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第3章 二頭

1 頭痛のネタが舞い込んだ~

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百戦錬磨の猛者夫人たちとの大変ためになるお茶会後…私は多忙ながらも有意義な毎日を
送っていた。
特に有意義なのは…。

私を気にいり、頻繁に来るようになった…クァーリア夫人との禅問答。

大変ではあるが、とてもためになる。
だって、ファルメニウス公爵夫人ともなれば、多岐にわたる知識と話術がいる
からねぇ。
今までのような付け焼き刃で、やっていってもいずれ限界は来る。
その点クァーリア夫人は、その多岐にわたることすべてに、精通しているといっても
過言ではない。

他愛ない会話の中に入る、実は深い内容を読み解き、自身のものにするだけでなく、
返すか傍観するか…その一つ一つにパターンはあっても正解はない。

その日もそんな会話に勤しんでいると、

「オルフィリア嬢は…本当に覚えが早いですねぇ…。
何気ない事でも鋭く見抜き、すぐに自分の物にしてしまう」

「クァーリア夫人にそう言っていただけると、本当に励みになります」

まあ、私の話術や読み解く力は、間違いなく前世の経験大活躍なんやけど。
今世も色々大変だったから、今の所全部、そのせいにしている。

「では今日は…そんなオルフィリア嬢に一つ、私からプレゼントをお渡ししましょう」

おりょ…改まってなんだろ?
なんか背筋がゾクッとしたぞ?

「アイリン・ガルドベンダ公爵夫人のサロンをご存じですか?」

「この国の貴族で、知らない方はいないと思います」

ファルメニウス公爵家が武を司るなら…ガルドベンダ公爵家は文を司る家だ。
武でこの国を興し、守ることに貢献したファルメニウス公爵家。
文でこの国を支え、整備することに貢献したガルドベンダ公爵家。
この2大巨頭がこの国の貴族の、中心と言ってよい。

ああそう、ざっくりと説明するが、この世界では、お茶会は井戸端会議の場、
サロンは…趣味の交流会と思ってくれい。

「オルフィリア嬢は、会員になりたいとは思わないのですか?」

当然の質問だね。
アイリン夫人のサロンは、行きたいと望む貴族令嬢&婦人が後を絶たない。

「…向こうからお誘いが来ない限り、ご遠慮しようと思っております」

するとクァーリア夫人は、想定内と言わんばかりの顔をして、

「理由をお聞きしても?」

「エマからの情報ですが…アイリン夫人のサロンは別名…試験会場と呼ばれている
そうなので」

するとクァーリア夫人は、さも楽しそうにほほ笑んだ。

やっぱり私を試したかぁ。

サロンってのは趣味の交流会と言われるだけあって、大抵テーマが決まっている。
主催者によって毎回同じだったり、違ったりするが基本テーマは事前に伝えられる。
しかし…。

アイリン夫人のサロンはテーマが秘匿されているのだ。

もともと決められたテーマに沿うのではつまらない…という傾向から始まったらしい。
ただだからこそテーマをいち早く読み取る高い洞察力と、それによって自身の対応を変える
変幻自在さが必要になるため、アイリン夫人のサロンで認められれば、名実ともに能力の
高い夫人&令嬢であると認められるのだ。

当然、社交界の場でかなり優位な立場に立てるし、令嬢の場合、求婚の数は跳ね上がる。

だがかなり厳格な審査と、一見さんお断り風潮が強い(受け付けていないわけではない)。
現会員と一緒に何回か行って認められ、それで初めて一人で招待されて…さらに実力を示さないと
会員になれない。

「私の礼儀作法は、まだまだ荒削り…。
とてもアイリン夫人のサロンに出向いて、認められるレベルとは思っておりません。
虎の穴に自らはいるほど、わたくし暇ではございませんので」

「逆に3ヵ月ほどでオルフィリア嬢レベルになれれば、たいしたものだと思いますがね」

確かに私の成長速度が驚異的だと、エマからも言われている。
でもさ…。
ハッキリ言ってめんどいんじゃ!!!
そんっなめんどくさいことするぐらいなら、家でオナニーでもしてたいわ。

「今度のアイリン夫人のサロンに…レイチェル伯爵夫人が参加されるそうです」

…………………………………は?
私の頭は一瞬まっちろ。

「レイチェル伯爵夫人のおばあ様は、アイリン夫人のサロンの会員なんですよ」

思考再開!

「では、おばあ様と一緒に行かれるのですね」

それなら何とか…。

「いいえ、お一人です」

思考、再度フリーズ。

「アイリン夫人のサロンでは…会員の方が一回のみ、自分の会員証を他の方に貸すことが
できる制度があるのです。
まあ、毎回決まりきった人間だけではつまらないので…という事でしょうが」

「いやぁ~、絶対会員の人を見る目をチェックする目的があると思われますが?」

思考、何とか再開。

「やはりオルフィリア嬢ですね」

にこにこしてら…。

あ~、確かにアイリン夫人のサロンは、この国で1,2を争うくらい、質が良いって評判なのは
事実なんだが…。
だからおばあ様も、レイチェルの為を思って送り出すんだろーけど。
レイチェルは性格は、問題なくいいからさ~。

私がこめかみを抑えて頭痛そうにしているのを、

「私が話したほんのわずかな情報から、オルフィリア嬢は裏に潜んでいる問題すべてを予想したよう
ですね」

やっぱり楽しそうに見ているクァーリア夫人。

「…全てかどうか、確認させていただいても?」

「ええ、どうぞ」

ホント、楽しそう…。

「まずレイチェル伯爵夫人のおばあ様は、戦争前から臥せっているとお聞きしました。
ですので、アイリン夫人のサロンにおばあ様が行っていたのは、10年近く前の事かと
思われます」

「ええ、当たりです。
15年ほど前から5年ほど…だったそうです」

「なら、当然レイチェル伯爵夫人は嫁いでおりませんし、王立騎士団も今の体制ではない」

「そうですね」

「そしてアイリン夫人のサロンの会員は…約7割が侯爵位とお聞きしました」

「そうです」

やっぱりかー。
これは十分予想できる。
貴族と一括りに言っても、上位貴族と下位貴族の差はかなりの大きさだ。
まず、下位貴族の使用人には平民が混ざることが多いが、上位貴族となると、平民率がぐっと
下がる。
だから教育のレベルや礼儀作法にも、どうしても差異が生じてしまうのだ。
必然的に、上位は上位と、下位は下位とつるむ(結婚含む)が当たり前になる。

男爵令嬢の私が、ファルメニウス公爵家に嫁ぐなんざ、上位貴族からしたら貴賤結婚と同等
扱いだろう。

「今現在の侯爵位というと…近衛騎士団員の関係者が結構な数いると思うのですが…、
そしてその中には…王立騎士団に反感を持っている者も少なからず…」

「……私もすべて把握しているワケではありませんが、一定数確実にいます」

あかん。
頭痛がピークや。
そんな中に、レイチェル一人で行かせるんかーい!!

いや、わかってるよ。
おばあ様は完全な好意だって。
実際おばあ様が参加していたころは、今私が考えているような憂いは、一切ない状態だったん
だからさ。

「……そのサロン…いつですか?」

「3日後です」

そんなに時間が無いんか~い。

「レイチェル伯爵夫人を、欠席させるのが一番ですけど…」

「難しいでしょうね」

さすが…よくわかってらっしゃる。
上位の夫人の誘いに、一度オッケーしてしまったら、よほどのことが無い限り欠席は
許されない…。
そのあと社交界で散々チクチクされてしまうし、悪意にさらされた時、守ってくれる人間も
ほぼいなくなる。
それにレイチェルはサラッと嘘の付ける人間じゃないから…、嘘をつかせても絶対後で
あらが出てしまう…。

はあ…しゃーない、いつの世もままならんものさ。

「貴重な情報をありがとうございました、クァーリア夫人…」

私は礼をし、

「わたくし本当に忙しくなりそうなので、今日はこれでお開きにさせてください」

そう言い、席を立つ。

「何か私に…」

後ろを向いた私の背に、

「して欲しいことはないのですか?」

クァーリア夫人の声が飛ぶ。
私は振り向かず、口の端をわずかに持ち上げる。

待ってたよぉ~、あなたが自らそう言ってくれるのを…ね。

「あるにはある…のですが、少々面倒くさい事でして…」

「なんでしょう?」

「それは…」

私が説明し終わると、クァーリア夫人は少し止まった後、

「私に…断る権利はあるのですよね?」

「当然です」

「では、考えさせていただきます」

即決はしないな。
想定内や。

「わかりました…ああ、そうそう」

私は少し大げさに手を広げ、

「私の面倒くさいお願いをお聞きくださるなら…」

微笑む。

「わたくしが規格外…ということを、存分にお見せできるかと思います」

私とクァーリア夫人の話は、ここで終わった。

そしてギリアム帰宅後、

「ギリアム様~、お願いがありま~す」

「何が欲しいんですかぁ?ドレスでも宝石でも買ってあげますよぉ」

にこやかに語るが、何でも叶えると言いやがらなくなった。
ちっ、学習能力無駄に高ぇワンコやな、やっぱ。

「ある方のサロンに参加したいのですが…」

「だめです」

速攻拒否すな!!

「どちらの方ですか?」

代わりにフォルトが聞いてくれた。
ああ、楽だ。

「アイリン・ガルドベンダ公爵夫人です」

するとあからさまにギリアムとフォルトの顔色が変わる。
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