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第3章 急転

4 一路、ファルメニウス公爵家へ

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「これはこれは、国王陛下…一体どのようなご用件でいらしたのでしょうか?」

ファルメニウス公爵家にやって来た、国王陛下御一行を迎えたのは…ギリアムだった。
傍には…フォルト。
私も同席して欲しい…と、通達されていたが、ギリアムは丸っと無視。
まあ今回ばかりは、私も無視でいいや~と、引っ込んだ。

国王陛下側は、ケイルクス・ツァリオ・ヒラテス・ローエンが一緒だった。

ギリアムの問いには、国王陛下が何か答える代わりに、ケイルクスが出て、

「評議会で…オルフィリア公爵夫人がモノを投げられている時…止められなかったこと
大変申し訳なく思っている…いかようにも謝罪したい」

ケイルクスの言葉は…終始平伏しているような色合いを持っているが…。
その裏にある意図を、ギリアムが見抜いていないはずはない。
だから…。

「そうおっしゃるなら…言葉を正確にして、もう一度お願いします」

ギリアムの言葉は丁寧だが…絶対的な拒否がある。
王族が話しかけても無視すれば、かなり失礼になるが、そこはギリアム。
答弁の力も桁外れ…(要は口が超達者)、いくらでも相手の意図をすり抜けつつ、
言葉巧みに出来ると言う事。

「本気で本当に…オルフィリア公爵夫人に謝罪したい!!」

「ありがとうございます」

「だ、だから、ここに呼んで…」

「評議会で受けた心の傷が酷く…今は療養中でございます」

「い、いや…フィリアム商会に顔を出していると…」

「フィリアム商会だから、顔を出せるのです。この場に出られるほど、回復はしておりません」

ギリアムの言葉は…顔の無表情と同じく…かなり事務的だ。

「ち、父上の御前だぞ!!」

「では…私の妻に、無理をして出てきて死ねとおっしゃるのですね?
よくわかりました」

「そ、そんなことは、言ってない!!」

「でしたら、療養をお許しください」

「ほ、ほんのちょっとだけでも…」

「ほんのちょっとも無理だから、最初からいないのです」

ケイルクスは決して…愚鈍ではないが、ギリアムの鉄壁要塞を崩す力は…ない。

「もうよい!!下がれ!!ケイルクス!!」

国王陛下の方が、しびれを切らしたよう。
ギリアムの答弁能力…正確に把握してれば、この押し問答…死ぬまで続くってわかるから。

国王陛下が何か言うかと思いきや…、言葉を発したのはヒラテスだ。

「ごきげんよう、ギリアム公爵閣下…。私を覚えていらっしゃいますか?」

「もちろんですよ、ヒラテス公爵閣下。タルニョリア王国の国王陛下はお元気ですか?」

「ええ…息災でございます」

ヒラテスの言葉は…かなり丁寧だ…。
やはり…ギリアムの実績と知名度のせいだろう。

「実は…ギリアム公爵閣下にお願いがあり、参りました」

「何でしょう?」

「こちらに…ダイロと言う薬剤師がいると、お聞きしました。
彼に…会わせていただけませんか?」

「…何故でしょうか?」

「ゴギュラン病が…この国で猛威を振るい始めている事…お耳に入っているのでは?」

「ええ、もちろん」

「そのゴギュラン病の対策に…どうしてもダイロの力が必要なのです…」

「貴殿の国から、薬剤師と医師を…派遣すればよいではないですか…」

「いずれは…そうするつもりです。
しかし…直近で苦しんでいる患者がおりまして…その治療のためには、どうしても今、
力を振るえる人間が必要なのです」

「どなたでしょうか?」

「実は…私の国からお忍びで来た…高貴な方なのです…。
ですので…是非とも…」

「どなたでしょうか?」

「王族に連なる方ゆえ…」

「どなたでしょうか?」

「何とか内々に…処理して…」

「どなたでしょうか?」

「医者には患者に対する、守秘義務がありまして…」

「どなたでしょうか?」

もう…ギリアムはオウム返しだ。
ギリアムだって、他国の王族に関してなら、もう少し考えると思おうが…。
救おうとしているのが、アイリン夫人だってことは、わかってるから、引かないよね。

「ギリアム公爵よ…」

国王陛下が出た。

「ヒラテスは…我が国とタルニョリア王国の、懸け橋となっている方だ…。
力を貸してやってくれ…」

これには…ギリアムが少し考えこんだ…。
まあ…ケイルクスだけならまだしも、国王陛下と他国の国賓が相手だと…突っぱねるのは
難しい…。
やがてギリアムは…。

「……ヒラテス閣下、そこまでご自分の要望を通されるおつもりなら…タダではないですよね?」

と。

「も、もちろんです、適正料金の他に…」

「いえ、私が欲しいのはお金ではありません。
ヒラテス閣下に二つ…嘘無く答えていただきたいことがあります。
この2つは救いたい方に関することではありませんが、いかがでしょうか?」

ギリアムのいい頭が…冴える。

「……患者に関することでないならば、いいでしょう」

するとギリアムの無表情が、一瞬だけ変わり、すぐ元に戻る。

「私の妻が怪我をした評議会の事…聞いていらっしゃるなら、どう聞いたか…話して頂きたい」

「ま、待て!!それは今回の件とは、何の関係もない!!」

ケイルクス…その行動だけで、ギリアムの予想があってるって言っているようなもんだぞ。

「そもそも今回の一連の事に…評議会は深くかかわっていると、思われますが?」

ギリアムはあくまで冷静に答える。

「と、とにかく患者は一刻の猶予も…」

「ケイルクス王太子殿下…別に話してもよいことと思われますが…どうされたのです?
ギリアム公爵閣下とて、知っている事では?」

「い、いや…双方で事実のとらえ方は違うから…」

ケイルクスは必死だが、

「でしたら…この話はなかったことに…。
問答を続けましょうか」

ギリアム…あくまで冷静だ。

「ケイルクス王太子殿下…。別にいいではありませんか、少しの違いは訂正すればよいでしょう」

ヒラテスが…ちょっと苛ついてきているようだ。
だから、続けざまに、

「オルフィリア公爵夫人が出た評議会の議題が…かなり白熱して…。
一部の人間が暴徒化してしまい…、それにオルフィリア公爵夫人が巻き込まれる形で、怪我をして
しまった…と、お伺いしました」

これは…予想がついていたギリアム以外の…そこにいた人間がひきつった。

じい様から後で聞いたんだけど…ケイルクスは評議会は自分の責任だから、ヒラテスには自分から
話しをするって言って…。
ファルメニウス公爵家への馬車の中、ヒラテスと二人だけにしてもらったらしい…。

ケイルクスは…5年前の戦争時、従軍しなかった。
だから…話しで聞いただけで、どこかわかっていなかったのだろう。
戦時中のギリアムの進軍速度を支えたものの1つ…。
ギリアムが調略を見抜くのが非常に得意なこと。

相手の立場、利害関係、そして…性格を加味し、どういう時に、どういう行動を取るか…。
その即時判断能力が、バカ高いのだ。
フィリーの事に限り…お花畑になるけど、それ以外で騙すのなんか、不可能だと思って接した方が
いい。
ましてヒラテスは…ギリアムと初対面じゃないんだから。

ギリアムがまた…一瞬だけ唇の端を持ち上げ…すぐ戻す。

「なるほど…、では質問2つ目…。
もしヒラテス閣下が自分主体の評議会で…私の妻のように怪我人が出たら、どうされますか?」

「それはもちろん!!何をおいても出来るだけ早く、お詫びにお伺いします。
本人に会えずとも、ギリアム閣下はいるのですから、誠心誠意、お詫びいたします」

そこで初めてギリアムは…とても柔らかく微笑んで…。

「ここにいる皆様は…ヒラテス閣下のこの言葉…どう思われますか?」

まあ…見事に静まり返る中、

「国王陛下…もう、観念した方が、良いのではありませんか?」

ローエンじい様の言葉だった…。
少し…間が開いたが、

「ツァリオ…」

「はい…国王陛下…」

「お前の口から…評議会の真実を…話せ!!」

と。

「ち、父上!!そ…」

そこでケイルクスの言葉が切れたのは…国王陛下がケイルクスを…殴り飛ばしたから。

ツァリオは…まあ、その性格もあるが、何よりジョノァドの呪縛が解けたからこそ…ほぼ確実と
思えるくらい正確な評議会の様を…ヒラテスに伝えた。

ヒラテスはもうね…絶句×10くらいになってた…。

「一体…何をお考えなのですか!!ツァリオ閣下…。
そんな状況で…何をしていらしたのですか!!
それでは…お願いすらできない立場だと、アナタならわかるでしょう?」

「……おっしゃる通りです…、弁解の余地も…ありません」

青い顔のまま…ツァリオの言葉が虚しく響く。

「本当ですよね…フィリーには当たりませんでしたが、フィリーを庇ったフィリアム商会の
役員の頭には…インク瓶が当たって、縫うような怪我を負いました」

「はあ?インク瓶???
そんなもの…当たり所が悪ければ、死にますよ!!」

医学博士じゃなくても…わかることだよなぁ…うん。

「本当に、あの評議会の会場にいた者たちは…何を考えているのやら」

ギリアム…ちょっと芝居がかって、呆れて見せる。

「まあ…だからこそ、聞きたいのですよ…」

ここで…改めてケイルクスを見据え、

「なぜこんな状態で…ケイルクス王太子殿下は、評議会を止めなかったのですかねぇ?」

…と。
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