39 / 43
怒りの矛先は……
しおりを挟む「あら。陛下に捨てられてしまったのね。
…………お可哀想に。陛下に取り合って頂けないからわたくしの元にいらしたのね?」
「なっ!捨てられてなんていないわよ!あなたが陛下に命令したからでしょう!」
「まぁ……。現実を受け入れられないのね。」
お可哀想…またそう口にしながら首を振り、同情したような眼差しを向けるわたくしに、彼女は顔を真っ赤にし、手を振り上げた。
パシッとそれほど大きくない音が、静まり返った広場では端まで聞こえる程に響き渡った。
そのまま掴み掛かろうとする彼女を、一緒にきた二人の女性はマズイと感じたのか両腕に左右捕まり馬車に乗せようと必死に後ろに引きずり止めている。だが、彼女の目は血走り、聞くに絶えない罵声をわたくしに浴びせながら、わたくしに近寄ろうと抵抗をしていた。
「お二人とも、彼女から手を離してあげて。」
必死に止めようとしてくれる彼女たちには悪いけれど……それではわたくしが困るのよ。
戸惑い手を離そうとしない二人にわたくしは笑顔で殺気を放った、たったそれだけで二人共ひッッ!と手を離し腰を抜かしてしまったようだ。
抑えのなくなった彼女にはもう怒りしか残っていないのだろう。淑女は走ることをよしとされないが…抵抗して乱れた髪を振り乱しながらわたくしに掴み掛かろうと走りより手を伸ばしてくる。
5…4…3…2…。
そんな彼女を止めようと、市民や貴婦人たちが駆け寄るよりも早く、彼女の指先がわたくしの服に触れようとした。
バシッそんな生易しい音ではない凄まじい音が広場に響き渡り、彼女はくるくると数回回りながらりながら広場を転げていった。
駆け寄ろうとしたまま固まる市民や貴婦人たち。
彼女の取り巻き二人は身を寄せあい泣きながら震えている。
それを視界の端に捉えながらわたくしはゆっくりと地面に横たわる彼女へと近寄った。
わたくしがそこにたどり着く頃には、彼女はなんとか起き上がり呆けたように地面に座り込んでいる。
「大丈夫…?ごめんなさいね。手加減したつもりだったのだけど…怪我はない…?」
心底心配したように彼女の顔を伺うと、彼女はわたくしの顔を呆けたまま見つめたあと突然ヒィィィィッと奇声を発した。
「ごめんなさい…ごめんなさいッッお許しください!」
泣きながらそう乞う彼女に
あら…わたくしったら、まるで悪役みたいね。
なんて、心の中で苦笑した。
さらに近づくわたくしにさらに青ざめる彼女。
その間にすっ…と、もう一人の取り巻きの女性が現れた。彼女は恐れることもなくしっかりとわたくしの瞳をみるとゆっくりとカテーシをとり、頭を下げたままわたくしの許しを待っている。
本来、王族に話しかける際には許可があるまで話しかけても、頭をあげてもならない。彼女は愛人の一人ではあるがきちんとそれを分かっているようだ。
「…頭をおあげなさい。」
「ありがとうございます。王妃さま。わたくしはジャスミルート子爵家の三女ナタリーと申します。この度の○○様の不躾な行い代わりに心より謝罪申し上げます。わたくしは陛下より監視を賜っておりました。彼女は反逆罪として、捕らえさせて頂きますので、お怒りは当然かと存じますがなにとぞ、ご容赦いただけないでしょうか。」
「………そこをどきなさい。」
「王妃さま!どうか……っっ」
「聞こえなかったのかしら。そこをどきなさいと言っているの。」
彼女は耐えるように瞳を閉じると頭を下げ、道をあけた。わたくしはもう彼女に視線を向けることなく、座り込みわたくしに怯え震えるあの女性へと歩を進め、
「ごめんなさいっっ」
とわたくしは抱きついた。
はぁ?と思う人もいるでしょう。というか、まさに市民も貴婦人も取り巻きの女性二人もはぁ?という顔でこちらをみている。
「あなたまるで震える兎みたいだわぁ。
本当にごめんなさいね。わたくしまだ手加減が上手くできなくて…敵意を感じると勝手に身体が動いてしまうのよ。
こんなか弱い可愛らしい女性に手をあげるだなんて…わたくしが悪かったわ。」
そう言われた彼女は口をあんぐりとあけ、わたくしをみつめていた。
「それにしても、こんな可愛い人たちを弄ぶなんて…最低だわ!貴方たちはこんなに陛下のことを慕ってくれていたのに手紙ひとつで終わらせるだなんて…貴方たちの怒りは尤もだわ。
でもね、本当にわたくしは何も知らないのよ。
いまはこんな状況でしょう?わたくしも陛下も忙しくてお会いしていなくて…こんな返答しかできなくてごめんなさいね。」
「……そ…んな…じゃあ、陛下は本当にわたくしのことを……?」
絶望。そんな言葉が彼女の顔には現れていた。
それほどまでに彼女たちは陛下を愛している。異性としての愛しいという感情を知らないわたくしにとって、それほどまでに誰かを愛せる彼女たちがわたくしは少し羨ましく思った。
「……ねぇ、このまま終わりなんて納得いかないでしょう?わたくしに協力させてくれないかしら。」
驚きと不安が入り交じった表情で彼女たちは視線を交わしあった。
(女性の心を弄び傷つけた罪を陛下にはきっちりと反省していただかなくてはね………?)
陛下へのおしおきに思考を巡らせわたくしは笑みを浮かべていた。
0
お気に入りに追加
3,133
あなたにおすすめの小説
【完結】悪役令嬢に転生したのでこっちから婚約破棄してみました。
ぴえろん
恋愛
私の名前は氷見雪奈。26歳彼氏無し、OLとして平凡な人生を送るアラサーだった。残業で疲れてソファで寝てしまい、慌てて起きたら大好きだった小説「花に愛された少女」に出てくる悪役令嬢の「アリス」に転生していました。・・・・ちょっと待って。アリスって確か、王子の婚約者だけど、王子から寵愛を受けている女の子に嫉妬して毒殺しようとして、その罪で処刑される結末だよね・・・!?いや冗談じゃないから!他人の罪で処刑されるなんて死んでも嫌だから!そうなる前に、王子なんてこっちから婚約破棄してやる!!
【完結】名ばかりの妻を押しつけられた公女は、人生のやり直しを求めます。2度目は絶対に飼殺し妃ルートの回避に全力をつくします。
yukiwa (旧PN 雪花)
恋愛
*タイトル変更しました。(旧題 黄金竜の花嫁~飼殺し妃は遡る~)
パウラ・ヘルムダールは、竜の血を継ぐ名門大公家の跡継ぎ公女。
この世を支配する黄金竜オーディに望まれて側室にされるが、その実態は正室の仕事を丸投げされてこなすだけの、名のみの妻だった。
しかもその名のみの妻、側室なのに選抜試験などと御大層なものがあって。生真面目パウラは手を抜くことを知らず、ついつい頑張ってなりたくもなかった側室に見事当選。
もう一人の側室候補エリーヌは、イケメン試験官と恋をしてさっさと選抜試験から引き揚げていた。
「やられた!」と後悔しても、後の祭り。仕方ないからパウラは丸投げされた仕事をこなし、こなして一生を終える。そしてご褒美にやり直しの転生を願った。
「二度と絶対、飼殺しの妃はごめんです」
そうして始まった2度目の人生、なんだか周りが騒がしい。
竜の血を継ぐ4人の青年(後に試験官になる)たちは、なぜだかみんなパウラに甘い。
後半、シリアス風味のハピエン。
3章からルート分岐します。
小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。
表紙画像はwaifulabsで作成していただきました。
https://waifulabs.com/
【 完結 】「平民上がりの庶子」と言っただなんて誰が言ったんですか?悪い冗談はやめて下さい!
しずもり
恋愛
ここはチェン王国の貴族子息子女が通う王立学園の食堂だ。確かにこの時期は夜会や学園行事など無い。でもだからってこの国の第二王子が側近候補たちと男爵令嬢を右腕にぶら下げていきなり婚約破棄を宣言しちゃいますか。そうですか。
お昼休憩って案外と短いのですけど、私、まだお昼食べていませんのよ?
突然、婚約破棄を宣言されたのはチェン王国第二王子ヴィンセントの婚約者マリア・べルージュ公爵令嬢だ。彼女はいつも一緒に行動をしているカミラ・ワトソン伯爵令嬢、グレイシー・テネート子爵令嬢、エリザベス・トルーヤ伯爵令嬢たちと昼食を取る為食堂の席に座った所だった。
そこへ現れたのが側近候補と男爵令嬢を連れた第二王子ヴィンセントでマリアを見つけるなり書類のような物をテーブルに叩きつけたのだった。
よくある婚約破棄モノになりますが「ざまぁ」は微ざまぁ程度です。
*なんちゃって異世界モノの緩い設定です。
*登場人物の言葉遣い等(特に心の中での言葉)は現代風になっている事が多いです。
*ざまぁ、は微ざまぁ、になるかなぁ?ぐらいの要素しかありません。
離縁の脅威、恐怖の日々
月食ぱんな
恋愛
貴族同士は結婚して三年。二人の間に子が出来なければ離縁、もしくは夫が愛人を持つ事が許されている。そんな中、公爵家に嫁いで結婚四年目。二十歳になったリディアは子どもが出来す、離縁に怯えていた。夫であるフェリクスは昔と変わらず、リディアに優しく接してくれているように見える。けれど彼のちょっとした言動が、「完璧な妻ではない」と、まるで自分を責めているように思えてしまい、リディアはどんどん病んでいくのであった。題名はホラーですがほのぼのです。
※物語の設定上、不妊に悩む女性に対し、心無い発言に思われる部分もあるかと思います。フィクションだと割り切ってお読み頂けると幸いです。
※なろう様、ノベマ!様でも掲載中です。
【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。
なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。
本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!
男装の公爵令嬢ドレスを着る
おみなしづき
恋愛
父親は、公爵で騎士団長。
双子の兄も父親の騎士団に所属した。
そんな家族の末っ子として産まれたアデルが、幼い頃から騎士を目指すのは自然な事だった。
男装をして、口調も父や兄達と同じく男勝り。
けれど、そんな彼女でも婚約者がいた。
「アデル……ローマン殿下に婚約を破棄された。どうしてだ?」
「ローマン殿下には心に決めた方がいるからです」
父も兄達も殺気立ったけれど、アデルはローマンに全く未練はなかった。
すると、婚約破棄を待っていたかのようにアデルに婚約を申し込む手紙が届いて……。
※暴力的描写もたまに出ます。
転生おばさんは有能な侍女
吉田ルネ
恋愛
五十四才の人生あきらめモードのおばさんが転生した先は、可憐なお嬢さまの侍女でした
え? 婚約者が浮気? え? 国家転覆の陰謀?
転生おばさんは忙しい
そして、新しい恋の予感……
てへ
豊富な(?)人生経験をもとに、お嬢さまをおたすけするぞ!
【完結】美しい人。
❄️冬は つとめて
恋愛
「あなたが、ウイリアム兄様の婚約者? 」
「わたくし、カミーユと言いますの。ねえ、あなたがウイリアム兄様の婚約者で、間違いないかしら。」
「ねえ、返事は。」
「はい。私、ウイリアム様と婚約しています ナンシー。ナンシー・ヘルシンキ伯爵令嬢です。」
彼女の前に現れたのは、とても美しい人でした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる