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第6章 反撃

8 ようやく一矢報いれた

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ギリアムが指示すると…王立騎士団が整列する。
デイビスが指揮する第1師団と、リグルドが指揮する第2師団だった。

「リグルド卿!!キミたちの師団は…池の水を、残らず抜いてくれ。
それが終わったら…私に知らせろ!!」

「い、池…ですか?」

ちょっと?が浮いているようだが、ギリアムは庭の片隅を指さし、

「あれだ!!」

見るとそれは…池と言うより沼の様だった。
大きさは畳6畳分くらいの小ささだし、澱んで全く下が見えない。

「任せたぞ!!」

「は…はぁ…」

訳はわからないが、ひとまず命令には忠実に従う団員たち。

「それと…庭にロープを張っておくように。
そこに…運びだした物を、置いて鑑定してもらう」

「は、はい!!」

「デイビス卿は…皆を連れて、私と一緒に来てくれ」

「はい…」

そうして家の中へ…入って行こうとするギリアムの後ろからは、

「まあ…本当に家探しするつもりかしら…」

「ゾフィーナ夫人は全ての価値あるものを、提出したとおっしゃっているのに…」

「なぜそんなにゾフィーナ夫人を嫌うのか…理解できません」

「大人になったのだから、昔の過ちを少しぐらい訂正する気がおありにならないの
でしょうか…?」

まあ、面と向かって言う人間はいないが、ひそひそは十分、耳のいいギリアムに聞こえた
だろう…。
この時ギリアムが何を思っていたか…。

「団長?」

ほんのわずかな表情の差を見抜けるデイビスは…気づいたようだが…。

「行くぞ!!」

こうしてゾフィーナの夫と共に、家の中へ入ったギリアムは…全く迷わず進む。
普通探すと言う事は、怪しい所で立ち止まったり、目を引くところを見たりするものだが…。
ギリアムは大きな…壁画の前に立つ。

その壁画は…ごくごく一般的なモチーフの、さして代わり映えのあるものではなかった。

「まずは…貝…」

その言葉と共に、貝の書かれた部分を押せば…貝の部分は静かに沈んだ。

「え…ええ…」

どうやら…ゾフィーナの夫は知らないようだ。

「そして、月と…星…太陽…もう一度貝…」

「あとは…女性の靴と、男性の杖…だったな…」

全てが押し終わると…カチリ…という、何かが開く音がした。

「これで…ここを押せば…」

壁画が扉となり…、中側に重く…静かに…開いた。
その中にあった物は…そこにいた者たちを、等しく驚愕させた…。
ただ1人、ギリアムを除いて…。

「すべて庭に運び出せ!!」

ギリアムの指示で、第1師団の全員が、よどみなく動くのだった。

隠し扉の中にあった物が…庭に運び出されると、そこにいた者たちもまた、その光景に
驚愕を隠せない…。

金銀だけでなく、調度品や装飾品、宝石…美しい彫刻が施された骨とう品など…素人目に
見ても、価値がある物とわかる。

「鑑定しろ!!」

ギリアムはその光景に…驚きもせず、サクサクと話を進める。
その時…。

「池の水!!すべて抜きました!!」

第2師団の声で、ギリアムが露になった、池の底へ着地した。
その底部分には…落ち葉や腐ったヘドロなどが充満しており、かなり臭い。
だがギリアムは物ともせず…しきりに何かを探している。

「だ、団長、どうしたんですか?」

一緒に底に降りたリグルドが…かなり不思議そうに見つめている。
そんなリグルドに返事をすることなく、一心不乱に探していたが、やがて…。

「見つけた…」

「え?」

「こっち側を持て、リグルド卿!!」

ギリアムが渡したのは…だいぶ泥と一体化したように見えるが、布だった。

「私の合図で…一緒に剥がすぞ!!……せーのっ!!」

そうして…まだヘドロの残る池の底に現れたのは…かなりの数のワインの樽だった。

「かなりの数…ありますね…。
でも、一体何で、こんな場所にワインを保存したんでしょう?」

いくらワイン樽が水分に強いとはいえ…限度はある。

「ワイン樽だからと言って、ワインを入れねばならぬ法律は無かろう?」

ギリアムが…不敵に笑っている。

「全員こちらへきて、運び出せ!!」

ワイン樽は…力自慢の男たちによって、瞬く間にロープの張られた場所へと運び込まれる。
その中に入っていたのは…。

「おおおっ…!!」

金の砂粒…というより、金の小石だった。
樽の全てに…ぎゅうぎゅうに入っていた…。

「さて…隠し財産は…全部でいくらになるのかな…」

ギリアムが…微笑しながら言っている…。

「待ちなさいぃっ!!」

そう叫んだのは…、眼を真っ赤に血走らせたゾフィーナだった。

「そんな財産、私は知りません!!でっち上げです!!」

「……何を仰るのです?この財宝は…池と隠し扉から出てきました…。
紛れもない、この家所有の財産ですよ?」

「嘘おっしゃい!!アナタが何か使って…」

するとギリアムの顔が…微笑から一気に憤怒へと変わる。

「それ以上は…このギリアム・アウススト・ファルメニウスへの…侮辱と捉えます…。
そもそも私は…前ドラヴェルグ公爵夫妻が事故でお亡くなりになった、5歳の時を最後に、
この家に一度も足を踏み入れていない…。
その私が、この家の隠し扉と池の中に…どうやったらこの量の財宝を隠せるんですか?
もし私が何かやったと言うなら…確たる証拠と一緒に、お答えください」

これは…事実だからこそ、ゾフィーナも何も言えない…。
真っ赤な鬼面で、下を向き、歯を食いしばるだけだ。

ゾフィーナの取り巻きたちは…別な意味でひそひそし始める。

一方、大量の財宝を見ながら、

「ふむ…これは…凄いな、しかし…」

国王陛下とツァリオは…顎に手を当てつつ、何だかあっけに取られている…。

「ツァリオ閣下…、ご自身の借金の分を、取り分けておいていただけますか?
国王陛下…少々こちらに来ていただいても?」

ギリアムは…ゾフィーナをいなして、サクサク事を進める。

「今回没収したドラヴェルグ公爵家の財産なのですが…王家の借金を引いた額を…」

なにやら…ひそひそ。

「……良いのか?」

国王陛下は大層驚いて、ギリアムに聞き返しているが、

「ええ…もちろん…。
そもそも私は妻を傷付けた事に対する、贖罪の意味で、今回の事を利用したまで。
ドラヴェルグ公爵家の名誉を地に落とせたので、満足です。
ゆえにそれ以外は…国家のために役立てたく存じます」

「わかった…有効に使わせてもらう…」

国王陛下…かなりホクホクだ。
まあ…それだけ、今回の一件で金が羽ばたいていっていると言う事だろう。

「お、お待ちなさい!!ちょっと!!」

ゾフィーナが…かなり息を荒くして、国王陛下とギリアムの方に詰め寄ってきた。

「ギリアム…アナタ…!!本当に全部、持って行くつもりなの!!
わ、私が今までどれだけ…このドラヴェルグ公爵家の為に、金策に走ったか…知らない
わけじゃ、無いでしょう!!」

「領地だって、未だ…天災の傷跡が残っているし!!
開発しようにも、お金が無くて、手が限られていたって言うのに!!」

「叔母が困っている時に、手を差し伸べることを一切しなかったクセに、家の中をあら捜し
して、ある物全部、持っていくなんて!!」

……恐らく、このゾフィーナの言葉は真実だ。
ゾフィーナは隠し財宝の存在を…本当に知らなかったのだろう…。
だが…。

「見苦しいですよ?叔母上…」

ギリアムは…少し嘲笑しつつ、

「裁判で決まったことではありませんか…。財産を隠したら…全部持っていく…とね」

言葉を紡ぐ。

「これで…少しはわかりましたか?」

「なに…が…?」

「人に!!財産をかすめ取られる人間の気持ちが!!です!!」

ギリアムの顔からは…笑みが消えている。

「私が未成年の時…未然に防げたとは言え、アナタが散々やろうとしたことじゃないか!!
母の形見分けだと言って、ウチに入ってきたと思ったら、母の宝石やドレスだけでなく、部屋の
壁紙の金箔まではがして行きましたよね!!
それだけならまだ、許せたのですがね!!
こっそり父の書斎に入って、印璽と様々な権利書を盗もうとした事には、心底呆れましたよ」

「そりゃぁ…いい大人のやっていいことじゃないな」

ツァリオはため息ついている。

「ファ、ファルメニウス公爵家の領地と資産は莫大だから…。
幼いあなたじゃ、まだ管理は難しいと思っただけで…」

「この期に及んで、ウソは見苦しいですよ!!
あの時期…ドラヴェルグ公爵家の領地が、天災でかなり壊滅的だった…。
ファルメニウス公爵家の資産で…うまい事補填しようとしたのでしょう?」

ギリアムは…この辺の調査は性格なのだ。

「そ、それは違うわ!!あなたから奪う気なんて、これっぽっちも!!」

するとギリアムは…その表情にこれでもかというくらい、嘲笑の色を張り付け、

「どうでしょうねぇ…?
明らかに、ファルメニウス公爵家の財産は、自分のもの…という感覚をヒシヒシ感じました!!
まあ、一門よりアナタの方が、私と血が濃かったからかもしれませんが…。
やっていいことじゃない!!」

ギリアムはその言葉だけを残し、踵を返した。

そんなわけで、半狂乱になっているゾフィーナとその夫を残し…その場にいる人間達は
そそくさと帰っていくのだった。
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