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第5章 敵襲

2 様々な物の怪の思惑と意図

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応接間…結構モノが多いので、ジェードとレオニールは潜み済み。

「一体いつまで、待たせる気なんですか!!
義伯母上が来た時は…直ぐにいらしたのでしょう?」

苛々と額に青筋立てているのは…、現ビルフォネラル公爵家当主の…ピビュレオだ。
いかにも真面目そうな…オールバックの髪と、薄い茶髪に青い目…。
顔は…凄く美形というワケではないが、整ってまあまあに見える。

「そうね…でも…予約なしの訪問だし…たまたま空いていらっしゃらなければ、
待つのは仕方ないわ」

ルリーラは…穏やかに言って聞かせるが、

「そんな事では公爵夫人など、務まりませんよ!!
優先しなければいけない客が来た時は…時間を作る物です!!」

かなり…自分勝手な言動をしながら、応接間の椅子にドカリと座っている。

「まあ…そうですね。
これだけの地位の人間が揃ったのですから…。
そうではありあませんか、ルリーラ夫人…」

ゾフィーナが…ルリーラに問いかけると、

「そ、そうですね…。
ですが…女性は色々…お支度がありますので…」

ちょっとびくつきながら、答える。

「あら、伯母様!!伯母様の時に早く出てきたのですから…、言い訳はできませんわ!!」

ルニヴィア夫人…ルリーラ夫人の姪だが、あまり似ていない…。
全体的に髪はカールしたようにくせっ毛で、それが肩の下あたりまで延びている。
目鼻立ちは…整っているが、目の大きさと不釣り合いな細い眉…赤くとがった唇は…
かなり煽情的なイメージを人に与える。

「ゾフィーナ夫人…。ですが…ファルメニウス公爵家は本当に凄いですね…。
この部屋に来るまで…調度品や飾りつけを見ても、一目で別格に裕福だとわかりますわ」

「ルニヴィア!!はしたないですよ!!」

さすがにこの言動には…ルリーラが食って掛かったが、

「まあ…そんなに目くじらを立てずとも、良いではありませんか…。
ファルメニウス公爵家が…他の貴族と比べ、突出した経済力を持っているのは…平民でも
知っている事です」

やっぱりゾフィーナが出てきて、収めてしまった。

「伯母様だって…仮にもファルメニウス公爵家の、縁戚の家に嫁いだのですから…。
少しぐらい分けてもらおうとか、思わないのですか?」

ルニヴィアは周りを見渡し、眼を輝かせているが、

「馬鹿をおっしゃい!!!ケイシロンの旦那様がそういった行為を、非常に嫌う事…。
アナタだって知っているでしょう!!」

ルリーラの表情は…非常に厳しくなる。
だが…、

「そこは…伯母様が個人的に…オルフィリア公爵夫人と仲良くなれば、いいだけじゃない
ですか。
マーガレット小公爵夫人だって…大変仲が良いとお聞きしましたわ」

ルニヴィアは…反省する気は無いようだ。
にーっこりといい笑顔で、いけしゃあしゃあとのたまう。

「まあ…そうですね。
その辺を上手くやるのも…貴族夫人の力の見せ所…ですからね」

ゾフィーナが庇ってしまうと…、この場の人間は何も言えないようだ。
ルリーラは青い顔に深いため息をついて、

「あのですね…今日の目的が何だか…お忘れではないですよね…」

ゆっくり言う。

「もちろんですよ!!伯母様!!
ファルメニウス公爵家が独占している、ゴギュラン病の薬…平等に分けるべきだと
お話するためです」

笑みがなくなり、かなり…きつめの顔になる。

「その通りです!!
同じ貴族なのに、ゴギュラン病で苦しんでいる貴族たちに薬を売らないなど…。
何を考えているのやら…」

ピビュレオが呆れたように、両手を広げなが言った。

「でもね…評議会でオルフィリア公爵夫人は…怪我をされたから…。
現時点で、何の処罰も国から受けていないし…って事らしいわ」

ルリーラは…まあゾフィーナに怯えながらも、言うべきことは…言うようだ。

「それは確かかもしれませんが!!
そもそも、ファルメニウス公爵家が通そうとしたあの法案…あまりにも下の者を優遇しすぎている。
上位貴族の夫人となった以上、上位の付き合いを大切にするべきです!!」

ピビュレオが…大きく手を振り、もっともらしい発言をする。

「……別に大切にしていないワケじゃ、ないと思うけれど…」

身内だからこそなのか…、ルリーラはかなり消極的だ。
もともとの性格と、当事者じゃないからこそ…なかなか強くは出にくいのか…。

「大切にしておりませんわ、伯母様!!
もし大切にしていたら…ゾフィーナ夫人の出禁を…解くようにとギリアム様に
忠言しているハズですもの!!
それなのに…前ファルメニウス公爵夫人の恥を人前で話しただけでなく…、
ゾフィーナ夫人が姉の悪評にも負けず、頑張ってドラヴェルグ公爵家を盛り立てて
来た事…全く分かろうとしない!!」

ルニヴィアは…立ち上がり身振り手振りを大げさにして、熱弁する。

「ギリアム様とゾフィーナ夫人の確執は!!
ギリアム様が子供であったが故、様々な誤解をしたにすぎません!!
それを…一つ一つ聞いて、誤解を解き、ゾフィーナ夫人との間を取り持つのが、
新しく夫人として入った者の務めではありませんの?
ゾフィーナ夫人は…ギリアム様と同様、オルフィリア公爵夫人にも…色々教えたて
差し上げるつもりだったんですよ…。
それを…」

白熱してきたところで、

「もういいですよ、ルニヴィア夫人…。
2人とも若いのですから、向こう見ずになったり、足りなかったりは当然です。
それゆえ今回…貴族の在り方を教えて差し上げようと、参った次第…」

ゾフィーナが止めた…。

「で、ですが…私…自分の事のように、悔しくてなりません!!」

「アナタのそのお気持ちだけで、十分です」

ゾフィーナは終始…そのポーカーフェイスを崩さず、静かに…言うのだった。


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応接間で…しょーもない連中がしょーもない会話をしているころ…私は再度お着換えしていた。

「よしっ!!かなりいい出来ね!!」

私が着替えたのは…乗馬用の衣服だった。
制服のブレザーを模したデザインで、下は…純白のパンツスタイル。
皮を何回も叩いて柔らかくしたブーツに…手袋をして完了だ。

武のファルメニウスである以上…、乗馬は出来た方がいい!!
ギリアムはいい顔しなかったけど…、お願いして習っているのだ。
そしてフィリアム商会の技術の粋を結集し、乗馬服を作ってみたのだ。

それに身を包み…私は応接間へと向かった。
同行者は…リグルド卿とヴァッヘン卿、そしてフォルトだ。

応接間に入った私の姿が見えると、全員一応立とうとしたんだが、

「予定外の来客ゆえ、ご挨拶は結構!!
早速本題に入りましょう」

私の言葉に…全員が立つのをやめた…。
ルリーラ夫人とマギーは…大分バツが悪そうだな…。
まあ、それについちゃ、後でいい。

「なぜ!!あながた!!ここにいるのです?ゾフィーナ夫人!!」

私は…語尾を強調して、ハッキリと言い切った。
ゾフィーナくそばばぁからの返事はない。

「質問に答えていただけないなら、お帰りください。
そもそも…アナタはファルメニウス公爵家を出禁になった身!!
よくおめおめと来れましたね?
まあ、あの姉にして、この妹あり…という所でしょうか?
恥知らずな行為は、お得意ですね」

ひとまず…挑発してみる。
そうすれば…だいたいのパワーバランスがわかるからね。
まあ、この場の支配者は、間違いなくゾフィーナくそばばぁだろうが。

「お、お待ちください!!いくら何でも一番の縁戚に対し、いきなりその発言はいかがな
ものかと思います!!」

ルニヴィアは…もう、居ても立っても居られないと言わんばかりに、口を出したが、

「再度!!お尋ねいたします!!
なぜ!!アナタが!!ここにいるのですか?
ここは!!アナタの!!いるべき場所ではございません!!
早々に!!お帰り下さい!!」

私は…完全無視。
だが…ゾフィーナくそばばぁもさすがっちゃさすがだ。
これだけ言われても…眉一つ動かさないし、相変わらず座ってやがる…。

上位の夫人を叩き出す…ってのは、男以上に難しいんだよな。
手荒なことをして、体に傷でも負わせれば…それだけで男に傷を負わせるより、よっぽど
責められる。

ゾフィーナくそばばぁも、その事がよくわかっているから、動じないんだ。
もっともこのくそばばぁは…別の理由も加味されて、さらに追い出しずらいんだが…。

ギリアムが出立して…おいそれと帰ってこれない所で来る辺りは…やっぱ並大抵じゃ
いかんな。
不特定多数がいなければ…姉の醜聞もあまり吹聴されたところで、なんてこたない。
くそばばぁにしてみれば、会場がケイシロンでも、ファルメニウスでもよかったのだろう…。

……まあ、その考えが甘いってことは…いずれ証明してやるがな。

「これでは、話が進みませんね。
この家に不法侵入した件は…ギリアムに後日しっかりとご報告いたします」

このまま居座られても厄介だからな…。
しょーがない、会話をするか…。

「ルリーラ夫人に頼み込んだんですよ…。
昨今のファルメニウス公爵家の醜聞は…目に余るものがありましたのでね」

……ふ~ん、醜聞ね。
やっぱこのくそばばぁ…強かでやがる。

「醜聞ですか?巷では絶賛されこそすれ、醜聞など一切聞こえてきませんが」

「下々ではなく、貴族の間で…です」

だろうね…。
そっちだってちゃんと調査済みさ。

「あら、そうですか…。
私にインク瓶を投げつけるような、非常識な方々に、何を言われてもいいですわ」

シレっと答えてやった。

「確かに…彼らにも悪い所はあったかと思いますが…」

「インク瓶って、当たり所悪ければ死にますよ?
そうおっしゃるなら、自身で評議会場の中心に立って、インク瓶投げられてみたら
どうですか?」

このくそばばぁと話す時間がもったいないゆえ、サクサク行くよ。
なんて思っていたら、

「いい加減になさったらどうですか?オルフィリア公爵夫人…」

あくまで静かに言ってきたのは…ルニヴィア夫人だ。
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