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第一章 観劇

2 ルベンディン侯爵家

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私はカオスと混沌が同時に訪れたような食堂の真ん中に立ち、

「何がどうなっているのか、お話しくださいギリアム様!!
もし話して頂けないなら…、私は今から王立騎士団に寝泊まり致します!!」

「ええっ!!」

これには一同、鳩が豆鉄砲を食ったような顔になる。
まあ、当然っちゃ当然だ。

「な、何を言って!!」

「このまま帰っても、気になってしょうがないので!!
ギリアム様の団長室なら、鍵もかかるし、風呂・トイレあるし…。
あ、もしお嫌なら、寄宿舎でも構いませんよ」

「そっっそれこそ、ダメです!!」

だよね。
寄宿舎って、場所によっては鍵かからんし、ドミトリー形式の所もあるし。
だいたい王立騎士団は犯罪者も収容しているから、私の安全に配慮しているとはいえ
ギリアムやっぱり頻繁に来ること、いい顔しないし。

「じゃあ、どうするのです?」

「私が抱え上げて帰ります!!」

「構いませんが、そうしたら私、婚約解消させていただきますし、ファルメニウス
公爵家もお暇します」

「ななな、何でそうなるのです!!」

本気で分からん顔してるよ、ったく、しゃーない。

「最初に言いましたよね?
私という、一個の人格を無視するなら、お暇すると。
私の希望を全て聞いてくださいとは申しませんが…、私の関わることで蚊帳の外に
追いやられるのは、ごめん被ります」

「別に、あなたの耳に入れることでは…」

「それは私が判断いたします!!」

きっぱり言い切った後、しばらく私を見つめているギリアムだったが、

「まったくアナタは…本当に…」

諦めたようだ。

「デイビス卿、話して頂けますか?
あ、お部屋移動しましょうか?」

ここ、皆いるし。

「いいえ、ここでお話しできればと思います」

まあ、デイビス卿がそう言うなら…。
ギリアムがまた何かやろうとしたら、止める人数は多い方がいいしね。

「実は妻の実家から…オルフィリア嬢を伴って、仮面舞踏会に参加するよう言って
来まして…妻は体調がすぐれないからと断ったのですが…有無を言わせずで…」

あ~、なんか、やな感じ。

「妻とオルフィリア嬢はまだ、顔合わせもしていないと言ったのですが、それも
聞く耳持たずで…」

「随分と強引ですねぇ、体調が悪いと言えば、大抵引くものですが」

と、私が言えば、ん~、ちょっとデイビス卿の顔色が変わったね…何やら色々ありそう。

「デイビス卿の妻君の実家って…確かルベンディン侯爵家だったよな…」

ローカス卿がちょっと難しい顔をする。

「そうです、あまりいい人間達でないのは、皆も知っているだろう?」

ギリアムよ…だから、私に話したくなかったんか、納得。

「はい…、今回は妻の兄であるブライト小侯爵が仕切るようなのですが…」

「…って、あの悪い遊びばかりに手を出すことで有名な?」

レオニール卿が声を上げる。

「そうなんですか?」

「ええ、特に女性に対し、凄く奔放で、いかがわしいことばかりするって、
平民にまで知れ渡ってますよ」

いかがわしい事ねぇ…。
私は少し心の中で舌なめずりする。
私が知識含めて知っている如何わしい事の範疇を…超えられるのかねぇ。

「その仮面舞踏会は、女性限定なのか?」

「いえ…男性も参加します。
しかし、招待状の無い者を、絶対に入れないので…」

まあ、それは他の舞踏会・お茶会もだいたいそうだけどね…。
そう言うってことは、デイビス卿は招待されていないんだな~。
もっとも、招待されてたら、こんなに慌てふためいて、私の所に来ないよな…うん。

「ならダ」

「わかりました、奥様と一緒に参加いたします」

ギリアムが言い終わる前に、にこやかに答えるわたくし。

「ほ、本当ですか、オルフィリア嬢!!」

お、デイビス卿の顔が初めて明るくなった。

「ありがとうございます!!
多忙な中、ご配慮いただけるなんて…。
早速出席すると、返事を出します!!」

断られると思ってたんやろな。
まあ、いかがわしい事ばかりするって有名な奴と、関わりたい人間は
マトモな奴にはいないだろうからな。

「どうぞ、お気になさらず。
最近ぱったりと、お茶会や舞踏会のお誘いが、一つもなくなったので」

「え?」

はい、皆さま二度目の鳩が豆鉄砲を食ったような顔。

「一つも…ですか?本当に?」

デイビス卿、不思議そう。

「あ、ヴァッヘン卿のお母様のお茶会には、ウチの母と一緒に参加します」

「ありがとうございます、母が喜んでました」

ヴァッヘン卿がとてもいい笑顔になっている。

「最近…な・ぜ・か…そういったお手紙が私の手元に全く届かなくなって
しまって…商会の仕事に熱を入れられて良かったのですが、そろそろ舞踏会
など…と思っていたから、丁度いいです」

あくまで何も知りませんよ~と言う顔で、にこにこするわたくし。

「そっか~、そうだよな、オルフィリア嬢はそんな性格じゃないもんな、うん」

するとローカス卿が私に合わせるように、口を開く。

「実はベンズ卿から頼まれてたんだ。
ジュリア侯爵夫人…ベンズ卿の妻君のお茶会に、オルフィリア嬢を誘ったらしいんだけど、
ちっとも返事が返ってこないって」

「なるほど、何かで手紙が届かなかったなら、しょうがないっすね~。
でも、今後こういうことがあると、オルフィリア嬢の立場が悪くなっちゃうかも
ですね~」

レオニール卿が相方として参戦。

う~ん。
この二人はわかってるっぽいね。
ギリアムが手紙、隠しちゃったって。

「まったくその通りだな、レオニール卿。
あ、オルフィリア嬢。
ジュリア侯爵夫人への誤解は、オレがしっかり解いておきますよ」

「ありがとうございます、ローカス卿。
あまりお会いできる機会が無い方なので、大変助かります。
あ、良かったら今日の試供品、たくさんありますので近衛騎士の皆様へも、おすそ分け
してください」

「うわ~、助かります。
結構期待している奴、いるんで」

あ、笑いあっている私達見ながら、ギリアムが苦虫を嚙み潰したようになっとる。
…………………………………自業自得やから、ほっとこ。

「デイビス卿、私は奥様と参加いたしますが…一つだけお願いが」

「なんなりと」

「アナタが知りうる限りの、ブライト卿とルベンディン侯爵家の情報が知りたいです。
あと、奥様との確執も」

「もちろん、一切合切お話しいたします」

「あ、オレもオレも!!
市勢での噂だったら、たくさん知ってます!!」

「わかりました、ありがとうございます、レオニール卿」

そんなこんなで話を纏めていると、

「私の意志を無視しないでください!!
あなたをそんな危険な場所に、行かせるなんて…」

私はくるりと向きを変え、ギリアムの眼をじっと見る。

「あのですね、ギリアム様…。
一つだけお答えください」

静かに…でも気迫を込めて話す。

「もしあなたがデイビス卿の立場であったとしても…、私に何も言わずに
済ませられましたか?」

お、ギリアム、ハッとしたね。
バツが悪いのか眼をそらそうとしたので、顔を両手でパシーンと叩き、
抑える。

「どうなんですか?」

すると苦しそうに、

「アナタはどうして…そういう事ばかり…言うのです…」

「ギリアム様が好きだからですよ」

「!!」

「私は好きな人には、いつも良い人に囲まれて、楽しそうにしていて欲しい
のです」

…嬉しさと悲しさが入り混じった、何とも複雑な表情やねギリアム。

「そもそもデイビス卿は、危険なのがもし奥様ではなくご自身であれば、
私にこんな話をする人じゃないって、ギリアム様の方がよくわかっている
でしょう?」

「今まで、あなたをずっと助けてくれた人でしょう?
今後も助けてくれるだろう、人でしょう?」

「だから私は困っていて、私しか助けられないなら、助けてあげたいのです」

ギリアムは黙ったままだ。
ん~、もう一押し!!

「ギリアム様、私は私の為と言って、傍若無人にふるまう人は嫌いです。
人は大切なもの、愛する人がみんな違うし、自分の一番を優先するのは
ある意味当たり前です。
それを認めないなら、あなたが私を大切にする気持ちを否定されても、
その人を責められませんよ」

するとギリアムは、やっぱり悲しそうな眼をして、

「危険なことはしないでください…、本当に…。
あなたを失くしたら、私は生きていけないのです…」

「死ぬ気はありませんよ。
ギリアム様とずっと一緒にいたいので」

にーっこり笑う私に、ギリアムは深いため息をついた。
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