ひとまず一回ヤりましょう、公爵様 8

木野 キノ子

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第1章 怪物

5 隠されていた…モノは…

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「フォルト!!テポ連れてきているよね?ギリアムに…事付けを持たせて!!」

「承知いたしました…」

テポは…軍用犬の名前だ。
私を関知できるのがチポなら、ギリアムを感知するのはテポだ。
警備で動き回るから、何か…ギリアムに伝言があれば、伝書鳩よりテポの方が早いだろう。

「ひとまず…この件は大きすぎるから、私が預かるわ。
トールレィ卿・エリオット卿・ラルトは…引き続き、フィリアム商会のブースをお願い!!
んで…」

私は…ウリュジェとフューロットの頭をひっつかんで、

「アンタらは…3人の雑用を!!こなしなさい!!準備なんにも手伝わなかった上!!
こんな面倒くさい案件持ち込んだんだから!!馬車馬の方がマシって働き方させるわよ!!
覚悟なさいね!!」

私の…口が耳まで裂ける勢いの、鬼の形相で観念したのか、

「はい…」

とだけ。

「フィリー軍団は…私と一緒に来て…。
エマは…ここに残って!!私は…申し訳ないけれど、準備の疲れが出たから、早引けしたって
事にして…。
うるさく言う人いるだろうけど…お願い!!」

「かしこまりました」

こうして私は…フィリー軍団とフォルトだけ伴い…一路フィリアム商会の倉庫へ。
そこは…王都の中ではあるが、周りは荒地か畑ばかりで、民家はほどんどない。
危険物を隠すなら、うってつけと言えば、うってつけ。
行けば…ギリアムはもう来ていた。

「何があったのですか?フィリー」

心配そうに寄ってきてくれたので、ひとまず落ち着いた…。
私は…ウリュジェとフューロットから聞いた話を、出来るだけそのままギリアムに伝えたのだが…。

「一体何を考えているんだ?あの2人は…」

やっぱり…眉間にこれでもかって皺寄せて、黒いオーラを出している。
でもそれは…怒りというより、心配だろう。
ジョノァドに見つかっていたら…死ぬよりひどい目に遭っていただろうから…。

「ひとまず…ジョノァドの屋敷から…2人が連れてきてしまった人を確認しましょう」

「フィリーは、直ぐに帰るんだ!!」

「どうしてですか!!」

「話を聞いた限りで…大変危険だからだ!!
ウリュジェとフューロットは…決して非力な人間じゃない。
その2人が…一緒になってもびくともしなかった石牢の扉を、いとも簡単に開けてしまうとは…。
人間離れしすぎている…」

「で…でも!!眠っているとのことですし、私も…ファルメニウス公爵夫人である以上、
蚊帳の外は嫌です!!
その為にフィリー軍団だって、連れてきています!!」

「私が…確認するから家で待っていてください…。
万が一にも…危険な者だったら…処分も検討せねばなりません…」

秘密裏に…殺す…か…。
でも…。

「それなら余計…自分の目で見てみたいのです!!」

私がこう言い出すと…裏口からでもコッソリ入ってしまう事を、知っているようで、
ため息一つついたギリアムが、

「絶対に…私から離れないでください。
フィリー軍団!!フィリーを守れ!!私の事は気にしなくていい!!」

「はい!!ご当主さま!!」

皆の返事をもって…倉庫の扉は開けられた。

「くだんの人物は、どこにいるのだ?」

「2人の話では…倉庫の奥深く…中央辺りの猛獣用の檻に入れた…と」

「猛獣用の檻か…」

ギリアムは…何だか不安そうな色を出している。

「何か懸念事項でも?」

フォルトが聞けば、

「いや…開けるのに、何人もの人手が必要な石牢の扉を、1人で易々と開けてしまう人間に…
果たして…」

ギリアムの言葉が終わらぬうちに…2人が言っていたであろう、檻が見えてきた。

「!!??」

そこにあった物体に…皆が言葉を失う。

「やっぱりか…」

ギリアムのつぶやきだけが…静かな空間に、響いた。
猛獣用の檻は…まるで…黒光りする飴細工のように…ある部分はひしゃげ、ある部分は曲げられ、
引きちぎられる寸前までいった…と思しき、鉄の太さがアンバランスになっている部分もあった。
中に…入っていたであろう者は、当然いない…。

ギリアムは…檻の中に入って、確認する。

「…まだ暖かい。遠くには行っていないハズだ…」

再度ギリアムが…顔を上げると…。

「……フィリー?」

皆の姿の中に…私の姿だけが…なかった。

「フィリーはどうしたぁ――――――――――――――――――っ!!」

ギリアムの絶叫で…その場にいる達人たちが…初めて気づく。
全員が別方向をきょろきょろした結果、

「いました!!あそこです!!」

高く積みあがった箱の上…、そこにいたのは…私と私を抱えている何か…だった。

私自身とて、何が起こったかわからない。
私の記憶は…檻が凄い状態なのが分かった所で止まった。
ただ…僅かにあったのは、浮遊感…。

前世の日本で…絶叫マシンに乗った時の…あの感覚だろう。
でもそれだって、一瞬…ほんの一瞬感じただけだ。

次に気が付いたら…何かに抱えられていた。
そのなにかは…一言で言うと毛むくじゃらだった。
よくTVで特集されていた…イエティだとか雪男だとか…そんな感じに見える。
髪の毛は…もう伸ばすだけのばしっぱ。手入れも何もあったもんじゃない。
髭だってそう。
それに…驚いたのは体毛だ…。
人間にはムダ毛だ産毛だってのが、誰しも生えているものだが…。
そんなレベルじゃない…。
たしか…多毛症の人…お客さんでいたけど…それをもっと酷くしたみたい。
服は…着ていないと思う…。

私が…天井を見れば、無数のロープが垂れ下がっている…。
なるほど。
これを伝って…私と抱え上げて、一気に…って、人間離れしとることに、変わりはないわ!!

「フィリーを放せ!!!貴様ぁっ!!」

ギリアムが叫ぶが、私を小脇に抱えている男は…私をちらりと見て、

「ヤダ…」

「なにぃっ!!」

「だって…このお姉ちゃん…いい匂いがする…」

「すぐにはなせぇ――――――――――っ!!」

ギリアム絶叫してる…。まあ、性的な意味合いだと思ってるんだろうなぁ…。
みんなは…私が抱えられているせいで、動けない…。
ただねぇ…これも前世で培ったものの、賜物…なんだけどね。
かなり前にも話したが、私は自分の体に触れてくる者が、発情しているか…もっと言うと、
私に対して欲情しているか…ほぼ百発百中でわかる。

それで言うとね…。

私を抱えているこの男ね…発情も欲情も一切していない…。
つまり…私に対して性的なものを、一切向けていない…ということ。
それに…私の事…お姉ちゃんって呼ぶイントロも…まるで、子供みたい…。
ウリュジェとフューロットの話でも…子供みたいな話し方してたって言うし…。

と…なると…。
いい匂い…ってのは…。

私は手が動くことを確認し、スカートのポケットをゴソゴソ。

「ねぇ、アナタ…いい匂いってこれじゃない?」

私は男の鼻先に…クッキーの入った袋を差し出した。
すると…。

「そう!!これ!!」

そう言って袋に噛みつく。

「ちょちょちょ、袋は食べ物じゃないよ!!今開けてあげるから、ちょっと離して!!」

意外や意外…素直に離してくれた。
だから私も…袋を開け、クッキーを差し出した。

「クッキーって言うんだよ?食べてみて」

何だか…あまり恐怖はわかなかった…。
小さい子供を相手にしているような…そんな感じだった。

私の手からクッキーを取った男は…口に放り込むと…、

「美味しい!!」

と。
手作りの…しかも失敗作を自分で処理しようとしていた物だから…なんだかすごく嬉しい…。

「じゃあ、全部あげるよ」

そう言うと…毛むくじゃらの顔が、とってもほころんだような…気がした。
手に乗せてあげると…一気に口に流し込むように、直ぐに…食べてしまった。
何だか…憎めないなぁ…と、思いながら見つめていたが…ふと。
私はこの男の…体の異様さに気付いた。
毛むくじゃらとか…そう言う事じゃなく…だ。
それを見つけた時の私は…何とも言えない、悲壮な空気と表情だっただろう…。

そんな中、

「おーい、アンタ~」

スペードの声だ…下から聞こえる。

「その女の人、そこから下ろしてくれたら…これやるよ~」

その手には…私が開発したフィリアム商会の人気商品・干し肉が3本。
私の体に…また一定の浮遊感が。

「はい!!」

何だか…すごく無邪気に私を…地面に下ろした。
……本当に子供だ。

「ほらよ!!」

スペードは…一瞬のスキを突いて、干し肉を彼方に放る。
しかし…毛むくじゃら男の身体能力では、あまり意味はなく、空中で瞬く間にキャッチした。
だがスペードもプロだからこそ、そのわずかな間に私を抱え、素早くギリアムの元に。

「ご当主様!!奥様を取り戻しました!!」

「スペード!!」

何故か…なぜか?襟元持たれて、掴み上げられるスペード。

「私のフィリーが、事もあろうに、干し肉3本とは何事かぁ―――――――――――――っ!!」

ギリアム…思いっきり青筋立ててる。

「いやあの…なんで奥様取り戻してきたのに、オレ、怒られてるんですかぁ―――――っ!!」

スペードは…心底納得がいかないと、さすがにギリアムに怒鳴り返す。
気持ちは…わかる。

そんな私たちのやり取りをどう思っているのか…はたまた何も考えていないのか…キャッチした
干し肉を頬張る毛むくじゃらの男…。

何だか…本当に終着点が見えない…。
ってか、何しに来たんだっけ…私達…。
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