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第3章 二頭

7 フィリーのたくらみ

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さて…時は戻ってサロン開始前。
私がファルメニウス公爵夫人として参加するなら、一番後に行かなくてはいけない。
しかし私は…誰よりも早く来た。

そしてガルドベンダ公爵邸の正門から…見えない位置に馬車を止めてもらう。

「じゃ、ギリアム様。
手筈通りにお願いしますね」

私が微笑めば、

「本当に…危ないことはしないでくださいね」

「大丈夫ですよ、ジェードがいるの知っているでしょう?」

「はあ…本当は、私がやりたいのに…

「ギリアム様は、目立ちすぎます!!」

そして私はしょげるギリアムを置き去りにし、ガルドベンダ公爵邸の正門前へ。
当然門番がいる。

「あの…本日のサロンにご招待されたのですが…」

というと、馬車もなしで来た私を怪訝な顔でみつつ、

「招待状を…」

と言ってきた。
門番は二人、年配の騎士と、若い騎士。

「それが…無くしてしまいまして…」

嘘だけどね。
回収されたよ、アンタらの奥様に。
でもさ…それそのまま言っても、つまんねーから。
折角どでかい花火を上げることにしたんだから、最初から爆発力強めでいかんとね。

騎士二人は顔を見合わせ、

「失礼ですが、馬車は?」

「あ…あの…故障してしまって…遅れてはいけないと歩いてきました」

するとやっぱり顔を見合わせて、

「ひとまず家門に連絡を入れていただけませんか…?」

まあ当然だよね。
こういう手で入ってくる泥棒いると思うけど、さりとて本当に貴族で招待客だったら、
追い返したりしたら、超失礼。

「あ…でしたら…この正門横で、少し待たせていただけませんか?
使用人が家に連絡をしたら、戻ってくると思うので」

「わかりました」

質の悪い家なら、門前払いだろうが。
やはりガルドベンダ公爵邸の騎士たち…あらゆる可能性を想定できるんだ。

でも…。
私が今考えている事、わかるか~い?

私は騎士たちから少し離れ、影になっている場所で休む。
それを見た騎士たちは、また門前に戻るのだが…。

「キミたち、ちょっといいかい?」

断っておくが、ガルドベンダ公爵邸の騎士ゆえ、身分は貴族。
こんな話しかけられ方をしたら、無視を決めこんでも失礼には当たらない。

事実、門前の騎士にすら、貴族のご当主がペコペコする家なのだから。
あ、ファルメニウス公爵家も同じね。

「キミたちには、耳がついていないのかい?
おーい、全く…ガルドベンダ公爵家は、ただの人形を棒立ちさせておく趣味があるようだな」

あ、わかってると思うけど、これアウト。
その場で手打ちにされるコース。

だから特に若くて血気盛んな方が、声の主の顔を確認することもなく、素早く剣を抜き、声の
する方に一閃。

だが声の主は…当然それを、悠々と受けるのだった。

「おやおや…いきなり切りかかってくるなんて…随分と乱暴だなぁ」

この二人の騎士の、身の毛がよだったのは、よくわかる。
だって切りかかった相手って…ギリアム・アウススト・ファルメニウス公爵閣下その人だからさ~。

「もっ!!申し訳ございません!!ギリアム公爵閣下!!
こっ、こいつは新人で…まだ不慣れでございまして!!
決して公爵閣下に危害を加えるつもりは!!」

年配の方は、指導を任されているのだろう。
若い方より先に、地面に這いつくばるようにして、ギリアムに詫びる。
もちろん若い方も続く。

「ふむ…とりあえず二人とも顔を上げたまえ」

2人は地面に膝をつき、手を太ももの上に乗せる形で上を向く。

「しかし私としてもねぇ…突然命を狙われた挙句、侮辱までされてはねぇ」

「こっ、公爵閣下を侮辱など!!」

「したじゃないか」

人って…やっぱり極度に緊張すると、頭回らないんだなぁ。
もともとの性質もあるだろうけど。

「先ほど君は言っただろう?」

年配の騎士を見据え、

「危害を加えるつもりはない…と」

お、さすが年長者、わかったみたい。
顔が真っ青。

「私は仮にも、武を司るファルメニウス公爵家の当主…その私が…」

間を持たせ、

「剣を交えた相手に…危害を加えるつもりがあったか、ないか…わからないような
ボンクラだと思っているという事だからな」

「「もっ!!申し訳ございません!!」」

再度地面に頭をこすりつける。
もうね…潰れたカエルって表現しかないな…うん。

「だから顔を上げたまえ。
そんなに怖がらなくてもいい…キミたちも騎士なら私の主義くらいは知っているハズだ」

それを聞いた二人が、さらに青…っつうか黒?白?とにかくもう、表現できん。

ギリアムの主義…それは徹底的に上に責任を取らせるということ。
トカゲのしっぽ切…ギリアムが大嫌いな事の一つ。
そしてこの世界の下って言うのは…元の世界以上に、上の言うことに逆らえない。
逆らえない人間を手にかけるのは…その人間の完全無欠の意志でやらない限り、上に責任を
取らせる。
ましてこの事例は…完全に門番の方の落ち度。
ああ、責任を取らせる場合、だいたい金で肩をつけるのが一般貴族だ。
それが一番簡単だから。
でもギリアムに対し、金で済んだら御の字。
ギリアムは大抵…賠償として上の人間の身体の一部を要求する。

それに文句を言おうもんなら、

「自分の身を切る覚悟もないのに、人に迷惑をかけたのですか…」

といい、今まで一度の例外なく、キッチリ徴収してきた。
平民の…子供でも知っている事だそうな…。

「ギ、ギリアム公爵閣下!!お願いでございます!!」

若い方が、地面に頭を三度こすりつけ、

「ど、どうか!!どうか、私の首一つで、この件を終わらせてください!!」

おお、さすがガルドベンダ公爵邸の騎士。
気合入っとるなぁ。

「父母が借金だけ残してこの世を去った時!!唯一手を差し伸べてくださったのが、ツァリオ
公爵閣下なのです!!今私が生きているのは、ツァリオ公爵閣下のおかげなのです!!」

そー言えば…ツァリオ公爵閣下って、学問と同じくらい、慈善事業に力入れてるんだっけ…。

私にとって…名前すら知らない、若い騎士…。
多分10代だ…高校を頑張って卒業して…社会人になって…ってカンジかなぁ。
大学に行く選択肢をけって、会社に働きに出たの思い出すなぁ…。
初めて親の遺志や周りの大人に逆らって…怖くて…でもワクワクして…。

「ギ、ギリアム公爵閣下!!こいつの不始末は、全て私の監督不行き届きです!!
代わりに私の首を!!」

「なっ、何言ってるんですか!!」

「馬鹿もん!!お前はまだ若い!!死ぬなら年寄りが先だ!!」

ああ、何かおじいちゃんと孫ってカンジ…。
血なんか繋がってないだろうになぁ。
親があんなんだっけど、じーちゃんばーちゃんは好きだったな…。
可愛がってくれて…。

「奥様…そろそろ…」

ジェードのどこからともない声が、響いてくる。

「ねぇ、ジェード…」

「はい」

「あれって…普通の事なのかな…」

ギリアムは間違いなく善良な人だ。
弱い者いじめが大嫌いで、礼儀正しくて、真面目で、何より顔もよくて…。
でも今…私の眼に映る光景は、どう見たって…。

「……奥様はたまに…」

「ん?」

「この世界以外の…別の…すっごく平和な場所から来たような言い方をしますねぇ」

ぐぅおっ、鋭い~~~~~!!

「オレに言わせれば、あんなの甘っちょろすぎますよ。
あの騎士は、ご当主様に切りかかった時点で、俺が心臓を貫いて殺したところで、誰も罪に問いません。
そしてご当主様のやったことを…悪意があってやるような人間、この世にごまんといますしね」

それは私もわかる。

「あの若い騎士はね、迂闊すぎです。
自分で自分の首を絞めた…いわば自業自得です」

それも…正しいよ…けど。
自業自得を助けない…のも、私の主義だよ…けどさ…。

「逆に何がそんなに引っかかるんです?」

ジェードの問いに、私は少し考えて、

「だってさ…あれじゃあ…ギリアムが悪役みたい…」

ポツリとこぼす。
そんなことない!!そんなことないんだけど…でも…。

ギリアムは…たまに…ううん、結構多めに、外に出ると…人ではない者を見るような目を向けられる。
とっても可愛い人なんだよ…。
怖い人じゃないんだよ…。
私がそう、心の中で言ったところで…テレパシーがあるわけじゃないから、通じない…。

「なら、好きになさったらいいじゃないですか」

めっちゃ悩んでいる私に、ジェードが一言。

「え?」

「奥様は…いつもそうしてきたでしょう?」

「そ、そうかなぁ?」

「ええ、そんな風にうじうじしているの、奥様らしくない。
そもそも規格外だってこと、見せるのが今回の目的でしょう?
その上でどでかい花火を上げるって…オレはすごく楽しみにしていたんです。
裏切らないで欲しいですよ」

それを聞いた私は…両頬を思い切り、手でひっぱたいた。
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