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運び屋ケイン3 ~忘れえぬ風景~

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プルプスン、プルプスン、プルプスン…。

ケインの愛機、小型飛行艇リトルホープ号の夢8型エンジンが息切れしながら頑張っています。
ケインは、運び屋。
頼まれた荷物を指定された日時に、指定された場所まで運ぶ仕事。

今回、荷物の届け先は、高い山の上に在る火口湖。
火口湖とは、文字通り噴火口に雨水や地下水が溜まった湖です。
リトルホープ号は、高い高度と重い荷物の為、苦しんでいるのでした。
ケインは、アクセルペダルを踏み込みます。

ブルブルプスン、ブルブルプスン…。

夢8型エンジンの息切れが激しくなりました。

「頼むぜ相棒! 予定時刻を過ぎちまう!!」

ケインは、機体をポンと叩きます。
と、雲を抜けた先に山の頂上が見えました。
目的の山です。

ケインは、安堵の溜め息をつくと火口湖へ向け機首を下げました…。


火口湖へ着水したケインは、湖岸のテントへ向け、ゆっくりと機体を進ませます。
テントから真っ白なヒゲを蓄えた、お爺さんが出てきました。
お爺さんは、不信な目でケインを見ています。
ケインはエンジンを止めると惰性で、リトルホープ号を湖岸に着けました。

ジャブジャブジャブ…。

ケインは、膝下まで水に浸かりながら、貨物室を開き、荷物を取り出しました。
大きな布に包まれた重そうな荷物、ケインは肩に担ぐと、お爺さんの下へ向かいます。

「ラザンさんですね?
運び屋のケインと申します。
荷物をお届けに参りました。」

「いや、わしは何も頼んどらんが…。」

ラザンは、首を横に振ります。

「息子さんからの依頼です。
これを湖面が一望出来る、岩の上に置いてきてくれと…。」

息子からの依頼と聞いて、思い当たるふしがあるのか、ラザンはテント横にある大きな岩を指差します。

「それは多分、あの岩の事じゃ。」

ケインは、分かりましたと頷くと、荷物を担いだまま岩へ向かいます。


岩は人の背丈程の高さ、ケインは苦労して岩の上に荷物を持ち上げました。
岩の上に登ったケインは、湖面が鏡のように青空を映している眺望に感動します。

「おおい、すまんが登るのを手伝ってくれんか。」

岩の下からラザンが声をかけてきました。
ケインは、慌ててラザンの手を取り、引き上げます。


ケインは、荷物から布を取り外します。
中身は、お地蔵様でした。

「これを…、息子が…。」

ラザンは涙を流します。
亡くなった人が、あの世で苦しむ事が無いようにとの願いが込められた、お地蔵様。
ケインは、お地蔵様を岩の中央に据え付けました。
2人は、お地蔵様をはさんで岩の上に座ると、湖を眺めます。

「素晴らしい眺めですね…。」

「ああ…、若い頃、見た景色と同じゃ…。
サオランは、見る事が出来たんじゃろうか…?」

サオランと言うのは、ラザンの孫で、火口湖を見に行くと書置きを残し、家を出たまま行方不明になっている少年。
見つからないまま、もう直ぐ1年が経とうとしています。

この火口湖は、ラザンが生きてきた中で、一番感動した景色。
息子や孫に、大きくなったら一度は見に行きなさいと薦めていた景色。
サオランが、絶対行くと強く言っていた景色…。

ラザンは責任を感じ、3ヶ月前から火口湖を中心に捜索しているのでした。

ケインは、胸元から小さな箱を取り出し、ラザンに渡します。
箱の中身はメガネでした。

「サオランさんが、幼い頃、使っていたメガネだそうです。
お地蔵様にかけてあげて下さい。」

ラザンは言われるまま、お地蔵様の顔にメガネをはめます。
サオランの顔に似せて作られた、お地蔵様…。
メガネは、ピッタリはまりました。

ラザンは、涙が止まりません。

「息子さんから依頼を受けました。
火口湖に居る、お爺さんを家まで届けて欲しいと…。
運んでもよろしいでしょうか?」

ラザンは、ジッと黙ったまま…。
ケインは、話を続けます。

「サオランさんのお姉さんが、結婚します。」

ラザンが驚いた顔をケインに向けます。

「サオランさんの事もあって、ずっと延期していたそうですね…。
1年と言う区切りをもって、来週、結婚式を挙げるそうです。
お爺さんにも出席して欲しいと泣いて頼まれました。」

ケインの言葉にラザンは、しばらく考え込んでいました。
少ししてラザンが立ち上がります。
ラザンは涙を拭い、口に手を当て大きな声で叫びました。

「サオラーン!
家で待ってる!
早く帰ってこーーい!!」

ラザンは、大きく息を吐くと、笑顔でケインに話します。

「テントを片付けるのを手伝ってもらえるかな?」

ケインは、笑顔で頷きました。


テントを貨物室に収め、後部座席にラザンを乗せました。
リトルホープ号は火口湖を飛び立ちます。

「ケインさん、少し山の周りを飛んで貰えるかな?」

ケインは頷くと操縦桿を傾けました。
ラザンは、ジッと山肌を見つめています。
3周程回った時、ラザンが呟きました。

「ケインさん…。
ありがとう…。」

ラザンは泣いているようでした…。
ケインは操縦桿を戻すと、ラザンの家へ向かいます。
火口湖の岩の上から、お地蔵様が見送っていました……。
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