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第8章 暗躍

6 王宮でのひと悶着2

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王后陛下が何かを言おうとしたのを遮り、ケイルクスはさらに
続ける。

「あと!!父上からお達しです!!
今回ギリアムの所で壊した物の被害額は、レティアにわたす
予定の来年度の予算からすべて引きます!!」

「そ…そんな無体な!!」

王后陛下まで涙目になる。

「無体でも何でもないです!!
そもそも毎年、十分渡しているにも関わらず、金が足りなくなって
その都度せびりに来ることを、父上も頭を悩ませていた!
その上今回の件で、王家の人気を失墜させたのだから、当然の
措置です!!」

それだけ言い捨てると、レティアと王后陛下が何か言う前に、
ケイルクスは足早に部屋を出た。
ローカス卿とベンズ卿が続く。

王宮の長い長い廊下を、3人はただ歩く。

「で?ローカス卿(ケイルクス)」

「はい」

「消火の具合は?」

「まだ何とも…。
ギリアムは国内外を問わず、人気がありますから」

「だよなぁ…。
ローカス卿がギリアムに会って、直接頼んでみては?
幼馴染だし、仲は悪くないのだろう?」

誰が言ったわけでもないが、ギリアムとローカス卿の腐れ縁は
皆が知っている。
ローカス卿が若くして、近衛騎士団団長に任命されたのは、
対ギリアム対策の一つともいえる。

「今の段階では難しいかと…」

ローカス卿は少し伏目がちになって言う。

「なぜだ?
ローカス卿は騎士団ともうまくやっているだろう?」

「…この場だから申し上げますが…以前も今も、王女殿下自身に
反省の色が無い事を、ギリアムは重く見ているんです」

「まあ…それはな…。
アイツは昔から言ってきく性格じゃなかったから、周りもついつい
止めるに止められなかったんだよな」

ケイルクス王太子殿下は、頭を抱える。

「その上、母上だけじゃなく、娘を切望したけど結局持てなかった
おじいさまが、物凄く甘やかしちまって…。
まあ、このことはレティアが少し大きくなってから、おじいさまも
後悔していたみたいだけど…遅いっつの!!」

ここまで言って、ハッとなったケイルクス王太子殿下は、言を整え、

「ま、まあレティアに対しては、オレも父上ももう少し厳しくする
ことにするから、何とか頼んでくれ」

「やれるだけ、やってみますが…」

「何だよ、随分望みが薄そうに言うんだな」

するとベンズ卿がため息交じりに、

「ギリアム公爵閣下は、レティア王女殿下の事だけでなく、先日公爵邸に
対して行った近衛騎士の不始末…。
それをどう団長がカタをつけるのか、まず見てから判断すると
思われます」

「もう処罰はしたのだろう?」

ケイルクスが聞けば、

「もちろん厳重注意と減俸処分には致しました」

ローカス卿は答えるも、その顔は陰っている。

「なら、大丈夫では?」

「ことはそう簡単にはいかないのです」

ローカスは少し言葉がきつくなる。

「実は当事者である近衛騎士たちのほとんどが、処分を不服と
していることが、平民にまで知れてしまって…」

かわりにベンズ卿がこたえる。

「それこそ、バカか!!」

ケイルクスは声を荒げるが、どうともできない。

実は近衛騎士団員には、ギリアムに反感を抱いている者が多い。
先の戦争でギリアムが平民と貴族を一切えこひいきすることなく
賞罰を与えたこと…それをかなり不服としているのだ。
平民もそれを知っているため、近衛騎士が庭をぐしゃぐしゃに
するさまが、余計にわざとらしく見えたのだろう。

さらに悪いことに、ギリアムは花の見ごろの季節、庭園の一部を
ただで開放して、平民にも花を楽しむ機会を与えているのだ。

娯楽で溢れすぎた21世紀日本でさえ、美しく咲いた花は人々を
魅了し、引き付け、楽しませる。

それを考えれば、娯楽の少ないこの世界で、人々がどれだけ公爵邸の
庭園の花々を見ることを楽しみにしているか、容易に想像はつく。
もちろん、遠方から訪れる者も少なくない。

つまり自分たちの数少ない楽しみを潰された者たちが、かなり
悪し様に今回のことを噂して回っているわけだ。

「ただまあ…何とかしますよ。
もともと近衛騎士団の失墜の巻き返しも、仕事の内だと思って
いますので」

「は~、ローカス卿がそう言ってくれて、助かるよ…」

ケイルクスはようやっと少し、穏やかになった。

「ひとまず建国記念パーティーで、ギリアムの婚約者殿を見極め
ないと…。
話ができれば一番いいんだが…」

ローカス卿は考え込んでいる。

「そこまでする必要が?」

「そりゃあ、そうですよ。
ギリアム公爵の妻となれば、王立騎士団はもちろん、近衛騎士団の
方にだって、何かしらの影響があるかもしれない。
面倒くさい性格だと、厄介です」

王立騎士団と近衛騎士団は、平時であれば個々で独立している。
しかし、有事の際には近衛騎士団の指揮権が、王立騎士団…という
より、ファルメニウス公爵家に移るのだ。

武のファルメニウスが軍事のすべてを担う…これは建国以来の
不文律だ。

心配するのは当たり前である。

しかし、ケイルクス王太子は、

「そんなに心配いらないだろ?
年々増える一方の求婚の返事がさすがに面倒くさくなって、テキトー
なの見繕って形だけの婚約…いわゆる契約結婚をしたのでは?
なにせ量が半端じゃないからな」

そう。
ギリアムへの求婚状はひっきりなしに届くうえ、他国の王族や貴族
にまで及ぶため、文字通り常に山積みの状態だ。

「その可能性は低いです」

ローカス卿がかなりキッパリと答えたため、ケイルクス王太子殿下も
ベンズ卿も目を見開く。

「オレはアイツが昔からどれだけ政略結婚を嫌っていたかよく知って
います。
そんなアイツが形だけの契約結婚をするとは思えなかった。
だからそれとなく探りを入れてみました」

一呼吸置く。

「まだオレの推測の域を出ませんが…。
ギリアムはオルフィリア嬢に高い確率で…恋慕の情があります」

「恋をしたってのか!?
あのカタブツがか」

「はい…おそらく…」

するとケイルクス王太子殿下は大声で笑いだし、

「そりゃーいい!!おいっ!!」

ケイルクス王太子殿下の声に反応するかのように、柱の陰からスッと
人が出てきた。

「建国記念パーティーに来たオルフィリア嬢と背格好、顔、雰囲気の
似ている王家傍流の令嬢をできるだけピックアップしろ!!
性格はおいおいわかるだろうから、それも考慮して絞り込め」

人影は静かに頭を下げ、消える。

「よいのですか?
ケイルクス王太子殿下…。
レティア王女殿下は…」

ベンズ卿が言うが、

「しょうがないだろう?
レティアとくっついてくれるのが一番良かったのは確かだ。
けど…。
5年も進展なしじゃ、期待薄だ。
いや…進展どころか後退しかしていない。
ギリアムは最近とみに、レティアに対する嫌悪感を隠さなくなって
きたからなぁ…。
それよりも、好みのタイプにあった令嬢を当てた方が、まだ可能性が
ある」

やれやれという顔をしつつ、ケイルクス王太子殿下が言葉を紡ぐ。

「内政、経済、外交、軍事…。
このどれも、ギリアムと親しいことを見せつけられれば、ほとんど問題は
起きない…。
何とか王家と全く関係のない人間ではなく、王家の血を持つ人間と縁故を
結ばせなければ…」

そんなことを話しつつ、3人はまだまだ続く廊下を歩いていくのだった…。
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