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第一章 観劇

9 本番の開幕

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私は考えた。

私の予想が当たっているとすると、私たちの所にはひっきりなしに男が来ることは
避けられない。
だからと言って、テラスのような場所に逃げたところで、この仮面舞踏会の連中が、
テラスにおけるマナーを守るなんて、絶対に思えない。

そうなるとテラスは袋小路だから、絶対に入ってはいけない。

私は夜通し動くことに慣れているから良いけど…。
レイチェルは違うからな…。

そういう意味でも、自分一人の場合より厄介だな。

私が思案に暮れていると、

「…いやっ……」

物凄く小さい音…声が私の耳に届いた。

ちっ!!

前世の記憶から、こういうのは敏感なうえ、わかっちまうんだよな~。
ああ、面倒くさい。

「レイチェル伯爵夫人…、私から離れないでください」

「も、もちろんです」

私は人波をささっとかわしつつ、声のした方に早足で歩く。
レイチェルがはぐれないように、慎重に。

するとやっぱり…。

男2人に引っ張られている女性2名が。
一人は小柄、もう一人は私より背が高い。
私はレイチェルが、離れていないことを確認し、

「失礼いたします。
少々お聞きしたいのですが…」

「ああん?」

一人がこちらを向く。
……酒くっさ!!

他の連中も似たり寄ったり…。
マズいな。

「少し落ち着きませんか?
そんなに強く引っ張られては、女性の体が壊れてしまいますよ。
仮にもあなた方はお貴族様でしょう?」

すると男は、

「あ~、心配ないない。
そもそもこういうプレイなんだよ。
そういう話になってるんだ」

だが引っ張られている背の高い女性の方が、

「ち、違います!!
この人たちがいきなり私たちを囲んで、有無を言わせず!!」

それに対し、

「うるさいなぁ、いろんな趣向があると聞いているから、こういうのが
あったって、おかしくはないだろう。
とにかくアンタらは、あっち行った行った。
どうしても相手して欲しければ、またあとで声かけろ」

随分と下卑た笑みだこと。

……あのさ、おっさんたち。
あたしゃ、この道二十数年っていうプロだからさぁ。

だいたい芝居か本気はわかるんだよ。

それに私の見た感じ…、この二人も商売女じゃない。
私は同業者の匂いにも、敏感なんだ。
高確率で素人!!
しかも納得ずくでの参加ならまだしも、確実にこういう趣旨だって知らない。

私ら以外にも、被害者がいたか…。

さて…どうするかね…。
これだけ酔っぱらってると、さっきみたいなミニゲームの誘いには乗らない
だろーし…。
さりとてほっとくのはなぁ…。

……しゃーねぇ、やるか。

私は近くのテーブルから酒のグラスを取ると、女性の腕を掴んでいる男の頭の上で…
おじょうひーんに、グラスを逆さにした。

「わぷっ!!何しやがる!!」

激高する男に対し、

「あら、怒ってらっしゃいますの?
強引で失礼なプレイが、大変お好きなようですので、こういう趣向はいかがかと思い
まして…」

「ふざけんな―――――――!」

男は私に掴みかかろうと迫ってきたが、私はひらりとかわし、男の足を引っかけた。
ので、男はそのまま前方にあったテーブルに、頭から突っ込んだ。
大分酔っていたこともあり、そのまま気絶したようだ。

よし。

あと残りは1人…。

もう一人も、かなり酔っているようだが、さりとて足取りはまだしっかりしている。
厄介だな…。

私がそう思った時、男の顔の横に…。

おぼんが激突…。
いや、マジで激突って言い方が正しい。

だって男の顔が、首折れてませんか?って、聞きたくなるくらいにあらぬ方向に曲がり
つつ、体ごと真横に吹っ飛んだから…。

何が起こったかは知りたかったが、天の助けと思い、私は

「アナタたち立って!!こっちへ!!」

男に絡まれていた2人とレイチェルをつれ、足早にその場を去った。

私が選んだ場所は、広い廊下の一角。
こういうパーティーでは、下手に物陰(袋小路)に入り込むと、逃げ道がなくなって
厄介だからね。

「大丈夫ですか?」

「あ…ありがとうございます…」

背の高い女性がお礼を言った。

「おねえさま~」

小柄な方が、背の高い女性に抱きつき、

「もう嫌だ~、帰る~」

と、泣いている。
完全に騙されたんやね、可哀想に…って、フェイラじゃん!!

私はいつの間にか仮面が取れていた小柄な女性を見て、正直に驚いた。
おおーい、大規模な物は控えろって言ったのに、よりによってこの仮面舞踏会を選ぶ
なんて…。
……ってことは、背の高い女性はルイーズか…。
参ったな、こりゃ…余計にほっとくわけにいかなくなった。

「とにかく仮面をつけてください。
この仮面舞踏会では、正体がバレると普通の物より厄介になります」

私が即すと、フェイラは泣きながらも仮面をつける。

「帰ることはできないのですか?
ここはあなた方が、来る場所ではありません」

「そ…それが…」

ルイーズは少しためらいながら、

「私達…友達と一緒に来たのですが…、友達が着た直後に具合を崩して、馬車で帰って
しまって…。
パーティーが終わるころに、迎えの馬車をよこすと言われていて…」

あちゃ~。

主催者側がこれだけ悪趣味なら、馬車を頼んだところで安全な保障はない。
とりあえず、フォルトとエマに話して、連れて帰ってもらうか…。

私がそんなことを考えている時…はたと気づく。

レイチェルがいない!!

がああ、しまったぁ!!

「2人とも!!
会場を出て、虹を描いた馬車を探してください!!
その馬車が私の馬車で、中に使用人がおりますから、話をして帰してもらうなり、
匿ってもらうなりしてください!!」

多分身分を隠したい連中は、こぞって同じような地味な馬車で来ると思ったんだ。
だから間違えてヤな奴の馬車に近づかないよう、目一杯目立つ色合いにしたのさ。

それだけ言って、私はすぐに会場に戻ろうとしたが、

「あ、あの!!一緒にいさせてください!!」

2人に引っ張られる。
あーもう、しょうがねぇなぁ!!

「わかりました。
でも私の連れが居なくなったので、会場に戻らねばなりません。
それでも付いてきますか」

「は、はい!!」

私は足早に会場に戻った…ちょうど、その時だ!!

会場の中央に、いつの間にやら舞台が設置されており、舞台の真ん中に
全体的に布がかけられた、何かが運ばれてきたのだ。

だが今の私に、そんなものを見ている余裕はない。
早くレイチェルを探さなきゃ。

「レディースアンドジェントルマン、今宵はパーティーを楽しんで
頂けていますかな?
宴もたけなわではございますが、今回は主催者側より、趣向を凝らした余興を
用意させていただきました。
楽しくご観覧いただけると、幸いに存じます」

司会の男が、通りのいい…だが、どことなく嫌な感じのする声を響かせる。
皆の視線が舞台に集中する中、私は人波をスイスイ泳ぎつつ、レイチェルを
探す。

くそ!!

足手まとい2人が居なきゃ、もっと早く動けるんだけど…。
さりとて、おいていくわけにもなぁ。

「まずはこちらをご覧ください!!」

舞台は勝手に進み、中央の布が取り払われる。

ちらりとだけそれを見た私だったが…驚愕した。

なぜなら布で覆われていたのは、さらに目立つように飾られた小舞台で…
その中央にはレイチェルがいたからだ。

私は思わず息をのんだ。
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