ひとまず一回ヤりましょう、公爵様5

木野 キノ子

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第3章 因縁

13 マギーの誘拐未遂

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マギーがケイシロンに嫁いで、もうすぐ一ヵ月になろうとしている…。
私の忙しさは…ピークもいい所だ。

交流会まで期日が迫ってきているし、マーサおばちゃんの件の調査も、後回しに出来ん。
え~ん。

でも有難い事に…交流会の準備は、大部分をギリアムが引き受けてくれて、着々と進行中。
それでも私が顔を出さないわけにはいかないから、出来ることはやった。
だって、ギリアムも仕事があるからね。

マーサおばちゃんの件は…9割がた調べがついた。
かなり年数が経っているから…もっと調査に時間がかかるかも…と、思っていたが、予想外に
かなりの収穫があった…よっしゃよっしゃぁ!!
後は…この件をどう処理するか…なんだよね。
それが悩みどころ。

まあ、長くなったがこんな感じなので、ケイシロンに行く余裕など一切なし。
とはいえ、私がなんでも手取り足取りってわけにはいかないからね。
最低限度の指示は、最初に出したし、懸念事項も説明したから、後はローカスとマギーの考える
ことだよ、うん。

その頃ケイシロンでは…。

「え?フィリーから迎えの馬車?
フィリーは忙しくて、暫く会えないって聞いているんだけど…」

「ええ…しかし…今、門前に来ていまして…。
マーガレット様を早急に、呼んできて欲しい…と」

今日ついているのは…フォレッタという、30後半ぐらいの歳のメイドだった。
普段は洗濯場を担当しており、あまり接待業務に慣れているようには思えない。
実際、ファルメニウス公爵家という事で、すぐにでも対処を…と言いたげだ。

「そう…ひとまず馬車の所まで、行ってみましょう」

そしてマギーも…あまりこういった対応に慣れている方ではない。
行ってみると、随分と立派な馬車が待っていた。

「おお、ケイシロン公爵夫人ですね?
急な呼び出しにも拘らず、来ていただきありがとうございます」

御者が丁寧にあいさつするが…。

「あの…いつもの方ではないんですね…」

ファルメニウス公爵家の御者は複数いるが、マギーは割と頻繁に私と会っているから、全員の
顔を覚えている。

「ああ…今日は休みを取っていまして…」

あくまで腰が低い。
まあ、ケイシロン公爵家だったら、当たり前だが。

「そうなのですね…、ところでフィリーは何の用があって…」

「いや~、自分は聞いていませんね…。
でも、出来るだけ急いでお連れするように…とのことでしたので…」

マギーは…ここでふと、

「馬車に…家紋がありませんね…」

気づいた。

「急でしたので…急遽馬車を借りました。
今お忙しくされているので、馬車も出払っておりまして…」

「でしたら…家紋のエンブレムを見せてください」

家紋のエンブレム…いわゆる社員証だ。
その家の家臣であることを証明するもので、特に他の家との交流をする人間には、必ず
持たせている。
臨時雇いであったとしても…だ。
間違いがあったら、大変だからね。

「わかりました…」

そう言い、御者は自分の懐に手を突っ込んだ。

………………。

ここで…マギーの意識は、途切れた。


---------------------------------------------------------------------------------


「はっ!!」

再びマギーが目を覚ますと…そこは馬車の中だった。

(頭が…痛い…)

自身の頭の後ろに…大きなこぶが出来ているのを確認し、自分が…殴られて気絶させられた
事を知ったのだ。
馬車は凄い速度で…とても飛び降りることなどできない。
車窓からは…街並みが見えるが、どんどん寂れて来る。

郊外に…向かっていることが丸わかりだった。

(何とかしなきゃ…何とか…)

キョロキョロと見回すが、殺風景な馬車の内部には何もない。
マギーは服の中をゴソゴソ探り、

「あった!!!」

私が常に持っているように…といった、香水瓶を取り出した。
これ…結構武器になるからさ…。
私の指導の通り、香水瓶にスカートの端切れを巻きつけて…

(お願い…割れて!!)

マギーは馬車の窓ガラスに、遠心力をつけたそれを、思いっきり叩きつけた。
窓は…見事に大破!!その音は…かなり響いた。
両側にあった窓を破壊すると、マギーはドアに叩きつけて、かなり大きな音を出した。

やがてそれが功を奏し…、

「オイ!!止まれ!!」

馬車の前に、王立騎士団が…!!
警察の検問と同じなので、これで止まらねば、追い掛け回され逮捕コースだ。

「も、申し訳ございません、急いでいたもので…」

御者が馬車を止めると、

「助けてください!!捕まっているんです!!」

マギーが叫ぶ!!

「あ、気にしないでください…。お嬢さまはどうも…虚言癖がおありになるもので…」

御者はそういうのだが、

「私は…マーガレット・ケイシロン公爵夫人です!!お願いです!!助けてください!!」

マギーの必死さに、王立騎士団員も不審に思ったようで、

「身分証を提示してもらえるか?
あちらがお嬢さまだと言うのなら、どこの家かも含めて…」

ここまで言ったら…まあ、これ以上ごまかせないと思ったのか、強行突破しようとしやがった。
でも…残念ながら、ギリアム父の代ならまだしも、今の王立騎士団は、ちょっとやそっとじゃ
崩れない。
最初こそ驚いたが、直ぐに態勢を立て直し、周りからも呼び笛の音に引き寄せられ、団員が
みるみる集まり、マギーの誘拐は…未然に防がれた。


--------------------------------------------------------------------------------------


「マギー!!!」

ローカスが、王立騎士団の詰所…被害者待機所に駆けこんできた。
マギーは、知らせを聞いて駆け付けた私と…一緒にいた。
終始震えていたよ…。

「ローカス様!!」

ローカスの姿を見て糸が切れたように…泣き始めた。
そんなマギーを優しく包むように抱きしめながら、

「どこのどいつだ!!本気でぶっ殺してやる!!」

ああ、本当に本気で怒ってる…。

「来たか、ローカス卿」

「ギリアム!!犯人は!!」

「その話をしに来た」

ギリアムの話では…ゲロした御者によって、どうも…マギーを辱めた上で、実家に帰す…
という手筈になっていたようだ。
人員はすべて確保し、ギャラクシル侯爵家には…今、デイビス卿が行っているらしい。

「オレも行く!!」

「待て、ローカス卿…。捜査権は無いだろう」

「だからって…」

「オマエには…もっと大事な仕事があるだろう」

「これ以上大事なことなんて!!」

「ローカス卿…残念ですが、ケイシロン内部に、この件に協力した者がいるようなのです」

埒が明かなそうなので、私が口をはさむ。

「はぁ?」

ローカス卿…信じられないという顔をした後、

「ジシーか?」

かなり…目が座った。

「いえ…残念ですが確証はありません…。マギーの位置からでは、殴った人間の姿は見えなかった
のです。
今日ついているメイドも違う人ですし、馬車の所に一緒に言ったのはその人なので…。
あと、ジシーはかなり…強かですので、自分が疑われるような真似はしないと思います。
ただ…他にあの家でそんな馬鹿な犯罪に、加担する人間がいるとも思えません」

「まあ…そういう事だ。
ギャラクシル侯爵家の方は、デイビス卿に〆るのは任せるとして…、場合によっては私も出る。
証拠を掴めるかは…微妙な所だがな」

いよいよ…ローカス卿が頭をかきむしった。

「あの…ローカス卿…これは提案なのですが…」

「オルフィリア公爵夫人?」

「今日…ここで何も聞かなかったふりをして、ケイシロンに一度…帰ってみてくださいませんか?」

「え…?」

「使用人全員を…問い詰めたいのはやまやまだと思いますが…。
ケイシロン内部で、今日…マギーがいなくなった件を、どう対処しているか…見るいい機会だと
思います。
どの道…証拠が揃うまでは、まだ少し期間が必要ですから…」

「……それによって…例の件を本気で考えた方が…いいと?」

「それは…ローカス卿とマギーが決める事ですが…」

ローカスは少し考えこんだが、やがて両手で頬を張り、

「わかりました…ただ…、耐えられなければ、オレもファルメニウス公爵家に行きます」

「もちろん。ご自由にどうぞ」

ローカスは…その日、王立騎士団で色々捜査の進捗を聞いてから…時間通りケイシロンに
帰っていくのだった。
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