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第4章 結婚
6 フィリアム商会総括部
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乗って来た愛馬をなでなでしているギリアムの元に、ツァリオ公爵閣下が来た。
「おや、これはこれは、随分と早いおこしで」
ギリアムの嫌味に対し、通常だったら皮肉の一つも言ったのだろうが、
「ようこそおいでくださいました、ギリアム公爵閣下…」
通常の挨拶をしようとしたのだろうが、
「ああ、そういうのは時間の無駄ですので、結構。
私の言いたいこと、まず1つ目は…」
勝手に話を始めるギリアム。
もちろん文句を言える人間は、この場にいない。
「ツァリオ公爵閣下は、頭が大変よろしいのに、大変な大バカ者ですね」
「は、はあぁ?」
まあ、言われると予想したことと違ったんだろうね…。
「2つめ。
獅子身中の虫を駆除するのは、案外難しいものですよ」
「……」
やっぱりこれも、すぐにはわからんか。
「あと一つ確認したいことは…私は軍を動かし敵を倒す時…神速という言葉すら
生ぬるいと思われる速度で行軍し、蹂躙します。
ご存じですか?」
「あ…ああ…」
「ならいい。
それでは失礼いたします」
颯爽と馬にまたがる。
「ま、待て!!本当にそれを言うためだけに来たのか!!」
「そうです」
その言葉と同時に、ギリアムは走り出し、瞬く間に見えなくなるのだった。
-------------------------------------------------------------------------------
ちょうどギリアムと入れ替わるように…フィリアム商会の総括部…まあ、首脳経営陣の
ようなもの…に所属している人たちが、ファルメニウス公爵家に来た。
フィリアム商会を動かす中心的人物が所属するのが、総括部…。
現在の人数は、私とギリアムを抜いて6人。
貴族3人、平民2人、難民1人の割合だ。
このうち貴族1人と平民2人は、現在別の任務のため、王都を離れている。
難民1人は王都にいるが、やっぱり別でやってもらうことがあるため不在。
残りは2人。
トールレィ・ヴァンフェート子爵とエリオット・ジェグダラ侯爵…。
夫人たちを伴っての、来訪だ。
「ようこそいらっしゃいました…」
私が出迎えると、
「ごきげんよう、オルフィリア・ファルメニウス公爵夫人…。
この度ギリアム公爵閣下との、正式なるご結婚…誠におめでとうございます」
4人とも、めっちゃ丁寧なお辞儀と、祝辞を述べてくれた。
トールレィ卿は、丸顔の丸っこい体をした、いかにもザ・商人と言える容姿をしている。
愛嬌があり、いつもニコニコ、一見すると害がないようにも見えるが、丸みを帯びた目から
放たれる視線は、感情の衣をはぎ取り、本心を見抜くことにとても長けている。
エリオット卿は、トールレィ卿と真逆で、細面の痩せ型のヒョロっとした長身…。
苦労に苦労を重ねたからこその、顔と体の深い皺は、痛々しいようでいて、本人の逆境への
強さを物語っている。
細面に反比例した太い眉と、切れ長の目が、本人の剛直な性格と切れ者さを、まさに
表現していた。
「さて…と、早朝にそちらに送った本は…眼を通して貰ったと思うのだけれど…。
まずは朝っぱらから気分を害してしまい、申し訳なかったわね」
私はフィリアム商会でも、普段は男爵令嬢として、礼儀をはらって敬語を使っていたのだが…、
もうその必要はなくなった。
「とんでもございません、逆に見せていただいて良かったですよ」
「本当です、色々考えが纏められました」
この二人には、本を届けた時に、この時間に来て欲しいと指定したのだ。
だから、普通だったら2人だけで来たのだろうが、王宮からの知らせを聞いて、夫人も急遽同行した
…というところだろうな。
私はそんな4人に、今までのツァリオ公爵や夫人との、色々な経緯を説明した。
「私は…ツァリオ公爵閣下に決して喧嘩を売ったつもりはありませんでした…。
あくまで一個の人間として…当たり前のことを要求したにすぎません。
ですが…ツァリオ公爵閣下は喧嘩を売ったと判断された…」
「だから…一度しっかり、お教えしないと駄目だなぁと、思いましてね」
私は胸に手を当てて、
「私という一個の人間が…喧嘩を売ると決めた場合!!」
「どういった行動をするのか…を」
静かに…ハッキリと言葉を発す。
「しかしながら」
ここからはいつもの軽快な口調に戻す。
「さすがに今回ばかりは、相手が相手です。
本格的に始動する前に、抜けたい人は抜けていただこうと思っています。
その確認のために、まずはお二人に来ていただきました」
するとまず、エリオット卿が進み出て、
「そもそも私は、一度は死んだ命と思っております。
ですがギリアム公爵閣下の恩恵を受け、今日まで生かされてきました。
そのギリアム公爵閣下が選んだ、オルフィリア公爵夫人に殉じる覚悟はとっくに
出来ております」
次にトールレィ卿が、
「私は…貴族として生を受けましたが、根は生粋の商人でした。
だから商会を大きくすることも、商売をすることも楽しくやれてはいたんです。
しかしあるころより…虚しい気持ちがわいてきました。
自分がやりたいことを…本当にやれているのかわからなくなってきた」
「だから、フィリアム商会の募集を見て…息子に自分の商会のすべてを譲り、入りました。
ギリアム公爵閣下の商売の仕方は私とは全く違い…、新鮮で楽しかったのですが、やはり
どこか…虚しさが残りました。
ちょうどそんな時でした…オルフィリア公爵夫人がフィリアム商会の仕事に、携わりたいと
希望してきたのは…」
そう…トールレィ卿は、私がフィリアム商会に入るとき…ギリアムを除けば一番反対した人だ。
商人ってものを相手にする厳しさを、おそらく一番知っているであろう人だから。
「懐かしいですねぇ…といっても、ほんの数か月前の事ですが…。
トールレィ卿はその時言いましたね…、私が確実にフィリアム商会にもたらせる利益を、今この場で
言ってください…と」
「そうでしたね」
トールレィ卿の顔が、ほころんでいる。
「私はその時こう答えた…。
確実に一つだけ…あなた方の利益になる情報を、お教えできます…と」
なんて答えたかってーと。
「ギリアム・アウススト・ファルメニウス公爵閣下に…女を見る目があるのかどうか…という、
情報を…と」
トールレィ卿が私が入るのを反対したのは、何も商売の厳しさのせいだけじゃない。
ギリアムの寵愛著しい私が、ともすればしょーもない女だった場合、中をかき回すだけ
かき回して、知らぬ存ぜぬを通したり。
商会の費用で、自分の好きなものを買ってしまったり、売れる売れない考えずに、好きな物だけ
作らそうとしたり…。
フィリアム商会を私物化するかもしれない…そんなことを心配するのは当然だ。
「で、どうでしたか?」
私が問えば、
「一言で言えば…まさしくオルフィリア公爵夫人が考案した産業は、私の真に求めていたものそのもの
でした。
たわしの件しかり…綿花の件しかり…まさに新たな産業を作り出しただけでなく…その地域の人々が
我々の手助けなくしても、できるだけ生きていけるよう…はるか先を見据えていた」
たわしは以前話したと思うけど、綿花はしていなかったな…。
キンラク商会がサバクアシでの大量衣類や小物を作成するようになっちゃったから、収穫された綿花が、
かなりの量、売れ残ってしまい、買い叩かれる寸前だった。
だって、綿花を買って服作るより、サバクアシ使って作るほうが、遥かに安価だからさ。
私はちょうど綿花で開発したい製品があったこともあって、一つの条件をのんでくれるなら、すべての
綿花を相場の値段で引き取ると申し入れたのだ。
条件は…いつも焼却処分している、綿花の種をすべて一緒に出してもらう事。
私は前世の油マニア様から、綿花の種から非常に上質な脂が取れることを教えてもらっていた。
そしてポテチとフライドポテトを作ったら…大正解!!というわけ。
そして契約として…種は油で特許を取ったため、専属契約(条件変更は応相談)。
綿花に関しては…1年ごとの期間契約とした。
なぜかってとさ…世の中の状況なんて刻一刻と移り変わるわけだから、変則性を持たせておいた方がよい。
出荷先を一つに絞るのは…危険すぎるからね。
来年以降は、その場の状況に応じて、決めてくださいって言った。
たわしだって、若い人たちの体が直って働けるようになったら、契約のあり方をどうしていくか…
相談するつもりだ。
他にも開発したり、手掛けたりしていることは現在進行形であるが、取り立ててこの2つが、皆からえらい
感動されたよ、うん。
「そもそも…商人というものは、リスクをいかに回避できるか、小さくできるか…も、腕の見せどころでは
ございますが…」
トールレィ卿…顔は笑っているけど、眼が笑っていない。
「商人というもの自体を、侮辱され、否定されたなら…リスク覚悟の上、全力で戦いますよ」
そーだよねー、あの本…私が商会に結構力を入れているせいもあるんだろーけど…商人自体を小馬鹿に
している表現が、ちらほら見て取れるからね…。
「わかりました…抜ける気が無いのでしたら、これからやって頂きたいことを、お話しします」
私は一呼吸置き、
「まずエリオット卿は…奥様と共に貴族関係者と社交パーティーの場を担当してください。
言葉のニュアンスなどは任せますので…」
「承知いたしました。
そういうご指示が出ると思いましたので…今しがた出席可能なパーティーすべてに出席の通知を
出しました」
わ~お、優秀。
貴族社会は身分がすべての社会だからね。
エリオット卿の身分の高さは、こういうところで生かさないと。
「ではトールレィ卿…例の本は出来上がったものほぼすべて預けます。
売る場所、置く場所、配る場所…やり方はすべてお任せします」
「フム…そうしていただけると、確かにやり易いですが…今回は王立騎士団を絡めないのですか?」
真っ当なご意見…。
どちらもギリアムの傘下だから、秘密裏に協力し合うことは、前からあったのよね。
「うーん…、難しい所なんですが…。
私が正式なファルメニウス公爵夫人となった以上、差し当たって交流会を優先せねばならない
のですよ」
「おお、そういえばそうですね。
失念しておりました」
「ただ…」
私はちょっと含みを持たせ、
「通常業務以外で、彼らが独自に動く分には…私は関与しないことにしようと思っております」
微笑むと、
「なるほど…では、それを踏まえた上で、私も動くことに致します」
と、やっぱり微笑む。
学者と商人ってのは、あくまで私の個人的考えだが…真逆の性質を持つと思ている。
学者は己の飽くなき興味の為なら、他者の考えなど構わずにひたすら追求する者。
商人は他者がどうしたら自分のいいように動くか考えることに、心血を注ぐ者。
ツァリオ公爵閣下…アナタはどう考えても学者脳…そのあなたにどこまで見抜けるのでしょうか…。
ガチの商人脳を持つ者が…これから何を行おうとしているのか…。
「おや、これはこれは、随分と早いおこしで」
ギリアムの嫌味に対し、通常だったら皮肉の一つも言ったのだろうが、
「ようこそおいでくださいました、ギリアム公爵閣下…」
通常の挨拶をしようとしたのだろうが、
「ああ、そういうのは時間の無駄ですので、結構。
私の言いたいこと、まず1つ目は…」
勝手に話を始めるギリアム。
もちろん文句を言える人間は、この場にいない。
「ツァリオ公爵閣下は、頭が大変よろしいのに、大変な大バカ者ですね」
「は、はあぁ?」
まあ、言われると予想したことと違ったんだろうね…。
「2つめ。
獅子身中の虫を駆除するのは、案外難しいものですよ」
「……」
やっぱりこれも、すぐにはわからんか。
「あと一つ確認したいことは…私は軍を動かし敵を倒す時…神速という言葉すら
生ぬるいと思われる速度で行軍し、蹂躙します。
ご存じですか?」
「あ…ああ…」
「ならいい。
それでは失礼いたします」
颯爽と馬にまたがる。
「ま、待て!!本当にそれを言うためだけに来たのか!!」
「そうです」
その言葉と同時に、ギリアムは走り出し、瞬く間に見えなくなるのだった。
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ちょうどギリアムと入れ替わるように…フィリアム商会の総括部…まあ、首脳経営陣の
ようなもの…に所属している人たちが、ファルメニウス公爵家に来た。
フィリアム商会を動かす中心的人物が所属するのが、総括部…。
現在の人数は、私とギリアムを抜いて6人。
貴族3人、平民2人、難民1人の割合だ。
このうち貴族1人と平民2人は、現在別の任務のため、王都を離れている。
難民1人は王都にいるが、やっぱり別でやってもらうことがあるため不在。
残りは2人。
トールレィ・ヴァンフェート子爵とエリオット・ジェグダラ侯爵…。
夫人たちを伴っての、来訪だ。
「ようこそいらっしゃいました…」
私が出迎えると、
「ごきげんよう、オルフィリア・ファルメニウス公爵夫人…。
この度ギリアム公爵閣下との、正式なるご結婚…誠におめでとうございます」
4人とも、めっちゃ丁寧なお辞儀と、祝辞を述べてくれた。
トールレィ卿は、丸顔の丸っこい体をした、いかにもザ・商人と言える容姿をしている。
愛嬌があり、いつもニコニコ、一見すると害がないようにも見えるが、丸みを帯びた目から
放たれる視線は、感情の衣をはぎ取り、本心を見抜くことにとても長けている。
エリオット卿は、トールレィ卿と真逆で、細面の痩せ型のヒョロっとした長身…。
苦労に苦労を重ねたからこその、顔と体の深い皺は、痛々しいようでいて、本人の逆境への
強さを物語っている。
細面に反比例した太い眉と、切れ長の目が、本人の剛直な性格と切れ者さを、まさに
表現していた。
「さて…と、早朝にそちらに送った本は…眼を通して貰ったと思うのだけれど…。
まずは朝っぱらから気分を害してしまい、申し訳なかったわね」
私はフィリアム商会でも、普段は男爵令嬢として、礼儀をはらって敬語を使っていたのだが…、
もうその必要はなくなった。
「とんでもございません、逆に見せていただいて良かったですよ」
「本当です、色々考えが纏められました」
この二人には、本を届けた時に、この時間に来て欲しいと指定したのだ。
だから、普通だったら2人だけで来たのだろうが、王宮からの知らせを聞いて、夫人も急遽同行した
…というところだろうな。
私はそんな4人に、今までのツァリオ公爵や夫人との、色々な経緯を説明した。
「私は…ツァリオ公爵閣下に決して喧嘩を売ったつもりはありませんでした…。
あくまで一個の人間として…当たり前のことを要求したにすぎません。
ですが…ツァリオ公爵閣下は喧嘩を売ったと判断された…」
「だから…一度しっかり、お教えしないと駄目だなぁと、思いましてね」
私は胸に手を当てて、
「私という一個の人間が…喧嘩を売ると決めた場合!!」
「どういった行動をするのか…を」
静かに…ハッキリと言葉を発す。
「しかしながら」
ここからはいつもの軽快な口調に戻す。
「さすがに今回ばかりは、相手が相手です。
本格的に始動する前に、抜けたい人は抜けていただこうと思っています。
その確認のために、まずはお二人に来ていただきました」
するとまず、エリオット卿が進み出て、
「そもそも私は、一度は死んだ命と思っております。
ですがギリアム公爵閣下の恩恵を受け、今日まで生かされてきました。
そのギリアム公爵閣下が選んだ、オルフィリア公爵夫人に殉じる覚悟はとっくに
出来ております」
次にトールレィ卿が、
「私は…貴族として生を受けましたが、根は生粋の商人でした。
だから商会を大きくすることも、商売をすることも楽しくやれてはいたんです。
しかしあるころより…虚しい気持ちがわいてきました。
自分がやりたいことを…本当にやれているのかわからなくなってきた」
「だから、フィリアム商会の募集を見て…息子に自分の商会のすべてを譲り、入りました。
ギリアム公爵閣下の商売の仕方は私とは全く違い…、新鮮で楽しかったのですが、やはり
どこか…虚しさが残りました。
ちょうどそんな時でした…オルフィリア公爵夫人がフィリアム商会の仕事に、携わりたいと
希望してきたのは…」
そう…トールレィ卿は、私がフィリアム商会に入るとき…ギリアムを除けば一番反対した人だ。
商人ってものを相手にする厳しさを、おそらく一番知っているであろう人だから。
「懐かしいですねぇ…といっても、ほんの数か月前の事ですが…。
トールレィ卿はその時言いましたね…、私が確実にフィリアム商会にもたらせる利益を、今この場で
言ってください…と」
「そうでしたね」
トールレィ卿の顔が、ほころんでいる。
「私はその時こう答えた…。
確実に一つだけ…あなた方の利益になる情報を、お教えできます…と」
なんて答えたかってーと。
「ギリアム・アウススト・ファルメニウス公爵閣下に…女を見る目があるのかどうか…という、
情報を…と」
トールレィ卿が私が入るのを反対したのは、何も商売の厳しさのせいだけじゃない。
ギリアムの寵愛著しい私が、ともすればしょーもない女だった場合、中をかき回すだけ
かき回して、知らぬ存ぜぬを通したり。
商会の費用で、自分の好きなものを買ってしまったり、売れる売れない考えずに、好きな物だけ
作らそうとしたり…。
フィリアム商会を私物化するかもしれない…そんなことを心配するのは当然だ。
「で、どうでしたか?」
私が問えば、
「一言で言えば…まさしくオルフィリア公爵夫人が考案した産業は、私の真に求めていたものそのもの
でした。
たわしの件しかり…綿花の件しかり…まさに新たな産業を作り出しただけでなく…その地域の人々が
我々の手助けなくしても、できるだけ生きていけるよう…はるか先を見据えていた」
たわしは以前話したと思うけど、綿花はしていなかったな…。
キンラク商会がサバクアシでの大量衣類や小物を作成するようになっちゃったから、収穫された綿花が、
かなりの量、売れ残ってしまい、買い叩かれる寸前だった。
だって、綿花を買って服作るより、サバクアシ使って作るほうが、遥かに安価だからさ。
私はちょうど綿花で開発したい製品があったこともあって、一つの条件をのんでくれるなら、すべての
綿花を相場の値段で引き取ると申し入れたのだ。
条件は…いつも焼却処分している、綿花の種をすべて一緒に出してもらう事。
私は前世の油マニア様から、綿花の種から非常に上質な脂が取れることを教えてもらっていた。
そしてポテチとフライドポテトを作ったら…大正解!!というわけ。
そして契約として…種は油で特許を取ったため、専属契約(条件変更は応相談)。
綿花に関しては…1年ごとの期間契約とした。
なぜかってとさ…世の中の状況なんて刻一刻と移り変わるわけだから、変則性を持たせておいた方がよい。
出荷先を一つに絞るのは…危険すぎるからね。
来年以降は、その場の状況に応じて、決めてくださいって言った。
たわしだって、若い人たちの体が直って働けるようになったら、契約のあり方をどうしていくか…
相談するつもりだ。
他にも開発したり、手掛けたりしていることは現在進行形であるが、取り立ててこの2つが、皆からえらい
感動されたよ、うん。
「そもそも…商人というものは、リスクをいかに回避できるか、小さくできるか…も、腕の見せどころでは
ございますが…」
トールレィ卿…顔は笑っているけど、眼が笑っていない。
「商人というもの自体を、侮辱され、否定されたなら…リスク覚悟の上、全力で戦いますよ」
そーだよねー、あの本…私が商会に結構力を入れているせいもあるんだろーけど…商人自体を小馬鹿に
している表現が、ちらほら見て取れるからね…。
「わかりました…抜ける気が無いのでしたら、これからやって頂きたいことを、お話しします」
私は一呼吸置き、
「まずエリオット卿は…奥様と共に貴族関係者と社交パーティーの場を担当してください。
言葉のニュアンスなどは任せますので…」
「承知いたしました。
そういうご指示が出ると思いましたので…今しがた出席可能なパーティーすべてに出席の通知を
出しました」
わ~お、優秀。
貴族社会は身分がすべての社会だからね。
エリオット卿の身分の高さは、こういうところで生かさないと。
「ではトールレィ卿…例の本は出来上がったものほぼすべて預けます。
売る場所、置く場所、配る場所…やり方はすべてお任せします」
「フム…そうしていただけると、確かにやり易いですが…今回は王立騎士団を絡めないのですか?」
真っ当なご意見…。
どちらもギリアムの傘下だから、秘密裏に協力し合うことは、前からあったのよね。
「うーん…、難しい所なんですが…。
私が正式なファルメニウス公爵夫人となった以上、差し当たって交流会を優先せねばならない
のですよ」
「おお、そういえばそうですね。
失念しておりました」
「ただ…」
私はちょっと含みを持たせ、
「通常業務以外で、彼らが独自に動く分には…私は関与しないことにしようと思っております」
微笑むと、
「なるほど…では、それを踏まえた上で、私も動くことに致します」
と、やっぱり微笑む。
学者と商人ってのは、あくまで私の個人的考えだが…真逆の性質を持つと思ている。
学者は己の飽くなき興味の為なら、他者の考えなど構わずにひたすら追求する者。
商人は他者がどうしたら自分のいいように動くか考えることに、心血を注ぐ者。
ツァリオ公爵閣下…アナタはどう考えても学者脳…そのあなたにどこまで見抜けるのでしょうか…。
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