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第3章 因縁

12 ローカスの苦悩

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チェイルとアテノが来た日の夜…。

「説明願います、おばあ様」

かなり…厳しい口調とキツイ目のローカス。

「マギーの実家はしょーもない所だから、オレがいない時は、門前払いするようにと、
通達しておいたのですが…」

「ローカス…そうは言ってもね…、やはり実家というのは、なかなか切ることが難しいもの
ですよ。
だから…話が出来る時は、話し合っておくのが良いと思ったのです」

ローカスは頭をかきむしり、

「それは…まともな話が出来る実家に限ります!!
ルベンディン侯爵家の話は聞いているでしょう!!マトモに話が出来ない所もあるんです!!」

少し俯きつつも、

「確かに…おばあ様やおじい様に、何も言わずにこんな重大な決定をしたことは、お詫び申し
上げます…。
ですが、その責任はオレに負わせるべきものであって、マギーを痛めつけるのとは別です!!」

ハッキリとした口調で言った。

「痛めつけるって、アナタ…」

「痛めつけられました!!マギーは2度も腕を引っ張られて…赤くなっているの、見せた
でしょう!!」

さすがに…妹はまだしも、アテノの力は凄かったみたい。

「ローカス様…申し訳ございません!!あの2人を通したのは…私です!!」

ジィリアが脇から出てきた。

「ですから…大奥様を責めないでください!!」

「はぁ?ジィリア…お前には、特によく言ってあったはずだろう!!
下の者にも徹底しろって!!」

もともと…ケイシロン公爵家にいた使用人には、マギー実家の事は徹底してあったんだけどね。
ローエンじい様が来るにあたって、そちらにいた使用人も連れてきているから…その人たちの事だ。

「だいたい、入れちまったとしても、追い出すのが筋だろうが!!
当主が…追い出せって通達してある人間達だぞ!!
いわゆる出禁と同じ扱いだ!!」

「そんなにジィリアを責めないでちょうだい…。
向こうは下とは言え、侯爵家の人間よ…。限界はあるわ」

「だったら、おばあ様が追い出せばいいでしょ!!」

ローカスはかなり…怒り心頭来ているのだが、

「私は…もう引退した身だからね。
マーガレットが相手をするのが、筋だと思ったのよ…」

かなりシレっと答えた。
ローカスは…余計に頭をかきむしる。

「おじい様!!何とか言ってください!!」

すると…ずっと空気だったローエンじい様が、

「まあ…どちらもどちらじゃな」

とだけ。

ローカスはいよいよ、頭から湯気が出てきたようで、

「わかりました!!もういいです!!」

プイッと後ろを向き、

「マギー!!来い!!」

そう言って、マギーの手を引き行ってしまった。
長い廊下を歩きつつ、

「悪いな…もうアイツらは、通さないようにするから…」

「それだけで、十分です…」

マギーは…幸せそうに微笑む。

「これから…少し出るぞ!!」

「え?どこへ?」

「ファルメニウス公爵家だ」

ローカスは馬に颯爽とまたがり、マギーを抱えたまま、まるでそんなこと感じさせない手綱さばき
を見せ、もう暗くなった道をひた走った。


----------------------------------------------------------------------------------------


「あらまあ、それは…本当に大変でしたね」

私は…急に来たローカスとマギーを迎えていた。

「大変ではなかろう、ローカス卿がしっかりしないのが悪いのだ。
私だったら、そんな使用人は、全員解雇だ」

ギリアムも…仕事から帰ってきたので、同席していた。

「そういう訳にはいかないから、頭抱えてんだろうが!!
大体お前に面会したいなんて、オレは一言も言ってない!!」

ギリアムを睨む…いつもの事だ。

「でも…確かにこのままじゃ、よくありませんね」

私は…かなり懸念事項が増えたと感じた。

「残念ながら…ケイシロン公爵家では、未だにローエン閣下とルリーラ夫人の力が…ローカス卿より
強いようですね…」

「それは…否定できない…」

ローカスもよくわかっている…と言わんばかりに、頭を抱えてうつむいてしまった。

「そうなると…作戦があまり功を奏さない可能性が、出てきてしまいますね…」

「あの…」

ここでマギーが、

「私が送ったハンカチを処分したのって…本当にジシーなのですか?」

「ああ…オレもそうは思いたくなかったんだが…、あそこにハンカチがあることを知っているのは…
ジシー1人だった。
だいたいあいつは…自分がマギーの専属メイドになることに、こだわりすぎている。
オルフィリア公爵夫人が予想したように…越権行為もかなりしてくるようになった。
お前もジシーには警戒するんだ!!」

最初の作戦では…ジシーがマギーに何かしない為に…徹底してジシーを遠ざけるようシフトを
組んでもらった。
そして…しっぽをなるべく掴んで、退職に追い込むことにしよう…と、言っていたのだ。

「でも参ったなぁ…ここまで家の中がアンバランスになっちゃうと…当てが外れるかも…」

「そうなのか?」

「ええ…だって、彼女の祖母は、ルリーラ夫人の専属メイドでしょ?
つまり…信頼をかなり勝ち得ている…。
その権力を使われると…他の使用人まで、今日のような事をしてしまう可能性があるわ」

「今日の2人を入れたのは…ジシーだと?」

ローカスが身を乗り出してきたから、

「そこが…わからないから厄介なのよ」

私はため息をつく。

「ローカス卿のおじい様とおばあ様が帰ってきて…知らない仲じゃないとはいえ、使用人がだいぶ
増えてしまったでしょう?
私が押し掛けたお茶会の専属メイドの件だって…、確認が本当に不十分になっているなら、他に気遣い
しなければならないことが沢山あって、ダメだったって事だと思う…。
…それだけパワーバランスが、微妙になっているってことよ」

それに…まだ何か…隠れているような気がしてならない…。

「いっそ…ジシーを退職させるか…」

「それは…本当に慎重にやらないと、ローエン閣下とルリーラ夫人が許さないと思うわ。
ジシーって…歳は一番若いけれど、生まれた時からケイシロン公爵家にいるんでしょう?
だったら、途中雇いの人より、ずっと難しいわよ。
それこそ…退職させられてもおかしくない、重大なミスをしない限りは…ね」

「だよなぁ~」

ローカスが…とうとう机に倒れるように、頭をつけてしまう。

「とりあえず…長期戦を覚悟するか…」

ギリアムは言うが、

「それは悪手です、ギリアム…」

「なぜ?」

「ジシーは…私の予想では長期戦を耐え抜く、忍耐力が無いからです。
おそらく近いうちに…かなり攻撃的なことをしてくる可能性があります…。
それを防御しつつ、しっぽを掴むのが…使用人が沢山いると難しくなるんですよ。
それも…特にジシーに対し…というより、ジィリアに対して逆らえない使用人がいると…ね」

いよいよ…絶望的になってきたと、言わんばかりの空気の中、

「ギリアムゥ~」

「なんだ?気色の悪い声を出して…」

ローカスの甘えるような声に、ギリアムの鳥肌が立ったっポイ。

「お前の所でぇ~、暫く厄介になりたぁ~い。
オレの言う事、誰も聞いてくれないんだよぉ~」

「だから!!その声を止めろ!!」

マジで嫌だって顔してら…。
私はちょっと意地わるく、微笑みながら見ていたのだが…その時、私の脳内に電撃が貫く。

「あの…」

私はかなり真面目な顔になる。

「これは…最終手段かつ、かなり…変則的な手段になります…。
だからできれば…使いたくありませんが、可能性の1つとして、提案いたします」

すると…その場の緩んだ空気が、一気にピシッとした。
それを感じ、私も…話をする。
話し終わると、

「それは…ローカス卿がいいなら、私は構わないが…」

「オレは…不本意だが、マギーを守りたいしなぁ…」

「私は…ローカス様についていきます…。どんなことになったとしても…」

3社3様だが、納得はしてくれた。
それを踏まえ、私は改めて、

「あの…ローカス卿に一つ、お願いがあります」

「なんです?」

「昔の記憶を…たどって頂けないでしょうか?」

「何を知りたいんです?」

「ケイシロン公爵家には昔…代々仕えていた使用人が複数いたと、お聞きしました。
でも…今はジシーの家だけだと…。
代々仕えていた人たちが何でやめたのか…その前後に不可解なことは無かったか…
思い出して頂きたいのです」

正直、徒労に終わるかもしれないが…、今は出来るだけの事をしたい。

「わかりました」

ローカスは…自分の覚えている限りのことを…話してくれた。
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