貴女が好きなのはもう一人のわたくしだった。

yuーー

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公爵令嬢アイシア・ベルーナは悩んでいた。
婚約者である皇太子殿下が恋をしたようなのだ。

それも…もう一人のわたしに。

アイシアは昼と夜の姿を持つ。
昼間は豊かな赤い髪を靡かせ、キリッとあがった目元に真っ赤な唇。挑戦的なその視線と魅惑的身体であるその姿に男たちは生唾を飲む。

一方、夜の姿は水色の髪がさらさらと小川のように流れ、目元も柔らかな上品さをもつ。発色の薄い桃色の唇に引き寄せられるかのように儚げなその姿に目が引き付けられるだろう。

アイシアは産まれたときからそうだったわけではなかった。15歳になった年、急に夜の姿が変わったのだ。
公爵家に生まれ、光栄にも王大子殿下の婚約者となり、殿下にエスコートされながら夜会で社交界デビューするのを夢見ていた。そんな矢先の出来事にわたくしもお父様もお母様も頭を抱えた。

原因は不明だが文献を辿ると約200年前、公爵家の少女に同じ症状があったようだ。どうやら公爵家の女子にのみ代々現れるそれは、運命の相手と結ばれることで真の姿を取り戻す…のだとか。まるでおとぎ話のような現象が本当に起こっていた。
そんな別の姿のまま、夜会に出席できる訳もなく、3年経った今でも社交会デビューを果たせずにいた。

それから殿下との仲はますます悪化するようになり、今では口を利くこともなくなってしまった。

そんな殿下が求婚するだなんて……。

これほど虚しくなることはないだろう。
どこに怒りを向ければよいのか。
愛する殿下、そして…わたくしを邪険に扱う殿下が…………

もう一人のわたくしに惚れてしまうだなんて……。

それは3日前の遅くも社交界デビューとなってしまったお忍びの夜会で起こった。

    
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