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第3章 二頭

5 招待状を持ち帰る?はて…

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私はバドセットと、門前で向き合うのだが、

「招待状を持ち帰る?どうしてでしょうか?」

いくつか予想はつくけどね…。

「私も指示されただけで、理由までは…」

「わかりました…私も急遽の参加でございますので、色々お考えがおありなのでしょう。
言う通りに致しますわ」

「ありがとうございます、では…」

バドセットはユイリンを見て、

「そちらの使用人は、下がらせていただけませんか?」

なるほどね…。

「ユイリン、戻っていいわよ」

「しかし、奥様…」

心配そうなユイリンを下げ、

「では、おみせください」

「かしこまりました」

そう言って見せてもらった招待状には…オルフィリア・ファルメニウス公爵夫人…と
確かに書いてあった。

まあ、予想の範囲内よ。

「確かに招待状、見せていただきました」

「ようございました。
では、私はこれで…」

バドセットは足早に去っていった。

そして私は、部屋に戻る。

「フィリー、大丈夫ですか!!」

「特に問題ありませんでしたよ、バドセット伯爵が直接招待状を持ってきてくれました」

「え…?」

うん…普通はしないよね。
私は門前であったいきさつを、残らず話した。

「アイリン夫人は…何をお考えなんでしょうか…?」

「う~む…」

みんなわからないみたいね。
性悪な奴だったら、明らかにこっちをはめようとして来てると思うだろうけどね。
私はわかるよ…なんせいろいろ経験してきてるから、予測はついてる。

「考えていても、わからないことはしょうがないですよ。
それよりアイリン夫人のサロンに行く準備に、取り掛からないと…」

と私が言えば、みんなそれどころでなかったことを思い出したようで、それぞれ体を
動かしてくれた。


----------------------------------------------------------------------------------


サロンの日、当日…。

「は、は、は、初めまして…、レイチェル・ホッランバック伯爵夫人が、アイリン・
ガルドベンダ公爵夫人に、ご挨拶申し上げます」

ガチガチに緊張したレイチェルが、アイリン夫人の前で、お辞儀していた。

「そんなに緊張なさらないで…レイチェル伯爵夫人…。
あなたのおばあ様は、よく覚えております。
お加減はいかがですか?」

「は、はい…だいぶ良くなって…今では庭を散歩できるようになりました」

ルベンディン侯爵家出たら、すこぶるよくなった。
レイチェルと同じ理由で、体調悪かったんやな~。

「それは良かったです。
私のサロンは、毎回テーマが違いますので…まだ全員揃ってもいないですから、
どうぞお好きに見て回ってください」

「は、はい…」

侯爵家以上が多いせいか、会場の人はまばらでレイチェルは、庭の花など鑑賞していた。
やはりこのサロンの趣旨など、全くわかっていないよう。

やがて…。

「ごきげんよう、アイリン・ガルドベンダ公爵夫人…。
ジュリア・コウドリグス侯爵夫人が、ご挨拶申し上げます」

聞きなれた声に、思わず振り返る。

二言三言、言葉を交わしてアイリン夫人の元を離れたジュリアに、

「ジュリア…」

レイチェルが話しかけた。

「レイチェル???どうしてここに?」

めっちゃ驚いたろーな、ジュリア。
このサロンて…国で一番レベルが高いって言っても、過言じゃない。
そしてそこで通用する実力を持たない者は…。

「えっと…おばあ様が会員証を貸してくださって…。
いい勉強になるからって…」

因みにおばあ様が通っていたころは、アイリン夫人もまだ若く、今のレベルには到達して
いなかった。
もちろんそれでも、レベルはかなり高かったが。

「はあ…レイチェル、あのね…」

ジュリアがこのサロンの事を、詳しく説明しようとした時…。

「ごきげんよう、アイリン・ガルドベンダ公爵夫人!!
レベッカ・スタリュイヴェ侯爵令嬢が、ご挨拶申し上げます」

その声にびくりと体を震わせるジュリア。

ジュリアの視線の先にいるレベッカ・スタリュイヴェ侯爵令嬢…。
淡い金髪の前髪を二つに分け、軽くカールさせ、両肩に垂らしている。
腰まで延びた直毛の後ろ髪は、カールされた前髪と相反すれど、不思議と調和している。
目鼻立ちは整い、ゆるくカーブを描く細い眉に、一見すると穏やかそうな口元。
しかし目尻は少々上がっており、切れのいい形に深い海のような青い瞳が輝く。

「レイチェル!!」

ジュリアが小声で話す。

「今日は出来るだけ目立たないように、隅っこの方にいて!!
あと私に話しかけちゃダメ!!いいわね!!」

「え…え…」

ジュリアはレイチェルの返答を待たず、レイチェルのそばを離れた。
何が起こったかわからないレイチェルだったが、ひとまずはジュリアの言うことを
聞くことにした。

皆が楽しく各々各自で談笑する中、相変わらず庭の花を眺めるレイチェル。
そもそもコミュ障のレイチェルとしては、それでも十分楽しんでいたのだが…。

「きゃあああっ!!」

いきなりの悲鳴。
皆が悲鳴のした方に目線をやれば…。
庭木に突っ込む形で、倒れているレイチェル。

「レイチェル!!」

当然すぐに駆け寄るジュリア。

レイチェルは大きな怪我こそないが、藪の中で所々切ったようで、細かい傷から
血がにじんでいる。

「しっかりして!!」

「う…ん…ジュリア…」

「一体どうしたの?」

「誰かに…後ろから押されて…」

レイチェルは片手で頭を抑えながら、そう言った。
すると途端にざわめく周囲。

「レイチェル…とにかく治療を…」

ジュリアはレイチェルを退席させようとしたが、

「お待ちください、ジュリア侯爵夫人」

止めたのは…フルーガル侯爵夫人だった。
年のころは四十代、娘と一緒に参加していた。

「先ほどレイチェル伯爵夫人は…誰かに押されたとおっしゃいました。
これは由々しき事です」

「そうです…原因究明するべきです」

同調してきたのは、エクイード侯爵夫人。
やはり娘同伴での出席で、長年の会員だった。

フルーガル侯爵夫人もエクイード侯爵夫人も、どちらも近衛騎士団関係者
だった。

「それはそうですが…治療がまず先です!!」

ジュリアはレイチェルを、とにかく退席させたかったんだよ。
通常、上位夫人のお招きを受けた場合、理由なしの退席は、かなり失礼に当たる。
だから、怪我をしたならば、むしろ無理なく退席できるのだ。

「あら…そんなに深い傷ではないでしょう」

「ええ、血もあまり出ていないし」

2人の言葉に、ジュリアが何かを言おうとした時、

「お二人とも!!あんまりではありませんか!!」

口を出したのはレベッカ嬢だった。

「お二人は医者ではないのです!!
そんなことを言って、後で何かあったら、取り返しがつきませんよ!!」

すると二人の夫人たちは、

「しかし…」

「しかしではありません!!
医者が先です!!」

その勢いに押される形で、2人の夫人は黙った。
すかさずジュリアが、

「アイリン公爵夫人…レイチェル伯爵夫人を連れて行っても…」

言ったが、

「あらぁ、ジュリア夫人が行くことはありませんわぁ」

「私たちにお任せください!!」

そうやって名乗り出たのは、ポリネア嬢とラファイナ嬢…。
どちらも近衛騎士団関係の令嬢だ。

笑顔だがその笑顔は…一言で言うととても冷たい。

「せっかくのお申し出ですが…レイチェル伯爵夫人は私の従妹です。
私の方でやりますので、お気遣いなく」

ジュリアはきりっとした顔で、涼やかに言う。

「まあ…やはり今でもジュリア侯爵夫人とレイチェル伯爵夫人は、とても仲がよろしいん
ですねぇ…」

控えめで…でも、通りの良い声を出したのは…、

「レイチェル伯爵夫人が、王立騎士団副団長殿に嫁がれてから…交流しなくなったと
お聞きしていたのですが」

レベッカ嬢だ。

「交流はなくなりましたが、従妹でなくなったわけではありません。
怪我をしていれば、助けるのは当然ですし、私がついて居てあげたいと思います」

ジュリアとて一歩も引かない。
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