ひとまず一回ヤりましょう、公爵様

木野 キノ子

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第10章 信念

8 3年前に起きた、クレアとの確執3

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さてさて…3年前何があったかと申しますと…。

パーティー会場に到着したギリアムは、社交辞令として
クレア嬢の前に行き、挨拶する。

「…クレア嬢、18歳の誕生日、おめでとうございます」

「ああ、やっと来てくださった。
首を長くして待っておりました、ギリアム様」

そしてギリアムの前に、すっと手を差し出す。

「エスコートしてくださいますよね、ギリアム様。
私、今日あなたとダンスを踊るのを、楽しみにしておりまし
たの」

見惚れるような笑顔を向けられたが、ギリアムにはもちろん
通じるわけもなく、

「そういったお誘いを一切しないでいただきたいと、事前に
お伝えしてあったはずですが?」

きっぱり言い切り、クレア嬢の前を去ろうとする。
すると多分…オペロント侯爵の取り巻きたちが、ギリアムを
取り囲んだ。
これも手はず通りなのだろう。
形式的な挨拶を済ませた後、彼らは口々に、

「ままま、ギリアム様。
照れていらっしゃるのはわかりますが、今日という良き日に、
そのような態度は似つかわしくないかと…」

「そうですよ!!郷に入っては郷に従えと申します」

「せっかくいらしたのですから…」

などなど口に出したが、これもまたギリアムに通じるわけは
ない。
ましてテオルド卿や側近が言うならまだしも、ギリアムにとって
この時が初対面の人間ばっかりだし。
気にせず去ろうとする。
そしてギリアムのようなガチの武人を力ずくで止められるような
人間は、その場所には一切いなかった。
しかしそこはあきんどの取り巻き(しかも質があまりよくない
人達…)。
食い下がる力だけは、すっぽん並みだ。

「クレア嬢はあなた様の思い人ではありませんか…。
いくら照れていても、そのような態度では…嫌われてしまうかも
しれません。
何卒、今日ぐらいは正直におなり下さい」

…ギリアムって男に対しての…ある意味禁句を言っちゃったんよ、
うん。

ギリアムは歩みを止めると、その男の前に立ち、

「誰からお聞きになりましたか?」

「へ?」

「あなたの今の発言の…出所を聞いているのです」

このギリアムの静けさは、いわゆる嵐…それも超大型台風の
前触れだ。
だが深く接していない人間には、そのことがわからない。
そして運悪く、テオルド卿やデイビス卿、ヴァッヘン卿はクレア嬢
からは遠い所にいた。
もちろんそれも作戦の一つだろう。
三人がいれば、間に入ってギリアムが拒否していることは言った
だろうから。

んで、この静けさもやっぱり照れ隠しだと思ったらしい取り巻きは

「それはもちろん、クレア嬢とタニア侯爵夫人からでございます。
ルイザーク伯爵邸で蜜月を重ね、足繫く王立騎士団に通うクレア嬢
と仲睦まじく過ごしてらっしゃると…」

するとほかの取り巻きたちも、いつの間にか負けじと、

「もはや結婚まで秒読みでございますね」

「いかがでしょう?今日の良き日に、愛する人への贈り物として
婚約発表などは…」

私はフォルトからこれを聞いた時、最悪の悪手を選んだもんだと
思った。
いや…ギリアムが18歳の普通の男とはかけ離れすぎているとも
言えるのだけれど。
でもそんなことは、救国の英雄になった時点で分かりきっている
だろうに。

そしてギリアムがかなり徹底して女性を寄せ付けなかったことも
誤解を生んだ一つだ。
実は同性愛者ではないかと疑われた時、男娼を使って落とそうと
した権力者たちもいたらしいのだが…。
おなじ男だけに、まあ見事に拒否されるときぶん殴られたそう。
んで…私も娼婦なんてやってたからわかるんだけどさ。
職業としてそういうことやってると、相手が恥ずかしくて嫌がって
いるのか、本気で嫌悪してるのかってな、大抵わかる。
ギリアムにぶん殴られた男娼たちは、ほぼ全員がギリアムには
同性愛者の気はないと証言したのだ。

つまりクレア嬢もタニア侯爵夫人も…ケイルクス王太子殿下と
同じように、ギリアムはうぶでシャイなだけと判断したんだ
ろう。

だからクレア嬢の直接の誘いには乗らないが、みんなで歓談する
ことはしていたから、自分に気があると思ったんだな。
実際、テオルド卿の娘達より、クレア嬢の方が美人だし…。

…………………………………あのさ、言っていい?

バカでしょ?

ギリアムの拒否って、相手に一切曖昧な態度をとらない言動して
るよ?
まあ、恋愛ってのは脳内をお花畑にして、あらゆる自分に都合のいい
フィルターをかけちまうから、しょうがねぇかぁ。

んで、もう一つ。
人ってのは周囲の人目を気にする生き物だ。
だから周りを固められると、その気がなくてもうなずいてしまう
人間が多いのは事実。
これは類人猿のころから、協力し合って生きてきた人間の本能の
ようなもの。
だからギリアムが拒否していることは知っていても、周りを固めて
押してしまえば、何とかなると思ったんだろね。

…………………………………。
甘いよ!
甘すぎるよ!!

救国の英雄様は、たとえ万を超える敵に囲まれた中、自分一騎しか
いなかったとしても、自分を曲げるような人間じゃない。

ギリアムはくるりと向きを変え、クレア嬢の前に立つ。
もちろん取り巻きは、得意げに笑っている。
ほんの少し後に、その顔が恐怖でひきつるとも知らずに…。

「クレア嬢…」

「はい…ギリアム様…」

「彼らが言っていることは、本当ですか?」

「は…はい?」

「あなたと侯爵夫人が、私があなたを好きだと言っていると…」

ギリアムの声が、だんだんと大きくなっていたのだろう。
この時テオルド卿が異変に気付く…遅すぎたけど。

「ギリアム様…そのようにハッキリと言われますと…照れてしまい
ますわ…」

クレア嬢はまだわかっていなかった。
自分が何をやってしまったのか…。

「本当なのですね?」

「え…あの…」

ギリアムの雰囲気がどんどん変わっていくことに、クレア嬢も
タニア侯爵夫人もさすがに気づいた。

「ふざけるなぁ――――――――――――――――――!!」

うん…。
侯爵邸って当然広いんだけど…ギリアムの雄たけびは侯爵邸の
敷地の外にまで響いたそうだ。

「私がいつ、貴様を好きだなんて言った!!そんなデマを流して
何を企んでいる!!私は貴様らのような嘘つきが大嫌いだ!!
クレア嬢!!私があなたに触られてどれだけ不快だったと思って
いる!!気持ち悪い!!吐き気がする!!二度とその汚らわしい
顔を私に見せるな!!…etc」

うん、もうね…。
これ以外にも罵詈雑言の嵐…、大嵐…、超大型台風…。

クレア嬢はかなり気が強くてしっかりしているらしいけど、
その場に崩れ落ちて、ずっと泣いてたってさ。

異変に気付いたテオルド卿はじめ側近5人が駆けつけて、
ギリアムを何とか引きずって、会場から出たらしい。

「何というか…その…」

私が聞いていた情報とほぼ変わらない。
ギリアムはその辺は正確に、フォルトとエマに伝えたようだ。

私はとりあえず皆様の前に行き、

「皆様…大変申し訳ございませんでした。
そしてありがとうございました」

と、頭を下げた。
するとギリアムが立ち上がり、

「フィリーが謝ることではありません」

私のそばに寄って来た。

「皆に迷惑をかけたのは、悪いと思っています。
しかしその後の行動を鑑みるに、私のあの場での言動は
間違っていません」

いや、別に…間違ってたとは言ってねぇ。

「だとしても!!」

私の口調も、少し強くなる。

「切れて暴れるあなたを、取り押さえるのは容易ではありません。
だから私は皆さんに、感謝と謝罪をしたのです」

ギリアムは納得できん顔しとる。
すると…

「団長!」

レオニール卿が割って入ってきた。
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