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第2章 相思

4 越権行為

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「あのな、専属メイドに関しては、直ぐ決めるつもりはない…って、キャサリンを通して
言ったはずだが?」

ローカス卿は、ケイシロン公爵家内の自信の執務室で、眉間に皺を寄せている。
傍らにはエトルとキャサリン…そしてマギー。
真向いにはジシーがいる。

「で、ですが…みんなそれぞれの業務がありますので…、早く決めていただいた方が、
効率が良いと思いましたので…」

ジシーは…少し押され気味でも、笑顔を絶やさず…と言った感じだ。

「わかった」

「あ、ありがとうございます!!」

「キャサリン…オレがこの前言った方針で、業務に支障をきたす人間がいるなら、報告して
くれ。
今回の選別からは、外すようにするから」

するとキャサリンは、

「今の所は…一人もおりませんね。そのような者は…。
それどころか、皆、自分も選ばれる可能性があると言って、出来るだけ頑張るつもりの
ようです」

「ん、分かった。
じゃあ、専属メイドの選別から外すのは、ジシー1人でいいな」

「な、なぜ私が!!」

かなり食いつくジシー。

「ん?だってお前がそう言ってきたのは、お前自身の業務に差し障りがあるからじゃないのか?
違うなら、なぜ言ってきたんだ?」

「わ、私はそのようなことはございません!!
ただ…私の祖母が…ルリーラ様(ローカス卿の祖母)の専属メイドですので…。
皆、私には言いやすかったのかと…」

「なら、その人間の名前を言え。
専属メイドの選考から外す。もちろん本人には、お前にそう言ったからだと言う」

「な…なぜ…」

「問題ないだろう?通常業務に差し障りがあるなら、減俸の対象になる。
ああ、ちゃんと通常業務さえこなせば、今まで通りウチで働いてもらうから、心配いらない」

ジシーは…流石に笑顔を作るのが、難しくなってきたようだ。

「そ…それは…、言わないで欲しいと言われております…」

ローカス卿はため息つきつつ、

「なら、今後その人間に対し、取り合わなくていい。
オレの所へ直接来させろ。こちらで対応する」

まあ、妥当な指示だな。
ローカス卿は…基本やっぱり優秀だ。
ギリアムと絡む時だけ…ああなっちゃうんだろうなぁ。

「し…しかし、マーガレット様は、覚えなければならぬことが、目白押しのハズです…。
そのサポートをする人材が…必要ではないかと…。
お教えするエトル様とて…負担になるかと思います…」

ローカス卿はエトルに目線だけ映し、

「エトル…ジシーの今の意見について、どう思う?」

するとエトルはローカス卿に向き直り、

「まず…マーガレット様は大変のみ込みが早く、仕事の速度もとても速いです。
確認いたしましたが、誤字脱字の1つもなく、計算違いも今の所ありません。
業務能力は、申し分なく高いですので、私の負担になるほどではございません」

エトル…キッパリはっきりした人や。

そして当たり前だぁ!!
マギーは実家で、義母と妹の2人分の仕事を、ほぼ1人でこなしていたんだぞぉ。
一人分なら、慣れない仕事でもいけるっつの。

さて、ローカス卿はここで改めてマギーを見て、

「マギー…専属メイドの件だが、今決めるとすれば、誰になる?」

と。

「そうですね…キャサリンが適任と思われますが…。
もし違う人間を選ぶなら、バネッサあたりですかね…」

ちょっと考えつつ言う。

それを聞いたジシーが、納得いかないとばかりに、

「あ、あの、失礼ですが…。
キャサリンさんは、メイドを取りまとめる仕事がございますし…。
バネッサさんは歳がだいぶ上なので、最近の流行には詳しくございません…。
今後の社交活動のため…その事も踏まえて選ばれるのが、よろしいかと…」

不満は顔に出さず、あくまで提案…に留めている。

「確かに…それも一理あると思うけど…。
今決めろと言われたら、今までついてくれた人の中から選ぶつもりよ。
選んですぐやっぱりダメ…じゃあ、選んだ人にも悪いと思うし…。
もし流行に詳しい人が必要なら、その時考えればいいと思うわ。
今の所…私はお披露目もされていないから、社交活動をする予定も無いしね」

マギーは…かなりいい笑顔で言った。
この辺は、私の指導。

「そ、そのようなことで、どうするのですか?
仮にもケイシロン夫人ならば、お披露目前から社交活動で、夫を助けることを考える
べきでは…」

まあ、一理あるんだけどさぁ。

「あのな…お前一体、どうしちまったんだ?ジシー」

ローカス卿が頭をかきむしりながら、面倒くさそうに言う。

「え?」

ジシーは…訳が分からないようだ。

「そもそも…ケイシロン夫人がどうするべきか…なんてのは、お前よりオレが考える事だ。
もちろん意見を言うのが悪いわけじゃない。
でも…マギーはまだお披露目もしていない。
それも、オレの意志でだ。
その状態で、何でお前が社交活動を進めるんだ?
お前は一体、何様のつもりなんだよ?」

「だいたいオルフィリア公爵夫人とは…懇意にさせて貰ってる!!
あの人は間違いなく力があるんだ。
その人に色々習っているんだから、オレはそれでいいと思ってるぜ?」

これは…本当にそう思っているようだ。

「で…でしたら…。
せめて私を…すぐに選考として、マーガレット様につけていただきたく」

「あのな、それこそ横暴だぞ!!」

ローカス卿…本当に怒ってきた。

「そもそも順位については、こっちで告知した状態で…、みんなシフトを組んじまってるだろうが!!
それを今から変えろっていうなら、それこそ業務妨害も甚だしいぞ!!」

「も…申し訳ありません…」

「わかったなら、もういい。
お前は幼いころから、祖母と一緒にケイシロンの為に、色々尽くしてくれたことは知ってる。
だからそれを加味していないワケじゃない。
だが、あきらかな越権行為を許すつもりはない。
己の立場をわきまえない者には…おじい様だって何も言わせなかったの、知ってるだろう?」

「は…はい…」

「とにかく!!今のままで、滞りなく行っているなら、それでいい。
みんなそれぞれ、己の仕事をしっかりやってくれ」

「はい!!」

ローカス卿の執務室には、マギーだけが残り、他3人はそれぞれ持ち場に戻ったのだが…。

「ジシー…アナタがケイシロンの事を心配しているのは、よくわかるけど…。
今日の言葉は、ともすれば越権行為と取られても、おかしくないわよ」

キャサリンの言葉は至極真っ当なのだが…。

「キャサリンさんは、平気なんですか?」

「何が?」

「だって…ローエン様に一言の断りもなく…、いきなり女性を連れて来るなんて…。
おまけに巷で悪評のある…」

するとキャサリンはため息をついて、

「悪評については、デマであるとローカス様から直接、説明があったでしょう?」

「で…でも…、火のない所に煙は立たないって…」

「確かにそうかもしれないけど…。
実際にマーガレット様は、温和で人に横柄な態度を、一切取っていないでしょ?
仕事だって真面目にやっていらっしゃるし…。
ローカス様に宝石やドレスをねだるようなことも、してらっしゃらないんだから、
今の所は様子を見るしかないわ」

「そ、そんなの最初のうちだけですよ!!」

「…だから、それを見るために今、みんなが代わりばんこでついているでしょう?
だれも不当に責められたり、八つ当たりされた…なんてこと、一切ないそうよ。
モノが無くなることも、ないしね」

「こっそりやっていたら…わからないですよ…」

「あのね!!ジシー!!」

キャサリンの口調がかなり強くなる。

「ローエン様はもちろん、ローカス様もそんなことを許す方じゃない事は、知っているわよね。
ルリーラ様には逐一現状をお知らせしているわ。
ローエン様と共に…、準備ができ次第、こちらに来て、見分なさると申してらっしゃる。
それまでに何か…問題が起こらないよう、見ておくのが私達全員の仕事よ」

「アナタの言い方を聞いていると…まるで火のない所に煙を立てたいように聞こえるわ!!
そんな事をしたら…ローエン様もローカス様も絶対に許さないわよ。
もちろん私もね!!」

ジシーは…うつむいて、唇をかみしめる。

「とにかく…アナタの順番が回ってきたら、アナタの目で確認すればいいわ。
ローカス様だって、意見はしていいっておっしゃってたでしょ?」

その言葉を最後に、キャサリンはジシーとは別の通路を行く。
残されたジシーは、

「それじゃ…遅いのよ…それじゃ…」

ブツブツ言いながら、真っすぐに廊下をひた走る。
その先にあった部屋に入ると、

「ルリーラ様とおばあ様に…知らせなきゃ…」

紙とペンを取り、何やら書き始めた…。
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