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第4章 飄々

2 テオルド卿という人物、ローカス卿という人物

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建物のあたりが騒がしくなったと思ったら、中から一斉に子供が
飛び出してきた。

蜘蛛の子を散らすように…と言う表現がよく似合う。
思い思いの場所に、全速力で行く様は、まさに子供の特権だろう。

そして子供の一部は、大人の作業場に一直線だ。

「こーら!!
こっち来ちゃ危ないって言ってるだろ!!」

大人に制止されたぐらいで、子供は諦めん。

「え~、今日は子供のやれることないの~。
つまんな~い」

「ゴメンね~。
今日はとにかく力仕事が多いから~」

私はすかさず、子供たちの気を引く。

「わ~、太陽のお姉ちゃんだ~」

「来てたの~」

「遊ぼ~」

途端に私に群がってくる子供たち。

「こっこら!!
オルフィリア様と呼べと…」

「あ~、いいんです。
堅苦しいの嫌いだし。
折角だから、みんなの作った作品、見せてくれる?」

「はーい!!」

元気に私の周りを駆け回る子供たちを連れて、私は建物の中に
入る。

「オルフィリア…様は太陽のお姉ちゃん…と、呼ばれているの
ですか?」

テオルド卿が近くの大人に尋ねる。

「ええ…。
髪と眼の色がそう見えるから…ってのもありますけどね。
性格も明るくて…人を楽しませるのもうまいし。
だからこの施設の子供だけじゃなくて、近所の子もみんな寄って
来るようになりました。
身分による差別もしませんしね」

「…でしょうなぁ」

テオルド卿は頷く。

「ほら…巷で噂の例のお茶会…。
あんな目にあったってのに、お茶会のすぐ後、大人数の難民が施設に
来たって聞いて、すぐこちらに来てくださったんだ。
愚痴一つこぼさず、けが人や病人の看護、施設の割り振りの見直しを
してくださって…」

「本当に天使のような方だ…」

「あの人に酷いことができる人間は、人の心が無いんだよ、きっと!!」

おーい、わたしゃそんなにいい人間じゃないぞ。
エッチ至上主義者だぞ。

「……」

テオルド卿は途端に言葉を無くし、黙りこくった。

「け、けど本当にひどいよなー、近衛騎士の連中」

テオルド卿の横から、少々上ずった声が響く。

「だよな。
ちゃんと教育ってもんを受けた、お貴族様だろ?
なのにやってることが、そこら辺の悪党と変わらねぇじゃねぇか!!」

「まったくだ!!
王立騎士団に比べて、しょーもないのは知ってたけど、ここまで
落ちたのかよ」

人々が口々にそんなことを言い出すものだから、もちろんローカス卿の
顔は、どんどん暗くなる。

そんな人々を止めたのは…

「それは違うのではないですか?」

意外にもテオルド卿だった。

「王立騎士団は今でこそ、ギリアム公爵閣下のおかげでだいぶ質が良く
なりました。
しかしそれ以前は…能力があっても貴族でなければ上に行けなかったし、
平民団員の方が、割の合わない仕事を、させられることも多かった」

まあ、別に王立騎士団に関わらず、世の中の大抵の組織がこうだから、
しゃーないっちゃしゃーない。
だからギリアムが王立騎士団を改革した時、中にいたしょーもない貴族は
結構タカを括って、何の対策もしなかったらしい。

結果……全員、追い出されたけどね。

「今回オルフィリア嬢に対し、近衛騎士の2人がやったことは、確かに
許されないことだが、それ一つをもって、他の大部分の真面目に働いている
近衛騎士を悪く言うのは、変ですよ」

ある意味、ド正論なんだけど…ギリアム2号君。
周りの人の空気…明らかに悪くなってるよ。

「それに何より…」

テオルド卿は、少し詰まりつつも

「あのお茶会で、オルフィリア嬢を苦しめた令嬢たちの主犯は…王立騎士団の
身内なのだから」

するとやはり…というか、当然というか、周りの人たちの雰囲気が、どんどん
怒気をはらんだものになる。

「おい!!ちょっとアンタ…、ここにいる皆は、ギリアム様やオルフィリア嬢
に、かなりの恩があるやつばかりなんだぞ!!」

「それなのに…」

数人が、今にも飛び掛かりそうな構えをしたが、

「ちょっ!!
ちょっとこっちに来てくれ!!」

その数人を、さらに複数の人間が、奥に引っ張っていた。

「なんだよ!!」

「と…とにかく!!」

飛び掛かりそうな人間たちを、さらに大人数が囲って、何やら耳打ちしている。

「はあ?マジかよ!!」

「他人の空似だろ?」

「いや…間違いないよ…」

「オレも…見覚えがある」

そんな感じで、ガヤガヤひそひそやった後…、全員でバツが悪そうに
戻ってきたかと思えば、

「とりあえず、手ぇ動かすぞ」

「ああ…」

「さっさと終わらせないとな…」

と、各自仕事を始めた。

テオルド卿とローカス卿は、何が何やらわからないが、追求する気もない
ようで、各々作業を再開するのだった。

それからしばらくして、

「お父さーん」

女の子が二人、やってきた。
年のころは7,8歳、同じ背丈、同じ顔…双子のようだ。

「どうした?」

作業中の男が、顔を上げる。

「髪留め落としたー、見つからなーい」

二人とも泣いている。

「お父さん、手が離せないから…終わったら探してやるから」

なだめながら言えば、

「え~、あれ、今日の発表会で見せようと思ってたの!!」

「一生懸命作ったの!!
今からじゃ、何も作れない!!」

父親は、娘たちを慰めつつも、

「父さんは母さんの薬代を稼がなきゃいけないんだ。
だから、ここを離れられないんだよ」

といい、

「発表会は次もあるんだから…」

納得させようとしているが、子供はそれでは収まらない。
その時…

「オレが行こうか?」

ローカス卿が名乗り出た。

「い、いえ、そんな…、見ず知らずの人に、そんな事してもらう
わけには…」

「あんちゃん。
この施設はしっかりしている分、仕事しなかったら給金が削られ
るんだよ」

「そうそう」

「あー、いいっていいって」

心配する大人たちに、手をひらひらと振り、

「どこに落としたんだ?
オレで良ければ、一緒に探してやるよ」

二人に話しかける。

「多分あっち~」

二人はずっと向こうを指している。

「茂みがいっぱいあるところをみんなで通ったから…その時に
落としたんだと思う…」

「そっか…
じゃあ、案内してくれるか?」

「うん」

双子は途端に笑顔になった。

「コラ!!
ここを離れたら、この人お金もらえなくなるんだぞ!!」

父親は声を荒げたが、

「あー、いーから、いーから。
オレ今、食うに困ってるわけでも、すぐに金が必要なわけでも
ないから」

ローカス卿は双子を連れ、さっさとその場を離れてしまった。

父親はそんなローカス卿の背中に一礼し、作業に戻るのだった。
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