ひとまず一回ヤりましょう、公爵様 2

木野 キノ子

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第2章 事後

3 ハイリスクハイリターン

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私は相手が予想通りに動いてくれたことに、心の中でガッツポーズを
しつつ、

「いいえ、赤やピンクは大好きですよ」

平静を保って、返事をする。
何もわかってないよーなぽけぽけキャラは、まだ作っといて損は
ないからね。

するとルイナ夫人は、

「でしたら…そういった色を使い、別途作ることも…」

いいね、いいね。
さりげなーく、オーダードレスに持ってこうとするのは。
でも…。

「それは…ご遠慮いたします。
今回のドレスはデザインももちろんですが、何より色が重要
でしたので」

「と…言いますと?」

ルイナ夫人は不思議そうだ。
まあ、確かにね。
女性らしい色を好む人間が、そうでない色をわざわざ頼むん
だから。

「建国記念パーティーで私とギリアム様が、お揃いのドレスと
タキシードを身にまとったことは、ご存知でしょうか?」

「もちろんでございます!!
この世の物とは思えぬ美しさだったと!!」

大袈裟ダネー。
まあ、しゃーない。
建国記念パーティー後に、私とギリアムのまねっこドレスが
巷でだいぶオーダーされたみたいだから。

「ギリアム様は私を正式に婚約者として発表いたしましたので、
以前と違い大小にかかわらず、私を伴って今後パーティーへの
参加を増やすおつもりなのです」

「そうでしたか。
ではオルフィリア嬢の、ドレスの需要も増えるのですね。
確かに女性らしい色のみでは、逆に飽きてしまいますし、斬新さ
にも欠けますからね」

「まあ、間違ってはおりませんが…」

私はワザと間を開ける。

今回のお茶会の一連での、私の目的…やりたいこと…。
それはできるだけ早急に、私の味方を増やすこと!

お茶会のためのドレス作りも、お店選び含め、そのための布石
だったんだから。

「私とギリアム様は、今後参加するパーティーで、またペアの
ドレスとタキシードを着る予定なのです。
今回私がそちらに注文したドレスの色であれば、男性のタキシード
に使用しても、おかしくないと思いましたので…」

ルイナ夫人は一瞬固まったが、すぐに最上級の獲物を見せられた
獣のような眼になり、

「ギリアム様のタキシードを…、当店でとお考えなのですか…?」

前のめりになっている。

当然だろうな。

ギリアムは自分の服を、公爵家御用達の仕立て屋にしか頼んだ
ことはない。
これは余計なしがらみを避けたかったのと、何よりギリアムが…
ファッションに興味がなかったせいだろう。

うん。
これ…驚いたんだけどさぁ…。
ギリアムって、何着ても似合うんだけど…本人は着飾ろうって
意識がほぼないんだよね…。
逆にその意識を持ったのって、私に求婚するときと、建国記念
パーティーで、私とお揃いの衣装をそろえた時だけだとさ。

これ、フォルトとエマが言ってたから間違いない。

「はい、ルイナ夫人。
沢山作るなら折角ですので、公爵家御用達以外のお店も使って
みたくって…。
ただこのお店と他二つのお店には、今回ご迷惑をおかけして
しまったので…確実に候補に入れようと思っております」

「候補…ということは、何か条件が…?」

おや、鋭いね。
やっぱこのお店、好きやわ~。

「ギリアム様は私の気に入ったところなら、自分のタキシードを
つくるのは構わないけれど…1つだけ。
私が愛らしく見えないドレスを作るようなところでは、仕立てたく
ないと申されましたので…」

「まあ…、オルフィリア嬢は本当に愛されてらっしゃる」

「ふふ…ありがたいことです。
では、それを見越してお願いいたしますね」

「しょ!!承知いたしました!!」

うまいこといったな、よしよし。

「あの…不躾ではありますが、一つだけお伺いしたいことが…」

ルイナ夫人は随分と神妙そうだ。

「…構いません、どうぞ」

「そもそもなぜ当店のような、小さな店にご来店くださったの
ですか?」

うん、当然の疑問だね。
私だったら公爵家御用達の仕立て屋、使い放題だもんね。
いいよいいよ、この質問も出るって思ってたから。

「実は…」

少しうつむく。

「お恥ずかしい話になりますが、私…一時期平民より貧乏な
暮らしをしておりました」

「まあ…」

ちょっと驚いとるね。
巷では噂されているだろうけど、正直本人の口から聞くとは
思ってなかったろう。
こう言う事って、隠したがる人の方が多いし。

「でもそのおかげ…というのも変ですが、平民の作る物にも
素晴らしいものは沢山あると、知ることができました」

少し間を置く。

「だから私はお金に困らなくなっても…平民・貴族問わず、
いいものを使って、それを周りにも発信して行けたらな…と
ずっと思っていたのです」

うん、これは紛れもない本心。

「…話ずらいことをお聞きしてしまい、申し訳ございません」

「いいえ…とんでもございません。
当然の疑問ですので、どうかお気になさらないでください」

そして私は立ち上がる。

「今日中に他の所も回りたいので、これで失礼いたします」

「ドレスの件…しかと承りました」

深く頭を垂れるルイナ夫人の姿を背に、私は足早に店を後にした。


----------------------------------------------------------


さて、同日夕刻。

「ふう!!全部回れた~」

馬車の中で、腕を伸ばす私。

「お疲れさまでした、フィリー様」

他の二店舗も、ルイナ夫人の店とほぼ同様の対応と反応だった。

「これでとりあえず、布石は打った…と」

フォルトは私以上ににこにこして、

「面白くなりそうでございます」

と言った。

「しかし思い切ったことをなさいましたな。
まさか、ギリアム様のタキシードとは…」

「まあね~。
ギリアム様は貴族御用達どころか、王家御用達の服飾店すら、
使ったことないって聞いていたから~。
間違いなくスゴイ話題になるね」

「当然でございましょう」

するとフォルトは改めて私の方を向き、

「帰るまでに少々時間がありますので…。
今後のフィリー様の展開予想と…王家がなぜ何も言ってこない
だろうと予測するのか、お話しいただけますか?」

私は伸びをしながら、馬車の天井を見て、

「お茶会前にフォルトに調べてもらった条件の店は…全部で
7店あったでしょう?」

「はい」

そう…私がクレアのお茶会に出ると決めた時、あることを調べて
もらった。
①貴族の受注も受けるが、平民の出入りもそれなりにある店
②婦人服だけでなく紳士服の取り扱いもある店
③個人店であること(平民がオーナーならなおよし)
④過去、オペロント侯爵の商会とトラブルがあった店

「すべての店に足を運び、招待状を見せ、依頼した。
無理なら断っていいって」

「はい」

「そして4店は断ってきた。
どうしてか、フォルトならわかるよね?」

「リスク回避ですね」

うん、さすがさすが。

「そ!!私は店側に少し時間を与えた。
みんな裏を取ったハズよ。
だって、ドレスコードは明らかにおかしいし、時間だって…」

そう、お茶会の時間というのは、何かの催しのために遅くする
必要が無い限り、2時が通例だ。
これは夫人でも令嬢でも、女性が遅くまで出歩くのはいかがな
ものかという風潮のせいと、実際夕方以降は襲われる率が飛躍的
に上がるからだ。
個人宅でやるならまだしも、公共施設なら貴族専用と言えど
なおのことだ。

…………………………………え?

なら午前中にやれ?

う~ん、いや、それがねぇ…。
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