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第3章 因縁

6 不可解な行動

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時間は少し戻って…ローエンじい様が帰った直後のファルメニウス公爵家…。
私はおばちゃんの様子を見るために、さっさとお着換えしていた。

貴婦人のドレスは、着脱に時間がかかるから、嫌なんだよね。
それでも…このドレスはだいぶ、着脱がしやすいけど!!

私のお着換え部屋の外から、

「奥様…ローエン閣下をお送りしてきました」

フォルトの報告が入ったので、

「ありがとう、フォルト!!早速だけど、意見を聞かせてちょうだい!!」

お着換えの最中の時間だって、無駄にせんよ。

「ローエン閣下の今日の行動…ハッキリ言っておかしいと思うの!!
ローカス卿に…何も確認してない状態で、私の所に来る人じゃないんじゃない?」

「ローカス卿には…確認済みでは?」

「だったらその事…言うはずよ。
ローカス卿の手紙に…なんて言うと思えない。
とにもかくにも、私をまずは見分…って感じに見えたし、最初から…あまり私に
好感を持っていなかったみたい」

するとフォルトは考え込んでしまったようで、言葉が途切れる。
しかしやがて…。

「確かに…今日のローエン閣下は…少々おかしいと思いました…」

と。
そこで今度は…私がしばし思考して…。

「そもそも…あの人なんで引退したの?
とても若々しくて、元気そうだったけど…」

「ローエン閣下自身が原因ではございません。
3年以上前になりますが…、奥様がご病気か何かで、体調を崩されたそうで。
その奥様のために、保養地にご一緒に行かれるゆえ、近衛騎士団団長を引退された
のです」

……愛妻家なんだなぁ。
好感度アップ。

「あれ?でも今日、奥さん来てたよね?あまり具合悪そうに見えなかったけど…」

「私もそこまでは存じ上げませんが…、良くなられたのではないでしょうか?」

どーも…引っかかるんだよなぁ~、う~ん。

頭の中で…バラバラになったパズルのピースが…かみ合いそうでかみ合わない…。
そんな感じで、すっごくモヤモヤする。

ただ、考えてもわからないことを、考えるのはまたの機会だ。
ちょうど着替えが終わった私は、

「ひとまず…私はおばちゃんの所に行くから!!
でも、なにかあったら、すぐに来て!!」

「かしこまりました」

フォルトのお辞儀が終わらぬうちに、私は一路おばちゃんの所へ。

「おっちゃん!!おばちゃんはっ!!」

最初医療施設に行ったのだけど、おうち(私が用意した宿舎)に帰ったとのこと。
すぐに駆け付けた。

「おう、嬢ちゃんか。騒がせちまってすまねぇな」

おっちゃんが頭をかきつつ、申し訳なさそうに言うので、

「何言ってるの!!容体は?」

「もう安定しているから、心配いらねぇよ」

私は…胸をなでおろす。

「一体何が原因?環境が悪いなら、出来るだけ変えないと…」

「う~ん、どうもそうじゃ、ないみたいなんだよなぁ…」

おっちゃんは、何だか煮え切らない。
私は…ひとまず、

「おばちゃんに会える?」

自分の目で見てみることにした。

「聞いてみるよ」

部屋の奥に行くおっちゃんを見つつ、私は不安に駆られる。
今後…私の展望が間違ってなかったとするなら、絶対におっちゃんの力がいる。
王都に…残って欲しい!!
でも…。

「嬢ちゃん、会うってよ」

おっちゃんの言葉で、私の思考は一時止まる。
部屋の中に入ると…ベッドの上にいるおばちゃんまで申し訳なさそうに、

「ゴメンね…心配かけちゃって…」

なんていうから、

「何言ってるの!!こっちこそ…住み慣れた所を、私のわがままで離れさせたようなもの
なんだから!!」

おばちゃんの手を握る…。
目には…いつの間にか涙が浮かんでいたようで、

「フィリーちゃんのせいじゃないわ」

おばちゃんが涙をぬぐってくれた。

「私ね…フィリーちゃんには感謝しているの」

「え…?」

これは…驚いた。予想外だった。

「うちの人の技術はね…たくさんの人を救う力がある…。
でも…あの人の気質が、利権目的の人間とは恐ろしく合わない」

それは…私もわかる。

「あの人だってね…最初から貴族や金持ちが、嫌いだったわけじゃない。
あんな辺鄙な所で、暮らしたいと思っていたわけじゃない。
でも…若いころからあの人は…たくさんたくさんぶつかってしまって…自分の思う事が散々
絵空事だと言われて…。
もともとの偏屈も重なって、結果として何も求めないような…世捨て人の生活をするように
なってしまったの…」

まあ、そんな感じだとは思ってたよ。

「あの人はそれで…満足しているとは言っていたけど…やっぱりどこか…寂しそうだった」

おばちゃんは下を向いていたが、ここで顔を上げ、

「でもね、フィリーちゃん…。
フィリーちゃんが送ってくれた計画書…あの人は最初返事こそ出さなかったけれど…、
暇さえあれば、ずっと見ていたわ」

「そ、そうなの?」

「ええ。
返事が無くてもずっと送ってくれて…そのたびに良くなって行ってるって…、あの人褒めて
いたのよ」

素直にうれしくて、また目尻が熱くなる。

「だからあの人…動く決心をしたの。
それからすぐに…フィリーちゃんが正式なファルメニウス公爵夫人になったことには驚いた
けれど…、変らず私たちや村の人に接する姿を見て…。
ああ、選択は間違っていなかった…って、思わせてくれたのよ」

「ありがとうね、フィリーちゃん…」

私は思わずおばちゃんに抱きついて、泣いてしまった…。
歳不相応で不覚だが、今だけ16の小娘という事で、許してもらおう。

「だから…心配しないで。私達…ここにいたいわ」

「うん…ずっといて!!
おっちゃんとおばちゃんは…私が絶対に守るから!!」

私は…決意を新たにした。
おばちゃんは…ベッドから起き上がり、おっちゃんの所に、2人で行った。

「あなた…ギリアム公爵閣下がお帰りになったら…話したい事があるの。
あなたも同席してください」

「ああ、わかった。いいぜ」

おっちゃんは…おばちゃんが少し元気になって、安堵したようだ。
いつもの調子で答えてくれた。

さて…ギリアムはというと、予想以上に早く帰ってきた。

「フィリー!!ここだと聞いてきた!!無事ですか!!」

私の姿を確認すると、人目もはばからず抱き上げた。

「ギ、ギリアム、まだお仕事中では…」

「ローエン卿から聞いて、急いで帰ってきたのです!!
なぜ私に…いや、私に言う手は塞がれたのか…。
忌々しいじじぃめ…」

ギリアム…目が怖い、眼が!!

「ひ、ひとまず大丈夫でしたから、安心してください」

「大丈夫なのは結果論でしょう!!大分威嚇されたと聞きました!!
そんな横暴をしない人だと思ったのに…とんだ狸じじぃだ!!」

いや…その意見には私も賛成するが、そんなハッキリと…。

「とにかくあの古狸とは、もう会わなくていいです。
どうしても会わねばならないなら…私と一緒に会いましょう!!
私の後ろに隠れていてください!!話しもしなくていい!!」

私はさすがにピキッと来て、

「あのですね!!そういう訳には行きません!!
どうしても関係性が濃い人ですし…、ローカス卿との約束もあります」

「反古でいいです!!」

いやいやいや、向こうが下がらんと思うよ。
それに…マギーの事だから、私もおいそれと下がれん。

「わかりました、ひとまずその話は…向こうに尋ねて行ってしましょう!!」

「…なぜですか?」

訝しむギリアムに、

「色々確認したいことが生じたのです!!お願いですから、ご一緒下さい!!」

「まあ…フィリーの希望なら…」

「では、この話はひとまず終わりです。
おばちゃんの話を聞いてください」

「マーサさんの?」

ここで初めてギリアムは…ちょっと呆れているおっちゃんとおばちゃんがいることに気付いた。

「これは失礼!!フィリーが心配すぎて、気づきませんでした!!」

真顔で言うもんだから、

「ポチよぉ…外でもそんな感じなのか?」

「そうですが、なにか?」

かなりキョトンとして聞くギリアムに、おっちゃんはそれ以上言う気力を失ったようだ。

おばちゃんが、お茶を入れてくれて…私達4人はテーブルについた。
少し落ち着くと、ギリアムの方を向き、

「私が…貴族の家で働いていたことがある…って、前に言ったのを、覚えていらっしゃいますか?」

「ええ、よく覚えています」

「……その家でのことを…、包み隠さず申し上げようと思います。
王都で暮らし、ファルメニウス公爵家にお世話になる以上…、逃れられないと思いますので…」

何だか…おばちゃんの顔が…非常に暗く…でも必死に見えて…。
私は…お願いだから、悪いモノで無いようにと、祈るしかなかった。
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