ひとまず一回ヤりましょう、公爵様 2

木野 キノ子

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第1章 茶会

2 なんだ、この程度かよ

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タニア侯爵夫人は穏やかな笑みを浮かべつつ、

「ま…まあ、こんなところでずっと立っているのも何だから…、
ひとまず席につきましょう…。
オルフィリア嬢も、色々と誤解があるようですし…」

あ~あ、一言多いよ、タニアおばはん。
まあ、あんたとしては何とかアタシを貶めたいんだろーけどさ。

「タニア侯爵夫人!!誤解とは何でしょうか?」

「え?」

タニア侯爵夫人の笑顔が僅かにひきつる。

「私は!!自分の眼で見た確かな事実を申し上げているだけです。
その私が誤解しているという風に聞こえましたので…お聞きした
のです」

「そ…それは…」

言葉ってのは、随分と便利だが同時に怖いものだ。
同じ言葉が聞き手や状況によって、180度変わってしまう。
そしてこの場にいるのは、私に反感を持っている者ばかり。
証拠も捏造されている。
この状況で私があんたの言葉に従って席に着いたら…私が
間違っていたとみんな思うだろう。

「おっしゃっていただけないなら、私は席につきません!!」

…あーあ。
何とか笑顔を張り付けてるけど、悔しそーなのよくわかるよ…。
そりゃそうだよね。
アンタの筋書きじゃあ、私をバカ王女と同レベルの、しょーも
ねー女に仕立て上げ、悪評を言いふらすつもりだったんだろ?

さて…言葉が出ないなら、もう一押しか。

「お答えいただけないなら、私はここでお暇するか考えようと
思います!!」

「え…そ、それは…」

慌てだしたね。
はい、確定!!
アンタはこの招待状以外にも、私を貶める罠を娘と一緒に張って
いるねぇ…。
いーんだよ。
私はもう少し追撃したいところだけど…、自分に分の悪い状況を
作ってまで、それをするつもりはネーから。
アンタらが3年前の仕返しをするために、知恵を絞って仕掛けた
モノ…ふいにしたきゃどーぞご自由に。

しかしそんな私の予想に反して、

「タニア侯爵夫人…」

「こ…これは、レティア王女殿下…」

「ここは私に預からせていただけませんか?」

レティア王女殿下は静かにタニア侯爵夫人の後ろに来て、声を
かける。

「このままでは折角のお茶会が、台無しになってしまいますわ」

そもそも最初から全員、台無しにする気しかねぇだろが。
いや、私を貶められれば、成功ってことか。

「お…王女殿下がそうおっしゃるなら…」

チッ…。

「レティア王女殿下…オルフィリア・ステンロイド男爵令嬢が
ご挨拶差し上げます」

「お久しぶりですねぇ」

にこやかにしてたって、腹の黒さは隠せねーぞ。
まあ、私も腹黒さなら負けねーけど。

「タニア侯爵夫人にも申し上げましたが、私は嘘は申しており
ません」

「別にアナタを嘘つきと言うつもりはありませんよ。
ただこのままでは、皆さんの楽しいお茶会があまりいいものでは
なくなってしまいます」

あのな、それは私じゃなくて、クレアとタニアおばはんに言えや。
雰囲気悪くするよーなこと、自らやってんだからよ。

「とにかくオルフィリア嬢もお座りになってください」

「……」

私はこのままずっと立っていてもよかったのだが、

「オ…オルフィリア嬢!!この件は王女殿下に預かって頂きます。
よろしいですね」

よろしくねーよ、ばーか。
ただ、バカ王女は一応王族だし、この場はこれで引くしかねぇ
か…。
しっかし一緒になって私を責めないなんて、何企んでんだか…。
ま、いざとなりゃ秘密兵器を導入しよう。

「私が嘘つきでないことは、最後に強調させていただきます」

私は一礼して、席へと向かう。
うーん…甘いなりにも一応頭使うようになったのかねぇ、バカ
王女…。

さて、席に着いた私は早速ご挨拶、

「初めまして。
オルフィリア・ステンロイド男爵令嬢がご挨拶申し上げます」

…………………………………。

無視かい!
まあえーわ。

私は椅子に座る。
テーブルには、私以外に3人座っている。
既知の間柄のようで、私を空気扱いして、楽しそうにおしゃべり
していた。
まあ、いいよ。
周りの様子も見たかったから。

テーブルは4つ。
使用人と私を抜けば、全部で15人。
私が知っている令嬢は、テオルド卿の娘2人だけ、他は知らん。

私が周りの配置を確認し終えたころ、私の前にティーカップが
運ばれてきて、使用人がお茶を注いでくれた。
どうやらこのお茶会は、それぞれ個別にティーカップとお茶が
用意されるようだ。
まあ、だろーね。
その方が、色々細工がしやすいし~。

っつーわけで、お茶は…手なんかつけるか、バーカ。

私がいつまでも、お茶に口どころか手も付けずにいると、

「あら…お飲みにならないの?」

急に左隣の令嬢が話しかけてきた。
いや…話しかけてくるなら、せめて名乗れや、あんた誰?

「あ~、色々あって胃がびっくりしてしまったようで…、どうぞ
お構いなく」

本心は隠し、にっこり笑って大人の対応。

「まあ、もったいない。
これは先ほどのお詫びにと、タニア侯爵夫人が特別に用意して
下さったものだそうですよ」

真向いのご令嬢よぉ。
だったらタニア侯爵夫人がまず詫び入れるか、持ってくるかする
もんじゃねぇかい?
つか、てめーも名乗れ!

「ささ…少しだけでも召し上がってくださいな」

今度は右隣りか…、だからまず名乗れ!!
しっかし、こいつら順番ちゃんと決めてんな~。

「いえ…本当にお構いなく…」

全くだっつの。

「え~、もったいないですよぉ~」

今度は左隣…一周したな、まあいい。
無視無視。

「そうですそうです、高価なだけでなく、とても珍しいものだ
そうですよ」

真向い。

「本当に、羨ましいです~」

右隣…2周したなら、偶然の可能性はほぼなし。
はい、確定。
お前ら全員グルな。

それじゃ…。

「でしたら口をつけておりませんので、差し上げますから、
どうぞ召し上がってください」

机の中心付近まで、カップを押し出す…と、途端に全員の顔が
わずかにひきつる。

ふ~ん、なんか細工があることも知ってる…と。

「どうしました?差し上げますよ」

と、にこやかに言う私に対し、

「そ、それはあなたの物ですから…」

と、全員が若干のけぞり気味だ。

「そうですが、私、いただかないつもりですので…。
皆さん随分と羨ましがっていたようですので、よろしければと
思ったのです」

別に出されたもんに、必ず手を付けなきゃいけない決まりは
ないし。
私は何食わぬ顔でカップにそれ以上触らず、座り続ける。

と、しばらくして、

「あ…あなた失礼ではないですか?」

おお、3周目。

「なにがでしょうか?」

ハイハイ、営業スマイルは崩しませんよ…と。

「仮にもタニア侯爵夫人が、せっかくあなたのために用意して
下さったんです!一口ぐらい…」

「無理に飲もうとして、吐き出す方が失礼かと思いますが?」

「だ…だったら飲むふりだけでも…」

そーゆーことして、アンタラが口に押し込んでこない保証は?

しっかし、しつこいな~。
こりゃ、私に飲ませられたら金一封的なものが、出ることに
なってそうだナー。

「お断りいたします」

断るときはキッパリと…ね。

「あ…あなたねぇ!!」

おお、4週目に突入~。

「ホンット、マナーがなってませんこと!!」

「これだから、名ばかり貴族の方は…」

その時、大きな柏手が響き、令嬢たちの勢いは止まった。

はい、バカ令嬢たちから禁句いただきました~。

柏手の主はエマだ。

「そこのアナタ…今何とおっしゃいました?」

エマの声は静かだが…凄みのあるものだ。

面白くなってきたねぇ。
うん。
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