ひとまず一回ヤりましょう、公爵様 6

木野 キノ子

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第3章 急転

5 評議会についてのこと

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ケイルクスが止めなかった理由なんて、わかりきっている。
ファルメニウス公爵家を貶めるために…、私をいたぶって…ついでにギリアムを怒らせて、
失礼を働かせ…その上で薬で締め上げる予定だったんだろう。
ついでに…ファルメニウス公爵家の財産の大部分を、せしめる気でいたろうな。

「私も…明確な理由があるなら、お聞きしたいですよ…」

ヒラテスは…確実に自国に報告するだろうなぁ…。

「い…いや…暴徒化して…」

「ツァリオ閣下にお聞きした限りで、席を立ったものは一人もいないのでしょう?
そしてアナタのそばには…護衛がしっかりいたとも。
アナタが…何か拘束されたり、脅されたりもしていない…その状況で、大の男たちが
寄ってたかって、女性一人にモノを投げているのを、止めないとは何事ですか?」

ヒラテスが…ギリアムの言いたいこと、全部言ってくれた…。
まあ、王族同士だと、この先絡むこと多いから…知っておきたいよな…これは、ぜひ。

「あ…えっと…あ…」

どうすんのかねぇ。
ジョノァドにそそのかされた…。
ファルメニウス公爵家への嫌がらせと…力を削ぐため…。
この2つは通常は言いにくいだろうが、この場は内輪しかいない。

「あ…足がすくんで…動けなくて…」

……ま、やっぱり正解にはたどり着けなかったか…。
ヒラテスは…ため息一つつき、それ以上何も言わず、今度は…。

「ツァリオ閣下はなぜ?」

と。

「…私の妻の薬を持っていた…ジョノァドに脅されました。
評議会で…ファルメニウス公爵夫人を少々痛めつけたい…だから、協力しろと。
協力しなければ、薬も薬剤師も与えない…と。
しかし…例え何があろうとも、インク瓶を投げつけているのを、黙認していい
理由にはなりません…」

ツァリオはたぶん…物を投げつけるとは聞いていたが、インク瓶は…聞いていなかったろう。
そこまで聞いちゃ、さすがに…何か裏で動いてもおかしくない。
ジョノァドも…それを察知していたからこそ、そこまでハッキリとは…言わなかったろう。

「お詫びに伺わなかったのも、それが理由ですか」

「はい…何もアクションは起こすな…と、言われていました」

ツァリオは…制約がとれると、かなり潔い。
その方が…特にギリアムやここにいる人達には、好感度アップだ。
ケイルクスにはまだ…それが出来ない。

「ああそうだ、ヒラテス閣下…私はヒラテス閣下の言う患者が…アイリン夫人だと言う事は
わかっています。
ファルメニウス公爵家の情報調査能力をもってすれば…そのぐらいは調べられますので…。
それとも…他に誰かいらっしゃいますか?」

にっこやかーに言うギリアム。

「いいえ…その通りです」

ヒラテスも…ギリアムに嘘をつくのは諦めたっぽい。

「ギリアム公爵閣下…許せないお気持ちはわかりますが…。
何卒ダイロに会わせていただけませんか?
アイリン夫人の状態は…もう本当に、一刻の猶予も無いのです。
しかるべき罰は…人の命を助けてからに、して頂けませんか?」

ヒラテスも…ギリアムの性格をよくわかっているよう。
アイリン夫人は…ひとまず今回の一件に…関与していないし…ね。

「…ダイロは大変な貴族嫌いです…協力するとは思えませんが…」

「私が…説得いたします」

ヒラテスは言う。

「……貴族に対し、非常に横柄で乱暴な物言いをしますよ」

「存じております」

ダイロおっちゃんを知ってる…っていうのは、本当のようだ。

「わかりました…ではここにいる全員に…その事が分かったむね、ご署名を頂きたい。
それが第一条件です」

「え…あの…私一人で…」

「ヒラテス閣下一人なら、お断りいたします。
どうされますか?」

結局…全員が、誓約書に署名した。

「第二の条件…ツァリオ閣下に、評議会に出た人間達が…何をどれだけ投げたのか…事細かに
記して頂きます。
アナタは…目をつぶる人ではないですから」

「了解した」

ツァリオが全ての記録を書き終えたところを見計らい、

「では…ダイロに了解を取ってきますゆえ、しばし席を外します」

ギリアムはそう言うと…さっさと部屋を出てしまった。
もちろん…誓約書と記録は…しっかり携えて。

そして少しのち、戻ってくると、

「では…ダイロの所に案内いたします」

「え…呼んでくるんじゃ…」

ぽそっと言ったケイルクスが、再度、国王陛下にぶん殴られた。

まあただ…通常はケイルクスの言っていることが正しい。
王族に対して、呼びつけるなど無礼極まりない。
だが…今回は勝手が違う。

ギリアムは…自分の速度でスタスタと行く。
その健脚っぷりと来たら、普通の人間では、走らないと追いつけない。
そして…馬車など使わせない。

だから…。

「おい!!ギリアム!!ちょっと待てこら!!」

最初に根を上げたのは、ケイルクス…。

「いい加減にしろ!!これだけ歩くなら、普通は馬車を…」

「私は屋敷内で馬車を使ったことなどありませんが?」

シレっと答える。

「だったらオレは…」

「誓約書を読まれませんでしたか?一人でも脱落者が出たら、この話はご破算です」

ギリアムは…抜け目ないね、ほんと。

「さっさと立て!!」

自身も息が上がっている、国王陛下に蹴り飛ばされる。
ツァリオは少し苦しそうだが、普段鍛えているのか、まだいけそう…。
ローエンは…シレっとしてる…最高齢のハズだが…。

これは…ギリアムの作戦だ…。
人間は…あとどのくらいかわからない状態では、精神的・肉体的な疲弊度が違う。
そして、速度に不規則な緩急をつけ、上り下りが程よくある場所を選んでいる…。

ギリアムは…ローエンじい様以外が疲弊しきった所で…。

「ああ、見えてきました」

ファルメニウス公爵家の端っこにある…掘っ立て小屋(取り壊し予定)に到着。
ダイロおっちゃんに…ここで待っていてもらっている。

ギリアムが扉を叩くと、

「おう、なんだ?」

威勢のいい声と共に、ダイロおっちゃん登場。

「おお、公爵様か…」

ギリアムには笑顔なのだが…後ろの人間達を見て、

「なんだよ、お前ら、オレに何の用だ?」

顔が一気に強張る。

「ダイロ…久しぶりだな…」

ヒラテスが…前に出た…かなり苦しそうだ。

「なんだ、お前かよ。病人は帰って早く寝たらどうだ?」

まあ…疲れて顔色悪いのは確か。

「い、いや…病気じゃないから、安心してくれ…。それより…お前に話があるんだ」

「オレにはねえ!!じゃあな」

ダイロおっちゃんは…良くも悪くも話が早い。

「ゴ、ゴギュラン病の!!第3期移行直前の患者がいるんだ!!
手を貸してくれ!!」

「ヤダよ!!お前の患者じゃ、どうせ貴族だろう?」

「そ、そんな事を言わないでくれ!!私は専門の薬剤師じゃない!!あの状態では…
お前の力が必要だ!!頼む!!」

もう…平身低頭だよ…本当に…。
ホントに王族ですか?…って言いたくなっちゃうぐらい。

「お、お前は!!患者を見捨てる人間じゃないハズだ!!相手は…望みは何でも聞くと
言っているんだ!!」

「じゃ、オレの前に二度と現れるなって言っとけ!!未来永劫だ!!」

「そ、それでもいいから、とにかく助けてくれ!!」

なんだか…会話の脈絡がなくなってきた…。

「とにかく帰れ!!お前の顔がいけ好かねぇって、前も言ったろが!!」

ダイロおっちゃん…生きづらかったろうなぁ…。
あんな喋り方じゃ…敵作って当然だし…。

「私が嫌いで構わない!!だから本当に頼む!!」

それからも…ダイロおっちゃんの罵詈雑言は結構続いたのだけれど…、

「ちっ!!しゃーねぇなぁ…患者って誰だよ!!」

「あ、ありがとう…一緒に来てくれ…」

「患者が誰かって聞いているんだ!!」

これは…ヒラテスが少し…驚いていた。

実はね…ダイロおっちゃんの罵詈雑言のやり取り…通過儀礼みたいなもんなのよ。
だから私も…打ち解ける前は結構やられたよ。
でも…わたしゃ、罵声プレイなんざ前世でやり尽くしているから、否定する所は否定しつつ、
にこにこ付き合ってたら…最近じゃやらなくなった。
そういう…癖を持った人…ってほうが、当たっているんだろうな。

だから…通過儀礼をやった後は、細かい事をあまり言わない。
通過儀礼後のダイロおっちゃんが…患者の事を聞いてくるのは…珍しいのだ。

「あ、あそこにいる…ガルドベンダ公爵閣下の奥様だ…」

「だったらお断りだ、帰れ!!」

「!!!な、なぜ!!」
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