなくても、指示したも同じと判断させていただきます」

「私は帰りません、あんな家…!!」

…そう言うってことは、ディエリン夫人の実家も問題ありか?

「でしょうね、かなり男尊女卑の酷い家ですからね。
でも…」

デイビス卿の眼が鋭くなる。

「レイチェルの実家だって、似たようなものだった…。
いや、もっと酷かった」

だよねぇ…。
今回の一件を考えればねぇ…。

「なのにあなたは、散々レイチェルに実家に帰れ帰れと促した。
一度、私が居ない隙に、騙して馬車に乗せた挙句、実家の前で置いてきたことも
あった!!」

…同情の余地なしだなぁ、こりゃあ…。

「なのにあなたが同じ目に合って、今更ジタバタしないでください。
みっともない」

デイビス卿、怒ってるし、呆れてる…。

ディエリン夫人はしばらく震えていたが、突然。

「あなたのせいです、オルフィリア嬢!!」

は?
わたくし?

なぜかいきなり振られて、ちょっと目が点になったぞ、おい。
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