ひとまず一回ヤりましょう、公爵様 2

木野 キノ子

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第4章 飄々

1 王立騎士団師団長たちの色々

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リグルド卿がファルメニウス公爵家に押し掛けてきた翌日…。

早朝の王立騎士団の食堂に、ギリアムの側近5人衆の姿があった。

その中の一人…リグルド卿の顔は、元の顔の判別がつかないほど
腫れあがっていた…。

そんなリグルド卿にデイビス卿が、

「アナタは頭は良いけど、本当に…本当にバカなんですね」

と、ため息交じりに言った。

「ちょっ…仲間の傷に、塩塗って楽し…いてて…」

口の中もだいぶ切ったようで、喋るのがつらいよう…。
しかし、そんなことは日々体を鍛え、悪人を武力で制圧するのが仕事の
人間達には、同情されるはずもなく、

「あのな!!」

ガイツ卿の怒号が響く。

「伝書鳩で事情を知った後のテオルド卿は…本当に小さくなって
団長に謝り倒していたんだぞ!!」

いろんな意味で言葉が出ないリグルド卿に変わり、

「ボクさぁ」

ヴァッヘン卿が口を開く。

「母からリグルド卿とは、この先最低限の付き合いにしなさいって、
ハッキリ言われたよ?
この前開いたお茶会で、ステンロイド男爵夫人から、色々話を聞いた
らしくてさー」

珍しく鋭い眼光を、

「そんなのボクが決める事だって、言ったけど…。
母がそう言うのも、ある意味当たり前だよね?」

リグルド卿に向けていると、デイビス卿が代わりに話し出す。

「フェイラ嬢もクレア嬢も…団長にかなりアプローチしていたから、
悔しいのはわかります。
しかし!!」

デイビス卿の眼光は、眼の細さも相まって、さらに鋭い。

「やったことが陰湿かつ、悪質すぎます!!」

誰が誰とも言葉を交わさず、しばしの静寂の後、

「みんなテオルド卿とリグルド卿の身内だから、表立って言わねーけど」

レオニール卿は頭を掻きながら、

「そうじゃなかったら、今頃は罵詈雑言が飛び交ってるぜ」

盛大なため息とともに、のたまう。

「…火消しも、あまり上手くいっていないようだしな。
やはり、コッソリやるのは難しいか?」

デイビス卿は少し眉間にしわを寄せ、レオニール卿に尋ねる。

「…別に秘密裏にやらなきゃいけない事なんか、前にもありましたから。
重要なのはそこじゃないっすよ」

レオニール卿が真剣な目をし、

「みんな正直、あんまり熱が入んないんすよ。
テオルド卿には世話になってるし、リグルド卿のことは変わらず仲間だと
思ってるけど…まずはオルフィリア嬢がどうしたいのか聞きたいって…
みんな言ってるんす。
ま、かく言うオレもそーですけど」

デイビス卿に訴えれば、

「まあ、当然ですね」

という答えが返ってくる。

「ウチの第3師団は…もともと専門にしている仕事の性質上、平民が多い
のは、知ってるでしょう?
オルフィリア嬢は平民も貴族も関係なく、気さくに接してくれていたし、
みんなと仲良くしたいって、手が足りない時の雑用なんかも進んでやって
くれていた」

するとレオニール卿がさらに話す前に、

「そうだよなぁ。
それに団長に言いにくいことを、オルフィリア嬢が伝えてくれたりして
いたから、みんな助かってたんだよな」

ガイツ卿が横から口を出す。

「団長の寵愛ぶりを考えれば…いくらだってわがまま勝手にふるまっても
いいと思いそうなのに…そんな素振りを全く見せない、考えてもいないような
オルフィリア嬢が、みんな好きなんだ」

これは別に第3師団に限った話ではなく、他の師団の団員達にも言えた。

そんな最中リグルド卿が、机に突っ伏したまま、

「オレだって…」

今にも消え入りそうな声を出す。

「もうどうすればいいのか…わからなくって…」

それを聞いた全員が、同時にため息をついた時、

「失礼いたします」

団員が入ってきた。

「ギリアム団長が、皆さんをお呼びです」

その声が終わった直後、皆が皆無言で立ち上がり、食堂を後にするの
だった。


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さて、約束の日がやってきた。
早朝のファルメニウス公爵家では、

「ん?」

「ありゃ?」

テオルド卿とローカス卿は、ファルメニウス公爵家正門前で、見事に
お見合いをしていた。

「テオルド卿!!ローカス卿!!
本日は来ていただき、ありがとうございます」

互いが来ると知らず、呆けていた二人に、私は元気よく挨拶した。

「おお、オルフィリア嬢。
今日はよろしくお願いします」

テオルド卿が、かなり丁寧なあいさつをしてくれた。
ローカス卿はちょっと、不思議そうな顔をしている。

「本日は身分を隠して頂くようお話ししましたが…、お二人が知り合い
だと言う事も、あえて言わないでください」

二人はしばし顔を見合わせたが、

「わかりました」

私の指示に、素直に従ってくれた。
よかった、よかった。

「それでは馬から降りて、私と一緒に馬車に乗って移動しましょう」

「馬で行くのはダメなのですか?」

「ん~、ダメではないのですが…先ほど言ったように、身分を隠して
頂かねばならないので…」

この世界での馬は、とてもコストがかかる高価なものだ。
平民で乗馬がたしなめるのは、よほどの金持ちか、馬に乗る役職に
ついたものに限られる。

「隠してくれとは言われていますが…、身分がバレるとヤバいことに
でもなるんですか?」

「そう言う事ではないですよ。
実際、身分を隠した貴族の方が、奉仕しに来てくださることもよく
あります。
大抵皆さん、気づいても気づかないふりをしてくださいますし、
危害を加えるのでなければ、誰でも受け入れる場所です」

「なら…」

「しかし今回は…お二人の正体は出来るだけ隠しておいた方が良い
と…私が判断いたしました」

するとローカス卿が、

「わかりました。
オルフィリア嬢に、全面的に協力すると言いましたからね。
黙って従いましょう」

と。
……ありがたいなぁ。

「そう言う事でしたら…私もそうしましょう」

テオルド卿も続いてくれた。

ひとまず二人の馬は、ファルメニウス公爵家で預かることにして、
私と同じ馬車に乗ってもらった。

「これからどこに行かれるのです?」

テオルド卿が聞いてきたので、

「フィリアム商会が運営している、孤児院&難民施設です」

「そこで何を?」

「ええと…その施設では試験的に色々な作物や果樹を育てていて…
今日はその収穫と、施設内の整備・修繕を行う予定なのです」

「それは…随分な人数になるでしょうね」

ローカス卿は少し気が進まなそう。
まあ、最近の近衛騎士に対する世間の風当たりを考えれば、当然っちゃ
当然か…。

「ええ、ですが人がいくらいても足りないくらいなのです。
ですからお二人にも来ていただいて、助かりました」

私はあえてローカス卿の懸念には触れない。
今日は、案ずるより産むが易しで行くからさ~。

さて、二人を連れ立ってやってきたのは、王都のはずれ。
敷地面積の広さに二人は驚いていたけど、王都から外れれば、もっと
広い所はあるんだけどねぇ…。
そして予想通り、沢山の人が集まっていた。

「おお!!オルフィリア様だ!!」

「みんな!!
オルフィリア様がいらっしゃったぞ!!」

人々は口々に私の名前を呼ぶ。
こしょったいね、ホント。

「皆さん、今日はご苦労様です!!」

私は人々の歓声に答えながら、笑顔を浮かべる。

「外からも、人手を募っているのですか?」

施設の入り口に人の列ができているのに気づくとは…、やっぱローカス卿
できる人やね。

「ええ。
実はこの施設では、色々な製品を試験的に作っていまして…意見を聞く
為に前回手伝ってくださった方に配ったのです。
それが意外に好評だったみたいで…。
今日は前回より沢山、集まってくださいました」

そう。
前回、商品の宣伝目的で、給金の他に試供品を差し上げたら、思いのほか
当たった。

「あと施設同士の報告会もある予定なので、特に人が多いのです。
まあだからこそ、収穫と整備を一緒にやることにしたのですが…」

「なるほど」

「では二人とも、あちらでくじを引いてください」

「はい?」

「最初の持ち場は、公平にくじ引きなんです。
そのあと、仕事の進み具合を見て調整します」

私の説明に納得してくれたようで、2人ともくじを引き、各々の場所で作業に
あたる。

私は全体の進み具合を見て回り、調整をどうしたらいいかを考えるのが
主な仕事だ。

2人は側溝の掃除を担当することになった。

少しして様子を見に行けば、ローカス卿はかなり溶け込んでいた。
もともと身分で人を区別しない、気さくな人だからな~。

それも私が最近の状況を、何とかしてあげたくなった理由の一つ。

しかし身分を全く気付かれていないローカス卿に対し、テオルド卿はと
言えば…。

周りからチラチラ見られていた。

うん、やっぱりね~。
私の勘が当たったわ。

それじゃあ、後は…。

いっちょ雲になったつもりで、飄々と行くか~。

私がそんなことを思っていると、何やら建物の方が騒がしくなってきた。
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