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いざ、"決戦"(朝食)へ。
しおりを挟む「おはようございます、王妃さま。」
優しいミランダの声と窓から降り注ぐ朝の柔らかな光が部屋全体を優しく照らしていた。なんだかいいことがありそう。そんな穏やかな気持ちで今日も1日が始まった。
昨夜はアレンと踊ったあと、やはり女の子たちが次のダンスのお相手をと待っていて、残念そうに何度もこちらを振り返りながらアレンは女の子たちの輪に入っていった。
それから王妃の席で挨拶に来られる方とお話したり、指示をだしたり王妃の役割を時間がくるまでひたすら果たしていた。
(あぁ…でも、会場を見守っていたらいろんな人間模様がみえて、貴重な時間だったわ。
そうそう、わたくし、お友達がいたみたいなの。ナタリー・ヴォレスト侯爵夫人よ。学園に通っていた頃からの友人だとか…昨夜は少ししかお話出来なくて残念だったけれど、お茶会のお約束もしたし、楽しみだわ。)
昨夜のことを思い出しながら、ふふっと喜びが口から溢れる。
「王妃さま。昨夜はお疲れ様でした。良いことがあられたようで、私も嬉しく思います。」にこっ
「本日は朝食に、シリウス王子、ルイス王子、アレン王子もいらっしゃいます。仲直りするチャンスですわ。
いつも以上に気合いを入れてご支度させて頂きます!」
パンパンッッ
ミランダが手を叩くと10人の侍女たちが一列に部屋に入って来て、同時進行であっという間にセットアップが完了した。
今日のドレスは柔らかい手触りの薄い若葉色のドレス。髪は緩くハーフアップにしてくれた。ネックレスやイヤリングも主張しすぎず、気品のある小ぶりのサファイアで纏めてある。
この短時間で手足のマッサージや爪のお手入れまでしてくれて、侍女たちの結束力って本当にすばらしいと感嘆させられる。
……さぁ、いざ"決戦"(朝食)へ!
食堂にはもう三人とも揃っていた。
「おはようございます!母上」
一番始めに挨拶してくれたのはにこにこと可愛らしい笑顔を向けてくれるアレン。
「おはよう、アレン」にこっ
「……シリウスとルイスもおはよう」にこ
緊張を面に出さないように、穏やかに挨拶したつもりだけど…ルイスは「おはよーございまーす」とすぐに顔を反らされ、シリウスに至ってはこちらを見ることもなく、書物を読んでいる。
(こ…これくらいのことでめげてはだめよ。まだまだ朝食はこれからなのだから。)
落ち込みそうになる自分を叱咤し席に着くと、すぐに食事が運ばれてきた。
無言で食事を摂るシリウスとルイス。アレンが話しかけてくれるおかげで沈黙はないけれど、話をアレンが振ってもあぁ。とか、そうだな。という返事しか返さない。わたくしにいたっては、無言かはいのみだった。
シリウスが食べ終わり立ち上がろうとしたため、慌てて声をかけた。
「ッッ…シリウス!ルイスも。少し聞いて欲しいの。いままで母親らしいこともせずに、貴方たちと距離をとっていたこと、今更だと思うかもしれないけれど本当に後悔しているの。記憶をなくして、息子である貴方たちのことも忘れてしまって…それでも貴方たちを愛しいと思う気持ちだけは忘れていないわ。だから……」
「だから……仲良くしてほしいと?」
わたくしの言葉を遮るように言葉を発したシリウスは今日初めてわたくしと瞳を合わせた。冷たい声と同じくらい、軽蔑している冷めた瞳で。
「今更何をおっしゃってるんですか。母親の温もりが恋しい幼子か何かだと勘違いなさっているのですか。」
溜め息をつき立ち上がると、シリウスはわたくしを見下ろすように言った。
「母上が記憶喪失で性格や雰囲気が変わられたのはわかりました。ですが、わたしにはどうでもいいことです。それを押し付けないで頂きたい。
これから、訓練がありますので失礼させて頂きます。」
言い終わるとすぐに背を向け、シリウスは食堂から出ていった。
「俺も忙しいんですよね~休日はご令嬢とデートの約束があるんですよ。それに、シリウス兄さんと俺も同じ意見ですね。いまさら母親の温もりなんていりませんよ、俺が欲しいのは美しいご令嬢の温もりかなぁ……というわけでこれからデートなので俺もお先に失礼しまーす」にこ
穏やかな声にルイスを見つめると、その穏やかな声には刺があった。にこにことわたくしを見つめながらも、突き放す笑顔でそう言うと、ルイスもゆっくりとした足取りで食堂を後にしてしまった。
(………撃沈だわ、、、)
項垂れるわたくしにアレンがすぐに駆け寄り、私の右手を包んでくれた。
「母上、そんなに落ち込まないでください、わたしに考えがあります。」
いつもの優しい瞳でこちらを見つめるアレン。
その口元は怪しく弧を描いていたが、可愛い息子と盲信している王妃はそれに気づくことはなかった。
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