1 / 1
運び屋ケイン3 ~忘れえぬ風景~
しおりを挟む
プルプスン、プルプスン、プルプスン…。
ケインの愛機、小型飛行艇リトルホープ号の夢8型エンジンが息切れしながら頑張っています。
ケインは、運び屋。
頼まれた荷物を指定された日時に、指定された場所まで運ぶ仕事。
今回、荷物の届け先は、高い山の上に在る火口湖。
火口湖とは、文字通り噴火口に雨水や地下水が溜まった湖です。
リトルホープ号は、高い高度と重い荷物の為、苦しんでいるのでした。
ケインは、アクセルペダルを踏み込みます。
ブルブルプスン、ブルブルプスン…。
夢8型エンジンの息切れが激しくなりました。
「頼むぜ相棒! 予定時刻を過ぎちまう!!」
ケインは、機体をポンと叩きます。
と、雲を抜けた先に山の頂上が見えました。
目的の山です。
ケインは、安堵の溜め息をつくと火口湖へ向け機首を下げました…。
…
火口湖へ着水したケインは、湖岸のテントへ向け、ゆっくりと機体を進ませます。
テントから真っ白なヒゲを蓄えた、お爺さんが出てきました。
お爺さんは、不信な目でケインを見ています。
ケインはエンジンを止めると惰性で、リトルホープ号を湖岸に着けました。
ジャブジャブジャブ…。
ケインは、膝下まで水に浸かりながら、貨物室を開き、荷物を取り出しました。
大きな布に包まれた重そうな荷物、ケインは肩に担ぐと、お爺さんの下へ向かいます。
「ラザンさんですね?
運び屋のケインと申します。
荷物をお届けに参りました。」
「いや、わしは何も頼んどらんが…。」
ラザンは、首を横に振ります。
「息子さんからの依頼です。
これを湖面が一望出来る、岩の上に置いてきてくれと…。」
息子からの依頼と聞いて、思い当たるふしがあるのか、ラザンはテント横にある大きな岩を指差します。
「それは多分、あの岩の事じゃ。」
ケインは、分かりましたと頷くと、荷物を担いだまま岩へ向かいます。
…
岩は人の背丈程の高さ、ケインは苦労して岩の上に荷物を持ち上げました。
岩の上に登ったケインは、湖面が鏡のように青空を映している眺望に感動します。
「おおい、すまんが登るのを手伝ってくれんか。」
岩の下からラザンが声をかけてきました。
ケインは、慌ててラザンの手を取り、引き上げます。
…
ケインは、荷物から布を取り外します。
中身は、お地蔵様でした。
「これを…、息子が…。」
ラザンは涙を流します。
亡くなった人が、あの世で苦しむ事が無いようにとの願いが込められた、お地蔵様。
ケインは、お地蔵様を岩の中央に据え付けました。
2人は、お地蔵様をはさんで岩の上に座ると、湖を眺めます。
「素晴らしい眺めですね…。」
「ああ…、若い頃、見た景色と同じゃ…。
サオランは、見る事が出来たんじゃろうか…?」
サオランと言うのは、ラザンの孫で、火口湖を見に行くと書置きを残し、家を出たまま行方不明になっている少年。
見つからないまま、もう直ぐ1年が経とうとしています。
この火口湖は、ラザンが生きてきた中で、一番感動した景色。
息子や孫に、大きくなったら一度は見に行きなさいと薦めていた景色。
サオランが、絶対行くと強く言っていた景色…。
ラザンは責任を感じ、3ヶ月前から火口湖を中心に捜索しているのでした。
ケインは、胸元から小さな箱を取り出し、ラザンに渡します。
箱の中身はメガネでした。
「サオランさんが、幼い頃、使っていたメガネだそうです。
お地蔵様にかけてあげて下さい。」
ラザンは言われるまま、お地蔵様の顔にメガネをはめます。
サオランの顔に似せて作られた、お地蔵様…。
メガネは、ピッタリはまりました。
ラザンは、涙が止まりません。
「息子さんから依頼を受けました。
火口湖に居る、お爺さんを家まで届けて欲しいと…。
運んでもよろしいでしょうか?」
ラザンは、ジッと黙ったまま…。
ケインは、話を続けます。
「サオランさんのお姉さんが、結婚します。」
ラザンが驚いた顔をケインに向けます。
「サオランさんの事もあって、ずっと延期していたそうですね…。
1年と言う区切りをもって、来週、結婚式を挙げるそうです。
お爺さんにも出席して欲しいと泣いて頼まれました。」
ケインの言葉にラザンは、しばらく考え込んでいました。
少ししてラザンが立ち上がります。
ラザンは涙を拭い、口に手を当て大きな声で叫びました。
「サオラーン!
家で待ってる!
早く帰ってこーーい!!」
ラザンは、大きく息を吐くと、笑顔でケインに話します。
「テントを片付けるのを手伝ってもらえるかな?」
ケインは、笑顔で頷きました。
…
テントを貨物室に収め、後部座席にラザンを乗せました。
リトルホープ号は火口湖を飛び立ちます。
「ケインさん、少し山の周りを飛んで貰えるかな?」
ケインは頷くと操縦桿を傾けました。
ラザンは、ジッと山肌を見つめています。
3周程回った時、ラザンが呟きました。
「ケインさん…。
ありがとう…。」
ラザンは泣いているようでした…。
ケインは操縦桿を戻すと、ラザンの家へ向かいます。
火口湖の岩の上から、お地蔵様が見送っていました……。
ケインの愛機、小型飛行艇リトルホープ号の夢8型エンジンが息切れしながら頑張っています。
ケインは、運び屋。
頼まれた荷物を指定された日時に、指定された場所まで運ぶ仕事。
今回、荷物の届け先は、高い山の上に在る火口湖。
火口湖とは、文字通り噴火口に雨水や地下水が溜まった湖です。
リトルホープ号は、高い高度と重い荷物の為、苦しんでいるのでした。
ケインは、アクセルペダルを踏み込みます。
ブルブルプスン、ブルブルプスン…。
夢8型エンジンの息切れが激しくなりました。
「頼むぜ相棒! 予定時刻を過ぎちまう!!」
ケインは、機体をポンと叩きます。
と、雲を抜けた先に山の頂上が見えました。
目的の山です。
ケインは、安堵の溜め息をつくと火口湖へ向け機首を下げました…。
…
火口湖へ着水したケインは、湖岸のテントへ向け、ゆっくりと機体を進ませます。
テントから真っ白なヒゲを蓄えた、お爺さんが出てきました。
お爺さんは、不信な目でケインを見ています。
ケインはエンジンを止めると惰性で、リトルホープ号を湖岸に着けました。
ジャブジャブジャブ…。
ケインは、膝下まで水に浸かりながら、貨物室を開き、荷物を取り出しました。
大きな布に包まれた重そうな荷物、ケインは肩に担ぐと、お爺さんの下へ向かいます。
「ラザンさんですね?
運び屋のケインと申します。
荷物をお届けに参りました。」
「いや、わしは何も頼んどらんが…。」
ラザンは、首を横に振ります。
「息子さんからの依頼です。
これを湖面が一望出来る、岩の上に置いてきてくれと…。」
息子からの依頼と聞いて、思い当たるふしがあるのか、ラザンはテント横にある大きな岩を指差します。
「それは多分、あの岩の事じゃ。」
ケインは、分かりましたと頷くと、荷物を担いだまま岩へ向かいます。
…
岩は人の背丈程の高さ、ケインは苦労して岩の上に荷物を持ち上げました。
岩の上に登ったケインは、湖面が鏡のように青空を映している眺望に感動します。
「おおい、すまんが登るのを手伝ってくれんか。」
岩の下からラザンが声をかけてきました。
ケインは、慌ててラザンの手を取り、引き上げます。
…
ケインは、荷物から布を取り外します。
中身は、お地蔵様でした。
「これを…、息子が…。」
ラザンは涙を流します。
亡くなった人が、あの世で苦しむ事が無いようにとの願いが込められた、お地蔵様。
ケインは、お地蔵様を岩の中央に据え付けました。
2人は、お地蔵様をはさんで岩の上に座ると、湖を眺めます。
「素晴らしい眺めですね…。」
「ああ…、若い頃、見た景色と同じゃ…。
サオランは、見る事が出来たんじゃろうか…?」
サオランと言うのは、ラザンの孫で、火口湖を見に行くと書置きを残し、家を出たまま行方不明になっている少年。
見つからないまま、もう直ぐ1年が経とうとしています。
この火口湖は、ラザンが生きてきた中で、一番感動した景色。
息子や孫に、大きくなったら一度は見に行きなさいと薦めていた景色。
サオランが、絶対行くと強く言っていた景色…。
ラザンは責任を感じ、3ヶ月前から火口湖を中心に捜索しているのでした。
ケインは、胸元から小さな箱を取り出し、ラザンに渡します。
箱の中身はメガネでした。
「サオランさんが、幼い頃、使っていたメガネだそうです。
お地蔵様にかけてあげて下さい。」
ラザンは言われるまま、お地蔵様の顔にメガネをはめます。
サオランの顔に似せて作られた、お地蔵様…。
メガネは、ピッタリはまりました。
ラザンは、涙が止まりません。
「息子さんから依頼を受けました。
火口湖に居る、お爺さんを家まで届けて欲しいと…。
運んでもよろしいでしょうか?」
ラザンは、ジッと黙ったまま…。
ケインは、話を続けます。
「サオランさんのお姉さんが、結婚します。」
ラザンが驚いた顔をケインに向けます。
「サオランさんの事もあって、ずっと延期していたそうですね…。
1年と言う区切りをもって、来週、結婚式を挙げるそうです。
お爺さんにも出席して欲しいと泣いて頼まれました。」
ケインの言葉にラザンは、しばらく考え込んでいました。
少ししてラザンが立ち上がります。
ラザンは涙を拭い、口に手を当て大きな声で叫びました。
「サオラーン!
家で待ってる!
早く帰ってこーーい!!」
ラザンは、大きく息を吐くと、笑顔でケインに話します。
「テントを片付けるのを手伝ってもらえるかな?」
ケインは、笑顔で頷きました。
…
テントを貨物室に収め、後部座席にラザンを乗せました。
リトルホープ号は火口湖を飛び立ちます。
「ケインさん、少し山の周りを飛んで貰えるかな?」
ケインは頷くと操縦桿を傾けました。
ラザンは、ジッと山肌を見つめています。
3周程回った時、ラザンが呟きました。
「ケインさん…。
ありがとう…。」
ラザンは泣いているようでした…。
ケインは操縦桿を戻すと、ラザンの家へ向かいます。
火口湖の岩の上から、お地蔵様が見送っていました……。
0
お気に入りに追加
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
千尋の杜
深水千世
児童書・童話
千尋が祖父の家の近くにある神社で出会ったのは自分と同じ名を持つ少女チヒロだった。
束の間のやりとりで2人は心を通わせたかに見えたが……。
一夏の縁が千尋の心に残したものとは。
運び屋ケイン2 ~懲りない王国~
つなざきえいじ
児童書・童話
運び屋のケインは、愛機リトルホープ号で荷物を運びます。
届け先は、国の真ん中に大きな湖が在る王国。
1年前、獣のジーミを駆除する目的で、獣のキコを届けました。
今回は、獣のキコを駆除する目的で、獣のピョポンを届けに行きます…。
天使の贈り物〜Shiny story〜
悠月かな(ゆづきかな)
児童書・童話
この作品は「天使の国のシャイニー」のもう一つの物語。
私がシャイニーの物語を執筆し始めて間もない頃に、生まれたお話です。
童話の要素が強い作品です。
雲の上から望遠鏡で地上を見る事が大好きなシャイニー。
ある日、母親と仲良く歩いている小さな可愛い女の子を見ます。
その子の名前はユイ。
シャイニーは、望遠鏡でユイを何度も見るうちに時折見せる寂しそうな表情に気付きます。
そんなユイに、何かできる事はないかと考えたシャイニーは、地上に降りユイに会いに行きます。
過去にAmebaブログで掲載した短編小説を修正及び加筆しました作品です。
「小説家になろう」「エブリスタ」「NOVEL DAYS」にも掲載しています。
バースデイカード
はまだかよこ
児童書・童話
双子の女の子とパパとママの一家です。 パパはブラジル人、ママは日本人ていうか関西人。 四人は、仲良しだけどたまにはけんか。 だってね。 そんな家族のお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる