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第4章 結婚
13 フィリーの展望
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「今一度…オルフィリア公爵夫人の優先順位とやらを、お聞きしても?」
2人が真剣な眼差しを向けて来る。
「もちろん…。
まずは今一番力を入れている、―――の商品確保…及び速やかなる運営開始です」
「そして2番目は…現在総括部の他3人にお願いしている、施設の速やかなる建設完了。
急ピッチで進めているが、納期ギリギリになると連絡を受けています。
だから今…あの3人を王都に戻すことは、よほどのことが無い限りできません」
「お二人もご存じの通り…今建設中の施設は、一見すると娯楽施設に見えますが、
立派な医療施設…冬前には何としても完成させたい…。
でないと、完成が翌年春以降になってしまうかもしれませんから」
この世界に除雪車とか工事用の大型車両なんてもの、一切ないからね。
雪深くなったら、作業はすべてストップなんよ。
「フム…重要と思えるものは出来れば一つ…どうしてもなら2つまでしか抱えない事…が
オルフィリア公爵夫人のお考えでしたな…」
「そうです…」
私はカップを置き、
「一見すると皆がそれぞれの仕事を、しっかりしてくださってうまく回っていますが…、
逆に言えば、誰かに何かが起こった場合、サポートに入れる人員が今、いないのです」
残った紅茶に目線をやる。
「つまり…どこかに綻びが生じれば、一気に総崩れになりかねない状況…。
この状況で欲張るには…ガルドベンダ公爵家はデカすぎる」
「そして…」
「大変申し訳ないのですが、私の方でも…できれば交流会までに片付けてしまいたい案件が
発生したのです」
「ほう…なんですか?」
「フィリアム商会関係でも…ファルメニウス公爵家関係でもないですし、そもそも手掛けることに
なるかも、上手くいくかもわからない…あまりに不確定要素が大きい物なのです。
そして期限も決まっていないから…もう少し先延ばしにしようかと思っていたのですが…」
2人は顔を見合わせている。
申し訳ないが、この件については、今詳しく説明できんのよ。
「ただ先延ばしにしよう…と、思えば思うほど…私の中の何かが叫ぶのです。
この問題を先延ばしにしてはいけない!!と」
口に出せば出すほど、抽象的になっちまう…。
「だからガルドベンダ公爵家の一件は…ここでいったん、第一幕を締めようと思うのです…。
皆さんの気持ちの良いようには、解決できなくて申し訳ありませんが…」
制服の件だって…ある意味腕試しのつもりで応募したんだ。
だから生産ラインは全く回していない。
落選したところでさして傷は無いし、当選したら、急ピッチで生産ラインを回すだけ。
生産ラインを回すのに、上がずっと待機していなきゃならない、理由は無いからね。
「そのようなことを、おっしゃらずに」
「そうですよ。
そもそも指揮下に入ったのです。
今更文句など言うなら、最初から加わらぬか、陣頭指揮をとると宣言するべきですよ」
本当に…良質な人たちだよ…。
ヘドネは幸せもんや。
「ありがとうございます、本当に…私は幸せ者ですよ、皆さんがいてくれて…」
「いえいえ、オルフィリア公爵夫人の今までの行いが、招いたことです」
「その通りですよ…」
なるほどね…それなら…。
「ふふ…なら…スタリュイヴェ侯爵は今後…大変なことになるかも…ですね」
「!!」
するとやっぱり二人は、わけわからんって顔になる。
「スタリュイヴェ侯爵とは…ガチンコで争わなくても済むことになるかもしれない…という事です」
実際今日見て思ったんだけど…あれは一筋縄ではいかんタイプだ。
ガルドベンダ公爵家はもちろん、スタリュイヴェ侯爵も相手するなら気合い入れていかなければ
大やけどする。
「それは…どういう事でしょう?
天誅でも喰らうという事でしょうか?」
「ん~、実は私…天誅ってものは、この世にないと思っております」
「そうなのですか?」
「ええ」
だって天誅なんてもんがあるなら、舞子さんが死んだのも、私を…刺そうとした男が結局刑務所でて
普通に生きてたのも…説明がつかん。
あの男の顔も体も…私は覚えていたからね。
いくら厚着してごまかしたって、私にゃ丸わかりだった。
見かけたんだよ…一度…。
私が死ぬ直前に…町であの男をね。
多分私が死んだ後も…あの男は現代日本で生きてんだろーなぁ。
「エリオット卿なら少し、わかるのではないですか?」
「え?」
「あなたの領地で…自然災害によって、たくさんの人が死にましたよね…」
「ええ…」
途端に痛々しい顔になる。
ごめんよ…でも、わかりやすい例だからさ。
「その中には悪人もいたと思いますが、大半は真面目に生きていた善人でした…。
それ一つ取ったって、わかります」
「……」
「天が人の命を奪う時…おそらく悪人か善人かなど、考えていないのです。
ただサイコロの目のように…当たった人の命を奪うだけ…。
奪い方は様々でも、私はこれが真実だと思っていますよ」
「ただ…」
「たまたま天の差配が悪人に行き…たまたまそれが酷い死にざまだった時…人間がそれを
天誅と呼ぶようになっただけ…そう思います」
なんか、2人とも黙っちゃったねぇ。
だってさぁ、歴史上実際いるよ?
すっごい悪人にも関わらず、安らかーに死んだ人。
「では…スタリュイヴェ侯爵はどうやって、酷い目に合うと?」
「ん?スタリュイヴェ侯爵が今後酷い目に合うとしたら…それは天誅ではなく…間違いなく
人!誅!です」
2人が何度も顔を見合わせつつ、
「もしそうなった場合…オルフィリア公爵夫人の見えていたものを、教えていただけますかな?」
「もちろん!!必ずお伝えします」
すると少し間を置き、2人が笑いながら、
「わかりました。
それではその時を、楽しみに待つと致しましょう」
言った。
やれやれ…自分の幸運に感謝しなきゃね…。
ここでごねられると、今一番やらなきゃならない、大切なことに支障が出るから。
こうしてこの後は…それぞれの妻君も加わり、他愛のない楽しいおしゃべりを、しばし楽しんだのだ。
---------------------------------------------------------------------------------------------
「そうか!!ガルドベンダ公爵家に恩を売るなんて、凄いじゃないか!!」
ケイルクス王太子殿下は、久々に陽気な声を出している。
「ええ、それはもう…」
スタリュイヴェ侯爵が、やっぱり能面のような笑顔を顔に張り付けている。
「そして…私も外せと言ったことで、フィリアム商会は確実に外されるでしょう…そうすれば…」
「どこが選ばれたとしても…キンラク商会のもうけになる…と」
後で分かったことだけど…フィリアム商会を除くすべての商会が…キンラク商会のサバクアシを購入し、
作った服で応募していたんだ…。
「よっしゃ、よっしゃー!
運が向いてきた…」
飛び上がって喜びそうな勢いだ。
「ああ、あと…オルフィリア公爵夫人にも会いました…やはり、一筋縄ではいかない人物のようです」
するとケイルクス王太子殿下は、途端にしかめっ面になり、
「だよな~、あんなのが隠れていたなんて…本当に驚きだよ」
ため息をつく。
「私が引きずり下ろしましょうか?」
スタリュイヴェ侯爵の言葉に、
「出来るのか?」
「ええ…ちょうど今日、ガルドベンダ公爵家に借りを作りましたし…上手く使えば…」
「うおお、マジか!!よし!!やれ!!」
するとスタリュイヴェ侯爵が、笑ったままの口の端を、少し広げ、
「もし私が…オルフィリア公爵夫人を追い出すだけでなく…王家傍流のご令嬢を、ギリアム公爵閣下に
嫁がせることに成功したら…ケイルクス王太子殿下は、どうされますか?」
するとケイルクス王太子殿下は、一瞬だけ呆けたような顔をしたが、すぐに大笑いし、
「もしそんなことが出来たら…父上に言って、お前を公爵にしてやるよ…」
「そのお言葉…お忘れなく…」
「もちろんさ~」
いつまでも笑うケイルクス王太子殿下。
「ところで…この前お話した件は、どうなっておりますか?」
「ん?あ、そっか…ちょうどいい、オリバー」
ケイルクス王太子殿下が何やら耳打ちすると、オリバー卿は静かに部屋から出た。
ほどなくして…。
入って来たのはローカス卿だった。
「何か御用でしょうか…?」
心なしか、少し苛ついているようだった。
「あれ…?ベンズ卿も一緒にって言ったんだが…」
「少々トラブルが起きまして…2人同時には無理と言ったら、オリバー卿にオレだけでも…と言われた
もので」
「そ、そうか…悪かったな…」
「いいえ…ただ、手短にして頂けると助かります」
やっぱり機嫌が悪いローカス卿だが…。
ただその機嫌の悪さは、ケイルクス王太子殿下ではなく、明らかに他の人間に向いているようだった。
「この前話した件…答えを聞かせてもらいたくて…な」
ケイルクス王太子殿下とローカス卿は、クレアのお茶会の件以降、ギクシャクしているが、今もそのままの
ようだ。
2人が真剣な眼差しを向けて来る。
「もちろん…。
まずは今一番力を入れている、―――の商品確保…及び速やかなる運営開始です」
「そして2番目は…現在総括部の他3人にお願いしている、施設の速やかなる建設完了。
急ピッチで進めているが、納期ギリギリになると連絡を受けています。
だから今…あの3人を王都に戻すことは、よほどのことが無い限りできません」
「お二人もご存じの通り…今建設中の施設は、一見すると娯楽施設に見えますが、
立派な医療施設…冬前には何としても完成させたい…。
でないと、完成が翌年春以降になってしまうかもしれませんから」
この世界に除雪車とか工事用の大型車両なんてもの、一切ないからね。
雪深くなったら、作業はすべてストップなんよ。
「フム…重要と思えるものは出来れば一つ…どうしてもなら2つまでしか抱えない事…が
オルフィリア公爵夫人のお考えでしたな…」
「そうです…」
私はカップを置き、
「一見すると皆がそれぞれの仕事を、しっかりしてくださってうまく回っていますが…、
逆に言えば、誰かに何かが起こった場合、サポートに入れる人員が今、いないのです」
残った紅茶に目線をやる。
「つまり…どこかに綻びが生じれば、一気に総崩れになりかねない状況…。
この状況で欲張るには…ガルドベンダ公爵家はデカすぎる」
「そして…」
「大変申し訳ないのですが、私の方でも…できれば交流会までに片付けてしまいたい案件が
発生したのです」
「ほう…なんですか?」
「フィリアム商会関係でも…ファルメニウス公爵家関係でもないですし、そもそも手掛けることに
なるかも、上手くいくかもわからない…あまりに不確定要素が大きい物なのです。
そして期限も決まっていないから…もう少し先延ばしにしようかと思っていたのですが…」
2人は顔を見合わせている。
申し訳ないが、この件については、今詳しく説明できんのよ。
「ただ先延ばしにしよう…と、思えば思うほど…私の中の何かが叫ぶのです。
この問題を先延ばしにしてはいけない!!と」
口に出せば出すほど、抽象的になっちまう…。
「だからガルドベンダ公爵家の一件は…ここでいったん、第一幕を締めようと思うのです…。
皆さんの気持ちの良いようには、解決できなくて申し訳ありませんが…」
制服の件だって…ある意味腕試しのつもりで応募したんだ。
だから生産ラインは全く回していない。
落選したところでさして傷は無いし、当選したら、急ピッチで生産ラインを回すだけ。
生産ラインを回すのに、上がずっと待機していなきゃならない、理由は無いからね。
「そのようなことを、おっしゃらずに」
「そうですよ。
そもそも指揮下に入ったのです。
今更文句など言うなら、最初から加わらぬか、陣頭指揮をとると宣言するべきですよ」
本当に…良質な人たちだよ…。
ヘドネは幸せもんや。
「ありがとうございます、本当に…私は幸せ者ですよ、皆さんがいてくれて…」
「いえいえ、オルフィリア公爵夫人の今までの行いが、招いたことです」
「その通りですよ…」
なるほどね…それなら…。
「ふふ…なら…スタリュイヴェ侯爵は今後…大変なことになるかも…ですね」
「!!」
するとやっぱり二人は、わけわからんって顔になる。
「スタリュイヴェ侯爵とは…ガチンコで争わなくても済むことになるかもしれない…という事です」
実際今日見て思ったんだけど…あれは一筋縄ではいかんタイプだ。
ガルドベンダ公爵家はもちろん、スタリュイヴェ侯爵も相手するなら気合い入れていかなければ
大やけどする。
「それは…どういう事でしょう?
天誅でも喰らうという事でしょうか?」
「ん~、実は私…天誅ってものは、この世にないと思っております」
「そうなのですか?」
「ええ」
だって天誅なんてもんがあるなら、舞子さんが死んだのも、私を…刺そうとした男が結局刑務所でて
普通に生きてたのも…説明がつかん。
あの男の顔も体も…私は覚えていたからね。
いくら厚着してごまかしたって、私にゃ丸わかりだった。
見かけたんだよ…一度…。
私が死ぬ直前に…町であの男をね。
多分私が死んだ後も…あの男は現代日本で生きてんだろーなぁ。
「エリオット卿なら少し、わかるのではないですか?」
「え?」
「あなたの領地で…自然災害によって、たくさんの人が死にましたよね…」
「ええ…」
途端に痛々しい顔になる。
ごめんよ…でも、わかりやすい例だからさ。
「その中には悪人もいたと思いますが、大半は真面目に生きていた善人でした…。
それ一つ取ったって、わかります」
「……」
「天が人の命を奪う時…おそらく悪人か善人かなど、考えていないのです。
ただサイコロの目のように…当たった人の命を奪うだけ…。
奪い方は様々でも、私はこれが真実だと思っていますよ」
「ただ…」
「たまたま天の差配が悪人に行き…たまたまそれが酷い死にざまだった時…人間がそれを
天誅と呼ぶようになっただけ…そう思います」
なんか、2人とも黙っちゃったねぇ。
だってさぁ、歴史上実際いるよ?
すっごい悪人にも関わらず、安らかーに死んだ人。
「では…スタリュイヴェ侯爵はどうやって、酷い目に合うと?」
「ん?スタリュイヴェ侯爵が今後酷い目に合うとしたら…それは天誅ではなく…間違いなく
人!誅!です」
2人が何度も顔を見合わせつつ、
「もしそうなった場合…オルフィリア公爵夫人の見えていたものを、教えていただけますかな?」
「もちろん!!必ずお伝えします」
すると少し間を置き、2人が笑いながら、
「わかりました。
それではその時を、楽しみに待つと致しましょう」
言った。
やれやれ…自分の幸運に感謝しなきゃね…。
ここでごねられると、今一番やらなきゃならない、大切なことに支障が出るから。
こうしてこの後は…それぞれの妻君も加わり、他愛のない楽しいおしゃべりを、しばし楽しんだのだ。
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「そうか!!ガルドベンダ公爵家に恩を売るなんて、凄いじゃないか!!」
ケイルクス王太子殿下は、久々に陽気な声を出している。
「ええ、それはもう…」
スタリュイヴェ侯爵が、やっぱり能面のような笑顔を顔に張り付けている。
「そして…私も外せと言ったことで、フィリアム商会は確実に外されるでしょう…そうすれば…」
「どこが選ばれたとしても…キンラク商会のもうけになる…と」
後で分かったことだけど…フィリアム商会を除くすべての商会が…キンラク商会のサバクアシを購入し、
作った服で応募していたんだ…。
「よっしゃ、よっしゃー!
運が向いてきた…」
飛び上がって喜びそうな勢いだ。
「ああ、あと…オルフィリア公爵夫人にも会いました…やはり、一筋縄ではいかない人物のようです」
するとケイルクス王太子殿下は、途端にしかめっ面になり、
「だよな~、あんなのが隠れていたなんて…本当に驚きだよ」
ため息をつく。
「私が引きずり下ろしましょうか?」
スタリュイヴェ侯爵の言葉に、
「出来るのか?」
「ええ…ちょうど今日、ガルドベンダ公爵家に借りを作りましたし…上手く使えば…」
「うおお、マジか!!よし!!やれ!!」
するとスタリュイヴェ侯爵が、笑ったままの口の端を、少し広げ、
「もし私が…オルフィリア公爵夫人を追い出すだけでなく…王家傍流のご令嬢を、ギリアム公爵閣下に
嫁がせることに成功したら…ケイルクス王太子殿下は、どうされますか?」
するとケイルクス王太子殿下は、一瞬だけ呆けたような顔をしたが、すぐに大笑いし、
「もしそんなことが出来たら…父上に言って、お前を公爵にしてやるよ…」
「そのお言葉…お忘れなく…」
「もちろんさ~」
いつまでも笑うケイルクス王太子殿下。
「ところで…この前お話した件は、どうなっておりますか?」
「ん?あ、そっか…ちょうどいい、オリバー」
ケイルクス王太子殿下が何やら耳打ちすると、オリバー卿は静かに部屋から出た。
ほどなくして…。
入って来たのはローカス卿だった。
「何か御用でしょうか…?」
心なしか、少し苛ついているようだった。
「あれ…?ベンズ卿も一緒にって言ったんだが…」
「少々トラブルが起きまして…2人同時には無理と言ったら、オリバー卿にオレだけでも…と言われた
もので」
「そ、そうか…悪かったな…」
「いいえ…ただ、手短にして頂けると助かります」
やっぱり機嫌が悪いローカス卿だが…。
ただその機嫌の悪さは、ケイルクス王太子殿下ではなく、明らかに他の人間に向いているようだった。
「この前話した件…答えを聞かせてもらいたくて…な」
ケイルクス王太子殿下とローカス卿は、クレアのお茶会の件以降、ギクシャクしているが、今もそのままの
ようだ。
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