ひとまず一回ヤりましょう、公爵様 6

木野 キノ子

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第3章 急転

7 なんだかなぁ…

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「ダイロおっちゃーん、大丈夫?血圧上がったでしょ?」

私が…帰ってきたダイロおっちゃんを、心配そうに見ると、

「あ~、マジでプッツン来るかと思った…」

と。

「おいおい!!ゴギュラン病の猛威は、多分これからだぞ!!
お前に死なれちゃ、困るからな!!」

ガフェルおっちゃんが、ダイロおっちゃんの脈を取っている。

「でも…ありがとうね。ダイロおっちゃんが言ってくれたこと…私も嬉しいよ」

実は…影から全部見てました、わたくし。

「私もです」

ギリアム…さっきとは打って変わって、にっこにこ。

「しっかしよぉ…替え玉にするなら、せめてそれなりに腕のある医者にすりゃ
いいじゃねぇか…。なんだってそんな奴…」

ガフェルおっちゃん…ぶつぶつ言ってる…。

「それについては…多分、金が無かったのと、探す時間が無かったんだろう」

ギリアムが言う。

「そんなに金欠だったのかぁ?そのお貴族様?(ダイロ)」

「いえ…雇ったのは、おそらく…。ダイロおっちゃんたちを、襲った人間です(ギリアム)」

「何でまた?(ガフェル)」

「ジョノァドは…失敗を絶対に許さない。
しかし…ファルメニウス公爵家に逃げ込まれたら、どうすることもできない。
だから…おそらく襲った連中は、ジョノァドの逆鱗に触れることを恐れ、替え玉を用意したのです。
ちょうど、ダイロおっちゃんの家から持ち出した…手記があったから、可能だと思ったのでしょう」

「でもよ…だったら何で、あれほどまで抜けてたんだぁ?
きったねぇ字だけど、一応一通り、書いておいたんだぜ(ダイロ)」

「おそらく…マリーアさんだと思います…」

ギリアムの予想は、

「マリーアさんが捕まるまで…少し間があったのでしょう。
だからその間に…絶対に知っておかねばならない部分を…破り捨てたんだ」

「そおかぁ…(ダイロ)」

ダイロおっちゃんの目が…虚ろだ。

「でも…私も扱いきれていないと思ってはいたけど…、ここまでズサンになるとは、思っていな
かったよ…」

私も…自然とため息が出た。

「まあでも…これで、貴族連中が騒ぎだすだろうね…」

「そうですね…。ジョノァドも捕まった事だし、第一弾を着火しますか?」

ギリアムの言葉に、

「そーね、そうしよっか…確定したし…」

私も同意する。
第一弾…ジョノァド及びキンラク商会の持つ薬が、毒であるということを、広めるのだ。


------------------------------------------------------------------------------------------


「そのようなことが、あったのですか…」

私は…翌日、フィリアム商会に来て、トールレィ卿とエリオット卿に、前日のダイロおっちゃん
騒動を、話していた。

「ええ…ジョノァドとキンラク商会の扱っている薬が…毒であること…これで出回るし、
真実だってわかると思う。
タルニョリア王国も…動き出すしね」

「となると…貴族連中が騒ぎ出しますな…(トールレィ)」

「その通りよ。
評議会の例の一件…私が気に入らなくてやった人もいるだろうけど、薬が目的でやった人…
一定数いると思う…」

「で、あるとしても…許されることではありません(エリオット)」

「その通りよ…ただ…貴族の対応は、基本2人になると思うから…。
私もいればもちろん出るけど…」

「とんでもない!!そのためにいるようなもの!!オルフィリア公爵夫人のお手は煩わせません!!」

嬉しいこと言ってくれるなぁ…2人とも。

「ひとまず…薬は民間優先でお願い。これは…絶対崩す気は無い!!」

私が…再度通達していると、

「し、失礼します…あの…」

職員が…なんだかコッソリ…と言う表現が似合う仕草で入ってきた。

「ガルドベンダ公爵閣下が、おいでになって…」

「え?ツァリオ閣下本人?」

「はい…それに…使用人が大多数…」

「え~」

あの人じゃあ…私が出るしかないかぁ…と、覚悟を決めようとしたら、

「オルフィリア公爵夫人…奥にいてください」

エリオット卿とトールレィ卿が、

「我らだけで…何とかしてみます…」

「でも…」

「対男は…我らの仕事です!!」

「わかった…でも、くれぐれも無茶しないで…。
無理そうだと判断したら、私出るから!!」

「ありがとうございます」

出ていく2人の背中を見つめつつ、私は…小さな紙に走り書き。

「これ…伝書鳩で…ギリアムの所に!!」

指示した職員は…スッと目立たないように、足音を立てないように…行ってくれた。

さて、ガルドベンダ公爵家御一行様の前に出た、エリオット卿とトールレィ卿は、

「これは…ごきげんよう、ツァリオ・シェルツキ・ガルドベンダ公爵閣下…。
このようなむさくるしくて、汚い所に、何の御用でしょうか?」

丁寧だけど…直訳すると、こんなとこに来ないで、さっさと帰れ!!…だろうな。
ツァリオ閣下は…そんな2人…特に、エリオット卿に頭を下げ、

「遅くなりましたが…評議会で怪我をされたこと…申し訳なく思っております…。
そのお詫びに参りました」

「別に…ツァリオ閣下が怪我させたわけでは、ございますまい」

対応は丁寧だが…心は当然籠っていない。

「いえ…見て見ぬふりをしたのですから、ケガさせたも同じです…」

いつもの威厳が全く感じられず、平身低頭だな…。

「わかりました…私の怪我はもう治りましたので、これ以上このこのに関し、何か
言うつもりは、私はありません。
ご丁寧な謝罪を、ありがとうございます」

どうしても身分が上だと…罵倒するわけにいかない。
エリオット卿は…終始落ち着いて話している。

「他にご用件は?」

「…ない。失礼いたします」

ツァリオのこの言葉が出たとほぼ同時に、

「あ、あの…」

バドセットが2人に何かを言おうとしたが、その声が聞こえることは無かった。
ツァリオが…バドセットの体が吹き飛ぶぐらい…激しく殴ったからだ。

「何も言わないと約束したから、連れてきたのだぞ!!バドセット!!」

激しい…怒号だった。

「じ…じがぃ…だんなざま…」

バドセットは…血だらけになった口で…言葉足らずな何かを言おうとしたが、

「ドルグスト!!バドセットを捕えて、馬車に叩きこめ!!」

ドルグストも何か…言いたそうにしているが、黙ってツァリオに従う。
使用人たちは…何か言いたげだが、もちろんエリオット卿もトールレィ卿も、あちらが
言い出さない限り、聞く気は全くない。

何が言いたいか、わかりきってるし。

そして…帰っていくのを確認し、私はひょっこり出ていく。

「台風一過だねぇ…まさに…」

「そうですね…」

「ひとまず…奥に入りましょうか…」

お茶を入れ、一息ついている所に、

「フィリー!!!ツァリオ閣下が来たと…っ!!」

ギリアムが飛び込んできた。

「あ、もう帰った。ごめん」

ツァリオ閣下が凄すぎて…呼んだのすっかり忘れてた。
トールレィ卿とエリオット卿が、あったことを、ギリアムに報告…。
ギリアムは、

「まあ…ツァリオ閣下らしいといえば、らしいですね…」

「そうですね…」

私も…同意しつつ、

「ツァリオ閣下も…苦しいだろうね…。元来…評議会でのことなんか、許す人じゃない。
でも…ダイロおっちゃんの言葉に、言い訳できないってわかってる」

「そうですね」

「でもさ…出来ないってわかってても、人はだいたいやる。
バドセットがそうだったように…ね」

みんな…どことなく暗い。
私は…少し思案する。この問題…どう片付けるかなぁ…と。

「そう言えば…ファルメニウス公爵家に来るのは、原則追い払いますけど…。
王立騎士団の方は…完全に追い払うのは難しいのでは?」

「もちろんですよ…でも…」

ギリアムは、にっこりとし、

「望むところですよ…、フィリーとの約束…しっかり守りますので、ご心配なく」

と。

頼もしいけど…ちと、背筋が凍る…。

「そちらの対応は…お願いします」
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