ひとまず一回ヤりましょう、公爵様

木野 キノ子

文字の大きさ
上 下
52 / 71
第9章 決戦

6 これ以上はないってくらい、心のこもらぬ謝罪

しおりを挟む
さて悪趣味な余興が終わった後は、お決まりの紹介タイム。

しかし女性陣は…うん、予想通りっちゃ予想通りだな。
クレア嬢とタニア夫人、フェイラ嬢は私に対して、めっちゃキツイ目を
向けてきてる。
ルイーズ嬢だけは…ずっと下向いててわからんな。

「いやーしかし閣下!
閣下とオルフィリア嬢のお揃いの衣装は、美しいの一言ですね。
私はこういうものにはかなり疎い人間ですが、二人のダンスでの一体感は
素晴らしかったですよ」

テオルド卿…私のこと気に入ったからか、いたく上機嫌でほめてくれる。
テオルド卿は空気を読めないのか、読む気がないのか…うん、両方だな。
ギリアムはとっても嬉しそう。
まあ私も嬉しいんだけどね~、でもね、にぶちんお二人さん。
私今、すっごく敵愾心向けられとるのよ、複数人から。
まあ、こういうの慣れてるからいいけど。

「し、しかし閣下…せっかくパーティーにいらしたのですから、テラスに
こもってばかりいては…そろそろ中に戻られては…」

リグルド卿…父親よりは空気読めるみたいね。
大事よ、それ。

「いや…それがな…。
私としても、そろそろ戻りたいのだが…」

うそこけ。
二人っきりの時に、散々このまま誰も来なきゃいいのに~とか、言っといて。

「ケイルクス王太子殿下に、ここにいるように言われていてな…。
なにやら話したいことがあるようなのだが、どうしても抜けられない用が
あって、それを済ませたらすぐ来ると言っていたな」

「ほう…王太子殿下をずっと見かけないのは、そういうことでしたか」

この建国記念パーティーにおいては、よほどのことがない限り、王族は会場に
いるのが通例だ。
王家と貴族の親交がこのパーティーの主目的でもあるからだ。

「ああ、だから私とフィリーはずっとここにいるんだ。
それが終わったら、もちろんパーティー会場に戻るつもりだ」

「な…なら!!」

おや、ずっと私のこと睨んでたフェイラ嬢が出てきた。

「パーティー会場に戻ったら、私と踊ってください!!」

おお、積極的やな~。
ギリアムの数々の失礼伝説知っとるやろーに。

ここで補足だが、ギリアムは私を探すために、一年前から社交界に出る
ようになった。

しかしダンスのお誘いは、身分に関わらず一切お断り。

もちろん自分から誘ったことなど一切なし。

身分が高いとはいえ、かなり失礼に当たるが、そこはギリアム。
今のところ、咎められてはいないよう。

次にレティア王女なのだが、誘って断られた王女が、ギリアムの目の前で
扇子を落とした。
これは女性が男性を誘うときの一つの手で、扇子やハンカチをわざと落とし、
拾ってくれた男性と縁を作るという、社交界の暗黙の了解。
なのだが…。

ギリアムはまあ、無視、ガン無視、当然無視。

で、王女がめげずに

「拾ってくださらないの?」

と言えば、呆れたように

「あなたは子供ですか?自分で落としたものぐらい、自分で拾ってください」

と言い捨て、行ってしまったそう。

……うん。
失礼極まりない。

それでやっぱりお咎めなしどころか、どこの社交パーティーでも出禁に
ならないのは、やはりギリアムが序列一位の貴族&英雄だからだろう。

ちなみに王女に限らず、すべての女性にこんな感じに接したそーな。

一体どれくらいの塩と辛子を混ぜて、キョーレツにした対応やねん。

……………合掌(ちーん)。

「…確かフェイラ嬢は今日、デビュタントでしたね」

「はい!!ドレスは三か月前から、今日のために準備いたしました」

これ見よがしに、ギリアムの目の前でクルクルして見せる。

「……わかりました、いいですよ」

フェイラ嬢の顔が、ぱぁ~っとなっている。
しかし、間髪入れずギリアムは

「クレア嬢とルイーズ嬢もどうですか?」

と。

ルイーズ嬢は何が起こったかわからなくて呆けたが、クレア嬢は、

「ぜっ、ぜひお願いします!!」

さーすが、あきんどの娘。
反応いいな。

するとフェイラ嬢の顔から、先ほどの明かりが消えた。
ありゃ、ホントに自分だけ特別扱いされたと思ったのかい?
婚約者がいる男に?
この子大丈夫かいな…。

そんな時だった…。

「失礼…入ってもよいか?」

「!!!」

男連中に緊張の色が…ギリアムまで…ってこたー、相手は…。

「…お入りください、国王陛下」

やっぱし~~~~~。

テラスのカーテンと扉が開く。
テラスにいた全員が頭を垂れる。
ギリアムはいつの間にか、一番前に出ていた。

「お久しぶりです、国王陛下…。
ギリアム・アウススト・ファルメニウス公爵がご挨拶申し上げます」

「ああ、形式ばった挨拶は不要だ。
他の者たちもな。
今回はわが娘が犯した過ちについて、詫びに来ただけゆえな」

見れば国王の後ろから、王后陛下、ケイルクス王太子殿下、レティア
王女殿下が続いている。
んで、やっぱり王女は化粧で隠し切れない、泣きはらした目で、
私を睨んでますねぇ。

「レティア」

国王の声に、レティア王女がびくりとして、

「お父様…お人払いを…」

「必要ない」

ありゃま、国王陛下って結構潔い人なのね。
レティア王女は唇をかみしめていたが、国王に睨まれて、観念した
ようだ。

「こ…このたびは…オルフィリア・ステンロイド男爵令嬢に…大変
無礼なふるまいをし、申し訳ありませんでした…」

ふ~ん。
まあ、声と目つきと態度からわかるよ。
かんっぜんに言わされてるって。
反省なんかシテネー、まあ、求めてもいないけどね。

でも、残念ながらこれで終わりにしとかんとな~。
ギリアムより身分上だし、国王に逆らうことになるのは避けなきゃ
いけん。

「謝罪を受け入れます、レティア王女殿下…」

私も行儀よく礼をする。
すると国王が柏手一つ打ち、

「よろしい!!それではこれにて、この件はしまいとしよう!!
よいな、オルフィリア嬢?」

あ~、はいはい。
つまりこの一件、他言するなよ…と。

「もちろんです、国王陛下…。
私は真摯に謝罪してくださった方を、貶める趣味はございません」

王女が心からの謝罪なんてしてネーし、する気もないのはわかり
きってんだけどね。
ま、この国王と王太子はある程度マトモみたいだし、今んとこは
様子見だな、うん。

「して、ギリアム公爵とオルフィリア嬢はこの後どうするのだ?」

「もうここにいる必要もないので、会場に戻ろうと思います」

ギリアムがそう言うと、私の前にケイルクス王太子が歩み出て、

「では、オルフィリア・ステンロイド男爵令嬢。
私と踊っていただけませんか?
いいだろう?ギリアム公爵」

「……」

ギリアムは黙ったままだ。

ちょいと、ギリアム!このことについては、話したよね!!
今更ダメとか言うなよ!おい!!

まして相手は王家なんだから!!

私はこの日初めて、イヤーな汗が背中を伝うのを感じた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

【完結】男爵家に嫁ぎましたが、夫が亡くなったので今度こそ恋をしたい

野々宮なつの
恋愛
ソフィアは社交デビューしてすぐに嫁いだ夫が亡くなり2年になった。 愛のない結婚だったから悲しみに暮れることはなかったが、ソフィアには他の問題が立ちはだかっていた。 後継者がいないのだ! 今は義父がいるけれど、このままでは生活が立ち行かなくなる。できたら家庭教師の職を見つけたい。 そんな時、義父の紹介で伯爵令嬢の舞踏会の付き添い役を務めることに。 職を紹介してもらえるかもしれない。そんな下心から伯爵令嬢の付き添い役を了承したが、社交嫌いで有名な伯爵は優しくて気づかいもできる素敵な人だった。 ソフィアはあっという間に彼に恋に落ちてしまう。 でも伯爵は今でも亡き妻を愛しているようで? ソフィアが仕事に恋に、再び自分の人生に希望を見出して生きるお話です。 全20話です この話は小説家になろう様にも載せています。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

処理中です...