ひとまず一回ヤりましょう、公爵様 2

木野 キノ子

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第3章 対応

6 雲を掴むような話

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私はローカス卿の眼を、真っすぐに見据え、

「ローカス卿!!
2日後、1日時間を作っていただけませんか?」

「は…はい?」

ローカス卿は呆けてしまった。

「私は最近、お茶会事件で弊害を被っている方々を、何とかでき
ないかと、思案しておりました。
そして一つ、思いついたことがあります!!」

「それは…」

ローカス卿は思わず、身を乗り出す。

「勿論、うまくいく補償などございません。
しかし、現状で手をこまねいていらっしゃるなら、私の策に乗って
みていただけないでしょうか?」

「その策とは…」

ローカス卿の眼に、初めて光が宿ったように見えた。

よっしゃ。
かなり食いついてきてくれた。
ただ…。

「残念ですが、策が何かはお話しできません」

私はローカス卿の眼を見て、キッパリ答え、

「なぜならこの策は、詳しくお話すればするほど、成功率が
下がるからです」

そう続けた。
うん。
ホントにそうだから、仕方ない。

「……」

ローカス卿は黙りこくる。
私は構わず続けた。

「私がお話しできるのは、
①2日後、1日お時間をいただくこと
②大変汚れる作業を、平民と共に行うこと
③身分を隠していただくこと
その上で、私を全面的に信頼して、任せていただくことです」

「…それは何とも…雲を掴むような話ですね…」

「ええ、その通りです」

私は間髪入れずに答えた。
実際、雲を見ていて思いついた案やし(笑)。

「ですので最初からうまくいく補償はないが、何もしないより
マシ…程度にお考え下さいと申し上げました」

と、締めくくる。

すると暫しの沈黙の後、ローカス卿は自分の膝を勢いよく叩いて、

「わかりました!!
乗りましょう!!」

と。

「ありがとうございます。
それでは2日後の日が昇る時間に、ファルメニウス公爵家へいらして
ください」

そうしてローカス卿との話は、まとまったのだった。


-------------------------------------------------------------------


ローカス卿とフィリーの話し合いより、1時間後…。

コウドリグス侯爵邸、ベンズ卿の自室…。

ローカス卿とベンズ卿は、向かい合って座っていた。

「なるほど…このような時間に来られるとは、何事かと思いましたが、
それが理由ですか…」

「ああ…、というわけで、2日後1日あける。
後は頼んだ」

「わかりました…しかし…」

ベンズ卿はただでさえ深い眉間の皺を、さらに強くして

「オルフィリア嬢は、何をするつもりなのでしょう?」

「わからん!!
しかし…」

ローカス卿はため息をつき、

「今回の不始末の鎮火は、現状本当に打つ手が思いつかんのだ」

するとベンズ卿は、苦虫を嚙み潰したような顔になり、

「申し訳ありません…。
アイツらがオルフィリア嬢を、取調室に連れて行くと言い出した
所で出るべきでした。
まさかあんなに簡単に、腕を掴むとは…」

「よせ!!
過ぎたことで、自分を責めるな!!」

そう言うローカス卿も、苦虫を嚙み潰している。

そう…この一件は、仕組んだ王女殿下が明らかに悪いのだが…、
それにしても今回の、近衛騎士2人の質の悪さは否めない…。

そもそも彼らが口にした例外…それは基本的に2つある。

①拘束しておかねばならない対象(オルフィリア嬢)が何度言っても、
逃げようとした場合
②対象(オルフィリア嬢)が、近衛騎士2人がかりであったとしても
命を脅かされるぐらいの、手練れであると判断された場合

である。

オルフィリア嬢は、このどちらにも全く該当しない。
にもかかわらず、腕を掴んで無理やり連れて行こうとするなど、
町のチンピラやごろつきと、何ら変わらぬ行為だ。

この2人はもちろん厳罰に処されたし、それについてはファルメニウス
公爵家の庭園の時とは打って変わって、異を唱える近衛騎士は1人も
いなかった。

重苦しい沈黙が暫し続いたが、

「まあ、けどよ…オレは少し楽しみなんだ」

ローカス卿は少し含んではいたが、笑みを見せる。

「何がです?」

それを見たベンズ卿の眉間の皺は、ほんの少し緩やかになった。

「考えてもみろ。
今回の市勢にはびこる噂…そのままにしておけば、よりギリアムの
名声は強くなる。
そして同情が集まっているオルフィリア嬢は、味方を一気に増やせる
だろうし、鼻を高くしていられるハズだ」

「……」

ベンズ卿は黙ったまま、かなり訝しんだ表情をする。

「なのにそれをフイにする行動を、自らとるとはね…」

「本当に、フイにするつもりなのでしょうか?」

「…オルフィリア嬢が何か企んでいると?」

「いえ…ただ…」

ベンズ卿は一瞬下を向き、

「私はあのご令嬢が…自分より年下だと思えないのです…」

「…なぜそう思う?」

ローカス卿は頬杖を突くような姿勢になり、ベンズ卿を見据える。

「…わかりません…しかし…。
建国記念パーティーでダンスを踊り…話をしたその感覚が…まるで
年上が年下の力量を見るような…ある意味見透かされていると感じた
のです…」

ベンズ卿は呼吸を整え、

「すみません…。
おかしいのは分かっていますが…本当に考えが読めなくて…」

「おかしくねーよ。
オレもそう思う」

「団長も?」

ベンズ卿は少しほっとしたようだ。

「ただオレは…幼いころから、近くにそういう奴が、常にいたから
な…」

「…ギリアム公爵閣下ですか…」

するとローカス卿は少し笑って、

「オレはあいつが年下に見えたことなんざ、ほとんどねぇよ。
文武両方群を抜いていたし、オレは最初からアイツにかなわなかった。
だから、救国の英雄になったことだって、オレは驚かなかったよ。
アイツだったら、そのぐらいなってもおかしくない」

諦めでも嘲りでもない…一種尊敬の色がその声には入っていた。

「まあ…あの方は規格外過ぎましたからね。
戦時の処罰も、以前では考えられない位厳しいものでした。
それによる不満は、私の隊でもかなり出ましたね」

「ああ…けどよ」

ローカス卿の口調は少し強く…だが明るさを含んだものになる。

「ギリアムはただの一度も…善良なヤツを貶めたことはねーんだよ」

「……」

「オルフィリア嬢は誰かに押し付けられたんじゃなく、ギリアムが
自分でこの人だと選んだ連れ合いだ」

「……」

「だから今回のオルフィリア嬢の提案…。
漠然とだけど、ミョーな安心感があるんだ」

「そうでしたか…」

ベンズ卿の纏う空気も、少し柔らかくなった。

「オルフィリア嬢はオレやお前を…近衛騎士団を…悪いようには
しないって」

「団長がそうおっしゃるなら…」

ベンズ卿はここまで話したところで、使用人を呼び

「棚から例のワインを持って来てくれ。
ああ、グラスとつまみも一緒にな」

と、指示した。

「おいおい、いいのかよ。
あれ、特別な祝いのためにとっといたヤツじゃないのか?」

「だからですよ」

ベンズ卿は随分吹っ切れた顔をする。

「団長の判断に、私も乗っかると決めました。
だから、前祝をしましょう。
この先はきっと、良い事しか起こりませんよ」

するとローカス卿は盛大に笑い始め、

「いいな。
そうしよう!!」

そして2人して、ワイン片手に他愛もない話を始めた。

その日のコウドリグス侯爵邸には、2人の明るい笑い声が、
一晩中こだましていたそうな。
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