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第4章 結婚

8 王家の失態

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本の内容、かいつまんで書きます。

昔々あるところに、悪い魔法を使う男爵令嬢がおりました。
男爵令嬢は悪い魔法で、ある国の公爵閣下を虜にし、好き勝手し始めました。
商会の者たちを使い、あこぎな金稼ぎをし、皆を泣かせました。
周りの善良な人々に、日々横暴なふるまいをし、困らせました。
公爵閣下は、男爵令嬢の悪い魔法にかかっているので、止めることはありません。
しかしそんな公爵閣下の元に、ある日聖女が舞い降り、公爵閣下の魔法は解けました。
正気に戻った公爵閣下は男爵令嬢を断罪し、聖女と末永く幸せに暮らしましたとさ。

…う~ん、ま、一部の恋に恋してる女子には…受けそうやな、うん。

「でもオルフィリア公爵夫人…」

なにかね?レオニール卿。

「このドロシーって作者…やっぱ団長が好きで、こんなもの書いたんですよね?」

「ん~、私の勘ですが、ギリアムに恋慕の情は無いですよ、この人…」

「え…?」

あ、ギリわんこ驚いてる。
また、いつものパターンと思っていたか。

「私はギリアムと一緒にいる状態で、ドロシー嬢に会いましたが…私を見る目に怒りは
ありましたが、嫉妬は無いように見えたのです」

「じゃあ、単純にガルドベンダ公爵家への無礼が原因ですか?」

「それも…もちろんあると思いますが、少し違ったものもありますね…」

ああ、皆わからなくなったみたいね。
まあ…私も前世の経験が無かったら、わからなかったろうな。

「原稿には…悪役の部分を、直前に私の実名に直した後はありましたが…そもそもその前から
男爵令嬢とは書いてあったんです。
つまり結構前から、男爵令嬢を悪役にした物語を書いていたんですよ…。
それが誰であるのかは、正直分かりません」

「しかし…内容からオルフィリア公爵夫人にしか思えませんが…」

「ん~、難しいですが…昨今の男爵家は、商会を持っていない所の方が珍しいですから…」

だって、国が土地や金、序列下に行くほどくれなくなっちゃったからさぁ。
商売しなきゃ、やってけないのよ、みんな。

「そこから推測するに…身分違いの恋をしているカップルに…ドロシー嬢が横恋慕している…
と、私は推測します」

「ではなぜ、オルフィリア公爵夫人がこの物語の主人公に?」

「ん?そりゃ、ガルドベンダ公爵家に対して無礼を働いたからですよ。
そして内容が…一致するところが多かったんでしょうね。
だから、私の事として…発表したってのが可能性として大きいと思います」

「どんな理由だとしても…私はフィリーを傷付ける者は、容赦なく叩きます」

「わかっておりますよ、でも…今回は優先順位がありますので、それはしっかり守ってください」

「はい…」

素直でよろし。

「ところで…ご結婚されて、お名前で呼ぶようになったのですか?」

へ?…あ。

「は、はい…」

としか、答えようがねぇ。
何か…色々ありすぎて、しくじった…。

「私のたっての希望だったんだ…でも、フィリーはしっかり形が決まるまで、節度は守るように…と」

こーゆーとこで、私の株をサラッと上げてくれるのは、ありがたいね。
ひとまずまあ…王立騎士団での話は、だいたいできたから、良しとしよう…うん。


-------------------------------------------------------------------------------------------------


「一体全体!!どういうことだぁ―――――――――――っ!!?」

怒気を含んだ咆哮に、広い一室に集められた貴族たちが、一様に震えている。
声の主は…ケイルクス王太子殿下だ。

よく見れば…部屋の隅に、ベンズ卿が待機中だ。

ただ震えるだけで、何も言わない貴族たち…。
沈黙だけが、雄弁に語る中、

「ただ今戻りました…」

ローカス卿帰還…、そして、

「お待たせしました、ケイルクス王太子殿下」

オリバー卿も、続けて部屋の中に入って来た。

「おお、2人ともご苦労!!わかったことを報告してくれ」

そしてローカス卿とオリバー卿…二人の報告は、ほぼ同じ内容になった。
まずは印璽を全く別の物に変え、貴族をバカにすることが好きな、ズサンな役所支部に行き、手続きを
行った…と。

2人の報告を聞いた王太子殿下が、さらに激怒して、

「本部だけじゃなく、支部に対しても…ファルメニウス公爵家の使用人と、ステンロイド男爵家の人間の
肖像画を、配ったハズだろうが!!」

「そ、それはご指示通り、しっかりとやりました!!」

「だったら何で…」

「提出されたリッケルト・ステンロイド男爵の顔が…全くのデタラメだったからですよ」

ローカス卿が唐突に答えた。

「な、なに?」

ケイルクス王太子殿下は狐につままれたようになった。

「オルフィリア公爵夫人に、両親の似顔絵を見せて確認を取りました。
母親の方はあっているが…父親の方は似ても似つかないと言っていましたよ」

「こうも言っていましたね…。
貴族や社交界で…父親の顔を正確に覚えている人なんて、いないって。
そもそも貴族の付き合い自体、若いころから嫌って逃げ回っていた人だし、手続きは父親が行く必要の
無いものは、全て母親が単独でしていたらしいです」

「社交界なんて出た回数は片手で足りるだろうし、それだって、本人が出たかったわけじゃなく、
人数合わせのために、無理やり連れていかれたものだったらしいです」

そう、ウチのパパンは気弱ゆえ、ドナドナされると逆らえない。
まあ、ドナドナされた先で、ママンと知り合ったらしいから、それだけは感謝してるって言ってたけど。

私はこの全く違う似顔絵を、逆にどう描いたのか知りたくて聞いたら、ママンと知り合った当時…
パパンと多少なりとも付き合っていた人達に、聞いたらしい。
いや…20年近くも離れていた人間の顔…とくに、どうでもいい人だったら、似顔絵に出来るくらい
正確な特徴を覚えているのって…、ギリアムやツァリオ閣下レベルの頭脳が無きゃ、無理だよ。
私だって40年前に見れなくなった舞子さんの顔は、写真なんか無くたって鮮明に覚えているけど…
同僚…特に影の薄かった同僚の顔なんざ覚えてねぇ。
そして間違いなく、ウチのパパンは影の薄い人だ。

「そもそもギリアムを警戒して、何に使うかも王家の名も言わなかったんでしょ?
多分…覚えていないから、仲間内で適当に書いたものを出したんですよ」

「なんだよ、それぇ…」

蓋を開けてみれば…何ともお粗末な結果である。

「じゃ、せめてどこで出したか、わからないのか!!
名前を確認すればよかったハズなのに、そんないい加減な…!!」

「時間かければ探せるかも…ですが…、難しいと思ったほうがいいですよ」

ローカス卿が呆れたように、言う。

「そもそも…もう何年も前から、ギリアムに忠告を受けていたじゃないですか…」

本部以外の支部のハンコは…一律で同じ形をしているのだ。
そのため支部での手続きは、どこで行われたか、判別が不可能なのだ。
これだと、例え横柄な対応や、酷い対応をされたとしても、どこの支部だか立証できない。
それをいいことに、態度を助長させたり、犯罪者がうまく利用する事例が後を絶たないのだ。

だから特に、キンラク商会が軌道に乗り始めた2年ぐらい前から…ギリアムは頻繁に、王家に対し、
支部の見直し、人員の監視やハンコを区別できるようにした方がいいと、口を酸っぱくして
言ってきた。

しかし軌道に乗ってきたとはいえ、まだまだ余裕しゃくしゃくにはなっておらず、またサバクアシに
投資したかった王家は、この件を渋って、結局何もしなかった。

「その後、役所支部で何か起こるたび…ギリアムは色々改善を提案してきました。
決定的な何かが起こる前に、対処した方がいいって。
けど…、そのたびに突っぱねてきたでしょう」

そう、何だかんだ、のらりくらりとかわしてきた。
これにはちゃんと理由がある。
ギリアムは下々の者には、大変優しい。
だから、結局は人々を憂いたギリアムが、私費を投じると言ってくるだろうと。
もちろんギリアムは…そんな王家の考えを見抜いていたから、そのたびに、

「大やけどを負うのが…何も下々とは限らないと思いますが、わかってらっしゃいますか?
それでも動かないのですか?」

と、再三言ってきたのだ。
……みごとな大やけどを負ったねぇ、王家よ。

「念のため言っておきますが…この婚姻届け提出の一連の行動は…全くの違法性のない、正当なもの
だから…いちゃもんつけるのはまず無理ですよ。
まして取り消し請求なんか、天地がひっくり返ったってあるわけはない」

え~、いつの世も、婚姻届を勝手に出す輩はおるのですよ。
だから今回パパンが提出した婚姻届を、ギリアムとギリアム父は身に覚えが無ければ取り消し請求を
することができる。
え?
私は?
出来ないよ。

…………………………………だって。
この世界での女の地位って…昔の戦国時代みたいに、道具として見られているからさ~。

女舐めんじゃねぇ――――――――――――――――――――――――――っ!!!!!

「つまりもう、チェックメイトです。
それでも提出先の役所支部を、探し出したいなら止めませんけど…。
けど役所職員を罰するのは、難しいと思いますよ。
書類を見なかった…ということを、立証するのは事実上不可能ですし…。
そもそも婚姻届がどこの役所支部で出されたかも、立証できないでしょう?
まして婚姻届を無効にするなんて、夢のまた夢ですよ」

監視カメラがあるわけじゃないからねぇ…。

「だいたいギリアムは、目的が果たせるなら、自分のカッコつけなんか一切気にしない。
支部で婚姻届を提出したことも、誰も顔さえ知らないリッケルト・ステンロイド男爵に提出させた
ことも、影でひそひそ言われたって、面と向かって言ってくる人間がいないことはわかっている。
逆に面と向かって言える奴がいたら、オレは一度近衛騎士団に入れてみたいですよ。
性格の良し悪しはさておき、ガッツはありますからね」

ケイルクス王太子殿下は、机に顔を押しつけたまま、微動だにせず…。
まあ…この人バカ王女ほど馬鹿じゃないからなぁ。

「お前は…」

「はい?」

「お前はどっちの味方なんだよぉ…」

先ほどとは打って変わって、声が小さい。

「どっちの味方ではなく、一般論と、それに基づいた考察を述べております」

何だかローカス卿のため息が、聞こえてきそう…。

「とりあえず…」

「はい?」

「役所支部の調査…」

「わかりました。
諜報部に声をかけて、参謀長に来るよう言っておきます」

「はぁっ!!ちょっと待て!!」

王太子殿下が、机から顔を勢い良く上げる!!

「何でアイツなんだよ!!」

「……そもそもそういう時のために、作った部署ではありませんでしたか?」

ローカス卿は呆れ顔を隠さない。
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