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第1章 変態

9 黒幕実行犯の正体 ※

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「あ、いたいた。ローカス卿~」

私は仮眠室から出てきたローカス卿とマギーに声をかける。
中で何があったか、私はわかっているが、その辺は大人のたしなみとして、一切気づかない
振りをする。

「オルフィリア嬢?」

「ちょーど良かった…ギリアム様のお部屋に来てください。
色々話がありますので…」

「ん~、マギーを送ってきてからじゃダメか?」

あ~、マギー困った顔してるなぁ…そうだよね。

「今日は一人で帰れそう?マギー」

「は、はい…大丈夫です」

赤くなりながらもハッキリ答える。

「え…でも…」

「ローカス卿!!」

私はローカス卿を引っ張っていく。

「あの…今日の施設での一件…例の黒幕実行犯たちが絡んでるって言いましたよね?」

「あ、ああ…」

「その話を今からする予定なんです…。
それに…」

これは本当の事だからね。

「あなただって、ルベンディン侯爵家の仮面舞踏会の時…計画上除かれただけで、リストには
のっている可能性があるとお話ししましたよね。
だったら…ことが起きたばかりの時に、特定の人間と親しい素振りは、作戦でもない限り見せない
方がいいです」

するとローカス卿はハッとした。

「わかった…オレはギリアムの部屋に行く…」

そしてマギーに対して、

「悪いけど…一人で帰ってくれ…。
また…次の機会に…」

「もちろんです。
ローカス様はお仕事があるのですから、こんな事で気を悪くなどいたしません」

マギー…少しホッとしてるね…。
よかった。

そして私とローカス卿はギリアムの部屋へ。
中にはジェードとフォルトとエマ…そしてベンズ卿もいた。
そして話が始まる。

「トランペスト?」

「ええ…あいつ等は自分たちの事をそう呼んでいました」

ジェードがあの後言ったんよ。
黒幕実行犯って…自分の知っている奴だって…。

「昔は5人のチームだったんですが…一人抜けて現在は4人…。
そのころから、トランペストというチーム名を名乗りだしました」

「人を雇うことはありますが、基本は4人組…。
あらゆるショー的なことを画策し、闇のゲームをクライアントに提供…楽しませることを
生業としています」

「闇のゲームか…当然人が死んでいるんだろうな…」

「もちろんです。
原則として…人の恨みつらみから、発生する依頼が大多数ですからね。
かく言うオレだって…奴らのようなゲーム性が無いだけで、やっていることは殆ど変わらなかった」

ジェードは…元暗殺者だからなぁ…。

「名前はわかるのか?」

「名前…というものは、オレらにとってはさして重要じゃないし、持たない奴も多いですよ。
あいつ等も…呼べと言われた名前はありますが、本名かどうかなんてわかりません」

「かまわん。
奴らは自分たちを、普段何と呼んでいるんだ?」

「中肉中背のいつも仮面をかぶっている男がスペード…コイツがリーダーを務めていることが
多いみたいです。
オレが相手をした筋肉男がクローバ…肉弾戦担当ですが…意外と手先が器用なようで、細工も
得意だと言っていましたね…。
ダイヤってやつは…オールマイティに色々出来るみたいで…スペードがいない時は、こいつが
中心になることが多い。
ハートは…女で、こいつが何を担当していて、どういうことが得意かは、残念ながらわかりません。
オレが一緒に仕事をしたのは、2回です」

「なるほど…」

「全員がかなりの手練れか?」

ベンズ卿…一番気になるところだよね、確かに。

「もちろん…。
並みの騎士では相手にならない…。
全員が単体で、あんた方と互角に戦えるはずだ」

「それは…かなり要注意な相手だなぁ…」

そうだね、ローカス卿…。
でも…なんでか私は、全く別の事をこの時考えていた。

「どこに潜伏するかとか…特徴はあるのか?」

「基本…どこにでも潜伏出来ると思いますが…。
原則は自分たちの拠点を持っていて、クライアントの元に行くのは、必要な時だけ…というスタイル
でした。
今も変わってなければ、そうでしょう」

「わかった…。
次また…仕掛けてくると思うか?」

「…クライアントとの関係にもよりますね。
一つの所に長くいない連中ではありますが…さりとて引き受けたことは必ず遂行する奴らでもあります」

つまり…次また仕掛けて来る可能性が高い上、潜伏場所の特定は難しい…と。

「そこまで抽象的だと…注意喚起も難しいな…」

「でしょうね…」

結局、黒幕実行犯・トランペストについては、できる対策をやった上で、出方を待つしかない…という
なんとも歯がゆい結論に達するのだった。

そして私は施設の諸々を確認するため、フォルトとエマ、ジェードと共にその場を後にした。
ベンズ卿は子供たちを連れてきているため、ジュリアと帰り…レイチェルはデイビス卿が迎えに来て、
それぞれ帰った。

「ローカス卿は帰らんのか?」

「ん…帰るけどさ…。
お前に一つ聞きたいんだ、ギリアム」

「?」

「もしオルフィリア嬢が平民だったとしたら…お前はどうした?」

「随分とくだらない質問だな。
私の妻はフィリーだけだ。
だが、国が法律でそれを認めないなら…どこか名のある貴族の養子にして、貴族籍に入れるだけだ」

これは…一部の貴族が実際に行っている事だ。
どうしても平民と結婚したい貴族は、相手を他貴族の養子として迎えてもらい、そこから嫁なり婿なりに
取る…。

「お前はそれで…なにが起こるか、よくわかっているだろう?」

そう…ステンロイド男爵家のような、名ばかり貴族ならまだしも、上位貴族がこれをやると…高い
確率で連れ合いは、嫉妬も相まって相当陰口をたたかれる。
戸籍上が貴族でも、やっぱり血筋は…って話になるからねぇ…。

「…そもそも男爵令嬢のフィリーを婚約者にした時点で…そんなことは起こったさ」

ギリアムの空気が、一気に怒気を孕む。

「私は…フィリーに言われて仕方なく、建国記念パーティーで他の女と踊ったが…。
下賤な女より、私の方が相応しい…そんな目で見て来る女が殆どだった」

怒りに満ちた表情はさらに強くなり、

「よっぽど…その場で首をひねって殺してやろうかと思った」

普通の人間だったら、逃げ出したくなったろうが、ローカス卿は…やっぱり慣れているようで、
全く意に介していない。

「じゃあ…もう、他の女とは踊らないのか?」

「いや…踊るよ、これからもな」

この時ローカス卿は初めてぎょっとした。

「フィリーに言われたんだ…そんなことを思う人間なんて、いくらでも出て来る。
いなくなることは無いんだから、気にしたってしょうがない」

「そもそも貴族の社会に暮らす以上、避けては通れぬ道があり、仕事がある。
幸せになるためには、時として嫌な仕事だってやらなきゃいけない事がある…そういう仕事の一つと
思ってくださいよ…と」

「…オルフィリア嬢らしいな」

なんだか表情が柔らかくなった。

「しかしオルフィリア嬢は、本当にモノが良く見えているよな~。
あれがあれば、どこに行っても上手くわたっていけると思うぜ。
お前もうかうかしていると、捨てられるぞ~」

ローカス卿としては、冗談交じりのからかい文句だったのだろうが、

「だろうな。
事実一回捨てられかけたし」

「……は?」

ローカス卿、フリーズ。

「ああそうか、話したことは無かったか?
フィリーは一度、私の求婚を断っているんだ」

「聞いてねぇっ!!詳しくぅぅ!!」

すっごい勢いで食って掛かったそうな…。
ギリアムは、私への求婚時のエピソードや、その後公爵家に来て出した条件など…
かなり正確な所を、ローカス卿に話した。

「というワケで…私はすぐにでも結婚したかったんだが…フィリーが待ったをかけて…
今に至る」

ローカス卿…すっごいあほ面を晒したそうな…。

「オルフィリア嬢って…マジで凄すぎ…」

と、つぶやいていたらしい。
でもすぐに復活して、

「……ああ、あともう一つ…」

「なんだ?」

「お前はさ…そいつの身分より、まず人格を見るよな…。
今後もそれは変わらないか?」

今度はギリアムが、ちょっとキョトンとしたらしい。

「何を言っているんだ?変わるわけがないだろう。
そもそも平民と付き合いがあると言うだけで、バカにするような奴に、好かれたいとは
毛ほども思わん」

「そ…っか、そうだよな…。
お前が全貴族のトップで、初めて良かったと思ったよ…」

「……本当に今日は、どうしたんだ?」

「なんでもないよ…じゃ、本当にオレは帰る…」

そう言って、足早にローカス卿は出て行ってしまったそうな…。
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