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第3章 急転
7 2年前に何があったのか…
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2年前…ダイロおっちゃんは、色々な嫌がらせをされても、誘いに乗らなかったし、
屈しなかった。
そしてついに敵は…。
「ガイロ!!ガイロしっかりしろぉっ!!」
胸と肩の間に矢を受けて…苦しそうに息をするガイロを…ダイロおっちゃんが抱きかかえて
いる…。
周りの森には火が放たれ、当たり一面…火の海だ。
「アナタ!!火の勢いが強いです!!早くガイロを連れて、逃げてください!!」
ダイロおっちゃんの妻・マリーアは…窓の外を見ながら叫ぶ。
「逃げるったって…オレらに力を貸してくれる人間なんて…」
言いながらダイロおっちゃんは、ガイロの傷を縛り、応急処置をする。
「ギリアム公爵閣下がいるでしょう!!
あの方は信用できるって!!アナタも言っていたでしょ!!」
ギリアムは…この事件の1年前に、ダイロおっちゃんが育てていた薬草を分けてもらうために
この家に来て…打ち解けたのだ。
「ガイロを連れて、早く行ってください!!」
「わかった!!お前も一緒に!!」
ダイロおっちゃんは、マリーアの手を引こうとするが、その手を振りほどくマリーア。
「アナタと…ガイロだけで行ってください!!」
「何言ってるんだ!!」
するとマリーアは自身の足を触って、
「もしも馬が使えなくなったら…私は…足手まといになります…」
マリーアは…足が不自由なのだ。
「だったら、オレが担いで…」
「馬鹿を言わないでください!!怪我をしたガイロはどうするんですか!!
馬だって!!3人も乗れません!!早く行ってください!!」
ガイロを抱きかかえるダイロおっちゃんを、マリーアはグイグイ押す。
「早くしてください!!敵が迫っているんです!!」
「お前を置いていくなんて、出来るかよ!!」
ダイロおっちゃんは…いつの間にか泣いていた…。
「だったら、ガイロを殺す気ですか!!それでもいいんですか!!」
マリーアも泣きながら…ダイロおっちゃんの胸にしがみつき、
「なかなか子供が出来なかった私たちの所に…ようやっと来てくれた子なんです!!
お願いですから、殺さないでください!!」
必死に訴える…。
ダイロおっちゃんは…歯を食いしばって、
「絶対に…命を粗末にするんじゃないぞ!!」
その言葉と共に…一切振り返らず、馬で…燃え盛る森の火の中に突っ込んんだ!!
ダイロおっちゃんは…狙ってくる奴から逃げるのが、初めてじゃない。
だから、わかっていた。
敵が、火を避けて逃げることを、想定していると。
だから…あえて火中を進むことで、敵の目を欺き、追跡を逃れた。
しかし…敵だってプロだ。
家の中に…ダイロおっちゃんがいないことを確認すると、直ぐに追撃の手が伸びる。
それを…何とかかわしながら、ダイロおっちゃんは…王都のファルメニウス公爵家に
やって来たんだ!!
「ギリアム様ぁ――――――――――――――っ!!
お助け下さいぃ―――――――――――――――――――っ!!」
敵はダイロおっちゃんを…殺すことが目的じゃなかった。
だからこそ…何とか敵の追撃をかわすことが出来た…。
でも…火の中を進み、道なき道を進んだせいで、全身傷だらけのボロボロだった。
ちょうどその時、ファルメニウス公爵家にいたギリアムが、対応する。
「一体どうしたのですか!!」
その様は…一目で襲撃されたとわかるモノだった…。
「マリーアがっ!!オレの妻がまだ…っ!!」
ダイロおっちゃんの話を聞いたギリアムは、まさに神速の勢いで対応した。
王立騎士団への連絡と、ダイロおっちゃんとガイロの治療…その全てを指揮してから、
自身も出陣した。
そのおかげで…火はすぐに鎮静化され、当たりの村々に死者は出なかったのだが…。
マリーアの姿は無かった。
ギリアムはファルメニウス公爵家と王立騎士団の情報網を駆使して、集めた情報から…、
ある貴族の所に、マリーアがとらわれているようだ…と、突き止める。
確信に近かった。
だが…証拠は無い。
貴族の家に踏み込むのは…例え序列が上の貴族でも難儀する。
だから…しっかりとした情報を集め、捜査官や交渉人を使って、段々と追い詰めていくのが
通常のやり方だ……通常の!!
だがギリアム・アウススト・ファルメニウスという男は…存在自体が通常を逸する。
その貴族の館に入ってすぐに、交渉もせず、隠し地下室(図面は手に入れ済み)に押し入った。
ギリアムの鼻が…そう判断した。
そして判断は正しかった。
そこに…マリーアがいたのだ。
拷問を受け、かなり衰弱しきって…もう、助からないだろうと、その時一緒にいた医師は言った。
それを聞くや否や、ギリアムはマリーアを抱え、馬を飛ばし、ファルメニウス公爵家へと
ひた走る。
そして…マリーアをダイロおっちゃんとガイロの元へ…とどけた。
しかし…ここからがまた大変だった。
ギリアムが押し入った貴族…ギリアムを不法侵入と器物破損で訴えた。
……自分のしたこと棚に上げるのは…悪党の十八番だな、ホント。
ギリアムはどうしたか?
その貴族をすり潰す…なぞと言うことはせず、きちんと謝罪した。
そして…壊した物の弁償と、裁判で決まった慰謝料を払った。
この件はそれで終いになった。
この貴族…その後もチクチク言ってくるらしいが、ギリアム全く意に介さず。
「そんなことが?なぜ、何も言わなかったんじゃ、坊主…」
ギリアムを坊主呼び…ローエンじい様…人いるぞ。
「そもそもこの事件は…かなり立証が難しい物でした。
敵が森に…火をつけた証拠は見つからなかったし、ダイロさんの奥様が拉致されていた場所も…
私が時系列と、関係性を考察して、割り出した…つまり、証拠は何も無いのです」
「結果として、拉致されとったんじゃろ?」
「ええ…ですが…。
そもそも拉致されたのか、自ら進んで行ったのかが、立証できないのです。
それを立証するためには…ダイロさんや、息子さんの証言が必要になる。
しかし2人は命を狙われている身ですから…ファルメニウス公爵家を出したくなかった…。
2人も望みませんでしたからね…」
「それに、2人に証言させるなら、森の火事の件も表に出さねばなりません。
敵がばら撒いた、ダイロさん一家の悪評のせいで…ダイロさん達が、森に火をつけたんじゃ
ないかと…噂されていたのです。
襲撃とて、誰も目撃者はいませんでした。
相手の弁護士は…必ずそこを突いてくるでしょう」
「ただでさえ…マリーアさんが死んで苦しんでいる2人を…根も葉もない悪評に晒すわけには
いかないでしょう?」
「……しかし坊主は、貴族の屋敷に踏み込んで、暴れまわったという悪評がついたが?」
「だから何ですか?」
ギリアムの目は…とても澄んでいた。
「何の罪もない傷付いた者を、さらに傷付けねば得られぬ名誉など…」
言葉が少し…切れる。
「このギリアム・アウススト・ファルメニウスは、頼まれてもいりません!!」
じい様は…そんなギリアムの顔を見つめつつ、ぽそっと何かを言ったが…。
それが誰の耳にも、聞こえることは無かった。
「オレはよ…ギリアム様が…ここまでしてくれるとは、思わなかったよ…」
「マリーアを助け出したこともそうだが、助からないとわかってすぐ、いの一番に連れて
来てくれた。
押し込み先に…圧力欠けるとか何もせず…な。
そして…自分が悪人になっても、オレたち家族の事を…第一に考えてくれた」
「マリーアが言っていたよ…。
自分がもう、助からない事…自分でよくわかっているから…。
オレと息子の事…保護してくれたら、それでいいから…って。
ギリアム様に言ったら…。
だったらなおの事、アナタの残りの時間は、家族のもとで過ごすべきです!!
そう言って…オレたちの所に、連れてきてくれたって…」
ダイロおっちゃんの顔は…少し緩む…。
「それから10日後に…オレと息子が見守る中…マリーアは息を引き取った。
本当に…幸せそうな…穏やかな顔で…」
ダイロおっちゃんは…涙を腕で、グイっと拭い、
「わかったかよ、ヒラテス!!」
「オレはな!!2年前からギリアム様の為に、残りの人生すべて使おうって決めたんだよ!!
そのギリアム様が…心から愛する奥様も同じだ!!」
「奥様もな!!ギリアム様と同じで…本当にいい人なんだ!!
今回の評議会…奥様の提出する法案が…反発を受けることは、わかりきっていた!!
でも…臆さず出たんだ!!
なのに…」
ダイロおっちゃんの顔は…ここで怒りで真っ赤になる。
そして…その刺すような視線の先には…ツァリオの姿が。
「こともあろうに!!話し合いの場で!!
寄ってたかって、インク瓶投げつけるだぁ?何考えてんだよ、ほんと!!」
「ああでも、しょーがねぇか!!テメェはオレの女房を殺した連中みたいに!!
弱い者いじめが得意なんだろうからな!!何も悪いことしてない、弱い者をな!!
オメーの女房だって、似たようなもんだろうが!!」
「そ、それは違う!!それだけは…断じて違う!!」
ツァリオは…その部分だけは、激しく否定した。
「じゃ、テメェは何で!!奥様がみんなに寄ってたかってもの投げられてる時!!
黙って見てたんだ!!そもそも見て見ぬふりは、みっともない上、卑怯極まりない!!」
「テメェはテメェの女房が、大多数に寄ってたかってインク瓶投げつけらても、平気なんだろ!!
違うってなら、結局は身分が卑しい人間は、死んで当然!!
身分が高いテメェや女房は、困ったら助けてくださいの一言で、助けてもらって当然!!
そう思ってんだろう!!
違うってんなら、言ってみろや!!
オレは!!テメェの女房なんざ、ぜってーみねぇ!!死んでも見ねぇからな!!
本当に、とっとと帰れぇ―――――――――――っ!!」
すっごく息が荒い。
ツァリオは…下を向き…その言葉に…何も言い返さなかった。
いや…言い返せなかったんだろうな…。
「ダイロさん…少し落ち着きましょう…本当にここからは、私がやります」
ツァリオの方を向き、
「あのですね、ツァリオ閣下…アナタは、ジョノァドを信じる方に賭けたんですよ。
そして…賭けに負けた…」
「賭けに負けたら掛け金を支払う…。
踏み倒す奴も…まあいますが、今回の取立を行うのが、天だから、踏み倒せない。
それだけの事ですよ…それだけの…ね」
ギリアムの言葉は…空虚で…とても静か…。
結局その場にいる者たちは…それ以上、言葉を紡げなかった…。
屈しなかった。
そしてついに敵は…。
「ガイロ!!ガイロしっかりしろぉっ!!」
胸と肩の間に矢を受けて…苦しそうに息をするガイロを…ダイロおっちゃんが抱きかかえて
いる…。
周りの森には火が放たれ、当たり一面…火の海だ。
「アナタ!!火の勢いが強いです!!早くガイロを連れて、逃げてください!!」
ダイロおっちゃんの妻・マリーアは…窓の外を見ながら叫ぶ。
「逃げるったって…オレらに力を貸してくれる人間なんて…」
言いながらダイロおっちゃんは、ガイロの傷を縛り、応急処置をする。
「ギリアム公爵閣下がいるでしょう!!
あの方は信用できるって!!アナタも言っていたでしょ!!」
ギリアムは…この事件の1年前に、ダイロおっちゃんが育てていた薬草を分けてもらうために
この家に来て…打ち解けたのだ。
「ガイロを連れて、早く行ってください!!」
「わかった!!お前も一緒に!!」
ダイロおっちゃんは、マリーアの手を引こうとするが、その手を振りほどくマリーア。
「アナタと…ガイロだけで行ってください!!」
「何言ってるんだ!!」
するとマリーアは自身の足を触って、
「もしも馬が使えなくなったら…私は…足手まといになります…」
マリーアは…足が不自由なのだ。
「だったら、オレが担いで…」
「馬鹿を言わないでください!!怪我をしたガイロはどうするんですか!!
馬だって!!3人も乗れません!!早く行ってください!!」
ガイロを抱きかかえるダイロおっちゃんを、マリーアはグイグイ押す。
「早くしてください!!敵が迫っているんです!!」
「お前を置いていくなんて、出来るかよ!!」
ダイロおっちゃんは…いつの間にか泣いていた…。
「だったら、ガイロを殺す気ですか!!それでもいいんですか!!」
マリーアも泣きながら…ダイロおっちゃんの胸にしがみつき、
「なかなか子供が出来なかった私たちの所に…ようやっと来てくれた子なんです!!
お願いですから、殺さないでください!!」
必死に訴える…。
ダイロおっちゃんは…歯を食いしばって、
「絶対に…命を粗末にするんじゃないぞ!!」
その言葉と共に…一切振り返らず、馬で…燃え盛る森の火の中に突っ込んんだ!!
ダイロおっちゃんは…狙ってくる奴から逃げるのが、初めてじゃない。
だから、わかっていた。
敵が、火を避けて逃げることを、想定していると。
だから…あえて火中を進むことで、敵の目を欺き、追跡を逃れた。
しかし…敵だってプロだ。
家の中に…ダイロおっちゃんがいないことを確認すると、直ぐに追撃の手が伸びる。
それを…何とかかわしながら、ダイロおっちゃんは…王都のファルメニウス公爵家に
やって来たんだ!!
「ギリアム様ぁ――――――――――――――っ!!
お助け下さいぃ―――――――――――――――――――っ!!」
敵はダイロおっちゃんを…殺すことが目的じゃなかった。
だからこそ…何とか敵の追撃をかわすことが出来た…。
でも…火の中を進み、道なき道を進んだせいで、全身傷だらけのボロボロだった。
ちょうどその時、ファルメニウス公爵家にいたギリアムが、対応する。
「一体どうしたのですか!!」
その様は…一目で襲撃されたとわかるモノだった…。
「マリーアがっ!!オレの妻がまだ…っ!!」
ダイロおっちゃんの話を聞いたギリアムは、まさに神速の勢いで対応した。
王立騎士団への連絡と、ダイロおっちゃんとガイロの治療…その全てを指揮してから、
自身も出陣した。
そのおかげで…火はすぐに鎮静化され、当たりの村々に死者は出なかったのだが…。
マリーアの姿は無かった。
ギリアムはファルメニウス公爵家と王立騎士団の情報網を駆使して、集めた情報から…、
ある貴族の所に、マリーアがとらわれているようだ…と、突き止める。
確信に近かった。
だが…証拠は無い。
貴族の家に踏み込むのは…例え序列が上の貴族でも難儀する。
だから…しっかりとした情報を集め、捜査官や交渉人を使って、段々と追い詰めていくのが
通常のやり方だ……通常の!!
だがギリアム・アウススト・ファルメニウスという男は…存在自体が通常を逸する。
その貴族の館に入ってすぐに、交渉もせず、隠し地下室(図面は手に入れ済み)に押し入った。
ギリアムの鼻が…そう判断した。
そして判断は正しかった。
そこに…マリーアがいたのだ。
拷問を受け、かなり衰弱しきって…もう、助からないだろうと、その時一緒にいた医師は言った。
それを聞くや否や、ギリアムはマリーアを抱え、馬を飛ばし、ファルメニウス公爵家へと
ひた走る。
そして…マリーアをダイロおっちゃんとガイロの元へ…とどけた。
しかし…ここからがまた大変だった。
ギリアムが押し入った貴族…ギリアムを不法侵入と器物破損で訴えた。
……自分のしたこと棚に上げるのは…悪党の十八番だな、ホント。
ギリアムはどうしたか?
その貴族をすり潰す…なぞと言うことはせず、きちんと謝罪した。
そして…壊した物の弁償と、裁判で決まった慰謝料を払った。
この件はそれで終いになった。
この貴族…その後もチクチク言ってくるらしいが、ギリアム全く意に介さず。
「そんなことが?なぜ、何も言わなかったんじゃ、坊主…」
ギリアムを坊主呼び…ローエンじい様…人いるぞ。
「そもそもこの事件は…かなり立証が難しい物でした。
敵が森に…火をつけた証拠は見つからなかったし、ダイロさんの奥様が拉致されていた場所も…
私が時系列と、関係性を考察して、割り出した…つまり、証拠は何も無いのです」
「結果として、拉致されとったんじゃろ?」
「ええ…ですが…。
そもそも拉致されたのか、自ら進んで行ったのかが、立証できないのです。
それを立証するためには…ダイロさんや、息子さんの証言が必要になる。
しかし2人は命を狙われている身ですから…ファルメニウス公爵家を出したくなかった…。
2人も望みませんでしたからね…」
「それに、2人に証言させるなら、森の火事の件も表に出さねばなりません。
敵がばら撒いた、ダイロさん一家の悪評のせいで…ダイロさん達が、森に火をつけたんじゃ
ないかと…噂されていたのです。
襲撃とて、誰も目撃者はいませんでした。
相手の弁護士は…必ずそこを突いてくるでしょう」
「ただでさえ…マリーアさんが死んで苦しんでいる2人を…根も葉もない悪評に晒すわけには
いかないでしょう?」
「……しかし坊主は、貴族の屋敷に踏み込んで、暴れまわったという悪評がついたが?」
「だから何ですか?」
ギリアムの目は…とても澄んでいた。
「何の罪もない傷付いた者を、さらに傷付けねば得られぬ名誉など…」
言葉が少し…切れる。
「このギリアム・アウススト・ファルメニウスは、頼まれてもいりません!!」
じい様は…そんなギリアムの顔を見つめつつ、ぽそっと何かを言ったが…。
それが誰の耳にも、聞こえることは無かった。
「オレはよ…ギリアム様が…ここまでしてくれるとは、思わなかったよ…」
「マリーアを助け出したこともそうだが、助からないとわかってすぐ、いの一番に連れて
来てくれた。
押し込み先に…圧力欠けるとか何もせず…な。
そして…自分が悪人になっても、オレたち家族の事を…第一に考えてくれた」
「マリーアが言っていたよ…。
自分がもう、助からない事…自分でよくわかっているから…。
オレと息子の事…保護してくれたら、それでいいから…って。
ギリアム様に言ったら…。
だったらなおの事、アナタの残りの時間は、家族のもとで過ごすべきです!!
そう言って…オレたちの所に、連れてきてくれたって…」
ダイロおっちゃんの顔は…少し緩む…。
「それから10日後に…オレと息子が見守る中…マリーアは息を引き取った。
本当に…幸せそうな…穏やかな顔で…」
ダイロおっちゃんは…涙を腕で、グイっと拭い、
「わかったかよ、ヒラテス!!」
「オレはな!!2年前からギリアム様の為に、残りの人生すべて使おうって決めたんだよ!!
そのギリアム様が…心から愛する奥様も同じだ!!」
「奥様もな!!ギリアム様と同じで…本当にいい人なんだ!!
今回の評議会…奥様の提出する法案が…反発を受けることは、わかりきっていた!!
でも…臆さず出たんだ!!
なのに…」
ダイロおっちゃんの顔は…ここで怒りで真っ赤になる。
そして…その刺すような視線の先には…ツァリオの姿が。
「こともあろうに!!話し合いの場で!!
寄ってたかって、インク瓶投げつけるだぁ?何考えてんだよ、ほんと!!」
「ああでも、しょーがねぇか!!テメェはオレの女房を殺した連中みたいに!!
弱い者いじめが得意なんだろうからな!!何も悪いことしてない、弱い者をな!!
オメーの女房だって、似たようなもんだろうが!!」
「そ、それは違う!!それだけは…断じて違う!!」
ツァリオは…その部分だけは、激しく否定した。
「じゃ、テメェは何で!!奥様がみんなに寄ってたかってもの投げられてる時!!
黙って見てたんだ!!そもそも見て見ぬふりは、みっともない上、卑怯極まりない!!」
「テメェはテメェの女房が、大多数に寄ってたかってインク瓶投げつけらても、平気なんだろ!!
違うってなら、結局は身分が卑しい人間は、死んで当然!!
身分が高いテメェや女房は、困ったら助けてくださいの一言で、助けてもらって当然!!
そう思ってんだろう!!
違うってんなら、言ってみろや!!
オレは!!テメェの女房なんざ、ぜってーみねぇ!!死んでも見ねぇからな!!
本当に、とっとと帰れぇ―――――――――――っ!!」
すっごく息が荒い。
ツァリオは…下を向き…その言葉に…何も言い返さなかった。
いや…言い返せなかったんだろうな…。
「ダイロさん…少し落ち着きましょう…本当にここからは、私がやります」
ツァリオの方を向き、
「あのですね、ツァリオ閣下…アナタは、ジョノァドを信じる方に賭けたんですよ。
そして…賭けに負けた…」
「賭けに負けたら掛け金を支払う…。
踏み倒す奴も…まあいますが、今回の取立を行うのが、天だから、踏み倒せない。
それだけの事ですよ…それだけの…ね」
ギリアムの言葉は…空虚で…とても静か…。
結局その場にいる者たちは…それ以上、言葉を紡げなかった…。
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