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第4章 結婚

7 王立騎士団の鬱憤

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さて…私たちが正式に結婚した翌々日…王立騎士団へ、ご挨拶とこれからの相談をしに
行くことにしたのだが…。

「ギリアム、せっかく晴れの日なんだから、その顔いい加減やめたらどうですかぁ?」

話が合わなくなると困るので、例の本を見せたのだが…。
まあ、予想通り見事にぶすくれてしまった。

「私は原稿と本を、全て燃やしたいです…」

「気持ちはわかりますが、証拠品なんですから、ダメですよぉ」

「わかっています…」

ああ、しゅんとしちゃったね、ギリわんこ。
後で慰めてあげるから、ちょっと我慢ね。

そして王立騎士団につくと…。

一言で言うと、これ以上は無いってくらいの歓迎ムード&祝賀ムード。

私は団員たちに出来るだけ挨拶しつつ、ギリアムと一緒に色々な話をお立ち台でして、
ひとまず団員たちは、通常業務に戻っていった。

そしてギリアムの執務室には、いつものメンバーが。

「私に聞きたいことは、色々あるかと思いますが…、まず差し当たっては近衛騎士団との
交流会をどうするか…その話をしたいと思います」

皆色々聞きたいことはあるだろうが、そこは優先順位をキッチリわかっている人たち。
黙って私の話を、まずは聞いてくれた。

「…という感じで、私は交流会をやろうと考えております。
いかがですか?」

「これは…随分と前例のないことを、しようとされていますね(テオルド)」

「でも、いいんじゃないですか?
堅苦しいの苦手ですし、オレ(ガイツ)」

「そうですね…王立騎士団は実力本位主義をうたっているのだから、まさにうってつけ
かもしれませんね(リグルド)」

「これってテーマ分けして、何種類かやるといいですね。
それぞれ得意な物って、違うと思うし…(ヴァッヘン)」

「お、その意見さんせー(レオニール)」

「そうすると…我々だけでなく、団員たちの意見も聞いた方がいいですね…。
あまりにも種類が出すぎたら、投票にするのもいい(デイビス)」

うんうん、みんな、やっぱ優秀だねぇ。
私の仕事が少なくて助かるぅ~。

「おっ邪魔っしま~す」

おお、ちょうどいいところにローカス卿。
まあ、絶対来るだろうと思っていたけどね。

「お、オルフィリア公爵夫人!!
ギリアムとの結婚、めでたくないかもしれないけど、一応おめでとう」

「どーゆー意味だ!!」

ギリアムの鋭い睨みが入るが、ローカス卿はシレっとしている。

「今ちょうど、交流会の話をしていたのです。
まだざっくりとしか決まっていませんが、よろしかったら聞いて行かれますか?」

「マジ?助かる~」

「あとその後、私たちの婚姻届けを出したいきさつも、みんなに話そうと思っていましたので、
どうぞ、聞いてってくださいな」

ここまで言うと、さすがにローカス卿は…、

「オルフィリア公爵夫人…やっぱ全部お見通しですかぁ?」

わかったようだ。

「そりゃーもう!!交流会の事は近衛騎士団団長としても、一大イベント…気になるのは当然です。
そして私たちが婚姻届けをどうやって出したか…は、王家から探りを入れるよう、言われたので
しょう?まあ、あちらも大体の調べをつけているとは思いますがね」

にっこやかーに言って差し上げた。
ローカス卿、めっちゃバツ悪そうだね。

王立騎士団と近衛騎士団の交流会…実は伝統行事ではあるのだが、私に言わせれば非常に悪しき
伝統に見えた。
建国以来、武のファルメニウス公爵家は必ずと言っていいほど、王立騎士団団長か近衛騎士団団長の
どちらかをやって来た。
そして武のファルメニウス公爵家にすべての軍人が従うのがルール。

だから…例外はあるのだが、武のファルメニウス公爵家の当時の当主が、どちらに所属しているかに
よって、どちらかがどちらかに、臣下の礼に近い行動を取ることを、強要するのも暗黙の了解化して
いるようだった…。

これを知った時、私は思った!!

昔の連中、いろいろ諸々うっぜーよ!!

てめぇらが何したいのか知らんし、知りたくもないわ!!

伝統?伝統ってのは、人を幸せにして、初めて伝統って言えんじゃ、ボケ!!

悪しき伝統なんてくっそくらえじゃぁ、タコ!!

このヘドネを主催者にしたからにゃぁ、楽しめないもん作るか、アホ!!

私は先ほど皆にした、交流会をどういう風にやろうとしているかを、話した。
すると、ローカス卿は眼を輝かせて、

「すっげー、オルフィリア公爵夫人!!この交流会、すごくいいよ!!」

「そう言っていただけると、思っておりました。
そもそも悪しき伝統など、粉々に砕いて更地にした上に、良き伝統を作っていくのが、私と
ギリアム様の主義でございますので」

「すっばらしい!!本当に素晴らしい!!」

「ローカス卿はフィリーばかり褒めるな…、私だっているのに」

そんなギリアムを丸っと無視したローカス卿は、ひたすら私だけを褒めまくった。

そして改めて…私はギリアムとの婚姻届けを、どうやって出したかを話した。
あ、もちろんねずみ様の話は伏せますよ。
体裁わるいから。

役所の支部って言うのは、一部ほんと~に、質が悪い。
強く出ても構わない貴族と見るや、書類を投げつける、書いた後、わざと汚す。
貴族相手の場合、ハンコを押したり切り離したりは、原則役所がやるのだが、すべて貴族に
やらせる…ウチのパパンは気にしないだろうが、通常の貴族にとっては、こういった事は
最高の侮辱になる。
あ、フォルトが以前、建国記念パーティーにまつわる書類を自分で切り離したのは…フォルト
本人の希望だからいいの。
そもそも昔からフォルトは書類の扱いに、非常にこだわりを持っていたため、自分で切り離す
スタイルを取ってるって、王宮の役所本部の人間は、みんな知っているから。

だからそういう質の悪い所を狙って、私の父に行ってもらいました…と、お話したの。
役所支部の一部の質の悪さは、そこにいるみんなが常識のように知っていたから、納得して
貰えたよん。

「んじゃ、オレそろそろ帰るわ」

「あ、ローカス卿…」

「ん?」

「今日は…色々あって、何も持ってきていませんが…、これからも新商品をどしどし持ってくる
予定ですから、次を楽しみにしていてください」

「あ~、わかった、サンキュ」

そう言って帰っていった。

そして…。

「あの…オルフィリア公爵夫人…」

レオニール卿だ。
やっぱりか…、耳が早いなぁ。
ま、その腕を買われて、第3師団の団長になったんだけどね。

「例の本の件ですか?」

「はい…昨日読んで…びっくりしました」

見れば他のみんなも、レオニール卿と同じような目をして、こちらを見ていた。
発見した時点で、みんなに回したんだな。

ああ、ギリアムがまたしっぶい顔になっとる。

「まず…あの本に関して、出版を急がせたのは私ですので、そこをまずお話しておきます」

あの本…ってのは、皆さま予想がついているかもしれませんが、ドロシーが執筆した私を
卑下する物語です。
あ、私だけは実名が乗ってるよん。

「え…」

「順を追って説明しますね」

まず私は、サロンの後ドロシーと会って、ギリアムからドロシーの事を聞いた時、だいたい予想が
ついたのよね。
ドロシーはジュリアやレベッカに比べて、大分稚拙で自分の感情のまま行動しやすいなって思った
から。

だから作家と聞いてピンときた。
ドルグスト卿から私とツァリオ公爵閣下の事を聞いて…さらにサロンでの一連の事も踏まえて、
私を卑下するような物語を書いたんだろうって。
私に会いに来たのは、私が平身低頭謝れば、私の実名だけは載せない気だったんだろうけど…。
私はおそらく、実名が削られたって、話の内容から私だと確実にわかると思っていたからね。
実際そうだったから、断って正解じゃい。
まあ、もともと謝る気なんて毛ほども無かったけど。

だから私はファルメニウス公爵夫人となった時点で、フィリアム商会を動かした。
本の作成・印刷・販売だって、商売だ。
商売つながりなら、王立騎士団よりも圧倒的にフィリアム商会の方が早い。

まずドロシーが原稿を持ち込んだ印刷所を突き止め、そこと交渉。
あ、この世界の印刷方法って、活版印刷ね。
持ち込んだのが夕方なら…通常は活版を作るところまでで、印刷は次の日以降になることが
多いんだけど…。
まず徹夜で出来るだけ刷って製本してくれるなら、従業員の日当を通常の倍払う。
そして出来上がった分の本は、こちらですべて一喝買い上げすると…値段は相場の倍でって。
この条件出して契約書書いたら、早上がりした従業員までみんな呼び戻して、かなり頑張って
くれた。
ので、早朝にはかなりの本が出来上がっていたので、全て引き取った。

ああ、あと作者の直筆原稿は、持ち込んだところが売っていいルールになっている。
まあ、作者の出版を手掛けてくれる所への…ボーナスってカンジかな。
もちろん買ったよ。

本はトールレィ卿に殆ど渡したけど…うまくやってくれているようだ。

「まあ、そんな感じです」

「なるほど…しかし良いのですか?(テオルド)」

「ん?あんな内容の本、本という形にしないだけで、私が嫌いな人達だったら、口頭で話をして
いると思いますから…だから、今回逆に証拠を残してくださって、ありがとうございますって
キモチしかないですよ」

「オルフィリア公爵夫人は…本当にお強い(テオルド)」

娘たちと比べてんだろーけど…そりゃあちょっと酷だよ、テオルド卿。

「だから…皆さんには、来るべき交流会の方を優先していただきたいのです。
滅多にない上、貴重な祭典ですので、必ず成功を収めなければなりません」

すると納得は出来ないが、返事した…って感じになった。

まあ、予想通りだ。

「ああ、そうだ」

ここで私はちょっと軽すぎるくらいの声を出し、

「せっかくファルメニウス公爵夫人になりましたので、お祝いも兼ねて皆さんの仕事後の酒代、
暫くこちらで負担しようかと思っております」

「それは…ありがとうございます」

「いいんですよぉ…皆さん交流会の準備に、勤しんでもらわねばなりません。
だから、終わった後は、しっかりガス抜きしてください」

ここからが…重要なんだよね。

「ガス抜きの方法は…団員の不満については、皆さんの方がよくわかっていらっしゃると思いますので…、
もちろんお任せいたしますわ。
こちらでは…一切関知致しませんので…。
ああ、フィリアム商会にもそう伝えてあります」

ここまで言ったら…レオニール卿がすかさず、

「特段のご配慮、ありがとうございます…。
皆が昨日からすっごく騒いで、どうしようかと思っていましたから…とてもありがたいです」

それを聞いて…他のみんなもわかったみたい。

「ただあくまで…ガス抜きですので、通常業務の妨げにならないよう、調整をお願いします」

「かしこまりました」

ほんっと、優秀な人たちは、味方につけるに限るねぇ…。
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