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第3章 対応

3 テオルド卿の状態が、ヤバイ

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テオルド卿は少し驚きつつも、

「それは構いませんが…なぜ…?」

困惑しとるね。
でも、少し安堵もしているよう。

「今後、このようなことが無いよう、少しお話がしたいのです」

話したい内容は違うがね。
リグルド卿もいるし。

「わかりました」

私の言葉を素直に聞いてくれるテオルド卿。
こういう所は、本当にギリアムにそっくりやね。

肩を落としたリグルド卿にお帰り頂き、部屋にはテオルド卿と
私とフォルトの3人が残った。

「もう本当に…」

テオルド卿は、膝の上で組んだ手に視線を落とし、

「何と言ってお詫びすればよいのか…言葉が見つかりません…」

大分うなだれて、背中が小さくなってる…。
本人の豪快さからは、想像もできないくらいに…。

……やっぱり残ってもらって、正解やな。

さっき私が感じたものは、思い過ごしじゃない。
できればギリアムに、話を通したかったけど…私の独断でやる
しかない!!

「気落ちしないでください…と言っても無理かとは思いますが、
私がテオルド卿に残っていただいたのは、少なくともあなたを
責めるためではありません」

するとテオルド卿は、自嘲するように

「オルフィリア嬢は…お優しいですね…」

この人、ホントぶきっちょなんやな~。

「ですがテオルド卿が、何かわたくしに償いたいということなら…
お願いしたいことがあります」

「なんなりと!!」

あ~、乗り出してきた…。

うん。

何を置いても償いたいんだよね…私に…。

「二日後…、テオルド卿お仕事お休みですよね?
その日朝から、私の手伝いをして頂きたいのです。
一日がかりになりますし、だいぶ汚れますし、平民に交じって
やる作業となりますが…」

「そのようなこと!!
一切気にいたしません!!」

うん、だろーね。
テオルド卿、身分で人を差別しない人やからね。

「では…よろしくお願いいたします」

「はい!!」

そんなこんなで、私とテオルド卿との話は終わった。

――――――――――その夜。

帰ってきたギリアムに、今日あったことを伝える。
エマとフォルトも同席してもらった。

「そうですか。
伝書鳩が来た時は、私も雇用か迷ったのですが…。
リグルド卿は暴れるような人間ではないですし、テオルド卿も
自分に一任して欲しいと言いましたからね」

「そうですね。
むしろ私は感謝していますよ。
欲しかった情報が、リグルド卿が訪ねてきたおかげで、一気に
入りましたから」

「ほう」

「だから、あまり叱らないであげでください」

「それはその情報とやらを聞いてから、判断します」

私の前じゃのほほんしてるが、ギリアムは抜け目ねぇな、やっぱ。

「まず、フェイラ嬢とルイーズ嬢の状態。
やはりどうなっているか、気にはしていました」

「それで?」

「食事はとっているそうなので、ひとまず放置です」

「それでよいでしょう」

3人とも頷いている。

「一番の収穫は、テオルド卿に会えたことです。
実はお会いしたかったのですが、市勢のこともあり、どうすべきか
思案しておりました」

「そうだったのですね」

「ですが今日、非常に自然に会えてお話しできましたので…
よかったです」

「なるほど」

「フィリー様のお手伝いをする約束をして、喜んでいらっしゃい
ました」

フォルトが明るい顔で言えば、

「それは良かった…。
最近やはり、沈んでいたから…」

と、ギリアムも笑顔になる。

「ええ本当に良かったです」

私も笑顔だが、他の人間とは異質のものだ。
だってさぁ…。

「手遅れになる前で」

三人がぎょっとしたような顔を私に向ける。
ああやっぱり。
誰もわかってなかったのね。

「私の見立てでは…このままだとテオルド卿、あと10日…いえ
一週間以内には倒れますよ」

驚いてんな~、すごく。

「な、なぜそんなことがわかるのですか!!」

ギリアムが珍しく声を荒げた。

「私が薬草学を学ぶため、逃げる先々で医師や薬局の手伝いを
していたことは…ご存じですよね」

「え、ええ」

「ゆえにわかってしまうのですよ」

「な…何が…」

「テオルド卿は高い確率で…食事をほぼ吐き出しています」

一同、驚愕…だよね、やっぱ。

「こ、根拠は!!」

「まず肌つやと血色がかなり悪かった…栄養をうまく取れていない
人の典型…そして…」

私が自分の考えを決定したのは…。

「テオルド卿の手…です」

「手?」

「テオルド卿にお茶会前にお会いした時、テオルド卿の手には
歯形がついていなかった。
でも、今日お会いした時には、少し離れてもわかるぐらいハッキリと
歯形がついていたのです…それも複数」

「一体それがなんだと…」

「食べること=生きること。
食べた物を吐く…これは人間…いえ、生物の生きる本能に逆らう
行為です。
ゆえに体が無意識にそれを止めようと…口を閉じようとするのです」

「……」

「それを手で抑えるから…吐いてばかりの人の手には…歯形が
つきやすいのです」

3人ともぼーぜんとしとる。
そりゃそーだ。

テオルド卿は誰がどう見ても、芯がしっかりした人やから。

けどね…。

強さと生き残れるかどうかは、一見比例しているように見えて、
関係ないときもあんのよ。

私のこの診断は、確かに今世で医者や薬草師(この世界の薬剤師)
の所で、患者を診る手伝いをして得たものだ。

でも…。

それだけじゃ無理だっただろう。

底支えになったのは、やはり前世の娼婦としての経験。

私は医療なんてものを学んだことは無かったが、こと人間の肉体を
見て触れることは、医者並みにやってきた。
そうして体を見て、体を重ねるうちに、見るだけで分かるように
なったんだよね。

最初は一見で、元気のあるなしを見分けられるようになった。

そんな中で、身体的に明らかに?と思うものが出てきた。

それを自ら尋ねることはしなかったが、自分から話す人もいた。
そう言う場合は、黙って聞いた。

そうして蓄積していった、私の記憶と感覚は…今世で自分の欲を
満たすために片足突っ込んだ、医の世界の裏付け…その底力と
なった。

「なぜ…」

ギリアムが悲壮な目をして、私の肩を掴み、

「どうしてそれがわかった時点で、私を呼び戻してくれなかった
のですか!!」

私はそんなギリアムの眼を真っすぐ見つめ、

「呼び戻してお話したら、どうされましたか?」

「すぐにでもテオルド卿に、家に帰って休むように伝え…」

「だからですよ」

私は目一杯の大きな声で、ギリアムの言葉を遮る。

「え…」

呆けるギリアム。

「今のテオルド卿を休ませるのは…逆効果です!!」

「それはどういうことです?」

ギリアムは悲壮感を漂わせ、訳が分からないという目を私に向けて
来る。

慌てないでって言っても無理だろーけど。
一呼吸置かせてもらうよ。

話す内容は、まだまだあるからね。

私はエマが用意してくれたお茶に口をつける。
少し冷めてはいたが、これからの話をするのにはちょうどいい感じ
だった…。
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