ひとまず一回ヤりましょう、公爵様 8

木野 キノ子

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第1章 怪物

2 帰ってきた2人

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「お前ら何なんだ!!随分と長いこと、王都をあけたと思ったら!!いきなり帰ってきて!!」

こめかみに青筋立てつつ、息巻くトールレィ卿…。

「まったくだ!!準備の手伝いすら何もしないで!!何を考えている!!」

エリオット卿も…大層おかんむり。

「い、一体どうしたのですか!!」

怒鳴られていた人間達は、ラルトの姿を見るや否や、

「ラルト卿~!!トールレィ卿とエリオット卿に言ってくださいよぉ~。
遊んでたわけじゃないってぇ~」

「そうだそうだ!!ちゃんと仕事したんだぁ~」

2人とも…半べそかきながら、訴えている。
だが…2人の姿を見たラルトは…何とも…言い難いような、微妙な表情をして、

「あの…ひとまず…オルフィリア公爵夫人の所に行きませんか?
危険はない事…知らせたいので…。
ここにいたら、入場する人たちの邪魔でもありますし」

とだけ…。

ブースの奥にいた私は…半ば連行されるように連れてこられた2人を見て、

「うっわ、久しぶり~、元気だったぁ?2人とも~」

かなり陽気な声を出す。

「オルフィリア嬢…じゃなかった、公爵夫人~!!」

涙目で寄ってきた2人に対し、

「で???!!!」

私は…思いっきりアイアンクローをかます。

「遊んでたわけじゃねぇのは、わかってんだよ!!
私はいい、私はいいよ?でもさ…トールレィ卿とエリオット卿が、アンタらの仕事…全部
やってたんだぞ?オイ!!!
その上での、収穫祭の準備だったんだぞ。
2人が怒るのも、締め出されるのも、当たり前じゃないか?あ?」

私は…思いっきりいい笑顔に、青筋立てて言ってやった。

「も、もうじわげ、ございまぜ~ん…」

2人の…本当にすまなそうな顔を見て、

「はあ…もういいわ。トールレィ卿、エリオット卿…ひとまず言いたいことは山ほどある
でしょうけど…今は収穫祭に集中しましょう…。
このタイミングで帰ってきたんだから、しっかり仕事する気でしょうし」

「まあ…そうですね…」

2人は納得できなそうだが、一応は矛を収めてくれた。

「ひとまず…お互いの情報交換よ」

私たちは…奥に引っ込んで、いろいろヒソヒソ…。
の、前に!!
私は…フィリー軍団を紹介した。

「話には聞いてましたが、本当に恩赦した私兵を連れ歩いているんですね」

「もう各地で話題になってましたよ」

2人は…まじまじと見ている…。
卑下したりする感じは、もちろん一切ないのだが…興味があるものを見る、子供の眼差しに
なっている。

「まあ、興味は尽きないでしょうけど…、アナタ達も自己紹介してちょうだい」

私の声でまず動いたのは…。

「えっと…フィリアム商会総括部所属の、ウリュジェです」

ウリュジェ…歳はどう見ても20代、この国では珍しくない、金髪碧眼を持ち、目鼻立ちの
整い方が、丸顔と相まって、さらに幼く見える。
一見すると人懐こそうに、小動物を連想させる外見だが、纏う雰囲気が…その外見との
違和感を、鋭い者には与えそうだ。

「オレは!!フィリアム商会総括部所属の、フューロット!!平民だ!!よろしく!!」

かなり陽気なフューロット…歳はやっぱり20代。静かなウリュジェとは対照的に、とても
活発で明るい印象を見る者に与える。
眼眉はきりっと上がり、気性の強さを醸しだちつつ、整った顔立ちがそれを引き立てる。
茶髪で…眼の色が黒の周りに僅かな金…という、ちょっと変わった色立ちだ。
この国では…私の髪と眼の色ほどではないが、あまり見かけない。

「じゃあ…2人とも報告してちょうだい…。
多分…クィリグラズィ山脈の災害現場…向かってくれたんでしょ?
王都から行くより…近いからね」

すると2人が待ってました!!と、ばかりに、

「そうなんですよぉ~、王立騎士団の主力と…ちょうど入れ違いになって~」

「しっかり救援活動してきました!!
ダウンジャケット!!あれ凄いですね!!おかげで寒くありませんでした!!」

「お前らの為に、送ったんじゃない!!!」

トールレィ卿とエリオット卿…すっごい剣幕で怒鳴った…。

「だって向こう…もう雪積もってたんですよ!!死んじゃいますって!!」

「そうですよ!!もちろん避難民にちゃんと分け与えました!!
物凄く喜ばれました!!着の身着のままで逃げてきた人も、沢山いましたから!!」

「あらそう…、だったらよかったわ」

「服飾の目玉、無くなっちゃったですけど、その代わり色々出てますね…」

2人とも…目端が利くだけあって、ここに来るまで横目で見ていたようだ。

「あら…私には沢山原案があるもの」

そうさ!!前世のマニア様から提供された、ネタ知識はまだまだあるぞ!!

「さすがオルフィリア公爵夫人だ!!」

こんな感じで…終始トールレィ卿とエリオット卿に睨まれつつも、彼らは様々な報告を
してくれた。
私が…力を入れて作った施設は…問題なく運営しているとさ。

「良かった~、収穫祭が終わったら、行きたいと思うの。
雪深くなる前に…ね」

「ん~、微妙かな…クィリグラズィ山脈ほどじゃないけど、雪降るの早いし…」

「ま~ね。でも…ダメならダメで、しょうがないわ…。
ひとまず…行かないとね」

折角だから、この目で見たいんだよね…。
お天気様次第だから、何とも言えんな…。

「報告は以上かしら?」

「はい!!」

私は…ここで扇子を勢いよくたたむ。

「んなわけあるかぁ!!この不良凸凹コンビ!!」

凸凹コンビってのは…ウリュジェが身長162㎝・フューロットが身長188㎝のため…自然と
私がそう呼んだ。
私は手に持つ扇子を、パシパシと叩きつつ、

「アンタたちはさぁ、性格はどうあれ、ギリアムが選んだ…間違いなく優秀な人材!!
この収穫祭が商会にとっての一大イベントだってこたぁ、キッチリわかってる。
余裕を持って…クィリグラズィ山脈を出ただろう?
ちなみにちゃんと、確認済みだぞ?コラ!!」

「それがここまで遅いって事はぁ…例の新法案と薬にまつわる件…途中で聞いて、色々
地方の連中相手に、やらかしてきてんだろうが!!違うかぁ!!」

私は…あらん限りのドスの利いた声を出し、迫る…。
鬼気迫る…。

「……なんでオミトオシなんですかぁ…」

2人とも…抱き合って震えながら、ちょっと涙目…。

「なっ!!また何かやらかしたのか!!お前ら!!」

トールレィ卿とエリオット卿が、かなりきつく詰め寄る。

「ぜ、前科があるんですか?」

スペードが…コッソリ聞いてきた。

「ん~、前科ねぇ…あると言えばあるし、無いと言えば無いのよね…」

「はい?」

フィリー軍団…ジェード以外がわからん…って顔してるね。
無理もない。

「もう言うけどね、ウリュジェとフューロットは…元だけど、貴族専門の泥棒なのよ」

「はあぁ?」

そりゃ、驚くよねぇ…当然…。

「すごくすごーく、上手でさ…今まで盗みに入って、気づかれたこと、一回もない。
貴族の宝物庫なんて…滅多に開けない場合もあるから、発覚してないのも…あるかもね」

私があっさりと喋ると…、なぜか誇らしげな2人…。

「ただまあ…年貢の納め時ってあるもんで、ある貴族の邸宅に…ギリアムが泊まった時、
ちょうど盗みに入ってきて…。
家主も使用人も全く気付いてなかったんだけど…、宝物庫を開けて物色し始めた段階で、
ギリアムにお縄になったの」

私がそこまで喋ると、堰を切ったように、

「そうなんですよ!!今まで気づかれたこと全くなかったのに、気配も感じさせず、
背後から羽交い絞め!!しかも2人同時に!!」

「あの時は…驚いたよなぁ…」

他人事かい…。

「でもでも、ギリアム様が他の貴族と圧倒的に違うのはここから!!」

「そそそ!!そうなんですよ!!」

「オレたちが、その家の持ち主が、重税を課しているせいで…領地に死人が出てる…って。
だから、その人たちに、分け与えたいだけだって!!」

「そもそもオレら…盗んだ物を、懐に入れたこと、一回もなかったんだ!!
ヒドイことしている貴族のみ…盗みに入って、ヒドイ目に遭っている人に返してただけだ!!」

「まあ…捕まっている時、そんな事を叫んで…」

「でも、普通は無視するだろ?そんな事…でもさ…」

「ギリアム様は…場所を移して、かなり真剣に聞いてくれたんだ」

「それで…調査が入った…」

これは…裏がとれたんだよね。
実際…ギリアムは非常に目端の利く人間だから、領主の邸宅の豪華さと、領地の…ギリアムが
通ってきたところだけが、不自然に綺麗な事に、違和感があったらしい。
んで調査したら…。
お客に見せるところだけ、綺麗にして、後は杜撰だったことが発覚。
最悪自分ちで、自分しか困らないならいいだろうけど…領地でそれをやられたら、領民は
大迷惑だ。
領主は必要に応じて…税金を上げることもあるが、自分の私腹を肥やすだけ…ってのは、さすがに
法律に引っかかる。
あと…違法売買もやっていたらしく、めでたくお縄になった。

え?
そんな2人が、何でフィリアム商会総括部所属になったかって?
それはね…。
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