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第1章 災厄

3 フィリーはひとまず絶好調なんですが…ね…

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私は今日…ギリアムと共に、ファルメニウス公爵家でお客様をお迎え中だ。
ローエンじい様とルリーラとマギー。
その後の報告と…マーサおばちゃんにまた会うためだ。

「まあ…それでは…私の提案におおむね沿う形になったのですね」

「うむ…ローカスやベンズとも相談したんじゃが…現時点で辞めさせられない以上、
その方がいいとな…。
わしも話してみたが…本人は、決して小ずるく立ち回ろうとしているワケでは、ないよう
なのでな…」

「そこが一番、難しいですねぇ」

悪人だから痛めつけていいとは言わないが…、いい人間でもお荷物になって、他の人間に
著しく負担をかけるとなるとなぁ。
まして…何かあれば、命を懸けて戦わなきゃいけない立場なのに…。

「だが…そのジージョン卿とやら…もしかしたら何らかの障害があるのかもな…」

「受け答えは出来るし、五体満足じゃがな…」

「そうだが…ジョノァドは私が子供のころ…ファルメニウス公爵家にだいぶ居座っていた。
その関係で子供もたまに見かけたのだが…ジージョン卿だけは、王立騎士団で初めて見た
のだ。
次男の事は、全く話題に出た記憶が無いから…てっきり子供は2人だと思っていた…」

ありゃまぁ…。

「もしかしたら…精神的な障害があるのかもしれませんね…」

「そうなのか?」

じい様が不思議そうだ。

「はい…まだ全く確立していないのですが…。
一定数、大人になれない…大人になっても子供の精神のままの人がいるのです。
大変分かりやすい場合もあるのですが…軽度だと、本人も周りも気づいていない…と言う事が
あり得ます」

「区別する方法はないのか?」

かなり…のめり込んでくるなぁ…。
まあ、そういうものがあると、辞めさせる一つの手段になるからなぁ。

「残念ながら…ありません。
手や足がなくなるような…わかりやすい特徴があるわけではないのです。
軽度だと…本人の性格なのか、障害なのか…ベテランの医者でも区別がつきません…」

じい様…難しい顔して黙り込んじゃった。
そんなじい様の精神を知ってか知らずか、ルリーラが、

「それにしても…マーサは遅いわねぇ…何かあったのかしら…」

とっても心配そうだ。
そこで私は…、

「じゃあ、みんなで薬草園に行ってみますか?」

じい様の気分転換にもなるし…。
というわけで、みんなでファルメニウス公爵家内にある、薬草園へ。

薬草園は…ハッキリ言って庭園より広いんでない?…と、聞きたくなる状態だった。
ギリアムが…自分も病気で苦しんだからこそ、私の約束とは別に、薬草や薬の研究には
惜しみない援助をしているおかげで、段々と…大きくなったそうな…。

「おっちゃーん、おばちゃーん」

私が2人の姿を見つけ、手を振る。

「おーう、嬢ちゃん!!」

おっちゃんが手を振り返してくれた。
マーサおばちゃんは、

「あらまぁ、いつの間にか、いらっしゃる時間になっていたんですね…。
申し訳ございません」

なんだか焦っていたので、

「ああ、気遣い無用!!オルフィリア公爵夫人に報告もあったからな…」

じい様が言ってくれた。

「しかし…かなりの規模とは聞いていたが…こりゃぁ、凄いのぉ坊主」

ギリアムの坊主呼び…定着しているんだなぁ。

「それはもう…ファルメニウス公爵家と、私の名声全ての力を結集しましたからね」

ギリアムは…気にしてないみたいだから、ほっとこ。

「ちょっと気になっているんだけど…アッチの大きな建物…何かしら?」

マギーが私に聞いてきたから、

「ああ、あれ?冷蔵室だよ…。見てみる?」

「冷蔵室?」

ケイシロンの皆さんに?が浮かぶ。

私たちはその建物の前に…。

「じゃ、これを着てくれる?」

私は…ダウンジャケットを出した…。
フィリアム商会の冬に向けた新作!!ダウンジャケットだ。
大量に手に入れられた綿花で綿を作る…だけじゃなく、表面の素材にもこだわった、
高級志向の逸品!!

そして…中に案内すると…。

「うっわ、さむぅい…」

中の温度は…おおむね平均して10℃に保ってある。

「ファルメニウス公爵家の氷室からの冷気を循環させてな…この温度に保てるように
してあるんだ。
薬草の中には…王都の気候に合わない物もあって、このような設備を作った…。
もう少し離れた所に、薬草用の温室もある」

「随分と…凝ったのぉ…」

ローエンじい様…流石に珍しいらしく…キョロキョロと見回している。
ケイシロンは騎士一筋で、あまり他の事に従事していないからね。

「珍しいお花が沢山咲いているのねぇ」

ルリーラとマギーも、大輪というよりむしろ…小さくてかわいい花たちを愛でている。
そして…ひとしきり見終わって外に出ると…。

「それにしても…この上着はいいわねぇ…あったかいし、軽いし…。
肌ざわりも良くて…とっても高そう…」

「そうでもないですよ…冬の目玉商品として、フィリアム商会で売り出す予定です。
価格は…」

教えて差し上げたら皆様が、

「ええ!!そんなに安いの!!なんで?絹じゃないの?」

と、おっしゃるから、

「いいえ…中の綿も外の覆いも綿ですよ。だから、この価格を可能にしました」

「え~~~~」

綿花が大量に手に入ったからさ…いっちょうやってみた。
超長綿を織り上げ、絹のような肌触りを。

「正直…王立騎士団は人数が多いからな…。
皆の防寒具を良くしよう…と、フィリーが考えてくれたんだ。
これだけコストを下げられれば…何とか支給できるだろうからな…」

どうしても…使えるコストに限界があるからね。

「あ、よければ近衛騎士団にもお譲りしましょうか?ローエン卿」

私が言うと、

「おお、それはありがたい!!自分で基本は用意することが多いから…皆も助かるだろう」

貴族だって…うちみたいに財政のいい家ばかりじゃない。
中には…出稼ぎや口減らし的に近衛騎士団に入る人間もいるんだよね…。
そうなると…支給品は充実していた方がいい。

「王立騎士団だけでなく…近衛騎士団にも良くなって欲しいですから…。
ローカス卿にも言いましたけど…フィリアム商会の商品で良い物があれば、支給品に出来るか
検討してみようと思います」

「いやはや、何から何まで、ありがたい」

こんな感じで…とてもいい雰囲気が作れていたのだけれど…、

「ローエン閣下!!」

遠くから…かなりひっ迫したような、フォルトの声。

「なんじゃ!!どうした!!」

「ギリアム様も…今しがた入った報告なのですが…」

フォルトは…かなり急いできたため、上がった息を整えて、

「クィリグラズィ山脈の近くで…大規模な土砂崩れが起こって…多数の村に被害が…」

「何じゃと!!」

土砂災害だったら…どっちかというと王立騎士団の管轄なんだけど…。
クィリグラズィ山脈の近くには、近衛騎士団の特殊訓練場の1つがあるんだよね。
だから…ローエンじい様に報告が来たのだろう。

「フォルト!!私は今から王立騎士団に行く!!準備しろ!!」

「はい!!」

「ルリーラ!!わしもいったん近衛騎士団に行く!!いつ帰るかはわからんゆえ、そのように
いたせ!!」

「お気をつけて…旦那様…」

ルリーラはそういうが…顔がだいぶ青い…マギーもだ。

「どうしたの?マギー…」

「クィリグラズィ山脈には…今…ローカス様が…」

「ええ!!」

これは…私もびっくり。
王都を離れているとは聞いていたけど…、正確な位置までは把握していなかったから。

「マギー…無理かもしれないけど、出来るだけ心を強く持って!!
絶対に大丈夫だよ…」

私は…マギーを抱きしめ、背中をさすってあげる…。

王都はこの日…様々な場所で、千差万別の…激震が起こった…。
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