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第3章 因縁

20 断罪と贖罪

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私に気付いたようで、

「おーう、嬢ちゃんか~」

答えてくれたおっちゃんの傍らには…おばちゃんがいた。
年を取っても、面影が…あったみたい…。
おばちゃんの姿が見えるなり、

「カティラ!!」

ルリーラが走り出した。
そして…おばちゃんの前に跪くように、突っ伏して、

「ごめんなさい、本当にごめんなさい、私…アナタに…なんてことを…」

それに続くようにローエンじい様が、やっぱり平伏して、

「完全に無実の人間に…詫びて許されることではないが…本当にすまないっ!!」

と。

「まあま、旦那様、奥様…。お召し物が汚れますよ…」

おばちゃんは…穏やかな表情をうかべ、

「一息入れようと思っていましたから、ご一緒にどうですか…」

そんなおばちゃんに即され、私たちはテーブルへ。

「フィリーちゃ…オルフィリア公爵夫人から、すべて聞きました…。
ジィリアさん…まさかそんな人だったとはね…」

「わしらも…驚いておるよ…かなり…真面目にやっているように見えたから…」

じい様でも見抜けなかったとはね…。
まあ、お坊ちゃまの一件があってからは、だいぶ大人しくしてたのかもだけど…。

「残念ですが…いるんですよ…。犯罪を隠すのが、病的に上手い人間…。
私の一門にも…いましたから」

ギリアムの目が…座る。

おばちゃんは改めて…ファルメニウス公爵家に来た経緯を話した。

「話そうかどうしようかは迷ったんですがね…、ギリアム公爵閣下もオルフィリア公爵夫人も
いい人だし…ご厄介になる以上、迷惑をかけるわけには…と思って…。
でも、だいぶんいい形にしてくれたようですから…信じて良かったですよ…」

「あはは、それはこっちのセリフだよ、おばちゃん。
おばちゃんが話してくれなかったら…早期で解決するの…難しかったと思うよ」

「そうですよ!!話しづらい事を、信用して話してくださったこと、嬉しく思います」

私とギリアムの言葉に…おばちゃんは嬉しそうだ…よかった。

「カティラ…いや、今はマーサか…。
本当に…わしやルリーラに望むことは無いのか?」

じい様…やっぱりその辺を、おなざりにはしたくないよう…。

「ええ…私は…お坊ちゃまが死んだあと…やはり自分があそこにいては…と、感じていました。
でも…行く当ても何もなかったので、足踏みしていたのです。
だから…あの事件は、ある程度自分が…招いてしまった事だと思っています…」

「そ、そんな事は無いわ!!全部私が悪いの…私が…」

また…ルリーラが顔を伏せてしまった…。
う~ん、こればっかりはなぁ。

「奥様…どうかそんなにお嘆きにならないでください…」

ルリーラの手をそっと握り、

「私は…私の人生に満足しているんです」

この言葉で…ルリーラが顔を上げた。

「何の縁か主人に助けられ…大陸中…色々な所を渡り歩いて…多くの人が見れないものを沢山
見られました…。
それに…主人にも大切にしてもらえましたし…」

この言葉には…おっちゃんが照れてるね…。

「だからどうか…旦那様も奥様も…残りの人生を楽しんでください…。
自分のやりたいことを…やればよろしいと思いますよ…。
私は…せっかく主人共々、ファルメニウス公爵家に呼んでもらえたので…ここで自分の
出来ることを…精一杯やろうと思っています…」

ルリーラだけじゃなく…ローエンじい様も泣いてしまったよ…。
ああ…良かったなぁ…。
私は…久々に心から…安堵した…。


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さて…交流会も着々と近づいている中…。

私とギリアムと…ローカス・ベンズ・そして…何故かローエンじい様とが、一堂に会していた。

「本日は…招集に応じてくださり、誠にありがとうございます」

私はお礼を言った…。
ここは…ファルメニウス公爵家ではなく、フィリアム商会が所有する建物で…全員バラバラに
来てもらった…。
秘密会合みたいなものだから…ね。

「ケイシロンでは色々ありすぎたからな…、それが落ち着いたら、改めて話したいと思って
いたんだ(ギリアム)」

「まあ…本当に迷惑かけたと思っているよ…(ローカス)」

「しかし…思った以上に、凄まじいものが出てきたようですね…(ベンズ)」

「本当じゃわい…(ローエン)」

「でもよかったじゃないですか。
ルリーラ夫人とマギーは…随分と仲良くなったみたいで」

「あ~、オレが全く興味ない本の話で…盛り上がっているよ…」

ローカスが…ちょっと微妙な顔をしている。

「今日は…私というより、フィリーからの話が主になると思ってくれ。
フィリーから、お願いがあるようだから…」

ギリアムは…これから私がする話が何か…わかってないだろうなぁ。
単純に仲良くなりに来たわけじゃ、ないよ…。

「まあ…これは…お願いというよりも、私からの提案…として、受け止めていただきたいのです。
最終的にどうするか…は、それぞれの判断にお任せしたいので…」

みんな…頷いてくれた…。
じゃあいっちょ、行きますかね。

「まずは…ローエン閣下…」

「なんじゃ?」

「近衛騎士団に…お戻りいただけませんか?」

「!!!」

これは…3人が3様に驚いた。

「正確には…近衛騎士団団長として…です」

ローエンじい様…顎に手ぇ当てて、考え込んでる。
その間に、ローカスが、

「それは…難しいと思われます…」

眉毛をへの字にして、答えた。

「おじい様の力は…皆が認めている所ですが…先だって引退する折…かなり強引に引退して
しまいましたから…。
戻るなら…よっぽどの理由が必要になります…」

「私も…ローエン閣下に戻ってきていただけるなら…こんなにうれしい事は無いのですが…。
団長がおっしゃった通り、当時…皆かなり大変な思いをしてしまったので…」

やはり…予想通りか…。

「そうでしょうね…ローエン閣下がいなくなったため…王立騎士団から、しょーもないのが、
大量に流入して…、今まで真面目にやっていた人たちが…被害に遭いましたからね…」

すると…ローカスとベンズの顔色が、そうだ…と言った…。
ちょうどローエンじい様が引退した時期が…ギリアムが王立騎士団を改革した時期と被る
からね…。
ローエンじい様がいれば…今みたいにしょーもないのが、大量に入ってくることは…
無かっただろう。
ローカスはだいぶ頑張ったようだが…やはり若かったから、威厳の差が出ちまった。
そして…耐えられなくなった人間は…出て行ったんだ。
王立騎士団に来れば…とも思うかもしれないが、ギリアムの方針で、平民の下につかなきゃ
いけないかもしれない…となると、本人が良くても周りがダメ…になっちまう。
ここが…貴族の辛い所だ。

「確かに…普通なら難しいかもしれませんが…」

私は…扇子を開く。

「今だったら…今この瞬間なら…出来るかもしれません」

「何ですって!!」

かなり…驚いているか…やっぱり…。

「来る交流会を…利用すれば…ね…」

私は…扇子で口元を隠しながら…言った。

「交流会を…ですか?」

「ええ…」

少し間を置き、

「ギリアムの父母の時の交流会…だいぶ…いいえ、酷く屈辱的なものになったと…伺っています」

「!!」

そうなんだよね…私も…聞いた限りでありえんやろ!!と、思った記憶がある。

「だからこそ…それを…ローカス卿にやらせたくない…というのは、理由として通せると思います。
ローエン閣下でしたら…王家に圧力もかけられるかと…」

これを聞いた時…ずっと沈黙していたローエンじい様が、

「オルフィリア公爵夫人は…自分が何を言っているか…わかっているのか?」

口を開いた。

「王家に…それを信じ込ませるためには…計画書に、坊主の父母と同等の事を書いて…出さねば
ならない…」

計画書…交流会には王家も来るからさ…。
どんなものをやるか、しっかり通達しないと、警備の関係もあるしね…。

「つまり…極悪非道な人間になる…と、宣言するようなもんじゃろ?」

人の口に戸は立てられぬ…だからね。
でもさ…。

「大丈夫ですよ…あくまで計画書は計画です…直前で変更になったことに…すればいい」

「それをすれば…場合によって、王家のやっかみを買いますぞ」

私は…ここでかなり、愉快気に笑い、

「そもそも…やっかみどころか、逆恨みで2度ばかり…殺されかけておりますので、今さらですわ」

ローエンじい様が、驚いてローカスとベンズを見れば…二人は無言で頷いた。

「詳細は…後でお2人に聞いて下さい…。この場で話すと長くなりますゆえ…」

「承知した…」

「まあそんなわけですので…このオルフィリアが…」

私はここで…息を大きく吸い込み、

「悪役となりましょう!!」

大きくハッキリ述べた。

「待ってください、フィリー!!それは聞いてな…ぶっ!!」

私は扇子で思いっきり…ギリアムの顔を叩く…。

「ギリアム…私、アイリン夫人のお茶会で…言いましたよね?」

扇子でぶたれたところを撫でるギリアムに、睨みを利かせる私…。
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